やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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俺ガイル3期始まりました!超楽しみ!やっぱみんな可愛いね!


関係ないけどヒロアカの最新刊が良過ぎて泣いてました。エタッた過去作に手を出しそうになる手をひっぱたいてます。こっちをエタる気はないけど。


やはり彼女は何も背負えない。

sideマリア

 

 

 

 

 

「………悪い、遅くなった。ここから離脱するぞ。ドクターもすぐ来る」

「…ええ、分かりました。マリア直ぐに準備を」

「…………」

「マリア!」

「……っ、オーケーマム…」

 

 

呆けていた私を一喝し、マムは八幡と遅れて来たドクターを連れてエアキャリアに乗り込む。エアキャリアの運転は一人いれば良い、マムは恐らく切歌や調に向けて通信を行なっていることだろう。

 

ステルス機能を作動し、早々に飛び立った。既に慣れ親しんだ操縦桿の操作にミスをすることなどなく、空まで飛び立てば一件落着だ。ここまでくれば焦ることは無くなった。

 

………それなのに操縦桿を握る手が、自然と汗に濡れて滑る。服で手汗を拭いても、グッと握りしめた操縦桿の硬さが痛いくらい反発してくる。

 

 

「………私はまた、何もできなかった」

 

 

…帰ってきた八幡の顔を見た時、何も言えなくなった。いつもより目を腐らせて、いつもより不健康に顔を青ざめ、なのにいつもどおりに会話をしていた。

 

映像はこちらにも回されていた。八幡が兵隊達を鎮圧したところも、全ての敵を非殺傷の一撃で沈めていたところも。…当然、相手の左腕を斬り飛ばしたところも。

 

……その間私はただ眺めていただけだった。それどころか安堵すらしていた。

 

私のガングニールよりも殺傷性が低く、私よりも認知性能が高い。なんだ、私がやらなくても八幡が私よりも上手く収めてくれる。そんなことすら考えてしまった。

 

…羨ましいと。リンカーがなくてもギアを纏える八幡が羨ましいと、戦歴が浅くとも戦えている八幡が羨ましいと嫉妬していたことすら忘れて、喜んでいた。

 

 

 

『まだ背負わなくても大丈夫』

 

 

 

……そんな心が、湧き出ていたんだ。

 

F.I.S.を八幡が爆破したと聞いた時、安心してしまった。誰かを手にかける、誰かを殺す。そんな重荷を背負うのが私ではなくて良かったと。

 

…八幡が迎撃に出た時と、何も変わらない。排撃を命じられていたのは私も同じだったはずなのに、私は一人部屋で立っていただけ。敵の腕を散らす瞬間に、八幡が兵士を殺そうとした瞬間に、その瞬間にっ…。

 

 

「………私、何もしてない。何も背負えてない…。…私は何のためにここにいるのっ!」

 

 

…F.I.S.から出れば、何かが変わると思っていた。世界の為に立ち上がれば、何かが変わると思っていた。誰かのために歌えば、何かが変わると思っていた。

 

でも世界はそんな甘えを許してくれなくて。世界に飛び出して理解させられたのは、他人に重荷を押し付けて楽をしている愚か者の自分だけ。F.I.S.では年長故にリーダーのような顔をしていても、自分の意思以外で動けない外の世界ではただ流されるだけで。背負うと宣うフィーネの依り代すら意識が足りずマムにフォローしてもらうばかり。

 

……自分の力だけで為していることなんて、何一つない。

 

 

「……強くなったはずなのに。…あの時より、大きくなったはずなのに…。…なんで私はこんなに弱いのよ」

 

 

…硬く冷たい操縦桿に縋り付く。誰も守れなかったあの時から、大切な家族を失ったあの時から、ずっとずっと大きくなったはずなのに。虚勢を張って見得を切っても、それは自分の弱さを隠そうとするだけで私を強くしてはくれなくて。

 

 

「………せれなぁ…」

 

 

……涙を流して、名前を呼ぶのはいつだって妹の名前で。『だからなんとかなる』と告げる小さな背中は、いつだって誰よりも憧れる姿をしていた。姉であるはずの自分が、何よりこうなりたいと思うほどに。

