やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

27 / 122
…前話の反響がガチで凄い。
未来さんの愛のおかげですね…。

というかあの話のためにひたすら未来さんの好感度上げてたからイベントが足りないって言われたら泣いてた。


やはり俺は独りである

 

 

……ずっと、助けられる側だと思っていた。助けている立花の姿を見て、助けているおばさんの背を見て、できたはずの助けている自分を幻視してそれが消えた時。

 

俺は自分が助けられる側で、助ける側ではないと居場所を決めつけた。

 

 

 

『私がアレの気を引くから、その隙におばちゃんを助けて』

 

 

 

………それなのに。また、俺ではない誰かが、助ける側へと回ろうとしている。同じ助けられる側である誰かが、助けられるという立場。その場所から立ち上がった。

 

 

 

『私は元陸上部だから。その逃げ足ならなんとかなる』

 

 

 

死ぬかもしれない場所に行くのに、そんな根拠と言っていいわけがないものを理由に、震える足を持ち上げている。

 

……小日向。なあ小日向。その自慢の足が震えてるぞ。笑おうとしてる顔が引きつってる。全身が怖いって叫んでるぞ。わざわざお前が行く必要なんてない。俺に行かせればいいだろ。

 

男だからって理由で押し付けてくれればいいのに。おばさんが危ないからって頼んでくれればよかったのに。足が動かないって嘘をついてくれればよかったのに。

 

…そうすれば俺は、選ぶ選択肢が無くなって、堂々とこの足を動かせたのに。

 

 

 

『じゃあ、なんとかして?』

 

 

 

………違う。違うんだ小日向。お前が頼むのは『この状況をなんとかして』って頼むべきだろう。『この状況をなんとかするから私を助けて』なんて、ただ自分を危険に晒すだけだ。

 

俺より立花やおばさんが大切なはずだ。なのになんで俺に押し付けない。それが一番、この状況での最適解だ。

 

…いいじゃねえか、多数決。多数側は嫌な事を押し付けられるし、押し付けられた側も嫌々でも仕方ないと納得して動くことができる。立花と小日向に頼まれれば、きっと俺はたった一つの選択肢を仕方なく選ぶことができたのに。

 

 

 

『危険なのは分かってる。

だからお願いしてるの。

ねえ響、比企谷くん。

私の全部を、貴方達に預けさせて?』

 

 

 

……重い。信頼が重い。なんでそこに俺を含む。親友で、シンフォギア装者で、大好きな立花に任せるべきだろ。だって、その方が助かる可能性が高いんだから。もし俺が余計なことして、助からなかったらどうするつもりだ…。

 

……ほら、また選択肢が増えた。助けるか、任せるか。俺が無理にでも行くか、小日向に任せるか。

 

 

 

「……私、響に酷いことした。比企谷くんにも負担かけてばっかりだ。今更許してもらおうなんて思ってない。……それでも、一緒にいたい。私だって戦いたいんだ」

 

 

 

……ほら、まただ。なんで俺を含める。なんで何もできない俺に捨て石以外の役割を求めるんだ。

 

……今ここで座り込んでいるのは、俺が何もできなかったからだ。おばさんのように助けることができなかったから、ただ助けられるままにここにいる。小日向の方が足が速いからと、俺の足が遅いからと言い訳して動くこともできない。

 

……それなのに、俺に捨て石をさせてくれと口に出す勇気すらありはしない。なんで俺は、こんなにも役立たずなんだ…。

 

 

 

「どう思われようと関係ない。貴方達だけに、背負わせたくないんだ」

 

 

 

……背負う?いったい、俺が何を背負っているのだろう。

 

……違う。…俺は、逃げているだけだ。今だって自分の手にある選択肢を選ぶことから逃げている。助けられる側にいるだけの自分が怖くて、助ける為に動くことが怖くて、頼られるのが怖くて、頼りっぱなしの自分が怖かった。

 

怖くて怖くて、今まで一つしかなかった選択肢の、いくつもある選択肢を選ぶ事を恐れている。……迷っている。

 

 

 

 

「私、もう迷わない!」

 

 

 

 

一人は、踏み出した。それだけで、世界が動き出す。

 

ノイズが小日向を追い、街を壊し始める。喪失へのカウントダウンが鳴り始めたというのに、足どころか、指一つ動かない。また、何もせずに世界が進んで行く。

 

……そして何かを失った世界で、またこう思うのか…。『できたはずなのに』……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡くんっ!」

 

「……たち、ばな」

 

 

 

 

 

 

 

「未来を……助けて…!」

 

 

 

 

…………………ああ。

 

 

 

 

「……わかった…」

 

 

 

 

……何故だろう、足が上がった。

 

……何故だろう、震えが止まった。

 

頭が動く。体が動く。足は動くし、心臓だって当たり前に動いている。

 

 

 

「……立花!おばさんを保護したら本部に連絡しろ!」

 

「……うん!分かった!」

 

 

 

走り出す。その途中小日向の鞄から見えていた通信機を引っ手繰るように掴み上げた。

 

走り出す。さっきまで鉛でも括ってあったような足を全力で動かす。

 

走り出す。助けられる側にいる俺という身体を、無理矢理にでも前に進ませるように大地を蹴る。

 

 

 

………ありがとう。ありがとう立花。立花の一言で、俺の中の選択肢が消え去った。立花の一言で、何もしない俺の存在が消え去った。

 

…ずっと理由を探していた。俺が動いていい理由を。誰かを助けていい理由を見つけようとしていた。

 

立花のように戦う力はない。小日向のように誰かを頼る強さなんて持っていない。おばさんのように危険の中でも誰かの手を掴める意思がない。二課の大人たちのように、誰かを気にかける余裕だってなかった。

 

 

prrrr!

