やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
重い話もそこそこに本編を進めよう(進むとは言ってない)。
最近シンフォギア流してるとこの小説で書いた話思い出して読み返すから需要と供給が自己完結してる。
「……視察?」
ライブ会場で世界へ宣戦布告と言う名の知名度上げを行ってから一週間。ひたすらネフィリムの成長を見守る時間が続いていた。
「ええ。フロンティアはネフィリムと同じくこの計画の要。今一度私の目で視察したいと思っていたのです」
「……フロンティアって封印されてるんだろ?そんなほいほい解かれる封印なのか?」
「もちろんそう軽々とは異変は起こらないでしょう。ですがいざ起動するといった際に不手際があっては事ですから」
そんな中でマムの言い出したフロンティアの視察。視察といっても座標のズレや封印の確認といった外側を見て理解できる程度のデータを取りたいとのことだ。聖遺物に関しては素人なので口を出す気は無いが、俺たちは国に追われて潜伏している身だ。エアキャリアという超常のステルス機があるとはいえ露見の可能性は下げるべきだとは思うが。
「……では留守の間は僕がここを預かりましょう。まだ調べたいこともありますのでね」
「では調と切歌を護衛につけましょうか」
「こちらに荒事の予定はありませんよ。そちらに戦力を集中させるべきでしょう」
「……あー、なら俺が残るわ。最悪場所バレした時は多対一になるだろうから、俺が一番対処しやすいと思う」
「……あまり考えたくはありませんが、お願いしましょう」
観測機、計測器、その他諸々はエアキャリアの中。後はマリアと暁と月読が乗れば準備は完了。飛んで数秒、まるで空気に溶けるように音も姿も透明となり消え去った。
残された俺とドクターはアジトのモニター室で待機だ。いつもはマムがモニターの見張りをしてくれているが、その穴を埋めるように常在することになるだろう。
「……ドクター、二課の資料見せてくれないか?暇つぶしついでに頭に入れときたい」
「ええもちろん。映像もありますのでそちらもどうぞ」
ロクに確認していなかった資料を画面に映し、ついでにライブ会場での映像も流しながら目を走らせる。本来ならとっくに確認すべきだったが、二課の装者が記憶にない知り合いだった事実が邪魔していた。
…主に暁と月読という存在によって。露骨に気にしてくるので資料一つとっても余計な気遣いをさせそうで避けていたのだが、全員留守ならちょうどいい。流し見でもいいから覚えておこう。
「……これが…」
『
『
『
映像を見れば手を繋いだ三人による絶唱、それを一つに重ね合わせた立花響という少女が増殖分裂タイプのノイズを一撃の元吹き飛ばす姿が映し出される。
…あんな一撃を受け止めることも迎撃する事もできないだろう。人に向かってあんなのブッパしてくるとは思いたくないが、戦うことになってもあの三人丸ごとは避けるべきか。
「……にしても、絶唱か」
絶唱。歌唱にて増幅したエネルギーを一気に放出し対象にクリティカルなダメージを与える反面、そのバックファイアはシンフォギアを身に纏い強化された肉体であっても負荷を軽減しきれないほどに絶大という、まさに諸刃の剣といえる奥の手。
シンフォギアの最大攻撃ともいえるシステム。それは俺のシンフォギアにも搭載されているはずだ。だが俺のシンフォギアには聖遺物のカケラはなく、それでも魂に刻まれる哲学兵装である鞘を起動できている。
絶唱は装者と聖遺物の適合係数によってバックファイアを減衰できる。それがこの融合症例立花響のアームドギア、他者と手を繋ぐ事を主とした力で絶唱のバックファイアを抑え込んでいるんだとか。
…………それなら、俺は?ある種魂による融合症例と呼べるのではないだろうか。もしその適合係数がめちゃくちゃ高かったら絶唱歌い放題だったりしないのだろうか。
「……なあドクター。一つ聞いていいか?」
「どうかしましたか?」
「俺の絶唱について分かってることってあるか?」
もちろん絶唱なんて歌ったことないからデータが無いだろうことは理解している。だが何かしらの方向性のようなものはあると思っている。そうでなくてはぶっつけ本番で絶唱を歌う人間はいなくなるだろう。
「……絶唱とは本来その身に纏うシンフォギア、そのアームドギアの延長にあるとされています。君のシンフォギアは敵意による力の増幅、そしてそれらへの抵抗。絶唱を唱えれば自ずとシステムのロックが外れて理解出来るでしょうが、恐らく敵勢力の殲滅を目的とした絶唱になるでしょう」
「………それなら…」
「ですが君は絶唱を口にするべきではないと僕は考えています」
随分と物騒な絶唱なので、最後の切り札にはいいかもと思っていたらドクターストップがかかってしまった。
「……理由は?」
「まだ全てのデータをとれているわけではありませんが、絶唱は装者と聖遺物の適合係数。両者の隔たりが少ないほど負荷を抑えられます」
「ならそれこそ負荷なく使えるんじゃないのか?」
「ええ、バックファイアの心配は少ないでしょう。問題は、君と聖遺物に
カタカタとドクターがボードを操作すると画面にアウフヴァッヘン波形のいくつかの数値が現れる。数値は理解できないが、そのアウフヴァッヘン波形はもはや見慣れた俺のシンフォギアのもの。
「シンフォギアシステムは歌により聖遺物を活性化させ、そして装者の肉体を細胞レベルで変異させます。ですが両者をイコールで結ぶことはできません。しかしあなたの場合は別です」
「…細胞レベルどころか魂レベルでイコールだから?」
「そうですね。そこでもしも絶唱により更に適合率を高めるようなことをすれば…」
