やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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FGOイベント連チャンなんて聞いてない…。

今回の話こんなに早くやる予定なかったんだけど、あまりにいい場所過ぎて突っ込んじゃった。

……まあフィーリングで読める場所だけ読めばいいと思います!







虹、風、時間、太陽………

バシッ!

 

 

「…ぐっ」

「ヘマ打ちやがって。アジトを失ったら、計画遂行までどこで身を隠せばいいんデスか!」

 

 

二課との接触から逃走を果たし、エアキャリアの内部では剣呑な空気が漂っていた。拠点の準備や隠匿を担当しているドクターを暁が引っ叩き、静かだった室内に壁に叩きつけられた音が響く。

 

 

「お辞めなさい。そんなことをしても、何も変わらないのだから」

「胸糞悪いデス」

「……ま、遠からずバレてたなら一週間しっかり身を隠せたのは御の字か」

 

 

今回も奇襲ではあったが対応できる奇襲だった。ギアを纏わずの突入を見るに、100%の確信を持っての突撃ではなかったのだろう。情報共有でマム達は黄色の装者とやりあったとのことだが、マリアはアームドギアを手折られ俺は青色の装者に完敗。暁と月読を控えさせていたとはいえ手傷を負わずに撤退できたのは幸いだ。

 

 

「……驚きましたよ、謝罪の機会すらくれないのですか?」

「んにゃっ!」

 

 

悪びれた様子のないドクターに暁が吠えるが、それで態度を改めるような人間ではないだろう。しかし実際ヘリごと潜伏できて二課、果ては米国政府の追っ手を躱し続けられるような良物件は早々ないだろう。その点に関してはやはりアジトを失ったのは痛手だ。

 

 

「…ネフィリムを死守できたのはもっけの幸い。しかしこちらのアドバンテージもどこまで持つか…」

「一応持てる分だけは持ち出したが聖遺物のカケラも微々たる量だしな。あの量じゃネフィリムの成長には足りないと思うんだが」

 

 

缶詰やカケラ達は近くに隠しておきドクターの回収と同じ方法で持ち込めたが、大食いネフィリムに与える量にしてはもはや足りない程だ。

 

…回収の際に鞘をぶつけたのでいくつか壊れたりもしたが、まあ仕方ない。

 

 

「まさしく。アジトは失えど、我々の保有する聖遺物のカケラも残りわずか。いずれ調達しなければならない課題でした」

「何か考えがあるという事かしら?」

「考えなんて程のものじゃありませんよ。今時聖遺物のカケラなんて、その辺にゴロゴロ転がっています」

「……ま、実際その聖遺物のカケラと戦ってきたばっかりだしな」

「……!二課シンフォギア装者のペンダント」

 

 

月読の気付きに納得の色が広がる。二課のギアペンダントをネフィリムに食わせることができれば、相手の戦力の喪失に加えてかなりのエネルギー補給を期待できるだろう。

 

……ドクターがペンダントで済ませるほど温厚には思えないが。シンフォギアは歌うことで聖遺物のカケラを活性化させる。つまり起動状態の方が発生しているエネルギーは高いはずだ。今回の一件でネフィリムを一度装者に当てたのは、食事の前準備のように見えた。

 

そんな視点で見ると、やはりドクターは変わらずドクターで。どこまでも自分の野望のために策を練っているのだろう。誰かの苦しみ度外視で大事なのは自分オンリー。そういう点では信頼できるのが悲しいところだ。

 

 

「……彼女達のペンダント、ね。それなら私が…」

「それはダメデス!」

「……絶対ダメ。マリアがギアを纏うたびに、マリアの中のフィーネが目覚めてしまう」

「マリアを守るのがあたし達の戦いデス!」

「……うん。だから、ペンダントは私達が奪ってみせる」

「…二人とも」

 

 

