やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
そして40話使って一期も終わってない現実も見えた。外せない描写が多過ぎる。大体そのまんまだけど。
sideクリス
「………久しぶりだな、此処も」
街を外れて山を行き、自然に隠されるような豪邸。その目の前に訪れていた。誰も知らないような場所の、よくよく知った居場所だった建物。
そう、フィーネのアジトに戻ってきていた。
「………」
かつては家から出ることすらほぼほぼ無かったが、この屋敷の中だったらよく知っている。フィーネの研究室の場所や体を休める時に使っていた部屋。
敷地に入った時点で気付かれているかもしれないが、足は迷うことなく前へ進んだ。震えもなく、これから会うフィーネへの恐怖も少ない。その理由はいくつもあった。
風鳴翼の歌に背を押されたこと。昨夜八幡の部屋でパパとママの思いの一端に触れられた気がした事。いや、きっとそれだけじゃない。ソネットと母親の名を名乗った仮の姿でも、みんなと街を歩き、ゲームで遊び、共に歌を歌った時に形ではない何かをもらっていた。
………もしも、あいつらに私の作る世界を見せたら。柄にもなくそんなことを考えた。戦いの意思を持つ奴らを片っ端からぶっ飛ばし、そんな意思を持つ人間のいない世界。その世界で、あいつらは笑ってくれるだろうか。ぶっ飛ばした人間の山を足場に作られたその世界で。
…………あたしは、笑ってるのかな。
『………歌で救われた世界なんて、一番初めにお前に見せたいに決まってるだろ』
…昨日の八幡のセリフが蘇る。歌で世界を、歌で平和を。そんな世界なら、あいつらは……。
「ははっ、笑うんだろうな…」
だって、ただ想像してるあたしがもう笑っちゃうような世界なんだから。あのバカが楽しそうに歌う姿が。あの子がそれに合わせて手拍子を入れる姿が。風鳴翼が世界へ羽ばたく姿が。小町が盛り上がるようにはしゃぐ姿が目に浮かぶ。そして…。
…………そして。八幡は、どうなるんだろう。歌うのか、耳をすますのか。まさかそんな世界で歌が聞こえないままなのは、嫌だな…。
「………いつか、あたしの歌も聞いて欲しいな」
口から出た願いは心を誤魔化すあたしを突き刺す。歌が嫌いと叫んでいたのに、歌に力を与えられ、歌に背を押され、歌で何かを伝えたがってる。
…知ってる。知ってるさ。ずっとあたしが、歌が大好きだったことなんて。だけど好きなだけじゃダメなんだ。あたしの歌は、まだ何も成しちゃいない。歌を歌ったあたしがしたことは、ソロモンの杖なんていう人を殺すための道具を起動させただけ。
…違う。あたしがしたかったのはそんなことじゃない。だからもっと、もっと何かしなくちゃいけない事があるはずなんだ。何か…何かを…。
…動く体。求める心。それに理想が追いつかない。ただ何かを成すために前に進んでいる。どこに進んでいるのかもわからないまま、ただ前に進んだ。
「………な、なんだよこれ」
…その行き着いた先は、死体の山だった。フィーネがよく居座っていた広間へ足を運べば、幾人もの男が血塗れで事切れていた。
「…なにが、どうなって…」
格好を見れば一般人ではない事がわかる。顔も日本人らしき顔つきはしていない。外国の軍人のような連中にアジトを嗅ぎつけられたようだが、肝心のフィーネの姿も見当たらなかった。
バキッ
「………っ!?」
誰もいないはずの空間。そこに闖入者が現れた。見覚えのある、廃墟を転々としていた時に突然訪れてきた二課の大人。風鳴源十郎が扉の前に立っていた。
「ち、違う!あたしじゃない!やったのは…」
咄嗟に否定の言葉が出る。だけどダメだ。どうせ大人のことだからまた勝手に決めつけて無視されるに決まってる。その証拠に銃まで持った黒服の大人達が続々と………?
……続々と、自分を避けて部屋の中へ警戒するように入っていく。姿を目で追ってもこちらへ銃を向けることもなく辺りを探る大人達に、咄嗟に身構えていた体制を解いていた。
…理解できなかった。ただ罪を押し付けられると思っていたのに、何も起きない現状に追いつかない頭をオッサンのデカイ手が優しく撫でた。
「…誰もお前がやったなどと疑ってはいない。全ては俺や君の側にいた彼女の仕業だ」
「………え?」
見上げた顔、自分より遥かに大きな体が目の前にある。それなのに威圧感を感じない。それどころか何処か遣る瀬無いように目を遠くする姿に、自然と力が抜けていた。
「っ!風鳴司令!」
黒服の一人が声をあげる。倒れている死体にある異物。血文字で書かれた紙が目に入った。
I Love You
SAYONARA
ドォォオオオオオン!!