 

 

 

…………そんな姿に、八幡が重なってしまった。

 

 

 

「………やめてよ」

 

 

 

…前に出て、全部背負って、苦しんでいるのに重荷を分けてくれさえしない。

 

だってそんなの、そんな場所に立つの、ずっとそこに立とうと憧れてた。

 

 

 

 

「…………やめてっ…」

 

 

 

 

お姉ちゃんぶって、みんなの苦しみだって背負って一番前に立ちたかった。調や切歌が笑ったまま、八幡とあの子達のように仲良くなって、そのまま世界だって救いたかったのに。

 

 

…気付いた時には。

 

 

……頑張っていたはずの手には。

 

 

………()()が頑張ったから手に入った物だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私が背負わなくちゃいけないものまで持っていかないで…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………身勝手で自分勝手な願い。

 

…だけど仕方ないじゃない。

 

………この願いを叶える力が私にはなくて。

 

…そんな強さだってなくて。

 

 

 

………いつまでも弱い私は、いつまでも惨めに泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

side調

 

 

 

 

 

 

『チャンピオンとてうかうかできない素晴らしい歌声でした!』

 

 

歌い終わったステージが、観客からの拍手で包まれる。私たち二人の歌声が褒められていると分かると、当然という思いと不思議と悪い気はしない気持ちが生まれる。ペンダントを奪うためとはいえ、切ちゃんと一緒なら誰にも負ける気はしなかったから。

 

このステージは得点性。優劣がつくまでの時間は、チャンピオンとの睨み合いとなった。敵地のど真ん中で歌いきるのはどうかとも思ったけど、体験したことのない楽しさだったからヨシとしよう。

 

 

ーーーprrr!

 

 

「………っ!?マム?」

『アジトが特定されました』

「…!?」

『襲撃者を退けることはできましたが、居場所を知られた以上長居はできません。私たちも移動しますのでこちらの指示するところで落ち合いましょう』

「そんなっ!もう少しでペンダントが手に入るかもしれないのデスよ!?」

『緊急事態です。命令に従いなさい』

 

 

…一方的な回線と一方的な切断。神獣鏡の輝きがあるとはいえ、万が一を考えた結果かもしれない。

 

……報告は最小限。襲撃で誰かが怪我をしたとか、そういった事は言わなかったけど。もしも実際に怪我人や、……考えたくないけど死者が出てしまった時も、マムは同じ報告をしたと思う。

 

…………確かめないと。

 

 

「………切ちゃん」

「……っ!調!」

「…マリアが一緒だし、八幡もいる。だから大丈夫だとは思う。……でも、心配だから!」

 

 

切ちゃんの手を引いて会場の外へ駆け出す。名残惜しそうな切ちゃんも、気持ちを汲んでくれたのか大人しく付いてきてくれた。

 

だけど焦りだすと止まらない。今から通信を送ってもマムはたぶん取ってくれないだろう。合流地点に関しては向こう側が落ち着いてから送られると考えれば時間はあるけれど、それは私達の心を落ち着かせてはくれない。

 

……それに、ただ見逃してはくれないよね。

 

 

「………調ちゃんと、切歌ちゃんだよね」

 

 

…さっきの会場から追ってきた雪音クリスに、同じ装者である立花響と風鳴翼が立ち塞がる。全員表情が硬いのは、この学校に私たちが潜り込んでいたからか。それともここで戦うことになるかもしれないという覚悟の表れ?

