やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
……………初めはね、復習の予定だったんですよ。なのに調べながら書いてくとドンドンウェル博士の作者内評価が跳ね上がってくんですよね。
原作も用語解説で全部理解してる人には退屈な話になります。
「それではこれより、月の落下を阻止する作戦。フロンティア計画について解説したいと思います」
翌日、俺たちは昨日と同じドクターの研究室に集められていた。昨日と違うのは揃ったメンツ。俺、マリア、暁、月読、マム、ドクターという現在F.I.S.に存在する全勢力が一堂に会していた。
「……ふろんてぃあ計画、デスか?」
「なんの話?」
…とはいえ俺がF.I.S.に来たのは昨日だし、暁と月読は月の落下のことを伝えていないというので本当に初めの初めに辿り着いたと言ったところか。
「調、切歌。心してお聞きなさい。これから私たちは二ヶ月としないうちにこの場所、F.I.S.に謀反を起こします」
「謀反、って…」
「F.I.S.を、裏切るってこと?」
「ええ、そのとおりです」
「………その理由って…」
「何が、あるんデスか?」
戸惑いを隠すことなく二人はマムに問いかける。子供の頃からずっとここに居た少女達に差し出された反逆の翼の出現に、そもそも事態を知らないが故の混乱が生まれているのだろう。
「切歌、調。私達には、私達にしかない力があるわ」
「…シンフォギア」
「そのシンフォギアを持ってこの鳥籠から飛び立つ。そしてその翼を持って、私達は為さねばならない運命を踏破する」
「………為さねば、デス?」
「………そう。
…世界を救う。私達にか成し得ないことよ」
「………世界…」
「……またとんでもびっくりなスケールデスよ!?」
………世界。うん、世界な、でっかいよな。海は広いし大きいけど地球はもっと大きい。いざ超常の力を手に入れたとしても、俺が救ったことのある範囲なんて精々学校を襲ったテロリストを一人で捕まえる妄想をした時くらいだ。つまり現実で救ってません。現実は厳しいからね。
「………僕が補足をしておきましょうか。今から一ヶ月前に起こった世界の危機。通称ルナアタックについてを」
訪れたマイターン!とばかりにドクターが会話を掻っ攫っていく。一ヶ月前に起こったフィーネが月を消滅させようとした事件。それについては日本政府が情報を公開したことで幾分か詳細な情報が確保できているらしい。
その事件の一部で月のカケラが地球に向けて落とされたという事態があったのだ。その危機は三人のシンフォギア装者によって未然に防がれた。
立花響、雪音クリス、風鳴翼。ガングニール、イチイバル、天羽々斬の聖遺物を持って世界を救った英雄なのだとか。絶唱を口にして、行方不明になったと資料にはある。…いや最新のでは発見された、か。
そして現在、幾度も聞いた米国政府による月の軌道計算の隠蔽。
「………米国政府が情報の隠蔽…」
「で、でもでも!本当に月の軌道なんて戻せるデスか!?手に余るどころか溢れて潰れてぺしゃんこデスよ!?」
「………それでも、私達にしかこの世界を救える人間はいないわ。政府のように物事を隠蔽する人間達は、自分たちが助かれば良いと思っている者ばかり。それでは人々が、本当に困っている人たちを、助けて欲しいと思っている人を救えない」
「…助けて欲しいと思ってる人を…」
「………これから行うことは、恐らく世界にとって悪とされるわ。F.I.S.は政府の機関。そこから離脱して隠蔽している情報を蒔き、超常の力を振るう私達を世界は良しとしないでしょうね。………だけど。
………私達
世界を救う。正しい行為だ。ここにいる人間は世界を救うために割りを食おうとしている人間の集まりに過ぎない。ドクターは怪しいけど。
しかし世界は、政府はそうは思ってくれない。隠した情報をばら撒く厄介者であり、所持していたはずの聖遺物を勝手に扱うテロリストと相違ない。だから今覚悟を問うているのだろう。巨大な政府に後ろを狙われながら悪として世界を救う道を進むのだと。
「………やる」
「やるデス!」
…………。
「………正直、まだ追いついてない。けど…!」
「困っている人を救えるなら…、あたしたち
