やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
『私は……私たちは【フィーネ】!
終わりの名を持つものだ!!』
世界中継に対して堂々と宣言するマリア。その姿を俺は通路の陰から眺めていた。周囲はマリアの「狼狽えるな」との一喝とノイズへの恐怖で随分と静かだ。
「………笑ってると目立つぞ?」
「んん、失礼。ソロモンの杖の使い心地、支配されているノイズ、世界に響く独奏曲。耳を惹かれてしまうのですよ」
「そりゃ結構なことで」
………そんな中で笑い声さえ上げそうなドクターを軽く戒める。といっても聞く耳も持たないだろうが。
ソロモンの杖を片手にメガネをクイクイしてるところを見ると相当ご満悦のようだ。人の身に過ぎた力が自分の手元にあることを喜ぶ子供のようだが、まあ暴発させたりはしないだろう。安易に人を殺したらパニックになってマリアの演説が流されてしまう。
『我々はノイズを操るこの力を持って世界の国家に要求する!……そうだな、手始めに国土の割譲でも求めようか』
………。
「………要求の内容よ…」
「……んふふ。ですがソロモンの杖があればそれだけの影響力を齎せる。今回は虚言ですが、不可能では無いことですよ。世界を救った暁には、テロリストとして国のトップに立つ計画でも立ててみますか?」
「…マリアがトップ、アイドル大統領ってか」
一瞬で世界が核の海で満たされそう。世界の国家がそんな国認めるわけもないだろうし。いやそれすらソロモンの杖が抑止力になるのか。撃った国家にノイズが蔓延るってなればそう安安と攻撃もしてこないって考えで。杖奪われたら消滅する国。
…それよりもインパクト重視の発言はともかく、ここからどうするつもりだ。
「………マム。ネフィリムの起動はどうなってる?」
『…起動に必要なフォニックゲインには到底届いていません。マリアと風鳴翼、風鳴翼と天羽奏。その二つのユニットの差は、我々が考えるより大きかったようですね』
「ならこっから二課の装者と戦闘、そのフォニックゲインで起動を図る流れでいいんだよな。この状況、相手が簡単に手を出してくるとは思えないんだが。装者の正体日本政府は隠してるんだろ?」
『ええ、かつてフィーネとの繋がりがあったからこそ我々は装者の情報を掴んでいますが、それ以外の勢力に対しては秘匿されています。……それでも風鳴翼が観客を見捨てることはないでしょう。例え喉元に刃を突きつけられようと、彼女達は抗うでしょうね』
「………で、観客はその風鳴翼が悪役のマリアと戦うことで盛り上がると。…命かかってるとはいえそのフォニックゲインに期待できんのかね」
フォニックゲインは歌うことで発生するエネルギー、その共鳴。恐怖から逃れるための声援が先ほどのライブ以上のエネルギーを生み出すってのは楽観的な気もしてくる。
……ライブであっさり起動ってのはさすがに甘く見過ぎたか。
「………なあマ…」
『オーディエンスの諸君を解放する!』
「………むー?」
………むむむ?なにがむむむだ。目を話してる隙になんか場面が動き過ぎてる。せっかくのフォニックゲイン発生装置兼人質を無償解放ってのは…。
「……ドクター、聞いてなかったんですがどういう状況です?」
「さあ、さっぱりです。まあ恐らく、観客が気になっていたのは相手だけではなかったのでしょう」
「………あー、そういう」
………まあ、人質とか嫌いそうだもんなマリア。
「………マム」
『……調と切歌を向かわせました。…ですが万一の時は…』
「了解、準備だけしとく」
そっと胸元に触れてギアペンダントの存在を確かめる。もう暫くはドクターの護衛だろうが、相手方と一戦交えることも考えなくちゃな。
「…ドクター、観客の波に飲まれる前に一旦隠れるぞ。こんな時に細かいところまで探したり隠れたりする奴はいないはずだ」
「ええ、そうしましょう。…ああ、彼女達に混ざる時僕のことは気にしなくても大丈夫ですから」
「………そりゃどうも」
☆☆☆
side翼
(……どういうつもりだ?)
