やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
………というかひびクリ未来翼さんが書きてえ!あとマリ調切歌も書きてえ!ダメだ、人の欲は終わらねえ!
sideマリア
♪リンゴは浮かんだ お空に…
♪リンゴは落っこちた 地べたに…
………目を閉じれば、いつだってあの歌が聞こえてくる。セレナが、妹が死ぬことになったあの事故。完全聖遺物であるネフィリムを歌を介さずに起動しようとしたF.I.S.が、制御に失敗して壊滅の危機に陥った6年前。
暴れるネフィリムに為すすべ無く、目の前で機械を弄りながら右往左往するだけのF.I.S.の研究者達を前に。小さな小さな子供が一歩前に進んだ。
『……私、歌うよ。マリア姉さん』
『…っ!?でも、あの歌はっ!』
『私の絶唱でネフィリムを起動する前の状態にリセットできるかもしれないの』
『そんな賭けみたいな!それでもネフィリムをなんとかできなかったら…』
『………その時は、マリア姉さんが何とかしてくれる。F.I.S.の人達もいる。私だけじゃない。
…まだ13歳だったのに、あの時唯一ギアを一人で纏えたのはセレナだけ。それでもきっとあの時の言葉を、あの時の勇気を、私が出すべきだったのに…。
『…………。……ギアを纏う力は私の望んだものじゃないけど、この力でみんなを守ろうと思ったのは私なんだから』
ギアを纏い、ネフィリムが生み出した炎の海に飛び込んでいくセレナの後ろ姿をただ見続けるしかない私。ギアも、歌もない私に、あの時何ができたのだろう。
♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪
♪Emustolronzen fine el baral zizzl♪
♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪
絶唱を歌い上げるセレナ。生まれたばかりのネフィリムは白く巨大な醜い人型になってセレナに対峙する。だがそんな姿のネフィリムに向けてセレナは抱きとめるように手を広げた。
セレナの絶唱はエネルギーベクトルの操作。拡大し、捕食し、暴走するネフィリムのエネルギーを内側に小さく小さく包み込むことで、最後には蛹のように小さく基底状態となった。
………だけど…。
『セレナ!セレナぁ!』
♪Apple
♪リンゴは浮かんだ お空に…
♪リンゴは落っこちた 地べたに…
♪星が生まれて 歌が生まれて
♪ルルアメルは笑った 常しえと…
♪星がキスして 歌が眠って
♪かえるとこはどこでしょう…?
♪かえるとこはどこでしょう…?
♪……リンゴは落っこちた 地べたに…
♪リンゴは浮かんだ お空に…
……絶唱を口にして、血涙を流し吐血しながらセレナは瓦礫のステージで歌い続けた。絶唱のフィードバックで見るからにボロボロの身体で、ギアすらも解除された状態でだ。
…絶唱の衝撃はネフィリムだけに留まらない。ネフィリムが暴れ回り、元々破壊された施設にトドメを刺すように崩壊が始まっている。
『セレナ!誰か!セレナがっ!』
…炎の中、飛び込むこともできない熱波にまだ小さな子供だった私はただ叫ぶしかなかった。
《貴重な実験サンプルが自滅したか…》
《実験だってタダじゃないんだぞ…》
《無能どもめ》
……それでも帰ってきた言葉は、いや発せられた言葉はF.I.S.の人間の愚痴ばかり。感謝も、助けようという気概もないものばかりが耳に入り込む。
……それ以外には…
『よかった…マリア姉さん…』
どこまでもちいさな妹の声だけ。
☆
…………あの後、消火活動が終わるまでセレナが生きているはずもなく、ただ無力感に苛まれながら事後処理が淡々と進んでいった。炎に飛び込もうとした私に降り注ぐ瓦礫からマムが庇ってくれなければ、私も同じ末路を辿っていたかもしれない。
……代わりにマムは足を砕いて車椅子生活になってしまったけれども。
「……ぁ?………ア!」
それでもセレナがF.I.S.に存在する人間を、私達を助けてくれたことは変わらない。だから私も、貴女のように強くなりたいと。誰かを守りたいと思ってこのフロンティア計画に……。
「マリア!」
「……っ。ど、どうしたの?」
「どうしたじゃないデス。お話終わっちゃったデスよ?」
「…何か、心配事?」
「………いいえ、何でもないわ。ごめんなさいね」
「なら、いいけど…」
気づけばフロンティア計画についての大体の話が終了していた。時間はそこまで経っていないけれど、それでも私のミスでみんなを危険に晒すわけにはいかないし後で八幡にでも聞いておこうかしら。
「あたし達はこの後実験だけどマリアもデスか?」
「…ええ、私もそうね。八幡のシンフォギアと並行してってところかしら」
「じゃあ、また後でね」
心配そうにこちらを伺う二人に笑みを浮かべる。二人にとって寝耳に水な計画を伝えられて動揺もまだ残っているだろうに余計な心配をかけてしまったわね。頭を切り替えないと。
手を繋いで出て行く調と切歌を見送りながらドクターと八幡に向き合う。さっきの話し合いから八幡の頭が回るのは分かった。計画が整っているのなら、後は戦力の底上げをして本番に備えるしかないだろう。
「…ドクター、今日は八幡のデータを取るのでしょう?だったら、実際に敵意をぶつけられる人間が相手をした方がいいと思うのだけど」
