やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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感想返せなくなって、むしろ感想書く人になってみようと思ってTwitterで絵師に感想書いたりし始めたんです。文字数少ないのに言葉が出たり出なかったりで難しいですねあれ。

毎話のように感想書いてくれる人がなんか尊敬の対象になってきました…。

今回はつなぎ回。




やはり彼女は考えない。

side小町

 

 

 

 

「雪音さんどうしちゃったんだろう?」

「なんか怖い顔してたね」

「………」

 

 

文化祭の特設ステージに飛び入りした二人組のORBITAL BEATが終わり、いざ得点発表となった瞬間に歌っていた二人組が出て行ってしまった。それだけでも騒然としていたのに、お義姉ちゃんまでその後を追うように飛び出してしまった。

 

『こいつを頼む!』と同級生の皆さんに頼む姿は、鬼気迫るものがあって不安になった。ただの知り合いというには、その反応は過剰過ぎたから。

 

 

「…あ、いっけなーい!小町、同級生との待ち合わせがあるんでした!ダッシュで向かうので、お義姉ちゃんにはご心配なくとお伝えくださーい!」

「…え、小町ちゃん!?」

 

 

……だけどそれだけじゃなくて、観客席からも同じタイミングで立ち去った人達がいたのを見逃さなかった。翼さんと響さんの二人。未来さんは残ったみたいだけど、みんな関わりのある人達だった。

 

…なにより、お兄ちゃんに関わりのあるみんな。お兄ちゃんが死んじゃった事で絶対何かを知ってる人達が動いてる。それが私の心を揺さぶっていた。

 

…話せない事情があるのは分かる。でも知りたい。話さない理由があるのは分かる。でも聞きたい。

 

そんな衝動は抑えられるものじゃなくって、少し走って響さんの後ろ姿を見つけて後を追った。見つからないようにしながら、少しでも近づいて行く。ごった返した祭りの会場は障害物も多くて、隠れる場所も豊富だ。

 

装飾に混ざりながら、ようやく声が聞こえるところまで来た。顔を出すとバレそうなので耳だけそばだてるように。金髪の子と黒髪の子を問い詰める三人の声を、喧騒の中から必死に聞き分ける。

 

 

『……………前!そんな……こと言う……よ!………まであんな………歌って……に…!』

『………ここで戦いたくは……。しかし、………見逃…ない……ある』

 

 

……聞こえない。もっと、もっとちゃんと聞かないと。全部聞き取れなくても少しは聞き取れる。聞き慣れた声、聞き慣れない声、両方あるけどもっと耳を澄ませて…。

 

 

 

 

『………八幡のこと?』

 

 

 

 

ーーー

 

ーーーーー

 

ーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………え?」

 

 

…フッと音が消えた気がした。

 

 

 

『………八幡は記憶をなくしてる。それでも今は私達の仲間。あげる気はない』

『デス!大好きな友達奪いたきゃ力尽くで来いってもんデス!』

『………上等じゃねえか!だったらうだうだ言わずにさっさと白黒ハッキリつけて…』

『待て雪音!…今ここで彼女らを討ち取ろうと比企谷が帰ってくるわけではない。優先順位を見失うな』

『………けどよ!』

 

 

 

 

………なに、それ。

 

 

 

 

「…え?なん、で?え、え?だって……え?」

 

 

…切り取られたように、会話が明瞭に聞こえてくる。…記憶を無くして、帰ってこなくて?八幡って、お兄ちゃんだよね?だけどお兄ちゃんは死んだって…。

 

…………………………嘘、だったの?

 

 

 

 

 

 

「…………あ、あはは。まさかだよね…。お義姉ちゃんや響さんや翼さんがそんな器用なわけ…」

 

 

真っ直ぐな響さんや誤魔化し下手なお義姉ちゃん、結構抜けてる翼さんの三人がそんな人が悲しむような嘘つくわけないよね。だったらきっとあの二人組の子が嘘をついてるとか…。

 

 

「…でも、誰も否定するようなこと言ってなかったし……」

 

 

…やっぱり、死んじゃったのは嘘?だったらむしろ喜ぶべきなんじゃ…。…でも、………でもっ!

