ふたりは断罪黙示録   作:弐式炎雷

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第失笑章 冗長でくどいチュートリアル
#01 ふざけるな!


 

 ナザリック地下大墳墓。第九階層にある『円卓の間』にて。

 

たっちふざけるな!

 

 白銀の全身鎧をまとう『たっち・みー*1』は激高し、巨大なテーブルに拳を落とす。

 打撃音と共にダメージを示す数字『(ゼロ)』がポップアップし、すぐに消える。

 この行為に彼のすぐ近くの椅子に座っている黒い山羊に似た姿を(かたど)る人型のプレイヤー『ウルベルト・アレイン・オードル*2』が両手を横に広げて肩を(すく)める仕草を取る。

 

ウルベルト「まだそのセリフは早いですよ、たっちさん」

たっち「えっ? そうでしたか?」

 

 少し仰け反るリアクションを取るたっち・みー。

 オーバーな反応に呆れたのか、ウルベルトはその行動には何も指摘しない。

 

ウルベルト「ええ。……それ、ギルド(マスター)であるモモンガ*3さんが言うセリフですよ。あと、ヘロヘロ*4さんもまだ来ていません」

 

 円卓に用意された椅子は四一脚。埋まっているのはたっち・みーとウルベルトの二つのみ。

 たっちは円卓を見渡し、納得の意味を込めて小さく頷く。

 部屋は明るく、壁面中央にはギルド武器が宙に浮いたまま横方向にクルクルと回り続けていた。

 

たっち「多くの『オーバーロード』作品では定番と化し、今や古典芸能とまで言われるように……」

ウルベルト「……ここ最近はこの定型文(テンプレート)も使われなくなってきた模様ですよ。……さすがに書き写しレベルが横行し過ぎた為に飽きられてしまったのでしょう」

たっち「でも、定番のNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)達による忠義の儀式は未だにやっているようだし、カルネ村での攻防もあるようですね」

 

 まだ『ユグドラシル』のゲーム内での出来事である筈なのに転移後の話しを始めるたっち。すぐさまウルベルトは呆れたが、指摘はしなかった。

 それは指摘する行為もまた虚しいくらい繰り返されてきたからだ。

 

ウルベルト「……もう転移後の話しですか? それより我々の現代の話しをすべきではないでしょうか?」

たっち「異形種が主役の作品なのに現代社会の話しをしても面白くないと思いますよ」

ウルベルト「……お前が言うな」

 

 心底呆れた、という態度で憤慨するウルベルト。

 これは彼が警察関係者であるために憤慨したのではなく、正義を標榜するクセに陰湿な行為も辞さないところが非人間的であるからだ。だからこそウルベルトは彼の発言に対して嫌悪感を抱く。それが偶々(たまたま)漏れ出てしまった事による発言である。

 世界最強の男とも言われるたっち・みー。見た目からは想像できない圧倒的な力は数多(あまた)のプレイヤーに振るわれてきた。

 弱者を守る意味では正しい(おこな)いだと言える。けれども、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の原点たるクラン『ナインズ・オウン・ゴール』を作り上げたのはたっち・みーだ。

 変態プレイヤーの頂点に居るという意味を思えば呆れるな、というのは無茶以外の何物でもない。

 

ウルベルト「……失礼。正義を振りかざすたっちさんとしてはゲームより現実を取ると思っていましたよ」

たっち「それはそれ、これはこれです」

 

 あっさりとした言葉にウルベルトは項垂(うなだ)れる。

 『立て板に水』、『(ぬか)に釘』という言葉を浮かべつつ。

 それからほどなく部屋に新たな来客が『転移(テレポーテーション)』の作用を持つアイテムによって現れる。

 この部屋はギルドメンバーのみ転移疎外を受けない仕様になっていた。しかし、事前連絡がない場合が多いので大抵は驚かれる。

 もし、頻繁に入れ替え作業があればたっち達も驚いたりはしない。

 

ウルベルト「……てっきりヘロヘロさんが来ると思ってましたよ」

 

 空席だった椅子に座るのは影で出来た人型のクリーチャー『フラットフット』であった。

 二次元生物の様な様相で横を向くと消えたように見える。

 『影の悪魔(シャドウ・デーモン)』の上位種族であるプレイヤーだ。

 彼が何か喋る前に他の空席も埋まっていく。

 

たっち「あれー。いつならモモンガさんとヘロヘロさんの二人だけなのに」

フラット「あー、私は様子を見に来ただけです」

ウルベルト「いやいや。もう少し居て下さいよ。せっかくギルドメンバーが()()()()居るんですから」

 

 そんな事を話している間に桃色の粘体(スライム)『ぶくぶく茶釜*5』と半魔巨人(ネフィリム)『やまいこ』と全身が口で覆われたような毒々しい色合いの人型モンスター『ベルリバー』が現れた。

 それぞれ自分以外の存在に気づいて驚きを現す。

 表情を変化させられないので態度だとオーバー気味になってしまうが今更な話しである。

 それぞれ自分の今の心境を『感情(エモーション)アイコン』によって示していく。

 

ぶくぶく「この度の不祥事は全て愚弟の仕業です」

 

 大きな効果音が部屋中に響き渡る。それに伴い不快に感じたメンバーが『怒』の感情(エモーション)アイコンを表示していく。

 

たっちそうだったんですか!?

