ふたりは断罪黙示録 作:弐式炎雷
思えば遥か遠くから巨大な物体を吹き飛ばす輩が居る筈なのにのんびりと進めるのはおかしい。
先程の戦闘は例外としても、あちこちで被害の跡が無いと戦闘している、またはしていたと断定することが出来ない。
まず起点となる場所によっても対応が変わる。
何もない虚空から飛んできた場合は『次元界』とかよく分からない概念が出てきてしまう。
村、または街からならば何らかの事情が予想されるが――
たっち「……さっき倒したクリーチャーの死体は……、放置したままでもいいんでしょうか?」
ウルベルト「気にしていたら日が暮れます。あそこでは戦闘は無かった。いいですね?」
たっち「……はい」
これ以上の引き延ばしは無意味である。
下手をすれば廃墟しか待っていない。
それはそれで物語としては問題ない。元より原作の流れに従う必要は無い。
村人が全滅していようが、それはそれでそういうストーリーだと割り切ればいいし、生きている保証を事前に知っている、という流れでもない。
単にたっち達が勝手に言っているだけだ。モモンガのように何も知らないキャラクターこそが自然である。
ウルベルト「村、らしきところにつくまで延々とモンスターとの戦いを描けば二〇〇万字を越えられ……」
たっち「……よほど密に出てこないと無理ですよ。……というかそれでいいのかって話しになります」
面白ければいいん
気が付けばBGMも適当に流れている始末。
獣道は一本だけなので迷うことは無い。
たっち「背後を見ると真っ白い世界に……」
ウルベルト「怖いです、たっちさん」
異形種でも怖いものはある。それは中身が人間であった頃の残滓が影響している。と、書くと化け物になり果てたように思われるが『
自分の身体として動かしている以上は
今度こそ邪魔者を排し、目的地に向けて進むふたりはプリ――じゃなくて二人だった。
読者の中では仲が悪いと言われ続け、仲違いが強調されているが延々とその状態が続いていたのか、と言われれば疑問でもある。
一日いっぱい怒り続けられる人間が居るのか。居ると仮定して、それは健全な生物なのか。更に居ると仮定してそれはどのような精神構造を持っているのか。
戦争状態の地域出身でもないのに。
捕虜として尋問を受けている最中でもないのに。
いや、それはあくまで希望的観測だ、という意見もあるだろう。
たっち「……精神論も長いとウザイですよね」
ウルベルト「勧善懲悪もウザイですよ。……ワンパターンばかりも困ります」
たっち「最新のトレンドを取り入れて語尾でも変えましょうか。そうだるん、とか」
ウルベルト「ちびっ子相手ならいいですが、大きいお友達相手ではキツイですよ*1」
雑木林の中から野生のラナーがたっち達を覗き見ている。
それに気づいて思わず足を止めた。
野生のラナー「呼びました?*2」
たっち「……ここ最近、ご活躍のようで」
ウルベルト「……そういえばモンスターと会話できるんですよね? 村の場所を教えてください」
野生のラナー「うふふふ。私、クライム*3に首輪をつけて飼うのが夢なんです」
それだけで話し合いは無駄だと
決まったセリフしか言えないのであれば無視するか、蹴散らすのが手っ取り早い。
それにしても原作ではとある王国の第三王女だというのにクリーチャー化しているとは――
データがあれば神でも殺せるのが恐ろしいところ。王女もまたデータがあり、経験値を持つ。
難度によってステータスの内容は変動するが無敵の
ウルベルトは会話するのも億劫と判断。即座にナイフ状になっている指で野生のラナーの顔を無造作に引っ掻く。
通常であれば切り傷になる。しかし、彼の場合は基礎ステータスが高いのでそのまま肉を断っていく。頭蓋骨の抵抗を無視する程に。
それだけ
それから雑木林に放り込んだ
彼らにとって記憶に残す価値が無い、とでもいうように。
多くの読者がたっち・みーに過大な期待を持っているようだが実際の彼がどのような人間かは実は理解していない。それなのに全幅の信頼を持つのはおかしいと思わないものか。
勇者を気取るいけ好かない勧善懲悪の権化でダークファンタジーにおける悪役だ。
善こそ敵。それがオーバーロードの本質である。