 

 

「………頭ん中ぐちゃぐちゃだぁ」

 

 

… 気がついたら隠れていた建物から離れて、学校の中を行くあてもなく彷徨っていた。それを認識しても足は止まらず、まるで夢遊病患者のように前に進み続けた。

 

その間、胸の中では信じたい気持ちと信じたくない気持ちが戦い続けている。

 

お兄ちゃんが生きていた、信じたいに決まってる。だけどお兄ちゃんが死んじゃったと伝えてきたのは信じたい人達で、疑いたくない人達だった。

 

………お兄ちゃんが、友達だと言った人達だったから。

 

 

 

「………生きてて欲しいよ、寂しいよ…」

 

 

 

気づけば文化祭ですら誰にも使われていない教室に迷い込んでいた。人の気配も全然なくて、扉を閉めてしまえば祭りの喧騒すら遠ざかるようで。

 

誰もいない教室の、誰もいない椅子に腰掛ける。誰にも見られない場所だけど、心に隙間風が通るように悲しいけれど、頬を触れても涙が流れる事はない。

 

ここ数ヶ月は泣き過ぎて、泣いてしまう予兆や泣かない方法までマスターしてしまったように思う。泣いても枯れない涙に人体の神秘を感じつつ、まだ大丈夫だと息をついた。

 

 

「………事情が、あるんだよね。きっと…」

 

 

虚空に尋ねるように呟く。かつて河原でノイズを相手に銃を撃ちまくっていたお義姉ちゃんの姿を思い出す。きっと何か秘密があって、お兄ちゃんについても隠さなきゃいけないことがあって、それにたぶん響さんや翼さんも関わってて。

 

…うん、きっとそう。たぶん、絶対。そうだと思う、思いたい。そうだといいな…。

 

………騙されてたりとか、そんなの、ないよね。

 

 

「………あ〜〜〜〜〜。頭使うの苦手ぇ…」

 

 

そもそも考えても意味がないというか、考える頭がないというか!こうやって余計なことまで悩んじゃうのは本来ならお兄ちゃんの役目なのに!

 

 

「………………。…決めた、初めに会った人を問い詰めよう」

 

 

考えてもしょうがないなら、考えずに動いちゃおう。お義姉ちゃん、翼さん、響さんの三人。未来さんは……今回は辞めとこう、さっきいなかったし。

 

入ったばかりの教室を飛び出して人の波に飛び込んで行く。この中から三人の誰かを見つけるのは大変かもしれない。そういえば見つからなかった時のことは考えてなかったっけ。

 

他にも何をどう問い詰めるとか、本当に嘘をつかれてたりとかあるけど、そういうのは考えないようにしよう。きっと考え過ぎて、何もできなくなっちゃうから。

 

…信じたいから、信じる。信じるために動く。

 

今ははきっとそれだけで充分だから。

 

 

 

「………見つけちゃった」

 

 

 

私はそっと背後から近づいて、声をかけた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

side調

 

 

 

「………マム!」

「マリア、八幡!」

 

 

郊外の荒野、ノイズの被害による復興が未だ進んでいない平野。そこに似つかわしくない巨大ヘリが鎮座している。そこからは車椅子に乗ったマムとマリア、そして八幡が現れた。

 

 

「………マリア、無事でよかったデス!」

「…ええ、私は大丈夫。八幡が対処してくれたわ」

「そっか。八幡、ありがとう」

「………おう」

「………?」

 

 

…なんだろう、少し八幡に違和感がある。視線を逸らすような立ち姿はいつも通りなのに、目がいつもより腐っているような、少ない覇気がもっと消えてるような、そんな違和感。

 

 

「………八幡、ほんとに大丈夫?」

「…ん、ああ。なんもねえよ」

「……でも…」

「それより早く移動するぞ。ここにいても何も始まらないからな」

「………んっ」

 

