やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
「…………フィーネ、だと?」
「…まだ目覚めたてで記憶が曖昧だけどね」
マリアがフィーネだと言うドクターの真意を確かめる為に問いかければ、是と返ってきた。話にしか聞いたことがないフィーネという存在。それが目の前にいるという事実に少し身構えてしまう。
「そこから先は私が説明します」
黙り込む俺に気を遣ったのかマムが割り込んでくる。もしかしたら今回俺をここに呼んだ本題なのかもしれない。実際にレセプターチルドレンを集めている組織でフィーネの復活なんて又とない大ごとだ。そのための箝口令と見るのが良いだろう。
「マリアはレセプターチルドレン、フィーネの器として集められた子供達の一人です。そしてシンフォギアを操れもする。そのアウフヴァッヘン波形の調律により復活したフィーネの存在をマリアが認知したのです」
「…認知?完全に復活したとかじゃなくてか?」
「……ええ。フィーネに染まりつつも、私はまだただのマリアよ」
「目覚めはマリアの持つガングニールのアウフヴァッヘン波形。そのフォニックゲインを浴びるたびにフィーネの復活は進んで行くようです。なのでマリアには少しばかりシンフォギアの装着は控えてもらっています」
「僕個人としてはフィーネの復活をモニタリングして見たいんですがね。ま、彼女が僕達の言うことを聞くとも思えないので扱いは慎重に、かつ知識は随時サルベージしてもらおうって事です」
「心強い仲間とは……」
…完全に厄ネタ扱いじゃねえか。それにもし作戦中にフィーネが完全復活してマリアのフリされたら大問題な気もするんだが…。
「…………ん?知識?」
「ええ、彼女は希薄に蘇ったフィーネと記憶を同化し続けているようです。その中に月の軌道を元に戻す方法を見つけたのです」
「…………へえ」
「その少し前にナスターシャ教授が米国政府が月の軌道計算の結果を隠蔽、改竄していた情報を掴みました。このままでは無辜の民が何も知らないまま死んでしまう!ならば、ここで立ち上がるのは誰か!?そう、英雄!英雄になる機会の到来に、ナスターシャ教授は僕の元に赴いたという訳です!」
「…………」
…きな臭いなおい。テンションの上がりように目が行くが、どうやらパヴァリアと取引をしているのがマム一人というのは嘘ではないらしい。
…ますますドクターの存在意義が分からなくなってきた。
「…………なのですが…」
「…なんすか?」
「僕個人としてはあなたの方が気になっていますよ」
「…………と、言うと?」
……まあそりゃそうか。マム一人しか事情を知らないならドクターが怪しむのも仕方がないか。
「シンフォギアを纏える男性体。しかも今の今まで存在すら隠匿されてきた素体が、このタイミングで送られてくるなんてね」
「…さあ、なんとも。記憶喪失なうえ命令に逆らえる立場の人間じゃないんで」
「まあ、でしょうね。送り先は米国政府の暗部の一つ、僕には知る由もない場所ですので事情は分かりかねますが」
「単純に聖遺物の研究してるからってだけでは?」
「…………ま、それはいいでしょう。そんな些事よりも、僕が気になっているのはこのシンフォギアについてですよ」
追求もそこそこに機械にかけられているシンフォギアに視線を移す。…いやそこ大事じゃないの?身元バレできないから仮の所属先は用意されてるので追求を躱す気満々だったのに…。やっぱり研究キチしかいないのかここは…。
まあ俺の聖遺物について知ることができるなら問題は………
「このシンフォギア、聖遺物が入ってませんね」
「…………は?」
……そんな呆れも、ドクターの言葉で吹っ飛んだ。
「…………どういうことかしら?シンフォギアは聖遺物のカケラを歌の力で励起状態にすることで扱う礼装。そのカケラが無かったら……」
「ええ、そもそも起動そのものができません。車のエンジンがごっそり抜けているようなものですからね」
……シンフォギアについて詳しく知る機会は無かった。それでも自然と使えていたので気にすることもなかったが、いざ解析してみればはじめの一歩を踏み出す前から異常が見つかっている。
…なるほど、たしかにこんな異物を計画には組み立てたくないわな。どうやら俺の聖遺物について知るという任務は中々に厄介ごとらしい。
「……で、す、が。貴方はシンフォギアを纏えるのですよね?」
「…ああ」
機械から取り外したギアペンダントを受け取れば、自然と胸の奥から歌が浮かぶ。
聖詠を唱えればいつものように灰色のインナーや鞘のアームドギアが顕現する。いつも通りに違和感なく、しかしそれでも確かに異常であるシンフォギア。エンジンに当たる聖遺物そのものが存在していないにも関わらず動く力が存在する不可思議な力。
「…………見たところ、違和感はないわね」
「…アームドギアもあり、アウフヴァッヘン波形も検知。そして何より、『エクスカリバー』ですか。また妙なものを宿したものです」
