やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
sideクリス
in比企谷家
「………こんなにすぐここに戻って来るとは思わなかったな…」
結局あの後『友達になったなら家に泊まりに来るのも普通ですよね!』と小町に押し流されるようにこの家に舞い戻ってしまった。またご飯を作ってもらい、今のように風呂に連れ込まれている。
…別に比企谷の友達になったことに後悔はない。むしろ、知らなかった温もりをようやく掴めたような気がして心が弾んでいることも否定できないか。
「もー。難しいことばっかり考えてないで、気楽にいきましょうよ!」
「………てかなんであたしはまたお前と風呂に入ってんだよ」
風呂という空間は嫌が応にも心を落ち着けてしまう魔性の空間だ。肩まで届く湯船に身を委ね、隣をむけば小町が頭をわしゃわしゃと洗っている姿が目に入る。
「もちろん、小町が入りたかったからです!」
「…相変わらずあたしの意見は無視しやがって」
「だってクリスさんオーケーしてくれないじゃないですかー」
「風呂は一人で入るもんだ」
「スペースがあれば二人用にもなれるのがお風呂です!」
失礼しまーすと湯船の反対側に浸かる小町は実に楽しそうな笑顔だ。小町の存在によりさっきまで伸ばしていた足を端に寄せれば二人が入っても問題なくスペースが使える。小町も湯船に溶けるように体を沈め、大きなため息をついた。
「………落ち着きますね〜」
「………まあな」
ほぅっと二人してため息を吐いた。だが落胆などのため息ではなく落ち着きを表すようなソレは違和感なく浴室の空気に溶けていく。
…静かな空間、沈黙。そんな御誂え向きなタイミングで、ずっと気になっていたことを聞いてみようと思った。
「………なあ、ずっと気になってたんだけどさ。なんでお前あんな場所にいたんだ?」
「あー、それですか。聞いたんですよ、とあるツテで。…なんていうと仰々しいですが、まあお兄ちゃんが頼る相手なんて片手あれば多い方、むしろ片手すら要らないことも長いですからね…」
「…それは素直にいないって言ってやれよ」
「あはは。…まあそんなわけで、その人から聞いたんです。お兄ちゃんがクリスさんと友達になりに行くって。そんな話聞いたら駆けつけずにはいられないじゃないですか」
やれやれと手を振る小町に笑いが溢れる。その本意はなんなのか。兄への心配なのか、それとも絶対友になってくるという確信なのか。
「なんだよ、心配してたのか?」
「心配というより確信ですね。絶対失敗しますもん」
「失敗の確信かよ!?」
笑顔とは裏腹に毒が入り思わず叫んでしまう。実際小町が来なければあたしはここにはいないだろうことから、反論はできないが。…いや、これもある意味相手を知ってるということなのだろうか?分かんなくなってきた。
「………まあ、もちろん心配もしてましたよ。まーたこの兄はそういう事をって」
「…そういう?なんだ、あいつ前にも誰かの友達になろうとしたのか?」
「友達どころじゃないです。連絡先の交換をしようとしたこともあれば、告白したことだってあります」
「………なんだ。なら別に普通じゃ…」
「全部失敗してるんですよ」
言葉を遮り吐き捨てた小町は、笑顔を捨ててお湯に映った何かを睨みつけるように話し続けた。
「………やり方が兄らしくないのが、兄らし過ぎるんですよ。絶対一回で成功すると思ってない、何度もクリスさんに友達交渉する気でしたよあれ」
「………」
「連絡先の交換したら無視かアドレス変えられる人なのに。告白すれば翌日にはクラスに広まって笑われる人なのに。自分が打てる策がないから、また自分が傷つく方法で救おうとする」
「……自分が?」
「………兄にとって、自分から誰かと関係を作ろうとするのはトラウマなんですよ。歩み寄っては避けられて、近づいていけば笑われる。その果てに、避けられるから近づかない。笑われるから近づかない。今の兄です」
そこまでいうと浴槽のなかでクルリと向きを変え後ろ向きに近づいてくる。ポスンとあたしの胸を枕にするように体を預け、見えない顔でたははと笑った。
「暗い話しちゃいましたね」
言葉を明るくし、沈んでいたあたしの手を取って自分の前に回した。
「………だから、まあ。一回で成功させたかったんです。クリスさんのためにも、兄のためにも」
「………」
「お兄ちゃんが自分で成功させてくれるのが一番良かったんですけどねー。案の定だったので、飛び出しちゃいました」
てへっと可愛く頭を叩くが、テンションを保てないのか上がった手は直ぐに浴槽へ沈んでいく。沈んだ手は再びあたしの手を握りしめた。逃げないように握っているのか、それとも何かを伝えようとしているのか。何も分からないが、その手を少しだけ繋ぎ返した。…これで、あってるっけ。まだ力の入れ方が分からないな。
