やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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翼さんの風輪火斬が火遁の術使ってる説は正しいのか気になる。


やはり立花響は抱え込む。

小日向+リディアン三人衆とのお好み焼き食い荒らし(半分くらい食わされた)から暫く経ち、なんとか新しい学校にも慣れてきた。

というか高校の入学式以降はなにかとイベントがあったので、むしろようやく元どおりになったと言うべきか。学生が絶対いらないと思ってる体力測定もヒーコラ言いながら完遂し、クラス内のグループもだいぶ固まったので「話しかけよっかなー、どうしよっかなー」という視線が一瞬こちらに向くこともなくなった。まあ向いても話しかけられたことなんてないんですがね。

さて、そんな中当然ぼっちコースを突き進んでいる俺だが、今日も一人で黙々と作業に勤しんでいた。

 

 

「………こんなもんでいいか。暫く錬金術は使えないからなぁ」

 

 

何をしているかと聞かれたら、『勉強』。ただそれだけだ。こんな時期から勉強するよりも暇な時間は遊んだ方がいいんじゃ、と思わないでもないがある意味習慣化してしまったのだから仕方ない。

中学の時から受験生なのでと塾に通っていたが、スカラシップ制度の存在を知ってからはいい成績を取ることで塾代を免除してもらい、親からの塾代を懐に入れるという錬金術で生きてきた。もちろん飯は実家ゆえタダ。働かずに食う飯はうまい。

勉強し、いい点数が取れればお金が手に入る。モチベーションは上がるし懐も潤う素晴らしい算段なのだが、高校に合格したことで高二の夏休みまではこの錬金術ができないのだ。

しかしできないからやらないのではなく、次にやる時に再び錬金術を修めることができるよう地道に努力できる俺なのだ。俺えらい。

 

 

「あれ?八幡くん?」

「…立花か」

「久しぶりー。元気だったー?」

 

 

会話を続けながらさも自然に対面に座る立花を見て勉強道具を端に寄せる。軽そうな声とは裏腹に何やらグニャっとしてる。前までのあたい超元気!な姿をしていないところをみると、二課での労働はあまり上手くいっていないようだ。

 

 

「まあな。逆に立花は元気そうじゃないみたいだが」

「うぇっ!?そ、そんなことないよー?元気元気!」

 

 

ムキッと力瘤(ちからこぶ)を作ってみせるが、すぐに脱力して机に突っ伏してしまう。どうやら中々重症のようだ。

 

 

「……ねえ八幡くん。どうやったら人と仲良くなれるのかなぁ」

「一番聞く意味ない奴に聞いてる自覚ある?大丈夫?」

「あはは…ごめん…」

「謝るなよ…逆に痛々しいだろ…。………それで、誰と仲良くなりたいんだよ」

「…翼さん」

「まあ、だよなぁ」

 

 

二課の人達は良識がある人が多いというか、立花のような学生でも丁寧だし優しく接していた。多分風鳴先輩という前例があるから対応に慣れているのだろうが。逆に風鳴先輩は対人に対する反応の仕方が乏しいというか、真面目が過ぎるような人だ。新しく入ったばかりの立花とウマが合わないのは仕方がないとも思う。

 

 

「…つっても、焦っても仕方ないだろ。別に明確に敵対してるわけでもないならゆっくり距離を縮めればいいんじゃ…おい、何で目を逸らす」

「いやぁ、あはは…。そう、だね…。明確に、敵対…」

「………お前…。あの人に喧嘩でも売ったのか?」

「ち、違うよぉ!?ただ〜少しだけ、ね?翼さんと一緒に戦いたいって言ったら翼さんと戦いかけたり、私の失言で翼さんのビンタを頂戴しただけで…」

「嫌われまくってんじゃねえか」

 

 

むしろそこまでされてまだ仲良くなろうとする立花に脱帽する。風鳴先輩に何か拘りがあるのか、それとも同じ職場の人だから仲良くしたいのか。立花だし後者のような気もするが、そこまで明確に嫌われるのも異常だ。一般人上がりの奏者が気に入らないか、それとも立花個人に恨みでもあるのか。

そういう話は聞いたことがないからさっぱりわからん。

 

 

「……まあ、だからさ。私もっとしっかりしなきゃなぁって。もう一月も経つのに全然役に立ててないし。翼さんにも迷惑かけてばっかりで…」

「……そうか。なんつーか、随分風鳴先輩に拘ってるんだな。迷惑っつっても入って一ヶ月なんて新人もいいとこだろ。ほら、あれだ。企業には新人を育てる責任があるわけだし、覚えられなかったらもっとまともなマニュアル寄越せって業突く張るくらいでいいんだよ」

「うぇっ!?そ、それはできないかなー、なんて。…それにね、私を助けてくれた人と仲良くなれないなんて、悲しいもん」

「助けてくれた?」

「うん!二年前なんだけど…!」

 

 

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「………というわけで、翼さんと奏さんは私の命の恩人なんだ!」

「そりゃまた、なんというか…」

 

 

奇縁、と言えばいいのか。命を賭して立花を守った天羽奏にその相棒の風鳴翼。ツヴァイウィングに助けられた立花と再会した風鳴先輩の心境を考えれば、立花を目の敵にしてもおかしくはない。死んでしまった相棒を無理矢理にでも思い出させてしまう存在が目の前にいるのだ。全てを飲み込んで仲良くしろ、という方が酷というものだろう。

 

 

「………それで奏さんのガングニールを纏っている私を翼さんは受け入れられないんだって。いやぁ〜そりゃそうだよね。奏さんと比べてヘッポコだし、鈍臭いしで、何で奏さんじゃないんだ〜って言いたい気持ちもさ…」

 

 

