やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
リスペクトするからギャグと戦闘とシリアスを書く才能が欲しいです。
「………疲れた」
「ただいまデース!」
「おかえり、切ちゃん。わ、びしょびしょ…」
「虹さんにやられちゃったデス!」
「……虹に?」
袋二つ分の食料を買い込み、人目を気にしながら新しいアジトに戻る。結局あの後雨はすぐにやんだのでそれ以上濡れることはなかったが、それ以前の水が蒸発するわけでもなく随分と服に雨水を溜めてしまっていた。
それを気にすることなく暁は月読と話しながら食料を取り分けていく。まああっち側は生ものや日持ちしないものが多いので、エアキャリアの冷蔵室に早く運ぶべきだろう。
逆にこっちはお菓子や常温保存系なので、直射日光を避けられる場所に置いておけば問題ないだろう。
「………っと、これどうすっかな」
袋を漁っていると、少しふやけた紙が出てきた。暁が貰ってきた『秋桜祭』の広告だ。
暁は虹に記憶を奪われてしまったらしいが、これはこれで間違いなく選択肢と言えるものだ。隠れながらひたすら受動的に動くか、それとも能動的に動くか。選択肢が存在するかしないかでは大きく異なる。
実際昨日までは何も動く事のできない、つまりは選択肢が無い状態だった。それを打開する方法があると言われれば魅力的に見える。しかし一歩間違えれば相手の胃袋に飛び込む夏の虫だ。
「………まぁ、とりあえず相談してみるか」
生活環境がエアキャリア内部にしか存在しないアジトだ。見回して見当たらないなら大体の居場所が把握できるまであるので、恐らく三人とも同じ場所にいる事だろう。買ってきたばかりの甘い菓子類をいくつか持って少し歩けば、やはり三人とも同じ部屋で各々の行動を取っていた。
画面に向かってひたすらコマンドを打ち続けて理解不能な研究なのか調査なのかをしているドクターに、ネフィリムの画面を映して前よりさらにデカくなった姿を観察するマム、椅子に座って目を閉じているマリア。全員静かだ。
「買い出しから帰った。ん、差し入れ」
「おや、これはどうも」
「…貴方濡れネズミじゃない。風邪を引かれても困るし早くシャワー浴びてきなさいな」
ドクターにお菓子を渡していると寝ているのかもと思ったマリアに普通に心配されてしまった。ていうか言い方が暁や月読に対する物言いに似てるせいような。ついにママリア出現の時だったか。
「うちに体調管理を怠る人を養う余裕はないのよ?」
「ガチのお母さんっぽさ出すの辞めようか」
本気の困り顔だった。ニートの息子を見て将来大丈夫かな、みたいなリアル趣向な目線が突き刺さる。実際アジトを失った俺たちは残りの資産を食い潰して生きている極貧生活だ。秋入りたてで夜も冷えるというのに暖房もつけないで節約している程に。現実は辛い。
なんにせよ別の意味でむず痒い視線から逃げるように話題の本命を取り出した。
「買い物途中で暁がこんなの持ってきてな。意見を聞きにきた」
「………これは、広告?」
一目見てわかるくらい堂々とお祭りの名前が書いてあるので大体は察してくれるだろう。マリアとひと段落したのか此方へ目を向けるマムが読み終わるのを待とうとすると、マムに広告を渡したマリアがタオルを持ってきてくれた。多少長丁場になると思われたのだろうか…。
「………母ちゃんか」
「……哀愁じゃなくバカにしてるわよね!?」
最終的にはタオル投げつけられた。いやありがたく使わせてもらうけども。さりげない気遣いの仕方が完全に母親的なものだったので、ついつい口から漏れてしまった。反省。
「数日後にリディアン音楽院、二課の装者が通ってる学校で文化祭があるらしい。一般公開もされるらしいから暁達を送り込んでなにかしらできないかと思ってな」
「何かしらって……随分軽率な物言いじゃない」
「まあ絶対に行くべきなわけじゃないしな。ただ、個人的には向かわせていいと思ってる」
暁に振り回されながらも一応はこの機会について考えていた。暁と月読の二人、最悪の事態で俺を含めた三人。敵の本拠地である場所への侵入について。
「………その理由は?」
