やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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…歌が良すぎる。書いてる途中その曲無限ループするけど歌われながら心象書くと泣いてしまう。


あたしの帰る場所

side………

 

 

 

 

文化祭。学生からしたら一年に一度の大行事。だるいめんどいと言いつつも授業の時間が準備時間に当てられる事に喜び、やる気のある者は出し物の練習や準備に精を出し。部活動ごとにもある展示、出店の品決めと大忙しだ。

 

しかしそれらは学校外の衆目には晒されない。学外の親や友人達はその集大成のみを楽しみに訪れる。彩られたアーチをくぐれば人の雑踏と元気な生徒達の声、チラシにポスター、美味しそうな屋台が出迎える。

 

体育館や教室に場所を移せば普段なら生徒達が教科書とにらめっこをしている筈の空間はなく、お化け屋敷や遊戯が設置されている。ステージの上では演目や演奏と途切れることはない。

 

学校によって開催期間は違う。一日か、二日か、三日か。なんにせよ文化祭には魔法がかけられている。チープな出店も、稚拙な展示も関係なく楽しめる魔法。

 

そしてここにも………。

 

 

「調!あっちにも美味しい物があるみたいデスよ!教室は混むらしいので急ぐデス!」

「待ってよ切ちゃん」

 

 

祭りの熱に浮かされた子供が二人…。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「やー流石はリディアン!音楽系の出し物のレベル高いですね!」

「あんまうろちょろし過ぎんなよ。ただでさえそそっかしいんだから」

「いや今のお義姉ちゃんに言われたくないんだけど…」

 

 

学生なので一般来場者よりも早く登校していたクリスと合流した小町は、予定通りにクリスと回れる嬉しさと…

 

………かつての兄のような挙動不審さに目を細めていた。

 

 

「………なに、どしたの?クラスの展示壊しちゃったとかだったら小町も付いて行ってあげるからちゃんとごめんなさいしよ?」

「ちっげえよ!てか今のあたしは怒られるのが怖くてビクビクしてるように見えんのかよ!?」

「いや結構見えるよ、キョロキョロしながら姿勢低くして隠れたりしてたら。元々身長低いんだしわざわざ隠れなくても見つからないんじゃ…」

「……ほーう、随分口が回るようになったじゃねえか。あたしゃ嬉しいぜ」

「いひゃいひひゃい…」

 

 

生意気な妹分の口を引っ張り伸ばした後、急にクリスは神妙な顔を浮かべた。そして再び周囲を見回し、自身の安全を確認する。何かに怯えるような姿に心配になったのか、小町も少し身をかがめて声のトーンを抑えながら問いかける。

 

 

「……で、本当にどうしたの?帰る?」

「いや帰らねえけどよ。すげえ自然に帰宅を提案したなお前」

 

 

ジトっとした視線を受けて笑いながら視線を逸らす。あまり参考にしてはいけない部分が想起されてしまったようだ。そんな小町にやれやれと溜息をつきながら、クリスは真剣な表情を浮かべた。

 

 

「………今朝からずっとだ。すぐに逃げたけど、何度も見かけた。それに確実に包囲網が縮まってる。もしかしたらもうすぐそこまで…」

 

『雪音さーん!』

 

「………っ!き、来た!小町、盾!」

「なんと!?」

 

 

すぐ近くから聞こえてくる声に過敏に反応したクリスが、自分と声の間に小町を挟むような位置どりをしつつ背に隠れる。下手人が近くにいるようで、繰り返し呼ぶ声の発生源をキョロキョロしながら見出した。

 

……ただのリディアンの学生だった。しかも一人ではなく三人、クリスを呼びながら辺りを見回して探している。それも怒りなどの表情でもなく、どちらかというと悲しそうな表情で。探し人未だ来ずと。

 

 

「………お義姉ちゃんなにしたのさ」

「…なんもしてねえよ。むしろされてる側な」

「というと?」

「………あいつらはクラスメートなんだよ。なんでかあたしを秋桜祭のステージで歌わせようとしてきやがるんだ。付き合ってられるか」

「なるほど…」

 

 

どうやらこの姉はクラスの人達とのコミュニケーションが円滑とは言えないらしい。それでもあの人達はお義姉ちゃんに手をさし伸ばしている。

 

ステージで歌を歌わせようとしている。お義姉ちゃんはまるで罰ゲームのような言葉で言うけれど、嫌いな人間を祀り上げる為に必死になってくれる人はいない。声を上げて走り回って探してくれる人達がいるのは、とても良いことだ。

 

……ポクポクチーン。……ヨシッ!