「妙な、って。知ってるのか?」
「ええ。それこそつい最近のフィーネの研究をサルベージした際に出てきたばかりです。
………さっぱりわからん。
「……あー、よく分からないんだが。ええと、一対?ってことは鞘だけじゃなくて剣もあるんだよな?」
「…………それはむしろ僕が聞きたい部分ですがねぇ。その聖剣の起動には必ず『剣』から『鞘』へのアプローチが必須とデータにありました、逆はあり得ないと。ならば貴方に宿る鞘が起動した時に、必ず剣が側にあった筈」
「……悪いけど、心当たりがない。というかさっきも言ったけど記憶喪失なんだよ、マジで。こいつが起動した時の記憶もないんだ」
…俺の記憶がハッキリしているのはチフォージュ・シャトーの広間で目覚めた時からだ。それより前の記憶は結構飛び飛びで、シンフォギアをいつ纏えるようになったのかどころかシンフォギアをなぜ持ってるのか、何故その知識があるのかすら曖昧だ。
……もしかしたら、俺の昔の記憶ってやつは放っておいていいものでもないのかも知れないな。
「…………聞いてばっかで悪いけど俺の聖遺物、エクスカリバーについて説明してもらってもいいか?」
「ええ、もちろんです。これからともに肩を並べる、いわば同士ですからね」
そう言って端末を操作するドクターは、しばらくなにかを入力したかと思うと大画面にいくつかの画像が現れた。そしてその中には見慣れた姿が存在する。
「……俺のアームドギアと同じ…」
「そう、これはかつて起動された秘剣・エクスカリバーです」
画面には白銀に光る鞘と黄金に輝き白金の刀身を輝かせる剣が映し出されていた。正直鞘の光具合が俺よりも輝いて見えるのは気のせいだろうか、少し気になる。
「…この剣はかつてアーサー王が使っていたと言われる聖剣、ではありません」
「……では、ない?」
「そうです。先ほども言いましたがこれは哲学兵装、言の葉によりその物のあり方を変える想念が力と変わった異物そのもの。…ところで君はこの聖剣がアーサー王伝説でどのような最期を迎えたかご存知ですか?」
「……あー詳しくは。湖に返された、とかでしたっけ?」
「そういう説も多いです。ですがそんな昔のこと、誰にも分かりません。……だからこそ誰もが想像で、空想で、言葉にするんです。『こうなったんじゃないか』、『こうなんじゃないか』とね。その末路が哲学兵装という呪いを生み出すのですよ」
「…………」
……結末が真実かは残った人たちには関係ない。だがもしもアーサー王が誇らしい王なら、伝説に残るような素晴らしい王なら、なるほど人々はその一つ一つに想像を膨らませるのかもしれない。
それがその王様が使用していた武器という目立つものなら尚更か。
「…アーサー王は王でありながら剣を持ち、戦いへと赴く勇敢な人であったそうです。もちろん残された記述でしかない情報ですがね。そしてそんな人物だからこそ、この光り眼を見張るような輝きに敵も味方も眼を奪われたと」
「…………」
「栄光を歩む王が受ける瞳は敵からの畏怖、味方からの賞賛。かの王が鞘を鳴らせば敵は一歩退き、王が剣を掲げれば味方は勇み一歩進む。そしてその輝きが湖へと消えた後にすら人々は語り紡いだそうです。『消えた剣も鞘も、未来の何処かであるべき場所、あるべき人へ戻る』と。安っぽいおとぎ話ですがね」
「…………だけどその想い、言葉が積み重なって…」
「ええ、哲学兵装として現代まで残っているわけです」
……人の想い、人の言葉が積み重なり生み出される哲学兵装。その片割れがこの身に宿っている。その事実に身体に力が入る。何気なく使っていたこの力が千年以上昔の人から語られたが故に力を得た産物である事実。
……なにより、こんな俺を『あるべき場所、あるべき人』なんて定めやがった人を見る目が皆無な鞘に。
「…………それで、この鞘にはどんな呪いがあるんです?」
「…伝承は好意的な物のみではありません。中でも鞘は敵の畏怖を煽り、吸い取り、それすらアーサー王の力へ変えると一際恐れられていたようです。逆に剣は味方の力を高め、全てを向上させる王の姿であると。
…それ故か、秘剣・エクスカリバーの『剣』には味方と定める人々の好意、友愛を受けるたびに力を増す効果が。そして……
『鞘』には逆に、敵からの敵意、殺意、悪意を受けるほどに、その力が半無限的に増していくそうですよ」
「…………………へー」
…………なんだ、ピッタリじゃん。
よく分からないって人は
鞘「お前俺に嫌な感情ぶつけただろ!?ぶっ殺してやる!」
って聖遺物だと思ってくれればいいです。無限のエネルギー持ってるデュランダルさん見習えよ。
差別化する必要は無いけど一定量の敵意を超えたらデュランダルより一度の出力が上回るかもしれない。ちなみに原点の無限の治癒能力はないです、別物なので。
………そっちはそっちで楽しそうなストーリーが書けそうですけどね。愉悦的な意味で。