「……っ。あー、なので!クリスさんが手を取ってくれてほんと安心しました。兄の友達になってくれてありがとうございます!」
「………べ、別に。あたしが自分で掴んだ手だ。お礼を言われる筋合いなんて…」
…そう、むしろお礼を言うのはあたしの方だ。手を差し伸べてくれたこと、手の繋ぎ方を教えてくれたこと、見捨てないでいてくれたこと。
……どれ一つだって、ありがとうを言えてないのに。
「いいんですよ、小町が勝手に言ってるだけですから。むしろ小町的には小町の友達宣言も受け入れてくれたら嬉しかったり!」
「………。…か、勝手にしろ!」
「やた!仲良くしましょうクリスさん!」
「だぁー!くっつくな!」
またもクルリと反転したと思ったら遠慮なしに抱きついてきた。裸の接触に顔が赤くなるが、目の前のバカは気にすることもなく背中に手を回してくる。無理矢理剥がすわけにもいかず、結局させるがまま戯れ続けた。
☆☆☆
inリビング
「おっにいちゃーん!上がったよー!」
「つ、疲れた…」
「何で風呂入って疲れてんだよ…」
結局じゃれ合いの果て、ツルツルテカテカ一本満足な小町とげっそりしたあたし。それを見て呆れる比企谷の三人が出来上がった。初めは癒し空間だったはずなのに気づけば体力を吸い取る魔境になっていた。お風呂って怖い。
「………んじゃ俺も風呂に」
「ちょーっと待ったー!」
「………なんだよ」
「今のうちに明日の予定を決めておきたいと思います!」
「家でダラける」
「却下です!」
提案を秒ではたき落とされた比企谷を見るに、多分もう予定は決定してるんだろうな。付けっ放しにされていたテレビに目を向け、ソファーで膝を抱え込むとなぜか後ろから小町に手を回された。
「なーに無関係みたいな態度してるんですか。クリスさんにも関係あるんですよ?」
「あたしに?」
「そうですとも!あたし達三人は友達&家族。一心同体といっても過言ではありません!」
「過言だろ」
「だまらっしゃい!ならお兄ちゃんに質問です、友達とはいったい何をするでしょう!」
「…そりゃあ、あれだ。学校帰りにタピオカでインスタ映えしてウェーイ?」
「そう、つまりデートだよ!」
「何いってんだお前」
「いや比企谷お前もだよ」
会話が異次元な世界から帰ってこない。いん、すた?だかうぇいー?の時点で分からないのにどこからデートが出てきたんだ?
「まあとどのつまり遊びに行きましょうってこと!」
「初めからそう言え」
「なので早速明日行こう!思い立ったが急げだよ!」
「…俺明日用事が…」
「ダウト!秒でバレる嘘つかない!」
「ひでぇ。いや嘘だけどさ…」
比企谷兄妹の漫才をBGMにテレビを見続ける。というか相手にするのがバカらしくなったのもある。むしろ比企谷家の日常を間近で見れているのなら邪魔するのもあれだろう。
手持ち無沙汰なせいか、ふと自分の手に視線が向いた。グッ、パッと手を開閉すれば今日の事が思い起こされる。
(……手、繋いだんだよな。自分で)
…今でも夢のような、熱に浮かされたような気分になる。手を繋ぐ、言葉にすればさして重要でも大変でもないようなことに思えても、自分にとっては衝撃的な出来事だった。
繋ぐ、繋ぎ返す。そこから紡がれるものを見たい。見たことのない世界へ連れて行って欲しい。そんな願いが消えないまま、こうして友達として甘えている。
チラと後ろを見れば比企谷は文句をタラタラと言い続け、小町もそれを跳ね除けている。それが当たり前のようで、どちらも剣呑な雰囲気を出しているわけでもなく、むしろ楽しそうに会話を紡いでいる。
……あたしも、いつかあんな風に会話ができるのだろうか。ううん、話したいし、また手を繋ぎたい。初めての友達という存在が、いろんな夢を与えてくれる。
…ねえ、こんな未来の夢に胸を躍らせていいのかな?
「いよっし決定!クリスさんもいいですよね?」
「………ん?何がだ?」
「あ・し・た。一緒に遊びましょう?」
そんなあたしの悩みを押しのけるように、距離感が測れないくらい近くまで歩み寄ってくれる小町に微笑んでしまう。
………そういやさっき、浴槽で小町の手も繋げたっけ。
「………しゃーねーな、付き合ってやるよ」
…不思議だ。たった一歩進むだけで、走り出せそうな気がする。フィーネとの確執しか見えなかった自分に、少しだけ余裕が生まれた。一日、たった一日だけ。
そう自分に言い訳して発したセリフ。それによってリビングで飛び跳ねる小町の姿が観れたなら、それはそれで悪くないと思う。
………あったけえなぁ。
蛇足
やっぱクリス可愛い。
本当は依存系クリスルート行こう行こうと書いてたんですが普通にヒロインなりました。
というかクリス救出話に至るまで、八幡クリスと手を繋いでなかったんですよね。手も繋がずにクリスを救うとかちゃんちゃらおかしいと小説に教唆されました。勉強になる。