『亡国の吸血姫』をお読みの読者であれば『モモンガ』の行動こそが正しい在り方だと理解されているのではないか。
どんな手を使っても勝ちゃいいんだよ。
悪役ロールプレイの基本そのままだ。
ウルベルト「……たっちさんの人気がダダ下がりしますが、実際そんなもんですよね」
たっち「勝たないと全てを奪われる。いくら私でもせっかく作ったギルドの拠点を奪われたくないですから。……いくら終わったゲームだとしても後味が悪い」
死体となった野生のラナーを踏み越えつつたっちは前に進む。
彼の感覚では例え
装備品に付随している効果によって血などは付着しないけれど、感触はある。
たっち「……悔しい心を持つのはプレイヤーとしておかしいでしょうか?」
ウルベルト「……いいえ。負けるのが悔しいと思わない一流プレイヤーは居ませんよ」
優しい声色でウルベルトが言うと少し気持ち悪いと思った。
それに全く表情に変化が起きない。
たっち「やっと……村っぽいところが見えてきました」
ウルベルト「……本当はもう少し先の筈ですが……、まあそれもいいでしょう。やはり知っている村でしょうか?」
たっち「……どうでしょう。カルネ村じゃないなら帰ります。というかもう……廃村同然かもしれません」
カルネ村以外に興味なし。それはそれで鬼畜の所業である。
困っている人が居るなら助けに行くべきである。本来ならばそうなる予定でも実際のたっち・みーというプレイヤーは闇雲に人助けをしているわけではない。
彼が救いの手を差し伸べるのは自分の手が届く範囲だ。
正義は万民に向けられない。ものには限度がある事を知っているから。
たかが集落一つ
多くの二次創作は書籍の進行を無視して書かれる。もし――相対的に把握した上で進行していれば自分が書いているものがどれほどのスピード感を持っているのか理解できるはず。
僅か一〇〇〇字足らずしか書けない者達は説明部分を大幅に手抜きしている自覚を持たなければならない。
それは小説ではなくエッセイだ、と言い聞かせる事を勧める。それと詩集じゃあるまいし――を付け加える。
たっち「実際には村の様子も書かれているから、それを排するともう少し軽量化しますけどね」
たっち達の進む先に待ち構える次なる相手は大人に成長した美男子マーレ。
背中の中ほどまで伸ばされた金髪は何の飾り気も無いが美しく、まるで洗い立てのように輝いて見えるほど。天使の輪を幻視したとしても不思議は無い。
ほっそりとした長い脚はつい視点が向きそうになるほど魅力的だ。肉体的な成長を除けば装備品はほぼ一緒。
性別は男性の筈だ。それなのに細い腕もまた女性的に見えるほどの繊細さを醸し出している。
妙に艶のある表情は性転換したかのよう。髭も無く、化粧っ気も無い。それでいて清潔感がある。さすがに胸は大きくなっていたりはしなかった。
スカートの丈は膝を少し隠す程度。脛毛はきちんと処理されているらしく、浅黒い肌が見えていた。
先ほどと同様に複数体現れると危惧したが、一人だけだった。もちろん、念のために辺りを見回す。
大人のマーレ「……フッ。ボクの美貌に免じて帰りなよ。ここから先は修羅の国さ*4」
鼻を鳴らしつつ高慢な態度で見下す
声に関しては別の声優が当てられたようで、聞き覚えのないものだった。
たっち「……物凄く違和感があるのは……衣装がほぼ同じだからでしょうか?」
ウルベルト「……服飾関係が貧相なのはいつの時代も変わらないようです」
二人は軽くため息をつく。
大抵のクリーチャーというか登場人物は衣装の変化に乏しい。ファッション関係の作品でもない限り、最後まで同じ服という事はよくある。
読者や視聴者に誰だか分かるように配慮した弊害だと言える。
ウルベルト「……後で忘れる自信がありますが……、私は彼らの謎が解けた気がします」
たっち「……私もです。予想が正しければ……とても賑やかな印象なんですけどね」
二人は軽く頷き合い、マーレ担当に相応しい仲間を招聘する。
たっち達の要請によって姿を現したのは赤みを帯びた
ぶくぶく「あらいやだ。かっこいいマーレじゃないの*5」
たっち「さあ、創造主の特権でぶちのめしてあげて下さい」
