やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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シンフォギア完結に燃え尽きた。最高でした。遅くなったけどシンフォギア全てにありがとうと伝えたい。


………それはともかく。耳に耳かき突っ込んで病院行ってたりしました。耳の血って止まらないんだね。十二時間以上出続けたよ。虫ゆるさねぇ。



やはり俺に心は分からない。

sideクリス

 

 

 

 

「……凄かったですね」

「……ああ、凄かったな」

 

 

……小町の声に反応しつつも、まだ身体に熱がこもっているような感覚が消えない。この会場に来て以来目に入る雑多な人々に何故歌を聴きにくるだけでこれだけの労力を払おうとするのか理解不能だったのに、今では余韻でそれすら気にならなくなっていた。

 

綺麗な歌だった、力強い歌だった、燃えるような歌だった。

 

なにより、真っ直ぐな歌だった。

 

聴いているこちらの(ハート)のど真ん中を射抜くように、揺さぶるような歌声は強い覚悟を含んでいて。観衆だけじゃなく歌っている本人の背中も押すような歌を歌っていた。

 

……きっと。きっとあの人は、前に進むことを決めたのだろう。政府に所属している数少ないシンフォギア装者がその任務を蔑ろにして世界に旅立ち歌を歌うなんて、本来ならあり得ないことのはずだ。それでもあの人は世界へ向かうと宣言した。

 

 

………歌で、世界になにかを伝えるために。

 

 

…………ああ、ダメだ。いやでも思い出してしまう。歌で何かを変えようとする。そんな滑稽無糖な絵空事をクソ真面目に目指した、パパとママの事を。

 

 

 

……小さい頃は、歌が大好きだった。

 

 

パパはバイオリン奏者でママは歌手。そんな両親を持つあたしは小さい頃から音楽に囲まれて過ごしてきた。

 

その中でも、歌に包まれて生きてきた。

 

 

朝、ご飯を作る時に口ずさむママの歌が好きだった。

 

昼、ママと一緒にパパのバイオリンに合わせて歌う歌が好きだった。

 

夜、眠る前に聞かせてくれたママの子守唄が好きだった。

 

 

歌は力をくれた。笑って生きる力をくれた。ママとパパ、そしてあたしにも笑顔をくれた。

 

両親に連れていかれたステージは輝いていて、今日見たステージと遜色無いくらい世界を色付けていた。

 

広がる歌、囁く音色、色褪せず響く音楽は今もあたしに根付いている。ふと気を抜けば歌を口ずさんでしまうくらい。ちょっと疲れた時、口から歌が流れ出てしまうくらいに。

 

 

「……なんで今更…」

 

 

………なんで今更、こんな事を思ってしまうんだ。死んだパパとママは、想像を絶する大バカだったんだ。音楽の世界で観客を前に歌って奏でていれば今も元気に過ごせていたはずなのに。子供を連れて紛争地帯の難民相手に歌を歌うだなんて…。

 

 

『歌で世界を救う』

 

 

…そんな世迷言で、自分の平和を捨ててどうすんだよ。

 

 

「……お義姉ちゃん?大丈夫?」

「……ああ、なんでもねえよ」

 

 

…歌で世界を救うなんて馬鹿馬鹿しい。本当に戦争をなくしたいなら戦う意思を持つ奴を片っ端からぶっ飛ばせばいい。そう信じてきた。いい大人が夢を見たからパパとママは死んだんだ。ならまだ夢を見ていられる子供のうちに、夢へ走り続けられる今のうちに世界なんて平和にしてやろうと思っていた。

 

 

「………」

 

 

…そうやって、何年経ったんだろう。右手を見れば昔より大きな手がある。下を見れば豊満な胸が視界を塞ぐ。ただただ何も為せずに身体だけが成長して、何もできない小さい姿をど汚い手で嬲り抉った大人達と近い姿になっていく。

 

そして子供だからできることがあると息巻いているのに、子供のままじゃ自分は守れやしないことを痛感するように大人は残酷にあたしを切り捨てていく。

 

 

……あたしは大人は嫌いだ。パパとママも大嫌いだ。

 

 

空を見上げる。もう空も暗い。後ろを振り返る。未だ光るライブ会場が帰る人々を見つめている。

 

……不思議だ。歌の力なんて、とうの昔に否定したはずなのに。今日の歌を聞いて、もう少しだけ頑張ってみようと思ってしまった。真っ直ぐな歌に惹かれたのか、世界を目指す人に魅入られたか。

 

少なくとも、何もせずに縮こまっている自分をこれ以上看過することができなくなった。

 