 

『こちら本部!未来さん?』

「俺です、比企谷です!」

『八幡くん!?なぜ君が…』

「この通信、そのまま繋げといてください!」

 

 

 

……だけど助けられる側が、助けてもらえるから何もしなくていいなんてのは思い上がりだ。

 

…知ってるんだ。誰かを助けようとしている人は、みんな一生懸命だった。力があるからと余裕を持っているわけじゃない。誰かを助けるために、助ける側の人達は必死だった。

 

……いつだって、必死だったんだ。

 

 

「……小日向!」

 

 

戦ってるのは助けられる人間だけじゃない。逃げて逃げて、諦めながら助けを待ってたって助からない。助けられる側だって必死で手を伸ばさなきゃ、誰かに助けてもらうなんてできないんだ。

 

戦い続けている立花を、そしてそんな立花を信じ続けている小日向を見てきたからこそ、今なら分かる気がする。

 

………あいつがいつも口にしていた、『人助け』がどういうものなのかを。

 

 

「……見つけたっ!」

 

 

………遠い。先に走り出した小日向に、グズグズしていた俺が追いつけるわけがない。だけどもう絶対に、その姿を見失わない。

 

……分かっていた。俺は助ける側ではない。どう全力で走っても、小日向の元へ辿り着く事はないだろう。それでも今は構わない、見失わないよう走り続ける。小日向は助けられるために必死だから。立花は助けるために必死だから。

 

 

「……はぁっ、はあっ!」

 

 

…ずっと理由を探していた。俺が動いていい理由を。誰かを助けていい理由を見つけようとしていた。

 

こんなにも足が重い。脇腹は痛いし息も上がってる。使える体力は既に底をついている。

 

だけどここで止まらない。これが俺の動く理由、俺が誰かを助けていい理由だから。

 

 

……誰かを助ける、『人助け』だから。

 

 

 

『prrr!』

「っ!」

『こちら本部!』

『響です!』

『響さ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花ぁ!川沿いの土手の上だ、急げ!」

 

 

『………うん!』

 

 

 

 

 

 

 

【♪私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ】

 

 

 

 

 

 

…………あぁ……歌が、聞こえる。知らない歌で、知ってる声だ。さっき叫んだ声と同じ物質でできてるなんて信じられない。

 

…誰かを救う歌、誰かに響く歌、誰かの未来につながる歌。それが頭上を通り越して、真っ直ぐ小日向の元へ向かっていく。

 

…大丈夫だ小日向。今立花が行った。あと少しだけ、あと少しだけ頑張ってくれ。きっと……立花は救ってくれるから。

 

ドクン!と、大きく心臓が跳ねる。だけどその熱は広がらない。胸元につけた櫻井女史のペンダントのおかげだろう。それのおかげで、立花の姿が見えなくなる瞬間まで、その背中を見つめることができた。

 

 

 

 

『………聞こえる?八幡くん』

「…………ぇえ。聞こえます」

『未来さん、無事保護完了。響ちゃんも大事ないです』

「……そう、ですか。分かりました…」

 

 

 

pi!

 

 

 

 

「………良かった」

 

 

自然と、口から安堵の声が溢れ出る。

 

 

「……………ぅぷっ」

 

 

だけど溢れ出たのはそれだけじゃない。激しい熱が腹の中からこみ上げるように登ってくる。全力疾走すると吐き気がすると聞いたことがあるが、どうやら本当のことらしい。

 

 

「お"お"え"ぇ"ぇ"」

 

 

口から流れ出る吐瀉物を見ながら、ぼんやりと考えていた。

 

小日向が助かった。良かった、ああ、本当に良かった。必死に助かろうとした人間が、必死に助けようとした人間に助けられたんだ。これ以上の事はない。

 

だけど思う。俺は、小日向を助けられていたのだろうか。助けたいと思った。助けたいと走った。助けたいと、声を張り上げた。その意味は、あったのだろうか。

 

……その疑問を肯定してくれる人も、否定してくれる人も、ここにはいないが。

 

 

「……なんつーか、俺らしいな」

 

 

フラフラと、裏路地に転がり込むように進んでいく。日差しが遮られ、たまに吹く風が気持ちいい。吐いた口がどうしようもなく気持ち悪いが、それを洗い流す水を買う金も置いてきた。

 

 

「……雪音が裏路地で行き倒れるのも分かる気がする」

 

 

ここは人目がない。暗い場所は、否応にもここは自分一人の場所なのだと実感できる。汚れた場所に座り込んだって、誰かに何かを言われることもない。

 

……きっと立花と小日向は違うのだろう。二人は明るい陽だまりの中で、きっと二人で笑っている。目を閉じれば二人が笑顔で話している姿を想像できた。逆に目を開ければ薄暗い壁が独りの俺を見つめている。

 

明るい二人と暗い独り。ノイズに襲われた今日この日、最後になってようやく元の場所に落ち着いた。

 

 

……こんな日だ。素直に願っておこう。これからも立花と小日向には二人で笑っていて欲しい。

 

……そんな独りぼっちからの、ささやかな願いを。裏路地の神様に込めて。

 

 

 




未来さんの愛は重い。だけど八幡は…。

響未来仲直りの方法は原作と変わりません。変わるのは別の何か。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。