「一番の理由は、俺たちに全くと言っていいほど打つ手がないことだな。待って耐えて退いて、最終的にネフィリムが暴走してたら世話がない。ならある程度のリスクがあっても機会を狙うべきだと思う」
「………それは、そうだけど…」
「それに学祭だしな。一般人のいるところでギアでバトルなんて起こらない、というか向こう側が起こさないだろ。兵器としての殺傷性はシンフォギアなんてノイズ以上だしな」
二課は世界で唯一ノイズに対抗する手段を持つシンフォギアの所持組織。しかし結局は国の機関だ。学生の親族が訪れ、映像機器や不特定多数の視線に晒されることは嫌うはず。そして装者そのものが相対した限りお人好しだ。周りを巻き込むことを良しとしないだろう。
「………」
「………(それにあいつらのやる気の出しどころにもなる。お前を戦線に出さずにペンダントを手に入れるって張り切ってたろ。いい機会じゃねえか)」
「……っ、そうね。あの二人ならきっと上手くやってくれるわ。ペンダントが手に入らなくても、無事に帰って来てさえくれれば十分よね」
「………」
…………まあ、捕まる可能性も0ではない以上なんとも言えないがな。だがそれでも最低限だ。実際暁と月読、さらに言えば俺もそうだが二課に捕らえられたとしても計画的にはなんら問題が生じることはない。
フロンティアを浮上させるのに必要なのはあくまで『ネフィリム』と『神獣鏡』であって、『獄鎌・イガリマ』でも『鏖鋸・シュルシャガナ』でも『秘剣・エクスカリバー』でもない。
マリアはフィーネの記憶やらが必要かもしれない程度。一番守る必要のある聖遺物の知識を持つマムとドクターさえ自由なら、フロンティア計画が揺らぐことはないのだ。
………やっぱ俺もついていくべきかな。最悪俺のペンダントここに置いていって視察、失敗したらネフィリムの餌にすれば計画は進みそうだし。でもそれならやはり二人に行かせた方が余計な足手まといを作る必要もなくていいか。捕まった時に一人分装者が減るのは十分痛手だし。
「………マムとドクターはどう思う?」
「………そうですね。手をこまねいていたのも事実。あの子達が奇をてらって成果を出してくれるかもしれませんしね」
「僕もいいと思いますよ?回りくどい方法にも思えますがね」
マムは結構熟考していたようだが、ドクターに至っては興味薄げに渡したお菓子をぱくついていた。ドクターに限っちゃペンダントを食べさせるより装者そのものを喰わせた方が早いだろとしか考えてなさそうなのが怖い。
実際ネフィリムの餌の調達は急務のはずだ。しかしドクターはそれについて焦る様子を見せていない。フロンティア計画に対して先を見通しながら緻密に計画を立てるような人だ、無計画なのを隠しているわけじゃないだろう。
そうなると餌の目星をつけていて、その解決法すら見つけていると考えるならば。やはり前回アジトを襲撃された時にネフィリムを二課の装者と戦わせた事から、成長したネフィリムをもう一度装者に当てがおうとしてるとしか思えないわけで。
………あんま気分の良い話ではないので、正直あの二人には期待したいところだ。人が化け物に食われる瞬間とかリアルでは見たくないタイプの惨事だし。いやマジで。
「………それよりも、貴方の方はどうなんですか?」
「………どう、とは?」
「記憶にない友人の叫びを聞いたのでしょう?それに心を奪われ、あちらについてしまうのではと」
「あんたもかよ…」
暁にも問われた質問に改めて嘆息する。まあドクターのは暁のような可愛い質問ではなく、明確な可能性として湧き上がる疑心によるものだろうが。
……むしろその方が答えやすくて助かるけどな。暁のような善意を混ぜた問いは、むしろ冷静に対処できなくなるので勘弁願いたいところだった。
「俺はあっちに戻る気はねえよ」
…そしてその質問にだったら、俺は平然と答えられる。
「………」
「……ほう?」
面白そうに聞き返すドクターに、多少気になるのか視線を向けてくるマリア。そんな視線を受けながら、補足するように続ける。
「………例えば、だ。少し前まで俺が二課側にいて、あいつらと一緒に正義のヒーローの下っ端やってたとしよう」
「例えでも下っ端なのね…」
「…ま、仮でもなく真実だったとしたら尚更だ。戻れるわけがない」