「……すれば…?」
…………。
「……推測ですが。鞘はあなたという器と完全に融合し、鞘の聖遺物として顕現。………あなたの全てを食い潰すでしょう」
「……俺自身が鞘になるってことか」
「現在鞘は起動せども不完全状態。ミクロの存在である鞘とマクロの存在であるあなたの関係が成り立っているので問題なく過ごせています。シンフォギアを介することでミクロの存在である鞘の顕現による負荷もない」
「……だけど絶唱をすれば…」
「そのミクロとマクロの関係が入れ替わるでしょう。そうなれば、ただの人であるあなたの存在がどこかに残ることはないでしょうね」
ドクターが少し操作するとアウフヴァッヘン波形が乱れ、ブーっと警告音をあげる。それは絶唱した際に起こる何かを指し示すようで、いやに耳にこびりつくようだ。
「……そんな危険があるならもっと早く教えてくれよ」
「先日の絶唱があってこそですよ。立花響という特異な融合症例に、三つの音を重ねた絶唱。有意義なデータです。まさか測定のためだけに彼女らに絶唱をさせるわけにもいきませんからね」
「……まあ、そりゃな」
本来なら純正な適合者ですら命の危機に陥りうる決戦機能。本来ならそう易々と使えるどころか、目にする機会すらないのだろう。なんにせよ俺は絶唱を歌うことは控えた方が良さそうだ。追い詰められた時にイタチの最後っ屁くらいに考えておこう。
「……そういえばネフィリムはどうなってるんだ?度々暴れるくらいには元気らしいが、成長してるのか?」
「ええ、順調にF.I.S.から拝借した聖遺物を食い散らかしていますよ。天より堕ちた巨人、共喰いすら辞さない先史文明期の遺産。まだまだ先は長そうです」
「…そうか。二課の奴らにバレなきゃいいけどな」
一週間。長いようで短いが、ネフィリムは元々掌に収まるくらいの蛹から人の腰ほどの高さに届くほどに成長している。時間だけで見ればその成長は驚異的だ。
しかしどこまで成長すればいいのか。それに持ち出した聖遺物も少なくはないがこのペースで続けていても間違いなくもう一、二週間ほどで尽きるだろう。巨大化すれば食う量も増えるのは道理、このまま潜伏を続けられるほど甘い状況ではないと思うが…。
「……どうやら噂をすれば影、という奴らしいですね」
「は?何が……っ!」
パッと画面の一つ、アジトの入り口あたりの監視カメラに三人の少女が映り込む。見覚えのある顔だ。
黄色のギア、ガングニールの立花響。青いギア、天羽々斬の風鳴翼。赤いギア、イチイバルの雪音クリス。二課の装者勢揃いで正面突破を図るようだ。何もこのタイミング、俺以外誰もいない時に来なくてもいいだろうに…。
「……チッ、迎撃に向かう」
「待ってください」
急いで立ち上がり三人の元へ向かおうとすれば、ドクターがソロモンの杖を持ったまま立ち塞がった。
「……なんだよ。流石に装者相手にソロモンの杖一本じゃ役者不足だろ」
「………ふふふ。アジトは見つからないのが本筋。ですが見つかった時の対応もまた想定内。ここは僕にお任せください」
「……………」
「おや、信用されていないようで」
「当たり前だ。何も聞かされてない」
むしろこの落ち着き払った態度が鼻に付く。いや俺個人の感情はともかく、相手方三人もの装者相手に此方の装者三人が居ない時の数少ない時間。そんなタイミングで踏み込まれるのは出来すぎているようにすら見える。
偶然ならいい。だがドクターが何かしらの悪巧みをしているなら、内容次第では検挙ものだ。切り捨て御免はできないが、行動の制限くらいはしなくちゃいけなくなる。
「……企み事があるなら言っとけよ?」
「とんでもない。僕はいつでも世界を救う英雄になる為に一生懸命ですよ。不純な考えなど持っていません」
「…それが信用できないんだがな」
「…………侵入者は装者三人のみ、むしろ好機です。下手な銃器や爆発物を使われるよりも余程対応のしようがあるというもの」
ニヤリと笑いながらピッピッとドクターが機械を操作すれば、二課装者の近くからガスのような物が噴出される映像が見える。どんな成分のものかは分からない。だが聖遺物という専門の知識において、ドクターより詳しくない以上どうにもならないか。
「……………はぁ。通信は繋いどけよ」
「ええ、もちろん。僕が時間を稼いでいる間に少しでも荷物を近くに隠しておいてもらえますか?」
「ここいらのデカイのは……置いてくしかないか。重要なのはエアキャリアにあるし。飯と聖遺物、後ネフィリムか」
暴れるネフィリムをエアキャリアの中に入れておくわけにもいかないので当然だが、途中で暴れないことを祈ろう。マムが出かける前に聖遺物食わせていたので大丈夫だとは思うが…。
「いえ、ネフィリムは僕が」
「……あ?」
「そう怖い顔をしないでください。奪われる気はありません。……ただ、今の成長状態を見るべきかと。…いずれ聖遺物のカケラも足りなくなるでしょうし。その時の参考に、ね」
「……………。………下衆いな」
「………ふふ。さ、会話も程々に。失礼しますよ」
歩調にも乱れなくゆったりと出て行くドクターを見つめながら溜息を吐く。
……いや、むしろアレくらいイかれてる方がちょうどいいのかもしれない。世界を相手に救うにしろ壊すにしろ、常人のメンタルには荷が重い。豆腐メンタルな俺とかぺちゃんこになりそうだ。
…だけどそれらを差し置いてあの左巻きな脳味噌を回し続けられるのなら、ドクターの道は俺の望むものに最も適しているのかもしれない。
XDUの曲も歌わせたいけどまだ全部履修出来ていない事実が襲いかかる…。真面目風な曲を自分の小説と混じり合わせていく作業中々楽しいから踏破しないと…。