 

「……フィーネ」

 

 

いつまでも逃げてはいられない。先に回していたらいつまで経っても解決なんてしやしない。そんなわかりきった事を、改めて理解させられた点では今日のライブに来て良かったと思う。

 

………だけど同時に、やっぱり怖いと思う心が悲鳴をあげる。今まで信奉してたフィーネに捨てられ、否定された。もしもここで今までのあたしすら否定されたら、あたしは立ち直れるのだろうか。

 

パパやママの間違いを正して世界に平和を作ってやろうと息巻いていたあたしを、鼻で笑うフィーネは想像に難く無い。

 

 

「……それでも、進まなきゃな」

 

 

………フィーネの屋敷へ行こう。決着をつけよう。止め続けた時間を動かそう。

 

…それでも、と思う。もう一歩、背を押して欲しい。女々しくもそのあと一歩を切望する。あと一つ、勇気をもらえないかと。視線の先に一人を見据えた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

in八幡ルーム

 

 

 

 

「……なあ、入ってもいいか?」

「…どうぞ」

 

 

ライブが終わった夜、ベッドに寝転びながら鳴る携帯を片手間に本を読んでいた。感想と見に行ったことを伝えた風鳴先輩へのメールから始まり、いつのまにか席について騒いでいた興奮気味の立花のラッシュなど。いちいち返すのが面倒なくらい流れるメールの合間に、雪音が部屋にやってきた。

 

もうだいぶ夜も更け、そろそろ寝ようかと思っていた時間だ。基本リビングで話すことはあっても部屋に来てまで話すのは珍しい。

 

 

「悪いな、こんな時間に」

「いや、別に…」

「……」

「……」

 

 

部屋に招き入れたものの、床に座り髪をいじいじしながらそっぽを向く雪音が完成しただけだった。立花のようにライブに興奮して話し相手がほしい、みたいなものでは無いと思う。というかそれなら俺より小町と話すだろうし。

 

それでもわざわざここに来てまで話すことなのだ。寝転がっていた体勢を戻し、体を起こす。そしてジッと雪音を見つめれば、「あー」とか「うー」とか唸りながら言葉を探している。俺はヒステリックお母さんじゃないので「そのうーうー言うのをやめなさい!」なんて言うことはない。雪音が自分の言葉で話し始めるまで待ち続けた。

 

 

「……あの、さ。八幡はあたしの昔のこと、全部知ってるんだよな?」

「……ん、ああ。紛争地帯に行ってたとか行方不明になったとか。そこら辺のことは大体な」

「じ、じゃあさ……」

 

 

突如語り始めたのは雪音の過去。雪音の友達になるため、少しでも隔たりを無くすために二課に無理を言って見せてもらった資料の一部。本来なら知られたくないような事実を目にしてしまっている。それについての言及、にしてはあまりに雪音の顔色は悪かった。

 

 

「…歌で、世界を平和にできると思うか?」

「…聞く相手間違ってるぞ」

「……うん、悪い」

「いや別にいいけどよ」

 

 

ばっさりいかせてもらうが、歌で云々と言われても分からないから答えようがない。しかし雪音の事情を知ってるのは二課の大人たちを除けば俺だけだ。一概に間違いとは言えないか。

 

 

「……歌で世界を、か。雪音の両親のことか?」

「……ああ。なんか、今日のライブ聞いてたら考えちまってな。なんでパパとママは世界を歌なんかで平和にしようと思ったのかって」

 

 

歌で世界を。それは雪音の両親が紛争地帯で掲げていた目標のようなものだったらしい。心が荒む難民地帯。救助活動や炊き出しをしても人々を真に救うにはもっと大きな力が必要だと。

 

そこで雪音夫妻は歌を選んだ。いや、歌を信じたと言った方が正しいのかもしれない。資料で読んだだけだが、雪音夫妻の歌が救いになっていた人々は多くいたという。

 

音が鳴れば人が集まり、歌を歌えば耳を傾け、人に力を分け与えていたらしい。だからこそ彼らの団体には人が集まり、難民救済を掲げるその団体は規模を増していった。

 

………それ故にその集団は狙われ、雪音夫妻は命を落としたのだが。

 

 

「……それにさ、あんときゃあたしもまだまだちっこいガキだったんだ。それなのにパパとママはあたしを連れて外国へ飛んだ」

「…置いてって欲しかったか?」

「………。…正直、わかんねぇ。なんか頭がグルグルしてさ。…少し、吐き出したかったのかもな」

「…………そうだなぁ」

 

 