……三人が繰り広げる話を聴きながら少し考える。実際マリアの中のフィーネの侵食具合はどのくらいなのだろうか。F.I.S.での訓練に、ライブ会場、先程の二課との戦闘。俺の知る限りはこのくらいか。

 

…たった三度とはいえ自分が塗り潰されるかもしれない状態で随分と軽率にも見える。それにしてはフィーネの復活の予兆のようなものが全く見られないのも気になるところだ。突然フィーネに成り代わられては堪らないのだが、それにしてはマムが止める様子も見られない。

 

…………ああほんと、きな臭い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「……秋桜祭?」

「デース!開催場所はなんとリディアン音楽院!あいつらが通ってる学校が一般開放されるんデス!これはもうチャンスとしか言えないデスよ!」

 

 

太陽が晴れ渡る真昼間。見慣れない商店街を歩きながらチラシを見せびらかす暁が楽しそうにステップを踏む。

 

今俺と暁は飯の買い出しに来ていた。あれからステルス機能によって気付かれずに前のアジトから少し離れた廃墟に居を構えることができた。しかしそこでは飯の搬入などないので食事は基本スーパーへの買い出しを月読が軽くアレンジする程度の物だ。

 

調理器具が充実していないこともあるが、なにより大人組の偏食が酷い。ドクターは甘いお菓子しか口にしないし、マムは肉しか食わない。他の四人はトマト嫌いガチ勢(俺とマリア)を除けば基本何でも食べるのでコンロで焼ければオーケーの雰囲気がある。あまり金を使いまくるわけにもいかないしな。

 

まあそんなわけで買い出しは基本俺と月読と暁の三人がローテーションで行なっている。流石に世界に宣戦布告した歌姫を外出させるのは、危険過ぎるとの判断だ。

 

………それにしても秋桜祭、文化祭のようなものだろうか。学校行事のようなので二課の罠を警戒する必要は少ない。だが装者三人が所属している学校なので地の利は向こうにあり、全員顔も割れている。それ以前に装者が学祭とはいえペンダントをこんな有事真っ盛りの時に外すとは考え辛い。その方法も考えてあるというなら何も言うことはないのだが…。

 

 

「……………」

「……???」

「……はぁ」

「溜息!?」

 

 

無邪気に首をかしげるだけで何も考えていないのは目に見えているわけで。しかしさらに言えば案自体は良いと思う。不可能だという点を除けばよぉ〜〜〜。

 

実際その方法で潜入できるのは暁と月読の二人。マリアと俺は論外。主に人気と不人気の理由で。女子校に目の腐った男がいたら間違いなく目立つ。一人で行動すれば不審者で、三人で行動すれば不審者だ。どちらにせよ職員室か二課に見つかってご破算なのは目に見えていよう。

 

 

「……ペンダントの強奪。暁と月読の二人じゃ単純に厳しいだろ」

「二人?八幡は行かないんですか?」

「いや行けるかよ、女子校だぞ」

「お祭りに男女なんて関係ないデスよ!…それとも、他に行きたくない理由があるんデスか…?」

「そりゃあ、あるだろ」

 

 

単純に捕まりたくないし。二課どころか一般人すらデンジャーだ。相手が二課だけなら連れ立っていくのもいいが、余計な波風を起こすよりはむしろ二人の方が良いと思う。

 

……しかし俺の反応を暁はお気に召さないようで、何故か暗い顔を浮かべた。

 

 

「……それって、あいつらがいるからデスか?」

「ん?まあ、それもあるが…」

「…やっぱり……やっぱり八幡は。……普通の生活の方が、いい、デスか?」

「……暁、お前何言って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーピチャンーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様子のおかしい暁を問い質そうとした瞬間、頬を一筋の水飛沫が飛び跳ねた。

 

 

「……雨?」

「…え、でもこんなに晴れて…」

 

 

