やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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………原作、どうしようかな。頭の中で時系列がぐちゃぐちゃになってきた。話を盛るタイミングって難しい。






やはり彼女は知りたがる。

「……全員集まりましたね」

「いやー作戦は大成功です。ネフィリムは覚醒、世界は我々の存在をその身に刻み込まれたことでしょう。表の顔はテロリスト、しかして裏の顔は世界を救いし英雄!英雄たるもの過程すらも輝かしくなくては!」

 

 

はっちゃけぶっちゃけなドクターはともかく、特に追っ手がつくこともなくアジトである廃病院に辿り着くことができた。廃病院といっても電気の確保や聖遺物関連の機械類についてはドクターが事前に反社会的な方々と手を進めていたらしく、しばらく暮らすぶんには問題なさそうだ。

 

 

「……んで、ネフィリムが起動したなら早速フロンティアに向かうのか?」

「おっと焦ってはいけませんよ。起動したとはいえネフィリムはまだ幼体。フロンティアという巨大な聖遺物へのコントロールを行うにはまだ未熟なのです」

「…つまり?」

「当分の間はここに根を張り待機ですね。F.I.S.より持ち出した聖遺物をネフィリムに与え続け、成長を待ちましょう」

 

 

………となると暫くは暇になるのか。シンフォギアは当然纏えないし、目的が目的だけに現状他にやれることもないんだよな。

 

 

「ちなみにどれくらい時間がかかるんだ?」

「……それはまだなんとも。ネフィリムを起動できた過去があるといってもそれは暴走によるもの。歌を媒介とした正しい起動後の資料は揃っていないのですよ」

「……時間かけ過ぎてあっちの奴らにバレないよな?」

「細心の注意は払っています。何はともあれ、今は動く時ではありません。皆さんはリンカーの体内洗浄だけ行って今日は眠りましょう。英雄譚はまだ始まったばかりなのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、さっぱりした」

 

 

電気も水も通っている病院なのでシャワーもある。 マリアと暁、月読はリンカーの体内洗浄があるとのことなので一番風呂みたいなものだろう。風呂ないけど。

 

……それにしてもリンカーを使ってのギア運用とは、見た目以上に大変なようだ。リンカーを使えばシンフォギアの装者たりえない常人であってもある程度適合係数さえあれば、その「ある程度」を無理矢理引き上げることで、 後天的適合者へと即席させる効果があるらしい。

 

だが資質の引き上げ幅が大きいほど人体への負荷も大きく、 被験者は通常、ショック症状に見舞われ昏倒。 適合者を生み出す以前に死者や廃人を大量生産するという、 危険なまでに激しい薬理作用を示すのだそうだ。

 

その為に薬の制限時間や体内洗浄など細心の注意を持って運用しているという。レセプターチルドレンに世界を救ったりとあの三人も随分と厄介な物を背負う運命のようだ。…記憶喪失になって世界壊そうとしてる俺も他人事じゃないんだけどね。

 

 

「……俺の記憶、か」

 

 

記憶というものは自分を作る大事なファクターだ。経験、知識、思考。そんな様々なものが自分を構成している。それをどれほどかは分からないが失っている俺は世間一般からして歪んでいるのだろう。

 

ライブ会場で戦った三人。俺の事を知っていて、しかも友達とまで呼んだ三人。だが昔のいつ彼女らと知り合ったのだろう。「俺たち友達だよな」と言った男子(名前は忘れた)は覚えているが、彼からは荷物を持たされた記憶しかない。

 

………シンフォギア装者三人、そして俺。とんと関わる場面が思いつかぬ。サンドバッグにでもされてたのだろうか。思い出したくねえ…。

 

 

 

トントンっ

 

 

 

 

「……ん?入ってどうぞ」

 

 

くだらない事を考えながら個室で寝転がっていると、扉をノックされる。寝る前にわざわざ部屋に来るなんて緊急の用事だろうか。さすがに初日から場所バレとかは勘弁してほしいんだが。

 

 

 