瞬間、爆発した。溢れる熱、荒れる風、耳を裂くような音。それが一瞬身体を撫で、気がつけばオッサンに抱き締められていた。オッサンが庇うように腕を回し、もう片方の腕には人を平然と潰せる岩を抱えていた。衝撃で頭が回らなくてもわかる。こいつたぶん人間じゃない。
「………何が…?」
「衝撃は発勁で搔き消した」
「そうじゃねーよ!!」
…そんなことはどうだっていいんだ。オッサンがどう対処してようが人間じゃなかろうがそんなのはどうでもいい。問題なのはあたしが大人に助けられた事。よりによってギアも纏えない、普通?の大人に守られた事。爆発という常人では死に至る被害を前に、自分が何もできなかった事。
…そう、シンフォギアを持っていながら何もできなかった事。…よりにもよって、爆発というパパやママが殺された時と同じものを相手に。
……力を得たのに、歌があるのに。こんなんじゃまるで、あたしが何一つあの頃から成長していないみたいじゃないか。
「なんでギアを纏えない奴が!あたしを守ってんだ!」
歌には力がある。歌には何かを掴む力がある。ようやくその認識ができたのに、また否定される。
「………俺がお前を守るのは、ギアの有る無しじゃなくてお前よりもちょっとばかし大人だからだ」
「………大人?」
……歌に力があるなら、弱いのはあたしか?あたしがダメだから、歌の力を扱えないのかよっ!大人だからなんて、バカみたいな理由を引っ提げてくるこんなオッサンより!
「あたしは大人が嫌いだ!脳筋尽くしの業突く張り!夢見がちな癖にするのは余計なことばかり!死んだパパとママもだ!歌は万能の道具じゃない!方法も考えずにただ歌で世界を救うなんて、いい大人が夢なんか見てんじゃねえよ!」
歌に力があるなら
もしかしたら…………。
……………なんで、あたしはこんな情けねえんだ…。
「…いい大人は夢を見ない、と言ったな」
「………え?」
「違うな、大人だから夢を見るんだ」
自己嫌悪に吐き気がする中、諭すように語りかけられる。
「大人になれば背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いだってちったぁ増える。分かるか?子供の頃は見るだけだった夢が、大人になれば夢を見る意味が大きくなる」
その顔は未だ夢を見ているように、ただ事実を教えるように頭に入り込んできた。
「お前の親はただ夢を『見る』ために戦場へ行ったのか?…違うな、歌で世界を救うっていう夢を『叶える』ためにこの世の地獄に自ら望んで踏み込んだんじゃないのか?」
「………なんでっ」
「お前に見せたかったんだろう。『夢は叶えられる』という、揺るがない現実をな」
………アンタも、同じこと言うんだな。パパとママが歌で平和にした世界を、夢を叶えた現実を。そんな理想をあたしに見せるために命がけの人生を歩んだって。
…ううん、そんな夢を『叶えようと』したんだって。
「………きっとお前の両親は、お前の事を大切に思っていたんだろうよ」
………そこまで言われたら、もう限界だった。溢れる涙が、止まらない蛇口のように緩やかに流れる。
パパとママがあたしのために歌で世界を平和にしようとしたと八幡にそう言われた時、納得できても実感が湧かない部分もあった。大人ならもっと普通の選択を、もっと安全な選択をすると思ってた。
…『大人』だから。『大人』なら。そんな理由で認められなかったのに、このオッサンに認めさせられてしまった。
『大人』
「……っ」
…涙を隠すように、オッサンに抱き締められた。全身を覆われるような安心感に、また涙腺が緩んでいく。全てを受け入れられるようで、自分の全部をぶつけられるような気持ちになる。
…そして段々、心が落ち着いていく。
ずっと考えていた。あたしの歌で何ができるかを。あたしの歌が何のためにあるのかを。その答えがようやく見つけられた。
パパとママがあたしに見せてくれようとした世界、叶えようとした夢。だけどあたしはその夢をまだ見ていない。世界を見ていない。なら自分で見なくちゃ、叶えなくちゃ。
……歌で世界を救う。パパとママの夢を、あたしが引き継ぐんだ。
まだ子供のあたしが歌う未熟な歌かもしれないけど、あたしが大人になる時に叶える夢が見つかった。まだ見るだけかもしれない、まだ手を伸ばすだけかもしれない。
だとしても、いつかきっと叶えてみせる。
…だってきっと、あたしの歌はその為にあるんだから。
全部八幡に任せようかとも考えたけどOTONAの格好良さには勝てなかった。というか大人だからこそ伝えられる部分を補完できなかったので。