やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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返信ちょっとお待ちを…。
忙しさとこれの喉越しの悪さでダウンしてる…。


手の差し伸べ方

「俺と、友達になってくれないか?」

 

 

………。

 

………………。

 

……………………。

 

 

「……とも、だち?」

「……ああ」

 

 

…二課の力を使って、こんな廃墟にまで訪れて、友達になれ?

 

 

「……ふざけてんのか」

「悪いな、大真面目だ」

 

 

……顔を歪めたソレは笑ってるつもりか?所在無さ気なその手は何のつもりだ。伸ばしてない方の手は必死に汗を拭ってるのは無意識かよ。

 

……馬鹿馬鹿しいにも程がある。何より……。

 

 

 

 

 

そんな姿でも。手を差し伸ばされた事を嫌がっていない自分が、一番馬鹿馬鹿しい…。

 

 

「……っ。む、無理に決まってんだろ!敵同士だぞ!?」

「…なら二課辞めてくればいいのか?」

「そういう問題じゃねえ!ていうか仮にも国家の秘密組織だろうが!そうポンポン出たり入ったりしてんじゃねえ!そんな言うことホイホイ変える奴の事を信用できるか!」

 

 

……嘘だ。自分で思ってる以上に、信用してしまってるのは分かってる。

 

…初めて、初めて人の温もりに触れた。パパとママが死んでから、誰かの手があたしに触れるときはいつだって傷つけるときだったから。

 

…殴られるのが普通だった。蹴られるのが普通だった。ムチで叩かれ、ナイフで切られ、引き摺られるように掴まれるのが普通だった。

 

 

………だから今は、異常だ。あの時から、こいつに出会ってからあたしには異常ばかり起きてる。たった一度頭を撫でられただけなのに、その温もりが消えてくれない。苦しみも苦みも痛みも、もっと強い痛みが来れば消えてくれる。

 

…………なんでコレは、痛みじゃ消えてくれないんだ…。

 

 

「……帰ってくれ。もう、用は済んだろ」

 

 

比企谷の用事があたしの友達になる事なら、断った今それは終わった。調達したボロ布を纏い、膝を抱えて顔を埋める。視界から比企谷の姿を消すため、目も瞑って外界を遮断した。

 

 

…きっと一番初めが間違いだったんだ。なぜ立ち去ろうとしたあいつの腕を引き止めてしまったんだろう。なんで、なんであんなことを言っちまったんだ…。

 

 

『なあ、助けてくれよ』

 

 

……違うだろ。あそこは、どっか行けって言うのが正解だったはずだ。いや、立ち去ろうとしてたんだからそのまま見送るだけでよかった。黙って見送って、渡されたコーヒーなんて放り投げて寝ちまえば良かったんだ。寝て起きて、またフィーネの側で動いてれば良かったのに…。

 

……そうすればせめて、あいつの手を振り払っている今を後悔することは無かったのにな。

 

 

「……っしょ、と」

「……帰れっつってんだろ」

 

 

座り込んでいるあたしの隣に何故か比企谷も座った。人一人分空けられたスペースを挟んだ場所。もうここにこだわる理由もないしこんな奴からは逃げ出そうかとも考えたが、涼しい顔して必死に手の汗をズボンで拭いている比企谷を見てたらそれもどうでもよくなった。

 

 

「…ちゃんと話しときたくてな」

「……何をだよ」

「……俺は、お前の過去を知った。二課の人に無理言ってな」

「……っ!だったら尚更だ!なんでわざわざあたしに拘る!あのバカでも、あん時のあの子でも、一緒にお友達やってればいいだろ!」

 

 

抱え込んだ膝をさらに強く握る。爪が食い込む痛みがほんの少しだけ体を楽にしてくれた。過去を知られたことは別にいい。隠すようなことでもない、薄汚れて血に塗れた今のあたしと同じものだ。

 

………だからこそ、なんでわざわざそんなところに首を突っ込みやがる。こいつの頭はあの融合症例のバカに犯されたのか?友達?わかり合う?手を取り合う?そんなこと、ここじゃなくたって幾らでもできるだろ。

 

 

「あたしの過去を知った?だったらあたしみたいなのに構ってないで幾らでも『頼れる子供』してろよ!親が死んだあたしに同情か?紛争地帯でガキの頃過ごしてたあたしが惨めか?そんなもんあたしは望んじゃいない!ギアも纏えないくせに、くだらねえ場所に首突っ込んでんじゃねえよ!」

 

 

はぁ、はぁと息が切れるくらいに叫んだ。…だってそうだろ?お前の家、あったけえじゃん。急に来た客を泊めてくれて、風呂貸してくれて、飯食わせて心配して抱きしめてくれた。それがお前の『普通』だろうが。

 

…頼られてるだろ、あたしと違って。

…守ってるだろ、あたしと違って。

…あったかいだろ、あたしと違って。

 

守る場所もなくなって、帰る場所もなくなって、冷たい手を彷徨わせてるあたしと全然違う。ノイズが蔓延って銃弾が飛ぶ場所に、歩いてくんなよ。

 

………きっとその手を、あたしには守れないから。

 

 

「……『頼れる子供』か」

「……」

「……そうだよな。まずそっから俺、間違ってたんだよな」

「まち、がい?」

「ああ」

 

 