ぶくぶく「えっ? いいの? クリーチャーなら仕方ないよね」
自分の創造物とそっくりな存在である筈なのに平然と対処できるのは異形種ゆえ。
己の感情に歯止めが利かない場合、ぶくぶく茶釜の様に抑制の効かない状態もありえる。
いや、他のメンバーも同様か――
ぶくぶく茶釜は敵性個体大人のマーレと対峙する。
成長した姿はついぞ見ることは無かったけれど。ゲームの仕様からも不可能ではあるが――
予想した感じでは納得のいく姿をしていた。
動きと連動するように発せられる声も男性的に聞こえる。
ぶくぶく「……どう倒すかな」
どんな能力を持っていようが構わないが、敵対すると色々と思うことがある。
自分達が遊んできたゲームは終わりを告げた。そう頭の中では割り切っている。しかし、気持ちはどうか。
単なる置物として作り上げた者達が自我を持って動き出したわけだ。それを祝福できないのがぶくぶく茶釜。
命令通りに動く人形。それだけであれば良かった。
自分の思い通りならないNPCは何かと不安である。今までの恨みつらみを言い出しかねない。
ぶくぶく「まるで育児放棄だ。それもまた試練か……」
自分に呆れつつインベントリから専用の武具を取り出す。
盾役と指揮官職を持つぶくぶく茶釜は『両手盾』による戦闘を得意とする。
ステータス的に筋力が低いのはヘロヘロも同様だが溶解液に頼らない分、熟練した経験が必要となってくる。
盾でも攻撃するスキルを取得すれば戦闘自体は可能だ。
たっち達は先に進めばいいのに何故か現場に留まっている。これはアニメでもよくある表現で、尺の都合やタイミングを計り損ねて能動的に進まなくなる現象だ。しかし、同時進行を文字の世界で表現するのは難しい*6。
あと数分で地球が崩壊する、と言っているのに数時間も経過してしまう。またはボールが飛んでくる間に三〇分近くかかりそうな長台詞を平然と喋るようなもの。
その証拠に大人のマーレも時間が止まったかのようにピクリとも動かないし、喋らない。
可愛らしい意匠の盾を装備しつつ敵と向かい合う。
ぶくぶく「かかってこいイケメン
大人のマーレ「〈
第六位階の魔法を唱え、ぶくぶく茶釜に向かって小さな木の実を投げつける。
その速度は常人には視認できないほどの速度。ぶくぶく茶釜は
ポニュン、みたいな擬音が聞こえそうなニュアンスの後、木の実――のようなもの――が身体に埋まる。
ぶくぶく「んっ?」
と、疑問に思ったとの同時に爆発が起きる。
広がった身体は時間が巻き戻る様に戻っていく。
同じプレイヤーであるたっち達は攻撃を安易に受けたぶくぶく茶釜に驚いたが致命傷とは考えていない。
珍しい光景が見られて少し楽しくなってきた、という気持ちを感じていた。
ウルベルト「本当に飛び散ってしまえばよかったのに」
ぶくぶく「そう? 広がった自分を俯瞰して見られないけれど、意思の伝達はなんとなくわかる。例えるなら元々の身体と同じように当たり前の事として」
たっち「切り離された場合はさすがに途切れるん
ぶくぶく「じゃないですか、にどれほど恨みがあるの? 切断に関しても多分……大丈夫じゃないかな。人間の時の様な視覚と一部の触覚の……」
説明が長くなるので端折ります。
強引な説明切りは大事な言葉も適応されるので勿体ないのだが、これを頻繁にするのは説明文をろくに書けない人に多い。
では、切らずに続けてみようか。
ぶくぶく「……続けていいの? じゃ、じゃあ遠慮くなく……。それよりマーレが黙って待っているんですけど」
説明回は誰もが行動を停止する。こうなれば誰も邪魔はしなくなる。
さあ、どうぞ。卑猥な桃色
ぶくぶく「えーと、触覚の……からね。触覚
ウルベルト「自分、
ぶくぶく「ウルベルトさんは足元まで自分の視覚って移せる?」
ウルベルト「……いえ、無理そうです。顔から下がりません」
ぶくぶく「
ぶくぶく茶釜が普段からとっている形態のままだと頭部らしき部分が
普段の視界は人間時と
これが肉体変化を起こすと小さな視覚が増えて、感覚が許す限り適応される。