「お邪魔するデース!」

「……暁、だけか」

「マリアと調はもう少し時間かかるみたいなのでシャワー前の一休みデスよ」

 

 

ほっ、という掛け声と共に暁が俺の寝転んでいるベッドに勢いよく座ってきたので着地点を避けるように場所を開けた。尻が近いんだよはしたない。

 

 

「…それにしても上手くいったデスね!あのトンデモには驚いたデスけども、ネフィリムもお目々ぱっちりデス!」

「お目々ぱっちりの勢いでぱっくり食われないといいけどな。前暴れたらしいし」

「マムが見てくれてるから大丈夫デスよ。ドクターはともかくマムが平気っていってるなら平気デス!」

「……だといいんだけどな」

 

 

寝転がったまま天井を眺めていれば、暁も足をブラブラさせるだけで時間が経っていく。チラチラと此方を見てくるが、生憎と話せる話題もないのでボーッとするだけだ。もうすぐマリアと月読も来るだろうし勝手に出て行くだろう。

 

 

「……ね、八幡。八幡って記憶喪失なんデスよね」

「ん?ああ」

「…………あいつら、八幡のこと知ってるみたいデス」

「みたいだな。名前までバレてるし知り合いだったのかもな」

「……」

「…………?」

「……気に、ならないんデスか?」

 

 

………気になるかならないかと聞かれたら、そりゃあ気になりはする。自分の知らない自分、欠けてしまった自分。それが分かるかもしれないのだから。

 

かと言って絶対に知りたいかと聞かれれば別に、と答えるだろう。覚えている限りが黒歴史な俺だ。新しい黒歴史を教えられても胸が痛くなるだろうし、それこそ「私たち友達だったんだよ!」と感動的に言われてもこっちからしたら「誰だお前」以外の感想もないわけで。

 

 

「……気にならなくもなくもない、くらいだな」

「……っ、でもでも!忘れちゃってること、分かるかも知れないんデスよ!?パパさんとかママさんとか、もしかしたらカッコいいお兄ちゃんとか可愛い妹さんとかいたかも知れないんデスよ!?」

「………もしかしてに縋るよりは目の前の現実なんとかしなきゃだからな。それに知ることと思い出すことは違う。ただ知ったところで実感がなければただの他人だ」

 

 

……むしろ何故暁はそんなことに固執するのだろう。どちらかと言えば二課に知り合いがいた事を問い詰められたりする方を想像してたのに、どうやらこれは暁が求めている言葉ではないみたいだ。

 

気になる、だけではない。心配、だけでもないような。もっと根幹的に尋ねたい事があるように感じる。

 

 

「……なんでわざわざそんなこと聞いてくるんだ?もし俺があいつらの事思い出したとして、あっちに寝返りでもしたら面倒だろ」

「……………それでも。…昔の事ってどうしても気になっちゃうじゃないデスか。覚えてなかったら特に…」

 

 

ブラブラさせていた脚をまとめてベッドの上で体育座りまで始められては何も言えない。そんな暁は虚空を見つめながら普段の明るさを潜めてボソボソと語り始めた。

 

 

「…………あたし、F.I.S.に連れて行かれるまでの記憶がないんデス」

「…………」

「あたしだけじゃなくて、調もちっちゃい頃に事故で色々忘れちゃったりして……。……えへへ、あたし達お揃いさんデスね」

「…嬉しくないお揃いだな」

 

 

そう言って笑いかけてくる顔には影があって、忘れた記憶があるということこそが忘れられないものなのだと訴えかける。

 

……そうか。記憶がなくなった人間はこんな顔をするのか。

 

………むしろ失くした記憶を目の前にしてそっぽを向く俺の方がおかしいのかもしれない。

 

 

「……あたしや調は自分の名前も知らなくて、パパさんとかママさんの顔も覚えてないデス。誕生日だってF.I.S.に来た日につけられたのがそのまんまデス」

「………俺は名前も誕生日も覚えてるし、そこまで重症じゃないんだろ」

「そんなことないデスよ。忘れちゃったって知ってるなら、怖いし不思議だし知りたくなるデス」

「……そんなもんか」

「……そうデスよ。だって………

 