「………ありがとう、二人とも」
……まるでドラマの1シーンの様だ。弱きを助けるため、悪に堕ちても正義をなすヒーローの如く。それこそ英雄と呼ばれるものの行為なのかもしれない。
………だがドラマはドラマ、現実じゃない。だから薄いし嘘くさい。目の前の三人の劇場のように盛り上がる姿を観客席のように俺は冷めた目で見つめる。
世界を救うという言葉。惹かれるだろう、気になるだろう。男の子だったら一度は夢見ちゃう理想のポジションだ。だから二つ返事で返しちゃう気持ちも分からなくはない。……だが、俺にはむしろこの二人は《誰かを救う》の方に反応したように見えたんだ。
どちらも変わらないのかもしれない。どちらも正しい言葉なのかもしれない。だけどそんな三人の姿が、鼻詰まりのような違和感とともに残り続けた。
「………では話が纏まったところで、計画をお伝えしましょうかね」
☆☆☆
【フロンティア計画】
「………さて、すでに話した通り事の発端はルナアタックです。その日、フィーネは月を破壊する事で世界規模の災害を引き起こす筈でした。日本から提供されたデータによれば人々は恐れ、フィーネの元に集うのだとか」
「………重力崩壊だっけか?そんなもん起きたら集う以前に人類終了のお知らせだと思うんだが」
「ええ、そうなります。ですからフィーネは《船》を用意していました。それこそが、【フロンティア】」
「………ふろんてぃあ。計画の名前にも入ってる主役さんデスね」
「そう。世界が崩れた後の新天地であり、ノアの箱船の如き選別された人々のみが入ることを許された巨大な聖遺物です」
フロンティアとはF.I.S.の調査によって発見された東経135.72度、北緯21.37度付近の海域に存在する巨大な遺跡、それそのものが巨大な聖遺物であるそうだ。しかしF.I.S.の調査ではその全貌が暴かれることはなかった。
…その遺跡には強力な封印が施されていたのだ。一般の方法では起動することは叶わないソレは、しかしフィーネによって解除可能な段階まで引き上げられているのだとドクターは語った。
「………フロンティアの封印の解除、それにはとある聖遺物が必要でした。それが
「………鏡?」
「ですがそれはフィーネによって米国に、いえF.I.S.に持ち込まれています。さらにフロンティアの起動にも心臓部となる聖遺物が不可欠、これもF.I.S.に保管されています」
「………準備は万端、ってことデスか」
「問題もありますがね」
まるで舞台が整えられているようにF.I.S.にはフロンティア計画に必要なパーツが揃えられている。それも当然で、本来ならフィーネがこれらを行使する予定で計画を進めていたのだ。その準備を丸ごと掻っ攫おうという話が今現在なのだろう。
「………んで、問題って?」
「その心臓部である聖遺物は完全聖遺物でしてね、未だ起動に成功していません」
「なら私達が起動させれば…」
「ハッキリ言いますが、フォニックゲインが足りません。起動に半年、一年と掛けていては手遅れでしょう。月の落下を指を咥えて待つだけです」
「じゃあどうすれば…」
「そ、こ、で!僕たちが進めてきたアイドルという地位が役立つのです!!」
「「何故そこでアイドル(デス)!?」」
「………え、マジでなんでアイドル?」
………正直ほんとなんでそこでアイドル?世界を恐怖に陥れるって悪役みたいな理由を語っていたドクターのはずなのに、まさかの計画に必要な要素だったのか…。
「………フィーネはかつて、ネフシュタンの鎧と呼ばれる完全聖遺物を起動させた実績があります。その方法は《ツヴァイウィング》と呼ばれる装者二人のアイドルユニットの歌、そして参加するライブオーディエンスよって生まれるフォニックゲインを利用するという方法でした」
「……つまり私の歌で…」
「マリアの歌のみで起動出来れば良いのですが、ここは安全策を取りに行きましょう。かつては二人の装者が必要でした。今回もそれに則りましょう。それも世界的に人気な、ね」
「当てがあるってことか?」
「………そうか、風鳴翼。世界進出した人気アーティスト。彼女と歌えってことね?」
「その通りです。…ふっ、まさかこの僕が本当に目立ちたいが為だけにマリアを人気アイドルに伸し上げたとでも思いましたか?」
