やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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再投稿です。内容はあまり変わってないのでもうすこし早く投稿すれば良かった。

次は明日投稿します。


八千八声。鳴いて血を吐く…

sideクリス

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

…………落ちる。

 

 

 

…………落ちる。

 

 

 

…………風を切って、落ちて行く。

 

 

 

 

絶唱。自分の命すら歌に燃やして力と変える諸刃の剣、それを使ってカディンギルの一撃と撃ち合った。その結果がどうなったのかは分からない。

 

…空へ目を向ける力が出ない。真っ直ぐ真っ直ぐ、地面へ向けて落ちて行く。

 

 

「……ゲホッ」

 

 

口から溢れる血を吐き出すように咳がでた。それだけで痛みが身体中を駆け回る。指一本すら動かさないんじゃないかと思えるくらいの重量感が、下へ向かう浮遊感と共にあたしの体で混ざり合い続けた。

 

 

 

 

ドシャッ

 

 

 

 

……………その浮遊感も終わる。激痛に代替わりするだけだったが、意識がある辺りまだ死んではいないのだろう。シンフォギアのバリアフィールドの防御性能の高さは伊達ではないと言うことか。

 

……つくづく、悪運が強い。

 

 

「…………ぁ」

 

 

……空を見上げ、声が漏れる。倒れ込んだ向きが、上向きでよかった。空に浮かぶ月が視界に入り、その端の部分が僅かに削られてはいるがその存在は健在だった。

 

……つまり、あたしが歌ったのは無駄ではなかったのだ。それだけは、素直に良かったと思える。

 

 

「……痛ぇなぁ…」

 

 

ジクジクと体の内側から蝕まれるような痛み。でも、それがどうにも懐かしい。それは似たような痛みを……いや、『苦さ』を体験したことがあるからだ。

 

 

(……ああ、そういやネフシュタンの鎧に喰われそうになった時もこんな痛みだったか)

 

 

思い出すのは路地裏で寝ていたあの日。風鳴翼の絶唱を受け、立花響の誘拐に失敗した最悪の日。あの日もこんな痛みと共に寝そべっていた。

 

……あの日からだ。あの日、あの時、あいつが路地裏に現れてから。あの『甘さ』を教えられてから、あたしの道がズレていった。痛みよりも、苦さよりも、甘さと温もりを求め始めていた。

 

 

「……ぁあ。行か、ないと…」

 

 

動かない体にムチを打って立ち上がろうと試みる。

 

…そうだ。優しさと温もりをくれたあいつの世界、それを奪わせるわけにはいかないんだ。あの甘いコーヒーも、撫でられた手も、繋がれたもの全てを守る為に、あたしは歌うんだ。

 

 

「……ぐっ…」

 

 

………それなのに、立ち上がる力が足りない。足はもつれ、腕は体を支えてくれない。あたしの体は何も変わらず、地面に投げ出されていた。

 

 

「……クソッタレ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪音っ!」

「……なんでいんだよ…」

 

 

思わず口から悪態が漏れるが、何故だろう。笑ってしまう。あの日路地裏で寝ていた時を思い出していたせいだろうか。

 

……そういえば、あたしが倒れた時はいつも八幡が助けてくれてたんだっけ。初めて会った時も、フィーネに捨てられて倒れた時も。

 

…いいやそれだけじゃない。帰る場所がなくなった時、ただ逃げ続けていた時も、お前は助けてくれたんだよな。

 

…それを少しでも返したいから、お前に歌を聞かせたかったんだ。

 

 

「……大丈夫、なわけないか。地下に司令や小日向達も避難してるからそこに行くぞ」

 

 

倒れていた体を起こしその背に背負う八幡にされるがまま、ぼーっとその動きを眺め続けていた。

 

…歌を聴いて欲しい。その湧き上がる感情だけが、途切れかける意識を繋ぎとめている。背負われ、身体を預ければ暖かい背中が広がっている。それに身を任せて眠りたいと思うのに。

 

 

「……っと。少し痛いかもしれないけど我慢してくれ」

 

 