……正直記憶がとか、元々の友達がとか、そんなポジティブに考えていたわけじゃない。むしろネガティブにマイナスに、逃げ場を無くすことで楽になろうとしていたくらいだ。
そして現在、逃げ場もなく寝返ることもない俺が完成している。
「F.I.S.を人ごと、丸ごと吹っ飛ばしたんだ。血に穢れてる奴が戻れる場所でもないだろ?」
……そう、F.I.S.を飛び出したあの日から。爆弾を施設に仕掛けたあの日から、直接でなくとも血に穢れたあの日から、もはや後戻りとかそんな綺麗事からは足を洗っている。
…後悔も、恐怖もある。もしかしたら俺の仕掛けた爆弾では誰も死ななかったかもしれないという逃避は浮かぶし、殺されかけた研究員が俺の頭に狙いをつけているかもしれないという怖気が走りもする。
だけどどれだけ悩み苦しもうと過去は変わらない。逃げ場も帰る場所も、平和な場所には存在できないんだ。
「………まぁそれでも疑うなら監視でもなんでも…」
「待ちなさい。…今の、どういうこと?」
…監視でもなんでも付けろと言おうとしたところをマリアに遮られる。その表情は驚きに満ちていて、信じられないものを見るような目で俺を見つめていた。
「どういうって?」
「今の!F.I.S.を吹っ飛ばしたって…」
「言葉の通りの意味ですよ。F.I.S.を出立する際、我々では時間の都合上仕掛けられない場所に彼に手伝ってもらったのです。あんな怪しいものを何日も放置してはもらえませんからね」
「………っ!何故その役目を八幡に!?仕掛けるだけなら私でもよかったでしょう!?」
よく分からない糾弾をドクターにぶつけるマリア。俺を庇おうとしている、ように見える。だがそれにしては随分と不可解だ。
F.I.S.にいた時、鞘を構えて対峙したあの日。それ以降マリアは俺に必要以上絡んで来なかったし、多少なりとも悪感情に近いものも向けられていた自覚がある。
……だから今。その糾弾の先にある感情が、隠し通された意思が僅かに顔を覗かせている気がした。
「別に問題はないでしょう。結果は変わりなく、誰がやっても変わらなかったじゃないですか」
「だとしてもよ!F.I.S.に来たばかりで何を間違うか…!」
………まあ、いいか。口論を始めてしまったマリアとドクターを眺めていたが、どうやら本人を蚊帳の外において暫く続きそうだ。
「………へっくしゅ!」
…あ、やば。いい加減身体が本格的に冷えてきた。広告についても話したし、裏切らない意思表示も示した。これ以上疑うならその対策はドクターやマムが取るべきなので俺にこれ以上ここに残る意味はないだろう。
マリアに渡されたタオル一枚ではやはり限界なのでおとなしくシャワーを浴びに行こう。ついでに途中で買った温かいマックスコーヒーの缶を開ける。こんな生活の僅かな楽しみくらい一人で楽しんでもいいだろう。
缶を傾けて喉に通す。猫舌には少し厳しいくらいの熱と、脳が溶けるような甘さ。随分と久々に飲んだ好物に喉を鳴らす。着替えを持ってシャワー室に持ち込んでおけば、一汗流したころにはちょうどいい温度になっていることだろう。そして風呂上がりに一杯マックスコーヒー。これが最高に効くんだよなぁ。
「あ」
「およ?」
……………扉を開けたら、思いっきり着替え中だった。
既にシャワーを浴び終わったのか髪の毛まで濡れた金髪を揺らし、薄いライムグリーンの下着を露わにしている。未だに暁は事態についていけていないのか、ぽけっと前を隠すこともなくこちらを見つめていた。
「………じー」
…何かの起動音かと思ったら月読もいた。思いっきり着替え中だった。
薄ピンク色のネグリジェを着ている、ように見えてそれで前を隠しているだけ。隠しきれていない場所から白い下着と肌が晒され、責め立てるようにこちらを睨みつけていた。
「………ふん!」
ゴッと音を立てて俺の顔面に洗濯籠がフルスイングされた。
………俺にもこんな青春ラブコメみたいな事もあるんだ。だけどラブコメの神様よ、たぶん頑張りどころはここじゃないよ。ぐふっ。
……きりしらの着替えに遭遇できたらこの世に未練とかもうないのでは?
今思い返すとシンフォギア風呂シーン多かったなぁ。全期あったような、GXが思い出せない…。