上を向けば太陽が世界を見下ろして煌々と輝き続けている。なのに俺たちの身体に落ちる雨粒は増え続け、追従するリア充達を思わせるような勢いで辺り一面に降り注ぎ始めた。

 

 

「やっべー!ザーザー降りデスよ!ほら八幡、ぼーっとしてないでどこかに雨宿りするデスよ!」

「ちょっ…」

 

 

上を見上げていたら急に手を引かれてバランスを崩しかける。体勢を整えれば暁に手を握られてお目当らしい店先の屋根の下、昼間なのにシャッターを締め切った誰もいない場所に飛び込んだ。

 

 

「ひゃー、濡れたデス…」

「天気雨ってやつだな。………で、手」

「……?」

「いや、手。もう繋ぐ必要ないだろ」

「あはは、調との癖でつい繋いじゃったデスよ」

 

 

それだけ言って、離すどころかむしろ少し強めに手を握られる。手を引こうとすればその分強く握られて、抵抗を辞めれば元に戻る。浮かべる表情は困ったような微妙な笑顔。先程からずっとだ。

 

……無意味な抵抗として繋がれていない方の手汗を拭く。何の意味もない。っべー、女の子と手を繋ぐって緊張する。こっちの汗ふいてもあっちの汗拭けてないんだよな…。

 

 

「……八幡は、あたし達の仲間、デスよね?」

「……?」

「…もし。もし、デスよ?……あたし達の仲間から抜けられたら、どうするデスか?」

「…何が言いたいんだよ」

「………だ、だから。…元の場所に戻れたら…。あたし達から抜けても誰も恨まなくて、あたし達のことも全部忘れちゃって!……それで【普通】に戻れたら………」

 

 

詰まるような、咳き込むような話し方で、俯きながら必死に言葉を捻り出そうとする。

 

……そして、顔を上げた表情は…。

 

 

 

 

 

 

「……八幡は、どうしますか?」

 

 

 

 

 

 

………こちらの胸が痛くなりそうな程の、笑顔だった。

 

 

「…急にどうしたんだよ」

「………」

 

 

……暁は笑って、口をモゴモゴさせて、その笑顔のまま晴天の雨空を見上げた。まだまだ雨の勢いは弱まらず、叩きつける雨は地面に跳ねて靴を濡らす。

 

そんな雨に向けて手を伸ばす暁。雨が当たるか当たらないかの境界線まで伸ばし、その伸ばした指先を雨粒が跳ねたところでその手を握りしめた。

 

 

「……あたし、雨って数えるくらいしか見たことないんデス」

「……雨?」

「F.I.S.にいた頃は外出なんて全然できないし、痛い実験とかも沢山あってそんなの気にならなかったデス。でも…」

 

 

暁は握り込んだ手を再び伸ばして、今度は雨の境界線を踏み越える。その手を拒絶するように降り注ぐ雨は容赦なく暁の手を濡らし、その軌跡だけを残して地面に落ちていく。身勝手で当たり前の自然現象を、暁は愛おしそうに眺めていた。

 

 

 

「……雨、冷たいデスね」

「…………」

「10年以上あそこにいたから、みんなみんな新鮮デス。……でも、八幡はそうじゃないんデスよね」

「…………」

「あいつら、八幡のこと探してましたよね。…たぶん嘘とかじゃなくて、本気で。ルナアタックの日に行方不明とか、ほんとにちょっと前じゃないデスか……」

「……だから、何が言いたいんだよ」

 

 

……少しだけ強く言い返す。そして握られている手を、少しだけ握り返す。雨に手を伸ばし続ける暁が、このまま雨の中に走り出しそうで。それが不思議と、とても怖く感じたからだ。

 

 

 

「……帰る場所が、帰れる場所があるなら。……帰った方が幸せなんじゃないかって、思っちゃったんデス」

 

 

 

……ボタッ!と、一つ大きな水滴が落ちた音が耳に響く。

 