思った。
(思ったデス)
(思ってたわ…)
「思った…」
………。………うん。
「………風鳴翼だっけ?そんな人気な奴と歌えるステージなんて用意できるのか?」
「既に舞台は整えてあります!時は一ヶ月後、場所は日本!Queen of Musicと銘打たれたそのライブの放送範囲はなんとぉ!世界の主要都市全て!!」
「急を要する異常事態…」
「は、話が早すぎてついていけないデス…」
「……なるほどね。そして例えライブで起動に至らなくともそれこそ直接相手のシンフォギア装者と戦うことで足りないフォニックゲインを補える、ということね」
「………しかもさっきのフロンティアの場所。東経135度に北緯21度って、たしか日本の近海だな。…え、マジで全部整ってるんだけど…」
………あれ、おかしい。計画の精度が良ければ良いほど良いに決まってる。そしてドクターの発案した計画やその道筋がどれもこれも目的に合致している。嘘偽りなく一歩二歩先を見据えるように計画が立てられていた。
「………にしても、ライブか。ライブで起動に失敗して相手の装者と戦うにしたって難しくないか?こっちがシンフォギア持ち出したらそりゃあっちも出してくるだろうが、世界放映で装者を映像で晒すか?自衛隊とかそんな輩が出張って来そうなんだが…」
「ええ、ですからノイズの力を借ります」
「ノイズの…」
「力デスか!?」
「かつてのルナアタックで使用された完全聖遺物は、何もネフシュタンの鎧だけではありません。《ソロモンの杖》と呼ばれるノイズを操る完全聖遺物、その杖の研究権利をシンフォギアを秘匿してきた日本政府から米国政府に譲渡されました。元々米国政府の物ですからね。なのでその責任者として既に名乗りを上げてあります」
「………つまり何もしなくてもあっちから杖を渡しに来てくれる、ってわけか。ライブよりも前にって事だよな?」
「ライブの当日に明け渡すよう申請してあります。移送にはあちらの装者が派遣される予定ですので戦力の分散にもなります」
「………お気遣いどーも」
敵装者との戦闘で負ける可能性も下げてあるってことか。そしてそのソロモンの杖でノイズを出現させればシンフォギア装者が存在する日本政府が無駄死にをさせないため、自衛隊のような邪魔も周辺警護に回される。
つまり計画の揺れ幅がかなり低くなるってことか。
……………。
「………ドクターってもしかして頭良いのか?」
「はっ、何を今更。僕は英雄になるべくして生まれた人間。凡人と同じ目線で比べられても困ります」
……計画の立案、行動力に躊躇いのない思想。どれもこれも恐ろしい具合に冴えている。もしも土壇場でヘタれるようなら後ろから刺すことも考えていたけれど、どうやら想像以上に適任なのかもしれない。
「………あー、そういやその心臓部の聖遺物ってのは結局何なんだ?」
ドクターの潜在能力に怖気付きながらも、さっきから気になっていたところを聞く。ボカしているかのような部分。
しかしドクターはむしろ嬉々としてその存在を示した。
「………それはかつて起動に成功しましたが、制御に失敗し蛹状態にまで再封印したF.I.S.の黒歴史。その特徴は自立する聖遺物、そして伝承にあるように同じ聖遺物を喰らうことで際限なく巨大化する堕ちた巨人」
「………まさか、ドクターアレを!?」
ドクターの台詞に一際強い反応を見せるマリア。それに構うことなく、ドクターは高々にその名前を口にした。
「そう。フロンティアに必要な完全聖遺物とは!《ネフィリム》です!!」
蛇足:飛ばしてどうぞ
………書いてみて分かった。全部意味ある。いや正直これ要らなくね、とか思ってたソロモンの杖にも計画進行と同時にドクターそのものの戦力補強の意味があるし。自分は情で助けてもらえないって理解してたからこその杖だし、実際二話での戦力分散や装者以外の人払いに世界への脅威として明確な意図もある。
ライブ会場もフロンティアのある海域近くの日本だし、日本でのトップアーティストの映像を全世界に放送できるくらいのプロデュース能力もあるから多分ライブ当日にソロモンの杖輸送したのあれ偶然じゃないでしょ。
…………うーん、この。ドクター…。