…腕を前に回して落ちないようにする力すら残っていない。その事実が、まるで今が最後の時なのではないのかと訴えるように感情を揺さぶってくる。

 

 

「……なあ、八幡」

「どうした?どこか痛いのか?」

 

 

……たとえ歌っても、八幡には届かないと知っているのに。それでも、だとしても。想いが膨れ上がる。

 

 

「……あたしさ、歌ったんだ。世界を、平和にって。歌ったんだよ…」

「……絶唱ってやつだろ。あんま無茶すんな」

「……してない…してないさ。だってまだ…お前に、歌、聞かせてない」

「……いつだって聴いてやる。だから今は休め」

 

 

………そうやって八幡は、優しくあたしを突き放す。聴こえないと言わないで、聴いてやると言ってくれる。

 

…だけど聴こえないんだろ?あたしの歌は、お前には届かないんだろう?命を賭けた歌だって、お前の耳には一音だって紡げやしないんだろう?

 

…それが、ただただ悔しい。

 

 

「……なんで、あのバカなんだろうなぁ…」

 

 

…あたしには届けたい歌があって、一生かけても聞かせたい歌があるのに。あのバカは何も知らずに歌を八幡に聞かせてる。何も知らずに、歌は凄いと言わせている。

 

……伝えたいんだ、歌いたいんだ。たぶんあたしは、言葉じゃ伝えられないから。照れ臭くて恥ずかしくて、それでも歌だけはあたしが誇れて真っ直ぐ気持ちを伝えられるものだから。

 

……ずるい。

 

……ズルイよ、立花響。

 

 

「……」

「……」

 

 

前だけを見る。焦って、汗だくで、腐った目で進み続ける八幡。手を伸ばさなくても届く距離にいるのに、歌だけが伝わらない。

 

……届けたいよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

繋いだ手だけが紡ぐもの♪

 

 

 

♪なんでなんだろ?心がぐしゃぐしゃだったのに

 

 

♪差し伸ばされた温もりは嫌じゃなかった…

 

 

 

 

 

……暖かい背に身を任せ、歌を歌うことだけに集中する。

 

……ああ。痛い…。痛みが意識を奪おうとする。

 

……ああ、苦い。自分で始めたエゴに、口が潰れそうだ。

 

…怪我人が歌い始めたのに、振り向きもしない。そりゃそうだ。何も聴こえてないんだから。八幡からすれば背中で静かに暴れないあたしとしか認識してない、できてないんだろう。

 

…それが分かっていても、辞められない。諦められないんだよ。

 

 

 

♪嗚呼…涙を越えた明日ゴホッ何がまってるんだろう?

 

 

♪消えゲホッ歯車がぐっと動きゴホっ…煌めいて…

 

 

 

「……雪音?大丈……おい雪音!お前、何して…っ!?」

 

 

 

……違うよ、八幡。そんな気づき方して欲しかったんじゃないんだ。あたしは…歌を聴いて、振り返って欲しかったんだよ。

 

…口から血が溢れるのが止まらない。それでも歌うことも止められない。例えこのまま血を吐き続けようと、もしもその先で死んでしまっても…。

 

 

「雪音っ!おい!そんな体で何してんだよっ」

 

 

…その耳に、届けたいんだ。嘘じゃない、あたしの…本物の歌を…。

 

 

 

 

 

 

 

♪…歪んだFAKEを千切る

 

 

♪My songゲホッガハッ!『未来』の歌…

 

 

♪やっと…見えたと…気づけたんだ…

 

 

 

 

………その歌を見つけられたのは…八幡、お前のおかげなんだよ。

 

…だからさ。今だけでいい。勝手に思い込ませてくれ。

 

 

 

 

 

♪きっと届くさ…きっと…

 

 

 

 

 

 

…あたしの歌が、八幡にも届くって…。

 

 

「…………ゴホッ!ゴホッ!………ぁッ!」

「……雪音!」

 

 

………一曲、それだけ。何度でも、聴こえるまでと思ってたのに。声が喉の外に出ようとするのを拒絶する。

 

 

「………なぁ、八幡…

 