 

くしゃっと、雑に頭を撫でられる。いつも距離を取ろうとする八幡と違って、今日はそんないつも通りすら億劫なよう。雑なのに優しい撫で方は、温かいのにそれ自体が拒絶のようにすら感じて悲しくなる。

 

撫でられた手が離れれば、それで壁は建設済みとでも言いたげにエアキャリアの入り口に向かってしまう。そんな八幡の姿をマリアが痛々しげに見送っているのも気になった。

 

……やっぱり、何かあったんだ。

 

 

「………ねえマリア…」

「二人とも無事でなによりです。追いつかれる前に出発しますよ」

 

 

八幡のことを尋ねる前に、マムといつのまにか降りてきていたドクターが急かしてくる。

 

…分かってる、一度本国に捕捉された以上また見つかる可能性が高い。逃げては見つかってのイタチごっこになるのだと思う。それは長引けば私達が不利になるということ。

 

でもだからこそ、ネフィリムの餌であるペンダントを確保できなかったのが悔しい。もしかしたらそのペンダントでネフィリムを成長させられたかもしれないのに。

 

 

「待ってマム!あたし達ペンダントを取り損ねてるデス!このまま引き下がれないデスよ!」

「……うん!決闘すると、あいつらに約束したから!」

 

 

決闘であいつらを倒せれば、確実にペンダントが手に入る。そうすればフィーネの器になったマリアの負担も、大変そうな八幡の負担も減らせる。

 

………まだ何も役に立ててない私達でも、できることがあると思うから。

 

 

 

 

 

 

 

パシィ!

 

 

 

 

 

 

「………いい加減にしなさい。調も切歌も、この戦いは遊びではないのですよ!」

 

 

 

……ヒリつく痛みが、頬を叩かれたのだと伝えてくる。同じように叩かれた切ちゃんも、頬を抑えて呆然としていた。

 

…必死に考えたことが遊びだと両断されて、反論したいはずなのに。私達以上の感情を乗せたマムの目が、一切の言葉を押さえ込んでしまった。

 

 

「………っ」

「…まあまあ、そのくらいで。まだ取り返しのつかない状況ではありませんから」

 

 

張り付く言葉を取り出そうとすると、遮るようにドクターが割り込んできた。みんなが硬い表情をしている中で、一人だけ柔らかい顔をしている。

 

……こんな時はどうせまたロクでもないことを言うんだ。

 

 

「………それよりもこの子達の言う決闘、それに乗っかってみたいのです」

「……決闘に?」

「ええ。もしかしたらその決闘が、我々の計画を早めてくれるかもしれません」

 

 

マムの疑問にも明確な答えを返さず、薄っぺらな笑いで応えるドクター。これでただペンダントを奪うだけなら、私達が考えた作戦なのにと文句を言えるのに。

 

…でもドクターの目には何も映らない。きっと私達以上のナニカをその頭の中で構成してるのだろう。全く信用できないけど、それでもドクターが口にする作戦は成果を出している。

 

ライブ会場の前準備からネフィリムの起動に、その餌としてペンダントに目をつける着眼点。詳しいことは分からないけど、どれも効果的で効率的なんだと思う。

 

……たぶん今回も。

 

 

(………私達、何か役に立てないのかな)

 

 

必死に動いても、遊びと断じられ、それ以上の戦果を奪われる。私と切ちゃんならきっとなんとかなると、なんとかして見せると意気込んではいるけれど。

 

…F.I.S.の外に出てから、それを実感できる瞬間はない。役に立てている場面がない。その間にマリアも八幡も苦しんでいるのに。

 

……噛み締めた無力感が、叩かれた頬に酷く沁みた。

 

 

 

 




調の頭を撫で回したい。

いつもお気に入り頭打ちかなと思えばランキング載った日に90話1日で走り切ってくる猛者が何人も現れるからハーメルンは面白い。

いつも評価と感想ありがとうございます。

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