 

 たっちは大きな声を出しながら驚きを示す。しかし、それは演技だと他のメンバーは理解しているので誰も乗らなかった。ウルベルトを除いては――

 (ウルベルト)は都合上たっちの相方の様な存在である。ボケに対して突っ込みを()()入れるのが様式美。

 

ウルベルト「……そんなわけないじゃないですか」

たっち「テンプレは大事だと古事記に書かれていますからね」

ウルベルト「いいえ、ここは続日本紀(しょくにほんぎ)です」

 

 毎回の事とは言え仲がいいな、と思いつつたっちとウルベルトのやり取りに口を出す者は居なかった。

 ここで部屋が暗転し、すぐに再点灯すると空席の数が減っていた。その中には黒い粘体(ヘロヘロ)の姿があった。

 ウルベルト達が改めて会話を始める頃合いに主役たるギルド長『モモンガ』が登場する。

 

モモンガ「……おぅ。まさかこれほど集まっているとは……」

 

 ゲームを始めて十二年。引退していったメンバーが大勢居たはずなのに、これはどうしたことかと大袈裟に驚くモモンガ。

 異形種だけで構成されたメンバーの中において『死の支配者(オーバーロード)』という種族の身体を借りて動かす彼の存在は見事に違和感なく溶け込んでいた。

 本来ならばヘロヘロと二人っきりになるところ――

 これは夢か幻かと何度も辺りに視線を向けるモモンガ。

 

たっち「今回は我々が主役らしいので」

モモンガ「……俺じゃないんですか?」

ウルベルト「いつも二人寂しく円卓の間でやりとりしているのは(しの)びないという配慮ですよ」

たっち「しかも『台本形式』という挑戦的な手法です」

ウルベルト「……脚本形式とも言いますが……。演劇っぽくて、わざとらしい表現が鼻につくかもしれません」

 

 モモンガ。たっち・みー。ウルベルトの三人だけにスポットライトが当たり、他のメンバーは暗い(とばり)が落ちたように静まり返る。

 

ウルベルト「このように」

たっちガヤ(喧噪)も消える。この辺りはドラマを視聴したことがあれば理解しやすいかもしれませんね」

ウルベルト「喋るたびにコロコロ視点が切り替わったりする手法が視覚的に苦痛になったりしますけど」

モモンガ「円卓の間に謎仕様!? それは充分に驚きましたけれど……」

たっち「では、早速……。(テーブル)を強く叩いて『ふざけるな!』って言って下さい」

ウルベルト「ヘロヘロさんはまだそこに居ますからダメでよ」

 

 何のことかまだ理解できていないモモンガはたっちの言葉に従いそうになった。

 拳を下ろそうとする彼にウルベルトは優しく語り掛ける。

 

ウルベルト「……ただまあ、我々はモモンガさんとヘロヘロさんのやり取りを嫌というほど聞かされていて飽きているんですよね」

たっち「そらで書けるほどに見事なトレース具合でした」

ウルベルト「それなら不評で定評のある『台本形式』にて新たな切り口に挑戦しようということになりまして」

 

 たっちとウルベルトが仲良く喋っている事に驚くモモンガ。それと少しずつ気持ち的に嬉しさがこみ上げる。

 見た目は白骨死体のアンデッドモンスターであるが中身は様々なものが詰まった『人間』のプレイヤーである。

 ここがゲームの世界でなければもっと仲間と語り合いたいと思っても不思議は無い。しかし、モモンガは知っている。

 今日がゲーム『ユグドラシル』のサービス最終日であることに。そして、この会話のやり取りもあと少しで終わってしまう。

 感慨と寂寥。ゲームキャラクターの身では細かい心情は表現できないのが一番の心残りだと――

 

モモンガ「……ああ。今日は何という幸運なのだ。俺は今……、猛烈に……」

たっち「どうせ転移するから感動はもう少しとっておいてください」

モモンガ「……あ、はい。このやりとりもかなりの数が出回っているんですよね?」

 

