やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
急ぎ足しちゃったので雑かもしれない。
side翼
ウゥーー!ウゥーー!
「…ッ!ノイズの反応パターンを検知!座標割り出します!」
ノイズを操るソロモンの杖、八幡の生存、月の落下、そして敵との決闘の約束。時間をかけながらも様々な問題と応対してきた特異災害対策機動部二課の平安を乱したのは、親しみ深いアラートだった。
「決闘の合図。これはその狼煙というわけか」
「なんだっていいさ。打つ手なしな現状、火に入る覚悟はできてらぁ」
「……調ちゃんに切歌ちゃん。…八幡くんにマリアさん。やっぱり、ちゃんと話しがしたいな」
三者三様に覚悟を拳に握りしめる。敵を打破するだけでは意味がないのだと、全員が分かっている。自分たちだけじゃない、相手も正義を信じて握りしめているのだと何度も武器を交える事で伝わっている。
「…決闘。三対四か、ノイズの加勢を考えればそれ以上の可能性もある。気を引き締めなくてはな」
「ですね。私も気合を入れます!」
「…ま、目に見えて燃えてるアンタのミスをカバーする余裕くらいは残しとかないとだけどな」
「燃えもする。繋ぎ紡がれた心意気、歌と
先日比企谷小町から受け取った涙と歌声は未だ胸に残っていた。信じると言われ、その涙を受け取った。そしてその涙と共に響かせ合った歌声がその身を熱く燃え上がらせる。
……ああ、そうだとも。この命は燃えている。凍った心を溶かそうとするように、例え拒絶の壁が立ち塞がろうと超えてやろう。
「……位置情報出ました!…って、ここは…。…映像出します!」
藤尭さんが焦るようにタッチボードを動かすと、メインモニターに大きく映像が表示される。そこに映り込む廃墟と化した建造物、崩れながらも僅かに天へ向かうように立つその姿。
……忘れるわけもない。
「……場所は、旧リディアン音楽院。カディンギル跡地です!」
☆☆☆
カディンギル跡地
「……不気味、だな」
「ですが誰にも邪魔されない、決闘にはうってつけの場所です」
「…。子供の喧嘩に大人が手を出すのはどーなんだ?」
「場違いでも益があれば介入する。大人の汚さであり専売特許です」
「胡散臭いことで…」
仮のアジトを定め、その夜に決闘とやらを行うためにここにきた。米国政府の追っ手に捕捉された以上、悠長に過ごせる時間は無くなったと言っていい。
その為に介入される可能性を排除して相手装者と戦える場所の候補を探したところ、まああっさり見つかった。ルナアタックの日にフィーネが暴れ回り、復興もままならない程の廃墟となったこのカディンギル跡地。人気もなく、なんなら人工物が廃墟となったものしかないまである此処。
「……にしてもマリアはもちろんとして、暁と月読も待機か。負担全部のせだな」
「多対一は望むところでしょう?僕はあくまで援護です。…まあ、本命がいますので君も実質的には援護ですが」
「………ほんと、突き抜けてクズだよなアンタ」
「英雄、と言って欲しいですね」
現在暁と月読は勝手に決闘というお遊びを持ち掛けた罰として謹慎を受けている。マリアは悪戯にギアを纏うとフィーネとの融合が進むので、当然留守番だ。なのでこの決闘の参加者は俺とドクターのノイズ達となっている。
………そしてもう一人。…いや、一匹か。
「………ネフィリムか。あんたこの決闘でやること、アイツらに言ってあんのか?」
「ええもちろん。最初から言っているじゃないですか。聖遺物のカケラの確保と」
「………」
「……君もこれが最良だと分かっているから、ここに立っているのでは?足りない
「………」
…覗き込むようなドクターの視線を避けるように目を逸らす。
ああ、確かに。このドクターの言う事は間違ってない。というか、この人アドリブ力が高過ぎる。偶然を当たり前のように作戦に組み込み、最上の結果に持ち込む算段を立てるのが異様に上手い。
その上人を殺すのも貶めるのも躊躇わないイかれた人格。確かに世が世なら英雄にも世紀の大悪党にもなれるかもしれない人材だ。なんて傍迷惑な存在だよ。
「……謹慎を受けた彼女らも、フィーネの器たるマリアも、人を殺し血に穢れることを恐れている。…君は、どうでしょうね」
「…………普通の奴は人を殺すのも、それどころか怪我を負わせることだって恐れるに決まってんだろ」
…だからこの先にあることだって当然恐れるさ。だけど人は恐怖を無視、否、それを押し殺して行動することだってできる。それを俺がやればいいだけのことだ。
…左手を斬り飛ばした兵士の時はドクターに止められた。その意味如何は考えても分からなかった。そしてこれから始まる
………ほんと、そんなこと知りたくなかった。ただの敵で、見知らぬ他人で、無関係な第三者であったのなら。乗り越えるべき恐怖も、もう少し小さかったのだろうか。