「……ふむ。もう少しシンフォギア自体を調べたいところですが、まあいいでしょう。昨日調べた限り何故かフォニックゲインを引き下げるような機能が搭載されてること以外は変わらないモノでしたしね」
「フォニックゲインを、減衰?何故そんな事を…」
「それもこれも、纏ったシンフォギアを見てからですよ。さ、シミュレーターを使用しましょう。先に行っておいてください」
「分かったわ。行きましょう、八幡」
「おう」
シミュレーターのある部屋の場所を知らないだろう八幡の前を進む。チラと後ろを見てみれば辺りを見回している八幡。こんな機会にこそ仲良くなるべきなのだろうけど、生憎今はそこまで口が回る気がしなかった。
「……よかったのか?」
「……え?」
話しかけてくるとは思わなくて、つい立ち止まってしまった。それに合わせて八幡も立ち止まる。腐った瞳でこちらを見つめた、と思ったら流れるように逸らされた。もう合わせる気はないという意志を感じる。
「……よかったって、なにが?」
「…まあ、色々。シンフォギア纏うたびにフィーネが復活するんだろ?ならあんまし纏わない方がいいんじゃないのか?」
「…お気遣いどうも。でも大丈夫、自分の体のことくらい分かってるわ」
「…そりゃ結構なことで」
……どうしてもどこかトゲのあるような言い方になってしまう。フィーネの魂が宿っていないから思うように演技が出来ていない自分へのストレスか、それともこれからの大一番に自分が思う以上に恐れているのか。
(…いえ、『思う以上』なんていうのは誤魔化しね)
…そう、いつだって私は恐れている。ネフィリムが暴れた時は震えて大人達を眺めるだけでセレナの前に出ることもできなかった。
…フィーネの器を演じるべき時だというのに、その役になりきれないどころかいつもマムに助けてもらってる。
…他の場所にいた八幡に少しでも早く私達を仲間だと思ってもらいたいのに、私自身がそれから遠ざけるような態度ばかりとっている。
………そんな理想と現実の差異。そんな自分の『弱さ』にいつだって恐れてる。
「……強くならないと」
「…ん、ああ、おう」
…………口に出してしまっていたわね。言及してくるタイプじゃなくてよかった。…いいえ、よくないわ。小さなミスから全てがバレてしまう。私がフィーネの魂を宿していないことは私とマムだけの秘密。
…世界を救うその時まで、私は
「……ここよ」
「ああ。…ここが、シミュレーター?」
「そうよ。ノイズや仮想敵を現実と落とし込む質量を持った投影機。シンフォギア装者が暴れてもそう簡単には壊れない程度には頑丈にできているわ」
「……はぁ。未来技術だなそりゃ」
物珍しそうに白い壁に囲まれたシミュレーター室の中を観察する八幡を尻目に、懐からリンカーを取り出す。シンフォギアに完全に適応することができなかった私達と聖遺物を繋ぐ薬。
(…そういえば、セレナが始まりだったのよね。この力を持つきっかけ…)
幼少の頃レセプターチルドレンとして集められて幾ばくか。体の隅々まで検査された際にセレナにシンフォギアとの適合性が高いことが分かり、全員にパッチテストが行われて適合者……とは到底言い難い私や調と切歌が拾い上げられた。
「……八幡はリンカーは打たないのよね?」
「は?リンカー?」
「これのこと」
……手に持った《LiNKER》。小型の薬銃で薄緑色の液体が収められている。シンフォギアの装者たりえない常人であっても、ある程度の資質、適合係数さえあればその「ある程度」を無理矢理引き上げることで、 後天的適合者へと即席させる効果がある。
私達三人は全員後天的適合者だ。薬頼みの時限式の装者。戦いが長引けばそれだけリンカーが効かなくなり、シンフォギアから拒絶されてバックファイアに焼かれる不良品。
……そんな不良品が、世界を守るために立ち上がろうとしている。悪と罵られようと、正義を貫くために。
「何も言われてないし必要無いと思う。打たなくても纏えるしな」
「……そう」
…そうは言っても何事もなくギアを纏う姿に暗い影が生じてしまうのは、不良品としては仕方のないことなのかもしれないけどね。
ブゥゥゥン
急速に周りの風景が変わっていく。恐らくドクターがシミュレーターを起動したのだろう。市街地のような風景はだだっ広くて模擬戦には御誂え向きだ。
プシュッ
…首にリンカーを打ち込めば鈍痛と共に不思議な全能感が溢れる。胸の歌が自然と浮かび、それを紡ぐことへの隔たりが消えていく。
………歌。セレナを殺した歌、セレナの全てを奪った歌。それを大好きと言えるほど吹っ切れてはいない。それでも今の弱い私を間違いなく強くしてくれる魔法の力。その力に身を任せることに躊躇いはなかった。
『まずは適当に戦ってみてください。思う存分に』
「聞こえたわね八幡。見せてもらうわよ、戦場に吠える貴方の覚悟を!」
「……えぇ…。俺あんま実戦経験ないんだけど…」
「弱気ね……まあ…」
黒いパーツが体を包み、たなびくマントと巨大な槍型のアームドギアを形成する。このシンフォギアの名は……
《烈槍・
「あまりに一方的なら手加減してあげるわ!」
「……そりゃどーも。惚れ直したよ…」
「私に勝てたら考えてあげるわよ!」
アームドギアを構え、振り翳す。
………その瞬間、空気が震えた気がした。
一番の問題はF.I.S.飛ばすと書けなくなりそうなストーリーが出てきそうな…。一期の翼さんみたく…。でも、でもなぁ。今浮かんでるのだけなら二期やりながらでもできそうな気が…気が…。
コインでも投げるか。