帰る気はないとか、世界を救わないととか、そんな言葉を言うべきだったのだと思う。なのに口から出そうとする言葉は纏まらなくて、自然と沈黙が周囲を満たしていく。

 

何を言えばいいか分からないままいると、暁は手を伸ばし続けるのに疲れたのか雨晒しだった手を引っ込めてパッパと水を払い服で拭った。

 

……その後はただ手を繋ぎながら雨宿りをする男女が立ち尽くすだけ。どちらも暗い顔でムードもへったくれもありゃしない。それでも沈黙に耐えられないのか、チラチラこちらを見ながら暁から口を開いた。

 

 

「……えと、デスね。別に八幡が邪魔とか、そういうのは全然ないんデスよ!?この事も別にマムにもマリアにも調にも、もちろんドクターなんかにも話してないデス!ただえっと、えとデスね…」

「………」

 

 

わちゃわちゃと身振り手振りで必死に何かを伝えようとする。そこに嘘を嵌め込めるほどの余裕が無くて、相手を貶めるような見下しが無くて、どれもこれも今まで見たことがない。

 

その姿を横目で見ていると、狙い澄ましたようなタイミングで太陽の光が目を刺した。

 

 

「……まっぶ…」

「どうしたんデス……って、およー!?」

 

 

突如奇声を上げた暁が今目を刺してきた太陽の方角を見上げていた。太陽を手で遮り、同じように見上げれば…。

 

…ああなるほど、随分と綺麗に現れていた。

 

 

 

「虹デース!!」

 

 

 

街を横断するような巨大な虹がくっきりと空に橋をかけていた。それを際立てるような雨は太陽の光を受けて先程よりも輝かしく光り、雨粒の一滴一滴を目で追えるような錯覚すら覚える。もはや水滴ではなく泡でも空に浮いていて、弾けているかのようだ。

 

 

「虹なんてあたし初めて見たデスよ!ピーカンの空にシュワシュワな噴水のシャワーの贅沢さ!すごくすっごく綺麗デス!」

 

 

その感動を独特な言葉で表しながらテンションを上げる暁につい苦笑してしまう。そのテンションに釣られるように、雨の勢いが目に見えて小さくなっていく。雨を運び去る風が髪を靡けば、雨の匂いを包んで鼻をくすぐった。

 

 

「……ん〜〜!もう待ちきれないデス!八幡、行くデスよ!」

「は!?いやまだ小降りだけど雨が…」

「こんないい天気なのに屋根の下に閉じこもってるなんて勿体無いデス!」

 

 

その風に背中でも押されたのか、俺の手を掴んだまま店先から暁が走り出して行く。そうなると当然俺も引っ張られるわけで。またもバランスを崩しかけて恨めしげに暁を見れば、今度はなんとまあムカつくくらいにいい笑顔で振り返りやがった。

 

 

「ね、八幡。あたし分かっちゃったデス。さっきなんであんなこと言ったのか」

「はぁ?」

「あたしは今が、初めて見る外が、こんな世界が大好きなんデスよ!」

「…………はぁ!?」

「あんなに綺麗な()も!こんなくすぐったい()も!こうやってる()()も!眩しいくらいの()()もデス!

 

 

 

………それに…」

 

 

ギュッと、握られた手が改めて繋ぎ直される。

 

 

 

 

 

「………あたしはみんなみんな、大好きデス!」

 

 

「………意味、わかんねぇ…」

 

 

 

 

 

 

……………ホント、意味わかんねえ。

 

 

 

 





切ちゃんの心情伝わりきらない自信があるので解説でもしようかと思ったけど、辞めときます。好きに読もう。

八幡に少しずつ踏み込んでる感じで書いていきたい所存デス。ていうか切ちゃんヒロインムーブ似合い過ぎて困る困らない。

作者が愉悦感じたいので書いとくと、別に八幡を異性的な意味で好きなわけじゃないぞよ(愉悦スマイル)



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