 

 

 

 

 

 

…あたしの歌、聴こえたか?」

 

 

「……っ!」

 

 

……それなのに…バカみたいな言葉は…出てくる…。あたしがどんな顔で言ってるのかは、あたしにはわからないけど。目の前の顔が、見たことないくらいに歪んでいるのを見れば、それを考えるのも馬鹿らしい。

 

 

 

「……っ。……ああ、聴こえたよ。…もう一回、いや…これから何度も聴きたいくらいだ…」

「……はっ…。バカ、嘘つき…」

 

 

 

…聴こえたって言うなら、もっと嬉しそうな顔してくれよ。聴きたいって言うなら、もっと楽しそうな顔してくれよ。

 

…意識が消えかかってても、嘘だってバレバレだ。…聴こえてないって簡単に分かっちまう。

 

…そりゃそうか。あたしの歌じゃあ、届かないよな…。

 

 

 

「……なんであのバカなんだろうなぁ…」

 

 

 

もう一度、恨み節が溢れる。あのバカが嫌いなわけじゃない。喧しくて、馴れ馴れしくて、そんな強さは嫌いじゃない。

 

…それでも、この一点だけはあいつが恨めしい。羨ましい。

 

…誰かの力になれる歌が歌いたい。

 

…誰かを助ける歌を歌いたい。

 

…誰かを救える歌を歌いたい。

 

…………八幡、お前の聴こえる歌が歌いたいよ。

 

…それだけが、どうしようもなく難しい。

 

 

「……なんであたしじゃないんだろうなぁ…」

 

 

…悔しくて、涙が出る。死ぬまで歌うこともできない。今でも戦っているだろうあのバカや風鳴翼の元で戦うこともできない。世界を守るために、銃爪を引くこともできない。

 

……あたしはなんのために歌ってるんだろう…。

 

 

「……雪音」

 

 

…濡れた目が、八幡の顔を見つめ返す。

 

…不思議だ。さっきまであんなに歪んでいたこいつの顔が、今は何故か力強く見える。

 

 

「……さっきは悪い。…嘘ついた。何も聴こえない、雪音の歌は全然聴こえなかった」

「……ぁあ。だろうな…」

「だから今度ちゃんと聴かせてくれ」

「……。…ぇ?」

 

 

言われた言葉に目を丸くする。惚けるあたしをおいて、また八幡が続けた。

 

 

「……聴かせてもらう分際であれだが…。勝手に歌うの諦めんなよ。……えっと…なに、あれだ…」

 

 

八幡の目を泳がせる姿が、『友達になってくれないか』と言われた時と重なる。きっとこいつはこれから恥ずかしいことを言う。自分が照れる言葉を、勇気を出して発してくれるのだろう。

 

 

「……………。…お前の歌、楽しみにしてるんだ。……聴こえるまで、その、歌、頼むよ…」

「……は、ハハッ」

 

 

顔を赤くして、こちらを見もしない。…それなのに、また歌いたくなってしまう。

 

………ほんと、不思議だ。胸の奥が熱くなる。身体まで軽くなってきた。傷だらけなのに、今では空だって飛び回れそうなくらいに力が湧いてくる。溢れる力が、まるで歌のようになって燃え上がる。

 

 

 

 

 

 

「……そんなこと言われたら、歌わないわけにゃいかねえじゃねえか…」

 

 

 

 

 

 

歌を歌え。歌を歌わせろ。心の底から歌えと、立ち上がれと言っている。燃え盛るように、纏っているシンフォギアが呼応している。

 

 

 

 

「……八幡」

「……どうした?」

「もう一回だ」

 

 

 

 

………お前のおかげだ。

 

………お前のおかげで、まだ歌える。もう一度、頑張れる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《▮Symphogear : Code『Ichaival(イチイバル)』》

 

 

 

《▮ Awakening! : limited release(限定解除)!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もう一度、戦える!

 

 

 

「……八幡!あたしの歌は、こっからだ!」

 

 

 

……背中から、翼が生まれた。

 

 




ラスト部分だけすこし変更。全ては些事。

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