歌で世界を平和にする。『歌で』の部分を切り取ったところでその発想に辿り着かない俺には理解しようがない。世界が日本のように明日を憂いながら生きる必要がないわけではないことは、知識のみで知っている。だけどそれで世界の困ってる人を助けようなんて少しも思わない。できるなんて思わないから。滑稽無糖でだれもなし得ない偉業以前の無理難題。

 

……その上で、歌で世界を、か。

 

 

「……ロマンチスト、なんて言うと悪いか。でも、歌が大好きな人達だったんだろうな」

「……ああ。いつも歌の話しては歌ってた。本当に綺麗な声でさ。ベッドに寝かされて子守唄を歌われればすぐに夢の中に放り投げられたよ」

 

 

話す雪音は今までで見たことのないほど穏やかな顔で、昔に想いを馳せていた。家族との思い出、平然と受入れている小町や両親の交わりを絶たれたと想像すれば、想像できずに消えていく。現実に味わうその苦痛に、耐えきれないせいだろう。

 

……それでも穏やかな顔を浮かべられるのは、雪音も歌が好きだからなのだろうか。歌って聴いて、奏でて紡ぐ。歌が作り出すエネルギー。それらが齎らす力を、つい最近まで知らなかった。

 

……けれど最近になってその力のエネルギー、与える力強さもしっていた。

 

 

「……俺の耳、歌が聞こえないって言っただろ?」

「…?ああ」

「あれ実は一つ言ってないことがあったんだ」

 

 

不思議そうに首をかしげる雪音に、本人にも言っていない秘密。専門家も匙を投げた摩訶不思議を明かした。

 

 

「…なんでかさ、俺の耳は立花の歌だけ聞こえるんだ。ギアとか関係なく、あいつの歌だけ聞こえる」

「……え、聞こえないんじゃないのか?」

「聞こえない。ほんと、今まで他の色んな奴が目の前で歌ってたけど少しも聞こえなかったんだよ。んで、歌ってのを初めて聴いて結構驚いた」

 

 

混乱する雪音を前に、なぜか口がよく回る。いやむしろ、俺自身がこの想いを何処かにぶつけたかったのかもしれない。

 

 

 

「……歌ってさ、凄えよな」

 

 

 

腹の中に燻って、歌が聞こえないから言えなくて、だけど想いは無くならない。初めて立花の歌を聴き、湧き上がったあの熱は言葉に出来ない力をくれた。

 

………改めて言われたら、それこそ世界だって救えるんじゃないかと思えるくらい。

 

 

「……だから、まあ、なんだ。俺個人でって言うなら、歌で世界を平和にってのも、悪くない、と思う。なんなら世界を救う歌を聴きたいまである」

「……お前歌聞こえねえじゃん」

「ああ、そうだった。残念だ」

 

 

一人の歌しか知らないのに、少年のように歌を語る様を隠すように話を戻して口を隠す。

 

 

「……あとは、まあ、そうだな。小さい雪音を紛争地帯に連れて行った理由、だったか」

 

 

これについては、スケールは小さいが少しだけ分かるところもある。小さい妹を守る兄、小さい娘を守る親。絶対的にズレているわけでは無いはずだ。

 

違うとすれば覚悟の違い。命がけの世界に最愛の娘を連れていく勇気。想像できない覚悟は語ることすら烏滸がましい。それでもきっと、もしその夢を成し遂げていたら、その世界はなによりも美しい世界になったことだろう。

 

 

「………歌で救われた世界なんて、一番初めにお前に見せたいに決まってるだろ」

「……っ」

 

 

夢を疑わず、夢を信じる。叶えた果てを娘に見せる夢は、夫妻にとって切望と呼んでいいのではないだろうか。

 

 

「…………そっか」

 

 

……望んだ言葉を言えただろうか。もちろん想像だ。雪音夫妻の本当の心情は分からない。

 

 

「……そっか」

 

 

ただ頷く雪音の心情すら分からない。納得か、拒絶か。伝わらない心は汲み取れない。

 

 

「…………私の作る世界は、パパとママには見せたくないなぁ…」

 

 

雪音の望む答えを持つのは雪音だけ。顔を俯かせて呟く雪音の姿を見つめながら、また一つ夜が更けた。




作者がのたうち回ってるあいだにお気に入り2000超え。こちらにも感謝しかないです。励みになってます。

励みと言えばキャロル実装おめ!歌もオートスコアラーもほんと好き。ネタバレ避けますけど最後のエピローグでさらっとキャロルパパの人脈出てきて興味が尽きませんわ。

つまりシンフォギアは終わらねえ!

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