そういうと懐からマックスコーヒーの缶を取り出した。…ほんとに携帯食料か何か不思議なくらい持ち歩いてるな。

 

 

「……俺将来の夢専業主夫なんだよ」

「…は?なんだいきなり」

「初めてやったバイト、先輩がウザすぎて三日で辞めた。他にも何個かやったんだがまったく続かなくてな。…それでも俺はこうしてマックスコーヒーを買えてる。なんでだと思う?」

「……そりゃあ」

「ああ、親からの小遣いで買ったもんだ。この服は親が適当に買って来た服だし、靴だって金出してもらって買ったやつだ」

「……何が言いたい?」

「学校行くのに何十万って金出してもらってるし、家賃なんて1円も払ってない。むしろ買い物に行けばもらったお金をちょろまかして財布に入れる人間だ」

「だから何が言いたいんだよ!」

 

 

何が言いたいのかわからず怒鳴るあたしにコーヒーを投げ渡して比企谷が薄く笑う。手の中の冷たいコーヒーのお陰でほんの少しだけ熱が下がった。

 

 

「…俺は『頼れる子供』なんかじゃない。親の、大人の脛齧って大人の金を着て、大人に頼りまくってる、ただのガキなんだよ」

「……」

「だから本当は雪音のことも放っておくつもりだったんだ。頼られてもいない、何回か助けただけの他人に余計なお節介焼くなんて、と思ってな」

 

 

…当たり前の言い分に、何故か心が痛んだ。放っておいてくれと言ってるのに、放っておかれると悲しくなる。

 

…あたしは何がしたいんだ。

 

渡されたコーヒーを開けて口に入れる。今まで何度も飲んで、口に入れる度に甘さが駆け巡る。人生は苦いからコーヒーくらいは甘くていいなんて、馬鹿馬鹿しいセリフを聞きながら結局何本飲んでるんだ。

 

 

「……じゃあなんで今更…」

 

 

立ち上がって腐った目を向けてきた比企谷を睨み返す。一瞬目を逸らしたが、改めて真っ直ぐ目を見つめられた。

 

 

「……きっかけは、小町に雪音を助けてくれって言われたことだ。妹の頼みだ、俺が断れるわけなかった」

「……それで?」

「次は助け方を考えてた。頼れる子供じゃない俺なんかじゃなく、もっと頼れる誰かに助けを乞うのも考えた」

「……」

「だけどダメだった。なんだろうな、いや、違うんだよ。今まで知ろうとしてこなかったし見ようともしてなかったから、気づきもしなかったんだ」

 

 

口を回そうとして上手く行かないのか頭をガシガシかいては視線を泳がす。目を逸らし、合わそうとすればまた逸らす。隠しきれない汗の光が、少しだけ沈黙を長引かせる。

 

 

「……憐れみとか同情とかじゃない。あと、助けたい、も本当はたぶん違うんだ。幸せになって欲しいでも、笑って欲しいなんて殊勝なことも思ってない。

……くそ、なんだ。なんていうかだな…」

 

 

……悩むのはいいが正直過ぎないか?だけどそれも口先八丁のお為ごかしよりは万倍いい。捻くれてるくせに変にお人好しなこいつのことだ。きっとまた受け入れられない言葉を優しく掛けてくるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ああ。ただ、傷ついて欲しくないだけなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………無茶、言うなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

……思っていた言葉と、全然違った。

 

優しい?…まさか。

 

残酷だ。16年生きてきた中でいちばん残酷な言葉だ。

 

積み重ねてきた時間にはじっとりした重みがある。痛みだって孤独よりもマシと笑い壊れてた子供が、傷ごと抉って涙を誤魔化せる程度には成長してしまっている。

 

…それしか知らない人間が、出来上がっている。

 

………傷が、痛んだ。だけど…うん。きっとあたしは今笑ってる。だってこんなに精一杯手を指し伸ばそうとしてくれる人がいたんだから。

 

 

「……ありがとう。でも悪い、比企谷」

 

 

………ありがとう。でも、やっぱり無理だ。あたしのために頑張ってくれたのは分かった。心の中の何かを曝け出すほど頑張ってくれてる姿は、逆にこっちが手を差し伸ばしたくなるくらいだ。

 

 

「…あたしは、お前の友達にはなれないよ」

 

 

…だけどごめん。それができるのは、きっと『普通』の奴だけだよ。

 

お前も、あのバカも、あの子も、あの人気者だってできるのかもしれない。

 

……したくてしたくて堪らなくても、知らないできないとあたしはまた心に嘘つく。

 

…その嘘を握りこむように、右手を後ろに隠した。

 

…あたしは『手の繋がれ方』しか知らなくて、差しのばせねぇんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱くてごめんなさい。

 

 

 

 

 

 




蛇足



メモリア獲得『温もりについた嘘』
クリスとのメモリアル

[PS]体属性の物理ダメージを10%上昇

《お互いに差し伸ばしたい手。クリスの強くなれない心が、嘘と一緒に本当の想いを手の後ろに隠した》




響&未来『独り、二人、そして3人』Get!
クリス『温もりについた嘘』Get!
翼『???』
マリア『二人で歌う独奏曲』
切歌『ダイレクト・レター』
調『無くしたプログラム。その名前は…』


お盆は忙しい。一足先にサンジェルマンさん帰ってきたしマムやセレナも帰って来て欲しいです。

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