舞台衣装を身につけながらも、この心は常在戦場。シンフォギアのペンダントはつけているので直ぐにでも纏うことはできる。だがどういう理由か、マリアが観客の解放を行なっている。実際ノイズは観客を襲うことはなく、誘導に従っていれば誰も死ぬことはないだろう。
………今は動くべきではないということか。
「………帰る場所があるというのは、羨ましいものだな」
「………マリア・カデンツァヴナ・イヴ。貴様はいったい…」
憂いを含む目をしながらも、臨戦態勢を解いていない。此方に意識を向けながらも観客を見据えているマリアの纏うギアは、見紛うことないガングニールだ。
………かつて奏が纏い、今は立花が受け継いでいる力。それをマリアは我が物扱いで纏っている。…騙りか、それとも……。
…襲いかかる好機を今か今かと伺ってはみたがそうもいかないようだ。だが人々を
♪Imyuteus ameno……
聖詠を唱え、ギアを纏えばそれは国家機関に所属している身元を全世界に曝け出すことと同義だ。そうなれば私はもはやアーティストとして活動することは叶わないだろう。
それでもここで指を咥えていればノイズが世界の各地を襲うかもしれない。それを防げるなら、安くはないがくれてやろう。
『待ってください翼さん!』
「…っ、緒川さん?」
………そう思っていたのに、耳につけた通信機からマネージャーであり二課のエージェントである緒川さんの制止がはいってしまう。もはや避難していた観客の姿は無く、戦いの場を整えるなら今しかないというのに。
『今動けば翼さんがシンフォギア装者だと全世界の知るところとなってしまいます』
「…しかし……」
『風鳴翼の歌は!………戦いの歌だけではありません。誰かの傷を癒し、勇気付けるための歌でもあるのです』
「………」
…珍しくも声を荒げるマネージャーに、決めた覚悟をそのままに胸にしまい込む。いつでも歌えるようにはしているが、それでも事態の好転を待ち望むように。
………私だって、軽々しく歌女である自分を捨てたいなどと思っていない。奏と共に歌い、そして自らの片翼で歌うと誓った舞台の幕。世界にすら歌える機会はそう多くはない。
………なにより、私はまだ歌いきってすらいないのだから。
「………ふん。…観客は皆避難した!もう周囲に被害が出ることはない。それでもあなたが歌えないというなら、それはあなたの保身のため」
「………」
「あなたには、その程度の覚悟しかできていないのかしら?」
「………くっ」
気づけば足音も話し声も聞こえない。しかしステージの上部には世界中に放映されているカメラ映像が煌々と輝いている。あの存在がある限りギアを私は纏うことができない。
……だが、いつまでもは相手だって待ってはくれないようだ。
「………ふっ!」
「………っ」
レイピアのようなマイクを武器にシンフォギアの力を持ってマリアが斬りかかる。剣の扱いなら本領を発揮する時だが、此方は生身だ。一振り二振りされるマイクは、その出力によって立派な鈍器と化す。
その一閃を弾き、流し、避ける。
「…はぁあああ!!」
「………ぐっ…」
だが数度捌いたところで、マリアの纏ったマントの一撃を受け半ばからマイクが両断されてしまう。立花と雪音がおそらく向かっているはずなので少しでも時間稼ぎをと思ったが、それも難しそうだ。
……逃げるにももう捌けない。ならば…。
「はぁっ!」
「………ふん!」
バサッと衣装の一部を巻き上げる。華々しく彩られた衣装は見栄えを良くするために些か過剰な装飾を施すものだ。その一部をマリアに切り裂かせることで目眩しと共に、ステージ裏へと駆け出した。
カメラの目があるならそこからその目が届かない場所へ。そこでなら私は歌女から剣へ変われる。
(…よし、この距離なら…ッ!)
シンフォギアの出力をもってしても先に舞台裏に入れる。そんな距離を切り裂く影が飛んでくる。マリアから一直線に此方を狙うもの。
(……マイクッ)
剣のように扱われていたマイクが最後は槍のように足元を狙って放たれていた。だがなんの仕組みもないマイクだ。タイミングを見切り、その軌道に重ならないように宙を跳んだ。
バキッ
(…ヒールがっ…)
…着地の瞬間、まるで支えを放棄するようにヒールがその役目を終えた。普段であれば何の問題も無いはずだった。せいぜいたたらを踏んで、こけることもなければ怪我をすることもなかっただろう。
………だが今のこの状況で、その一歩は致命的だった。
「あなたはまだ、ステージを降りることは許されない!」
「………ぐぁっ!」
腹にマリアの足がめり込む。ステージ裏への道から先ほどまで立っていたステージを更に超えるほどに体が浮き上がった。シンフォギアの力で蹴り込まれた生身は、まるでボールのように観客席という着地点に放り込まれる。
…………その場所には、ノイズがいた。
(……決別だ、歌女であった私)
…………どうやら、限界のようだ。カメラを避けようと、時間を稼ごうと、小細工を凝らしてみたがこの程度。
緒川さんには申し訳ない、誰かを癒す歌と褒めてくれたのに。応援してくれたファンの人達も、協力してくれた人達にも、謝らねばならないな。
…………その人達を守るために、今は歌おう。
「聞くがいい!防人の歌を!」
………さて、どうしたもんか。これ次も原作まんまになるのでは?整合性取れるように飛ばすの難しい。でも自分で原作部分も書くと頭でストーリーが繋がるから安易に消せないジレンマ。
二話の風林火斬めっちゃカッコいいけど小説じゃ書き表せないのでどうしよう悩み。アニメ見て、見て。