 

 

「…あ、お義姉ちゃんそのまま」

「あ?なんだよ……!?」

 

 

反転し、背中に隠れていたお義姉ちゃんを自分の胸に飛び噛ませるように抱きしめる。急な出来事に顔を真っ赤にして見上げてくるお義姉ちゃんに笑いかけながら、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪音クリスさんはここですよー!!」

 

 

 

 

 

「やりやがったな!?」

「あっ!雪音さんいたー!早くしないとステージの時間に間に合わなくなっちゃうよ!」

「いやだからなんであたしが!」

「ほーら抵抗しなーい!お義姉ちゃんの、ちょっといいとこ見てみたい!へい♪」

「へい♪……じゃねええぇ!!!」

 

 

………うん、だから余計なお節介を焼かせてもらおう。たった数人気の置けない友達がいればいいという人も多いし、きっとお義姉ちゃんはそういうタイプなんだろうけど。

 

それでも歩み寄ってくれる人を受け入れることで、そんな友達がもっと増えてくれたら、なんて。要らぬことを考えてしまうわけですよ。

 

………まったく。兄も姉も、世話が焼けるなあ…。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

sideクリス

 

 

 

「………覚えてろよ」

「はーい!お義姉ちゃんの歌、しかと耳に焼き付けまーす!」

「そうじゃねえよ!」

 

 

結局三人と小町に連れられて音楽ステージの楽屋裏に引き摺られてきてしまった。この特設ステージは大学の講義室のように階段状の客席と、最下部にカラオケの機械が置かれた広いお立ち台が構えられている。

 

そのステージで歌を歌い、審査員が歌い終わった後に点数を入れる方式だ。代わりに下手だったり声が小さかったり色々雑な判断基準で歌の途中で打ち切りになる事もあるらしい。いっそ無言で過ごしてやろうか。

 

 

「あ、手を抜くのはなしね。最後までちゃんと歌いきらないと小町許しません」

「……ちっ、見抜きやがって」

「もー、ほんと似なくていいとこばっか似るんだから」

 

 

あのバカの友人三人組がコスプレしながら歌っているステージを睨んでいると、釘をさすように咎められる。ジトっと目を細めてはいるが、その隙間から隠しきれない期待のようなものを感じてしまう。

 

…安直だが、格好の付け所なのかもな。

 

 

「………一曲だけだからな」

「そうこなくっちゃ!」

 

 

嬉しそうにガッツポーズを決めた後、あたしのクラスメートとハイタッチを交わし合う。いつの間にそんなに仲良くなったんだよお前ら。

 

…………ああ、だけど。歌、歌か。シンフォギアを纏って歌う事はもはや慣れたことだ。でも誰かの前で、誰かに聞かせる歌を歌うのは、なかったな。

 

今だって憧れを忘れてなんかいない。両親が煌びやかな舞台の上で、戦地で、そして家の中で歌ってくれた姿がありありと目に浮かぶ。夢への一歩なんて大袈裟なことを言うつもりはないけれど。

 

 

 

『さ〜て!次なる挑戦者の登場です!』

 

 

 

…初めて、同じ場所に立つのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室モノクローム♪

 

 

 

 

 

 

♪…まだ見ぬ本当の自分の事が

 

♪自分自身でもわからなくて…

 

 

♪誰かに手を差し伸べて貰って

 

♪傷みとは違った傷みを知る…

 

 

 

 

 