 

……ううん、どっちでもいい。今はマリア達が心配。争っている時間がもったいない。

 

 

「………3対2。数の上ではそっちが上。でもここで戦うことで、あなた達が失うもののことを考えて」

「………っ、お前!そんな汚ねえこと言うのかよ!さっきまであんな楽しそうに歌ってたのに…!」

「………」

「………」

 

 

互いに睨み合う。ここで戦うデメリットは両方にとって大きい。時間のロス、いやそれ以前に敗北の可能性。周囲への被害、テロリストの自由。

 

それが分かっているから、お互いにその手に武器を持ちながらも相手に振るうことができない。

 

 

「………ここで戦いたくはない。しかし、こちらにも見逃せない理由はある」

「…八幡のこと?」

 

 

風鳴翼の刺すような視線を見つめ返しながら問いかける。民間人の安全が大事なら、多少の不利益はあれどここで足止めをする理由はない。むしろ距離を離してから襲撃の形を取るべき。

 

……それをしようとしない。それどころか生身のまま話を進めようとするのは、どうしても知りたいことがあるのだと思う。

 

………だとしたらその理由は一つだけ。

 

 

「………八幡は記憶をなくしてる。それでも今は私達の仲間。あげる気はない」

「デス!大好きな友達奪いたきゃ力尽くで来いってもんデス!」

 

 

…まだ仲良しになれたとはいえない。それでも暗い顔をしながら、私達にずっと協力してくれている。頑張ってくれている八幡を裏切りたくないから。

 

………本当に心から八幡が戻りたいと望んだなら、分からないけど。

 

 

「………上等じゃねえか!だったらうだうだ言わずにさっさと白黒ハッキリつけて…」

「待て雪音!…今ここで彼女らを討ち取ろうと比企谷が帰ってくるわけではない。優先順位を見失うな」

「………けどよ!」

 

 

食いかかってくる雪音クリスを抑えて風鳴翼が前に出てくる。刃物のように鋭い眼光だが、その目には理性が残っている。此方の狂犬(切ちゃん)を抑えながら言葉を待った。

 

 

「…私が聞きたいのは、比企谷の記憶を失った原因だ。シンフォギアを纏い、今の比企谷に変わり果てた大元にお前達はいるのではないのか?」

「…私たちが八幡の記憶を奪ったって言いたいの?…そんなことしない。初めて会った時にはもう記憶はなかったし、シンフォギアだって当たり前に纏ってた」

「当たり前に…?」

 

 

F.I.S.に来た日から八幡の胸にはペンダントが揺れていた。それ以降の実験だって戸惑うことなくギアを運用していた。当たり前に、違和感なく、まるで私達のように。

 

 

「……ルナアタックの行方不明から間もなく、我々に感知できる予兆のなかった比企谷のシンフォギアの確保に加え、F.I.S.という組織との繋がりまであるならば記憶の消失が意図したものではないと考えるのは難しい、か?まさかもっと別の…」

「あーもーごちゃごちゃうっせーデス!こうなったら決闘デス!然るべき決闘を申し込むのデス!」

 

 

考え込む風鳴翼に痺れを切らした切ちゃんが割り込んでくる。

 

決闘。靴下も手袋も投げつけてはいないけれど、この状況ならむしろ良いかもしれない。どうせいつかはぶつかり合う相手、だけど私だってこんな弱い人達を巻き込むような場所で戦いたくない。

 

だったら正々堂々戦って、正面からペンダントを奪い取る方がいい。

 

 

「……話してても埒があかない。何を言われても八幡は渡さないし、私達の正義の為に止まるつもりもない」

「…だったらサシでケリつけようってか?」

「…そう。決闘の時はこちらから告げる」

 

 

それだけ伝え、切ちゃんの手を引いて歩き出せばその歩みを止められることはなかった。チラリと後ろを振り向いても追ってくる気配はない。少し時間を取られたけどこれでようやくマリア達と合流できる。

 

一息ついて前を向こうとした時、ふと建物の影で見慣れた物が揺れた気がした。

 

最近ずっと近くにいて、ずっとフラフラ揺れていて、だけど倒れることのないユニークポイント。

 

 

…黒いアホ毛が風に靡いていた。

 

 

 

 





仕事も重荷も無責任さえも勝手に掻っ攫っていく。誰かの成長の機会を肩代わりしちゃうあたりこれも『お兄ちゃんしてる』と言えるのかもしれない。八幡はマリアさんのお兄ちゃんだった?

何もしてないはずなのに、何もしてないからマリアさんのメンタルがプルプルしちゃう。Gの間は原作もだいたいこうだったしまあ問題ない?GX以降ずっとカッコいいから仕方ないのかな。

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