 たっちの言葉にすぐさま対応するモモンガ。

 現実の世界で様々なクリーム対応などに追われている彼にとっては造作もない。

 場の空気を読める男『モモンガ』こと本名『鈴木(すずき)(さとる)』の処世術。

 

たっち「そういうわけじゃないんですけど……。我々が主役なので。『カルネ村』まで駆け足で攻略しませんか?」

モモンガ「もう行く先が分かっている!? しかも攻略方法まで確立されている!?」

 

 転移先の世界。このフレーズだけで嫌な予感しかしないモモンガにとって未知の情報は不安要因でしかない。

 しかもなんだ、と追加で疑問に思う。

 どうしてゲームが終わるのに次があるようなことを言っているのだ、と。

 本来ならば意味不明のやりとりだ。しかし、たっち達は()()を熟知しているかのように落ち着いている。それどころか他のメンバーも同意の合図として頷いていた。

 

モモンガ「……今日は誰かの誕生日でしたか?」

たっち「いいえ。ユグドラシルが終わる日以外は何もないですよ」

ウルベルト「数日後にリアル世界が終わる予定かもしれませんが……」

 

 不穏な単語を織り交ぜる様子を見た他のメンバー達は思った。

 たっちさんといいコンビだ、と。

 鳥型異形種である『ペロロンチーノ*6』は拍手で感動していた。すぐさま姉である『ぶくぶく茶釜』にうるさいと言われ、張り倒される。

 

ヘロヘロ「時間が押し迫っていますので……。俺のセリフは無しでも構いませんよ。……全てのセリフを把握されているようだし」

 

 黒い触腕を振りながら椅子に座ったままヘロヘロは気さくに言った。

 普段目立たないメンバーに出番を譲る。おそらく『オーバーロード』作品の中で一番セリフに恵まれているのは自分ではないかと思ったからだ。

 言うべきセリフは会社の愚痴と健康。それを今更言ったところで面白いわけがない。

 

ヘロヘロ「なんなら俺がテーブルを叩きましょうか? 普段と違った行動を取ったら別の世界に行けるメンバーが増えるかもしれませんし」

ウルベルト「そこまで気を使わなくて結構ですよ」

 

 ヘロヘロはメンバーで唯一最後までモモンガの相手をしていた存在だ。彼を(ないがし)ろにできる者は誰一人として存在しない。

 本当ならもっと多くのメンバーは引退したまま円卓の間に来なかったのだから。

 

モモンガ「でも、最後の日に多くの仲間に囲まれて俺は幸せです」

たっち「別にモモンガさんに会いたいわけじゃないと思いますけどね」

ぶくぶく「ゲームばかりしていても腹は膨れませんから」

ペロロン「でも、いいの? ヘロヘロさん。折角の見せ場なのに」

ヘロヘロ「運が良ければ長大な休暇を得られるんです。それに聞き飽きたでしょう? 今更聞きたいですか? 単なる愚痴を」

スーラータン「……セリフの無い我々も出番が欲しいです」

死獣天朱雀「物凄い設定持ちの筈なのに未だにセリフも姿も出させてもらってません。なんとかしてほしいです」

チグリス・ユーフラテス「最近は獣王メコン川さんのことが出たらしいですね」

獣王メコン川「……ああ。ルプスレギナ*7の事でしょう?」

 

 ワイワイガヤガヤと賑やかさが深まってくる。その間にウルベルトは自身のコンソールを開いて現在時刻を確認する。

 残り時間は一時間を切っていた。このまま無駄話しに華を咲かせていてはそれだけで終わってしまう。

 ここで緊張を深めるためにBGMを速めた。

 

ウルベルト「我々がここで無駄にお喋りしても進展はありませんよ」

モモンガ「そうですね。では、第一〇階層に行きましょうか。……何故かメンバーが全員揃っていますけど……」

 

 揃っていると言っても原作未登場分は黒いシルエット状になっていて言葉は発せられない。

 何らかの行動アピールをしている。しかし、残念ながら誰も何を表現しようとしているのか理解できなかった。

 そして、そのすぐ後に場面が暗くなってきた。完全に暗くなるまでモモンガ達は頑張って会話を続けていた。

 

 

*1
CV 置鮎(おきあゆ) 龍太郎(りょうたろう)

*2
CV 吉野(よしの) 裕行(ひろゆき)

*3
CV 日野(ひの) (さとし)

*4
CV 間島(まじま) 淳司(じゅんじ)

*5
CV 後藤(ごとう) 邑子(ゆうこ)

*6
CV 立花(たちばな) 慎之介(しんのすけ)

*7
ルプスレギナ・ベータ。CV 小松(こまつ) 未可子(みかこ)

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