「まあ、それでもやる。それで文句ないだろ」
「ええ、もちろん」
既にドクターのソロモンの杖によってノイズは僅かな時間だが放たれた。二課はその反応を追ってここに辿り着くだろう。賽は振られ、匙も投げられた。
覚悟が決まらない俺をみっともない姿だと、笑いたい奴は笑えばいい。その上で最善の結果の為に成し遂げてみせる。記憶を無くし、裏切られる場所を定め、戻る場所はとうに失くした。
…だからきっと、この選択も間違っているのだと思う。
「………来ましたね」
「………」
崩れたカディンギルにもたれ掛かっていた背中を離し、出迎えるように歩いてくる三人を見下す。
「………八幡くん」
…見つめてくる目が真っ直ぐで、溶けてしまいそうだ。
「………比企谷」
…以前叫び声と共に呼ばれた名前に、耳が朽ちそうになる。
「………八幡」
…飾り気も遠慮もない呼び声に、舌を噛む。
………不思議だ。全く覚えていないのに。全く見たこともない姿だったのに。何故か強く印象に残る三人だ。失くした記憶が思い出そうとでもしてるのか、それとも彼女らの想いがなにかを届けて来ているのだろうか。
「………」
……反応を返さず、ギアを纏う。例えどちらでも関係ない。俺がやる事は、できる事はなにも変わらないのだから。
「……っ。調ちゃんと切歌ちゃんは?」
「あの二人なら謹慎中です。お友達感覚で計画をめちゃくちゃにされては困りますからね」
ドクターもソロモンの杖を振り上げノイズを発生させる。姿は見えないがネフィリムも近くに潜んでいるはずだ。
決闘という枠組みに収まるなら《立花響、風鳴翼、雪音クリスvs比企谷八幡、ドクター(ノイズ)、ネフィリム》の変則マッチになるのだろう。そしてその結果如何では……誰かが死ぬ決闘だ。
♪
♪
♪正義を信じて、握り締めて
ぎゅっと握った拳!1000パーの
解放全開!3、2、1…ゼロッ!
欠けた月が煌々と輝く夜。もはや言葉は不要とシンフォギアを纏う四人とノイズを操る一人の戦闘が、一人の歌声と共に開幕した。
……………………歌?
コォーーーン!
ゴォーーーン!
「……ッ!?…な、はぁ!?」
……聞こえる。歌が、聞こえる。それどころか、胸の奥から溢れ出すような衝動が襲いかかる。
熱い、熱いっ!
「……おや、これは……」
「………ど、どうなってんだよこれ…」
痛みで蹲るほどじゃない。それでも無視できない熱量は体を蹂躙していく。鞘を支えにすれば、多少なりとも楽にはなるがこの衝動は消えてはくれない。
………………ああ、熱い。
……なのに。
…なんで俺は痛みよりも。
…苦しみよりも。
歌を聴いているのだろう。
♪響け響け!(ハートよ!)
熱く歌う!(ハートよ!)
♪へいき(へっちゃら!)
覚悟したから!
♪例え命(枯れても!)
手と手繋ぐ(温もりが!)
♪ナニカ残し…ナニカ伝いッ!
♪未来、見上げ……
♪凛と立ってきっと花に、
生まれると信じて!
……初めて耳にする歌声に、燃え盛り今にも崩れ落ちそうなはずの心臓が鷲掴みにされたような錯覚に陥る。
聞き逃すなと、見逃すなと。戦うべき相手だというのに、その歌声と共に戦う姿を追いかけてしまう。
「…………歌が…」
………歌が、聞こえる。
その事実故に、腕が動いた。体が動いた。アームドギアを構え、体の中心からこみ上げる熱なんてどうでもいいかのように踏ん張った。
もしも俺がシンフォギアを纏っていなかったら、きっと指を咥えて遠くで耳を傾けるしかなかっただろう。だけど俺には近づける力がある。
戦いながらなら、もっと聞いていられるだろう。戦いながらなら、もっと近くでも聞こえるだろう。
風鳴翼も、雪音クリスも同じ場所にいるというのに、まるで誘蛾灯に誘われるようにアームドギアに飛び乗りノイズと戦う立花響へ目標を定める。
ソロモンの杖によるノイズの発生は無限に近い。だから装者が三人揃おうとも、そう簡単には博士の元には近づけないし装者達の分断もできる。
…そうだ。だから問題ない。
ーーー。
ーーーーー。
「……は?」
………問題ない、わけがない。
いつもの俺なら、例え歌が聞こえようと無闇矢鱈に突っ込んだりしない。なのにこの時だけはそうするのが当たり前のように近づいてしまった。
まるで導かれるように、惹かれ合うように、定めであるかのように当たり前に、立花響を求めた。
…そして残り数メートルもあれば立花響に触れられるような距離で、突如俺の下の地面が盛り上がる。
唯一この場で姿を見せていなかった下手人。今晩の主役に定めた堕ちた巨人。
……ネフィリムが、大口を開けて俺に飛びついてきた。
まあネフィリムからしたら普通にご馳走だよね完全聖遺物。というかドクターどうやってネフィリム操ってたんだっけ?