もし、粉々に飛び散った場合は彼女の予想では視覚ではなく触覚のみが発達する。それに頼って元に戻ろうとしたり、遠くにある部位を探し出して取り込もうと――ある程度自動化された感覚で――する筈だ。そもそも元々人間であったぶくぶく茶釜が突然人間離れした能力を平然と使えるのには無理がある。意識を分断して別々の行動を取る――という事が本当に可能だと思うのか。いくら意識的にできると書いても。
そんな話しを大人しく聞いていた大人のマーレが次の行動に移り始めたのはぶくぶく茶釜が話しを終えた時だ。その影響からか、小刻みに震えているようにも見える。
攻撃を受けた感触としては大きなダメージではなかった。だが、ノーダメージというわけでもない。
受けた感触も『なんとなく』分かるのは感覚が鋭敏になっているか、専用の感覚器官があると予想する。
言葉で説明できない――人間とは違う――新しい概念のようなもの。
それを昔から自分の肉体として感じ取れるのはウルベルトやぶくぶく茶釜にとって不思議な感覚だった。
おっと、たっち・みーも。
ウルベルト「たっちさんもダメージを受けるんですか?」
たっち「食らえば受けると思いますよ。装備品が優れているから
正確にはトータル取得レベル六〇以上のクリーチャーであること。それは素の状態で、だが。たっちの場合はもう少し高いレベルでなければダメージは通らない。
ぶくぶく茶釜達のような
ぶくぶく「……そういえば、そこのイケメン。武器は持っていないのよね」
序盤の設定次第では後からそういう状態にも出来るが、説明不足ともいえる。
ここら辺は『ミスリード』なる手法を用いたと主張したいところだが、評価の色によって反応は変わる。
そもそも『杖を持っている』という描写があったのか。もう一度、文章を確認してほしい。
これは意図的か、それとも――
大人のマーレ「……ふふ。ボクの攻撃がこの程度で終わるわけが……」
ぶくぶく「隙ありですけど」
触腕を伸ばして大人のマーレの股間を殴打する。
ぶくぶく茶釜の取得している
仲間をほぼ自動的に守る
予想では後者だ。限定製品など数年後には大量廃棄されるのがオチだからだ。
大人のマーレ「ぐっ」
ぶくぶく「……クリーチャーだとこんなピンポイントな攻撃は大して意味がないようね」
ゴスゴスと当ててみると普通のダメージとして処理されているらしく、痛みの表情こそ見せるものの怯みは見せない。
丈夫な股間で大したもんだ、とぶくぶく茶釜は感心した。
更なる追撃として触腕から盾による攻撃に切り替える。
いくらか魔法を食らったとしても
痛覚はある程度あるようだが、別段怯むほどではない。
たっち「股間ばかり責めるのは見ていて陰湿としか」
ぶくぶく「弱点を狙うのは攻撃の基本よ」
独特の効果音は鳴らなかった。
攻撃をしつつも下着を外したらどうなるのか、という思いはあった。
立派なものが
元々の種族のデータを元に細かい外装を与えているとはいえ、ゲームの中では表現できない――されない――部分が今は遠慮なく公開されている筈だ。
予想の一つとしては何もついていない奇麗な
多くのクリーチャーにも言えるけれどゲーム会社などの都合で改変された生物的特徴というものが転移などの作品ではどういう風になっているのか。
死体は実に生々しく、倒されたら消えるという風にはならなかった。
ぶくぶく「たっちさん。ちょっと顔面を数発殴ってみて」
たっち「……平坦な言葉で言われると怖いですよ」
ぶくぶく「『
今まであった表現が今は無い。その影響で受ける印象も違うのかもしれない。
そう思いつつ魔法を使おうとしている大人のマーレの顔を
敵性クリーチャーはくぐもった声は発するが全然怯んでいない様子だ。キッとたっちを見る顔は真剣そのもの。しかし、そんなことは全く気にしないたっち・みー。
ぶくぶく「
大人のマーレ「あっ、ううっ、おっ……」
何か言おうとしているようだが、すぐに中断させられる。
しかし、たっちも容赦ないな、と思いつつも言われた通りに殴る彼には
たっち「
ウルベルト「
たっち「私もモンスターを倒しますし、
それはそうなのだが、とウルベルトは疑問を抱きつつ――
悪にこだわりがあると評判の黒山羊から見ても怖いと思わせるたっち・みー。いや、これが異形種としては普通のことかもしれない。
それと、もはや脚本だの小説だのの形式はどこへやら。