……大勢の観衆に見つめられながら歌い始める。注目されるのは好きじゃない。それでもこのステージは、この瞬間だけはあたしのために用意された場所だ。

 

そのせいか歌い出す前までは緊張と羞恥で包まれていたのに、歌い始めは驚くほど綺麗にスタートした。

 

歌詞をひとつひとつ、噛みしめるように歌うたびに緊張は身体から溶け落ちていく。全身が歌うためだけに存在するような高揚感が包んで、勝手に笑顔になっていきやがる。

 

 

 

 

 

 

 

♪モノクロームの未来予想図

 

♪絵具を探して…

 

 

……でも今は

 

♪何故だろう、何故だろう?

 

 

♪色付くよゆっくりと…花が、虹に、

 

♪誇って咲くみたいに!

 

 

 

 

 

 

………世界が広がっていく。歌が世界に染み込んでいく。

 

…いや違う。そう思えるくらい、あたしの歌に熱が込められていくんだ。歌は繋がりで、歌は夢で、歌は救いだった。嫌いと吐き捨てていたあの時でさえ、歌はずっと側にいたんだ。

 

…だからそれにようやく気づけてからは。あたしは歌が、大好きになれたんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

♪放課後のチャイムに、

 

♪混じった風が吹き抜ける!

 

 

♪感じた事無い居心地のよさに、

 

♪まだ…戸惑ってるよ

 

 

♪ねぇ、こんな、空が高いと…

 

♪笑顔がね…隠せない…

 

 

 

 

 

 

 

…………こんなに居心地が良くて、暖かくて、優しい場所。世界中がここみたいな場所だったら、争いなんて無くなっちまうんじゃないかと思えるくらいで。

 

あのバカも、防人の先輩も、バカのお守りの子も、おっさん達も。

 

…そんで、あの兄妹も。

 

…もう絶対に、失ってなんかやらないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

♪笑ってもいいかな…?

 

♪許してもらえるのかな…

 

 

♪あたしはあたしの…

 

♪せいいっぱい、せいいっぱい…

 

 

♪こころから……こころからっ…

 

♪あるが、ままにっ!

 

 

 

 

 

♪歌ってもいいのかな…!!

 

 

 

 

 

 

 

…歌が進んじゃう、終わっちゃう!それでもあるがままに、思いの丈を、喉から飛び出そうな衝動を歌にして叩き込む。この場所で、新しく包んでくれたこの場所で、あたしの歌を、あたしの思いを、それこそ世界中にだって伝えてやるくらいに!

 

……居場所ができたんだ。帰る場所ができたんだ。

 

知らなかった、忘れていた。『信じる』ってこと、『大切なもの』、やっと見つけたんだ。

 

陽だまりと、温もりと、厳しさも、繋がりも、全部全部くれた場所なんだって!

 

それが…っ!それこそが……っ!

 

 

 

 

 

 

 

♪太陽が教室へと…さす光が眩しかった

 

♪雪解けのように何故か涙が溢れて止まらないよ…

 

 

♪こんな…、こんなっ、暖かいんだ……!

 

♪あたしの帰る場所……

 

 

 

 

♪……あたしの『帰る場所』!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………それこそが、あたしの『帰る場所』なんだ。

 

 

 

……ああ、格好悪いな。格好つけようと思ってステージに登ったのに…。

 

 

 

……歌うのが楽し過ぎて、見てくれている奴らの事も、忘れてたよ…。

 

 

 

 







切調は観客席で聞いております。美味いもんマップ完成させようかと思ったけどあまりに話が進まなくてボツ行きです。



蛇足:飛ばしてどうぞ。


感想でもらった歪鏡・シェンショウジンの歌詞。一番響で二番八幡向けに見えるってやつ。作者もそれめっちゃ思ってました!一番の『懐かしの』メモリアと二番の『忘却の』メモリアとかお誂えなんですよね!感想返せなくてごめんなさい!たまに感想読んでほんとそれなんだよ!みたいな悶え方してるのでほんと感謝してます!


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