 

 

 

 

 

 

…………あたし達、誰かに愛されてたかもしれないんデスよ?」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「……あたし、今の時間嫌いじゃないデス。大好きな調やマリアやマムと一緒に知らない世界に出られたし、八幡と過ごすのも楽しいデス」

「……」

「…でもちょっと思っちゃうんデスよ。F.I.S.の外、もしかしたらあたしの昔を知ってる人がいるかもしれないって。………例えば、家族とか」

「…………知ってる奴がいたとして、暁はどうするんだ?」

「……わかんねーデス。…うん、だから気になったのかもしれないデスね」

 

 

体育座りからグデッと脱力して、何故か俺の腹に暁の頭が乗せられた。インスタント枕扱いだ。俺が端っこに寄っていたせいか、見事お腹にジャストミート。暁が上半身を大の字にしても問題ない程度には大きいベッドが憎たらしい。

 

 

「……重いんだが」

「失礼な、最近はプニってねーデス」

 

 

頭の重さにプニり具合は関係あるのだろうか?それにまだシャワーを浴びていないはずなのに何処と無く香ってくるいい匂いで脳が麻痺するような感覚に陥る。こんなに女子と近い距離にいた記憶がないのでちょっと……。

 

 

「…………いや目閉じんな、寝るな」

「……やー、八幡のお腹なかなかデスね。筋肉がつききってないやわっこさがなんとも…」

「腹ソムリエ気取んな。いや俺も最近シンフォギアで鍛えられてるし。筋肉ついてきてるし」

 

 

わざとらしく頭に体重をかけてくるので腹に力を入れてやり返したりもしたが、自然とバカらしくなり結局脱力した。月読達はまだだろうか。

 

 

 

 

「……記憶、戻るといいデスね」

「……さあな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………じー」

 

 

 

「「……っ!?」」

 

 

 

 

……壁に耳あり隙間に目あり。…いつからいたのか、部屋の扉を僅かに開けてこちらを覗き見る存在が一人。黒い髪にを揺らしながらこちらをジトーッとした瞳で月読が見つめていた。

 

 

「……切ちゃん、信じてたのに…」

「お、およー?し、調じゃないデスか!もう終わってたんデスね!?」

「……じー」

「お、終わってたなら言ってくれればよかったのにー!さあさ、一緒にシャワー浴びに行くデスよ!レッツゴー、デース!」

「あ、おい…」

 

 

ジトっとした視線に気づいた瞬間暁は弾かれるように飛び上がり、言い訳を垂れ流しながら月読の横を通り過ぎて行きやがった。いや一緒に行けよ。

 

 

「……じー」

「…………」

「……じー」

「……お、俺は無実だ」

「……狭い部屋で二人きり…。何も起きないはずがなく…」

「ない、ないから。むしろ恒常的に一人きりなまであるから」

 

 

実際何もなかったのに暁の言動と月読の目が冷たくて不思議と俺が悪いんじゃないかという錯覚に陥ってくる。というか女子に腹枕させられるとか未体験がどんな評価を下されるのかという点もあって目線が泳ぐ。いや俺悪くない、あいむ無実。無実なホワイトだ。

 

 

「……八幡、記憶の手がかりがつかめてやる気になるのは分かる」

「……いやなってないが…」

「でも、切ちゃんはあげない」

 

 

……ピシャリ、と扉を閉めて行ってしまった。足音も遠ざかり、言い訳のために追いかけるのも情けない。結局そのまま布団に寝転がるしかなかった。

 

 

 

…………。

 

 

 

「……め、めんどくせぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 







最近空気の重い話ばっかりだけど少しでも軽くするのに切ちゃんとてもいい。可愛い。でも重い気もしてくる。

最近Defender'Z Brand!の『人を守るのはいつも、どこまで行っても人だと…』って歌詞が好き過ぎて聴きまくってる。小さい僅かな歌詞が書くものにイメージを与えてくれる感じがします。

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