たはは、と力無く笑う。何度か見た底なしの笑顔とはかけ離れたそれは、立花の葛藤を表しているのか。仕方ない、当たり前だ。だって立花響は天羽奏じゃないんだから。

キャリアを積んで、時間を共有し、肩を並べて来た歴戦の戦士の前任。それを一般人上がりの新人に求めるのはお門違いだ。立花自身もそう思っているからこそ、割り切ることが難しいのだろう。

……ほんと、なんというか…。

 

 

「…お前、嘘下手だな」

「うぇ!?う、うそだなんて…」

「………」

「………はぁ。うん、分かってる。分かってるつもりなんだけどね。だけど分かんないことばっかなんだもん。胸の覚悟を構えろなんて言われたってそんなの分かんない。変わんなくちゃいけないのは分かるけどどう変わればいいのかわかんないよ…。…ほんと、どうしたらいいんだろ」

 

 

覇気のない姿を眺めながらぼんやりと考える。

先程から変わる、変わらなきゃと立花は連呼しているが、俺は別に立花が変わらなければならないなんて思わない。経験を積めば今よりノイズと戦える。経験を積めばその過程で覚悟も決まっていくだろう。楽観論?上等だろう。変われと言われて直ぐに変われるような性格思考倫理観なんて人間誰も持ってなんかいない。それらを築き上げるのに十年に二十年という年月が掛かっているのだ。立花のように命の危機に陥り、それでもなお誰かのために手を差し伸べられる人間の、積み上げてきた人間性。変わろうとしても変わらない。その心の芯があるのなら…。

そう思うと、自然と口が動いていた。

 

 

「………別に変わんなくていいだろ、そのままで」

「え…?どういう…こと?」

「あ?えっと、なんつーか…」

 

 

口から出た言葉の意味が自分でもわからない。だけど、出てしまったものは飲み込めない。勝手気儘に動いた口をそのままに、ただ思ったことを口に出していく。

 

 

「…いや、俺も分からん」

「えぇー。八幡くんが言ったのに…」

「悪かったよ。………ただ、あれこれ考えて人助けする立花より、何も考えずに誰かを助けようとする立花の方が、俺はいい、と、思い、ます、はい」

「………八幡くん」

 

 

カァッと頬が熱くなる。いや何言ってんだ俺。ちゃうんです。別に何も考えてないって馬鹿にしてるわけじゃなくて、余計なこと考えてないというか、むしろ人助け以外考えてないんじゃとかそんなこと思ってないです、はい。

ぎゃ、逆にそれがいいっていうか!?わかんネ!

 

 

「……あーやっぱなし、今の忘れてくれ」

「…………あはは。ううん、忘れないよ」

「ひ、人の黒歴史を握ってどうするつもりだ…?」

「べ、別に何もしないよ!

…ただ、ちょっとだけしっくりきたんだ。私、自分があんまり頭良くないのは分かってるけど、それでも今まで人助けを全力でしてきたんだもん!だから、今回も真正面から行ってみる!」

「………そうか。で、何をするかは決まったのか?」

「うん!全然分かんない!」

「おい…」

「だけど、へいき、へっちゃらだよ!どうしたいかは決まったから!まだ胸の覚悟を構えることは出来ないけど、私のこの胸の想い、翼さんに伝えるくらいはして見せるから」

 

 

そう言うとさっきまでのふにゃけ顔は何処へやら。拳を握ってキリッとした顔に早変わり。イケメンかよ。

…ま、何にせよ立ち直ったならオールオーケー。俺何もしてないけど。

 

 

「……おう。ま、なんつーか、がんばり過ぎんなよ」

「うん、がんばる!…今日はありがとね。ここに来てよかった」

「そーですか。つか何でここに来たんだ?」

「え?了子さんがこのお店に行けば運気アップって言われたから…」

「何してくれてんだあの人…」

「それに、間違ってなかったよ。私の今日の運勢、絶好調になったから!」

「安い絶好調だこと」

「あはは。それにやっぱり誰にも喋っちゃいけない内容だから相談に乗ってくれるだけですっごく心強いよ!ありがとう!」

「はいはい、どーいたしまして」

「じゃあ私早速、行動開始します!またね、八幡くん!」

 

 

グッとぞいの構えを一つ、席から走り去って行った。即断即決、と言うわけではないが即行動は身体に染み付いているらしい。やはりうじうじと考え続ける立花よりも動き回っている立花の方がそれらしい。

グイッと頼んでいた砂糖たっぷり甘々コーヒーを流し込み席を立つ。…レシートがない。走り去るついでに立花に支払いごと持ってかれたらしい。

 

 

「……イケメンかよ」

 

 

まったく、相談のお礼のつもりか。何もしてないこちらとしては何とも心苦しい。それか…本当に俺なんかに縋りたくなるほど立花が参っていたのか。

秘密とは膨れ上がる物だ。隠すために重ねる嘘、騙すために覆う嘘、そして…傷つけないための優しい嘘。それらはどんどん積み重なり嘘をついた本人の重みとなる。だから人はどこかに、誰かにこの重みを発散するのだ。話してはいけない話ほど誰かに話したがるのはこういう側面もあるのかもしれない。

特に立花のような優しい嘘をつける奴は、誰かに行く傷を自らの内に必死に抑えつけてしまう。だからこそ小日向に言えない重い秘密を俺に発散したかったのかもしれない。

 

だからもし、その行為に立花が価値を認めてしまったなら…。

 

 

prrrr!

 

 

「………はい」

 

 

きっと俺は、最低なクソ野郎なのだろう。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「たのもー!私に、戦い方を教えてください!」

 




弟子入りの時期を少し早めることによるキャラ強化はテンプレ。
テンポ変えないと八幡の出番がどんどん消える。


Trust Heart好き

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