ふたりは断罪黙示録 作:弐式炎雷
時間差を置いて殴り続けてみたものの一向に顔が膨れ上がらない。というよりそこまで殴る必要も無さそうだが不可解な敵は絶好の実験
対象個体『大人のマーレ』は推定レベル七〇以上。第六位階以上の
見た目が妖艶な美女風だが性別は男性。
急な
たっち「……一向に戦意を失わないとは……。自動的に襲ってくるクリーチャーの悲しい
ウルベルト「どうせならパンツを脱がして確認しましょうか?」
ぶくぶく「……はた目から見ると陰湿なイジメよね」
十中八苦、彼らがモンスターと交戦していると思うプレイヤーは居ないに違いない。
たっちも装備品を剥げるのか、興味があった。
大抵の場合、窃盗
コマンドを介さない自然な動きだけで何処まで出来るのか。
たっち「……『R18』タグが付いてたら挑戦している気がしますが、今回は殴り殺すだけで……」
ウルベルト「……全国のたっち・みーファンが聞いたら泣くような
たっち「見えないファンに何を言われようと平気ですよ、私は」
ぶくぶく「……現場に弟が居たら脱がしていそうね。……なんと恐ろしい現場だ」
たっち「実際のところ……」
大人のマーレに馬乗りになったまま喋り続ける聖騎士。
それに対してウルベルト達は何も言わない。
ゲーム時代の感覚が残っているから、ともいえる。戦闘中に態勢を気にしていたらやられるので。
奇麗も汚いも無い。アインズ・ウール・ゴウンは勝利の為なら――規則の範囲内で――何でもするギルドだ。
自動回復か軽度の回復魔法でも使っているのかと思った。それはそれで長く痛めつけられるだけだから問題は無い。
ウルベルト「そろそろ次に行きましょう。もう村は壊滅している気がします」
たっち「せっかく出会ったクリーチャーを野放しにするのは……」
ぶくぶく「手足をもいで持ち帰ればいいんじゃない? 何だか……、こういうのが普通に出てくる世界っぽいし」
特定のイベントを持つクリーチャーであれば単調な攻撃やセリフを言うだろうか、と疑問に思ったので。
たっちが離れた時に――おそらく――何らかの魔法とか使うはずだ、と予想する。
使わせずに倒してしまえばいいのだが、それはそれで勿体ない気もする。
たっち・みーは大人のマーレの鼻に指を突っ込む。そして、そのまま地面から起き上がらせて持ち上げていく。
指の力だけで大人程の生物を持ち上げる様は
たっち「ウルベルトさん。派手な花火をお願いします」
ウルベルト「……全国のマーレファンの皆さん。これが我々のプレイスタイルです。意外に思った人。やっぱりなと思った人。言いたいことはあると思いますが……」
ぶくぶく「クリーチャーやプレイヤーいちいち謝罪するプレイヤーが何処に居るの。敵は殺せ、よ。見た目が可愛いだけで倒せないなんて人は三文小説の冴えない主人公だけでお腹いっぱいなんだからね」
特に味方がケガや死亡しただけで人間の国の兵士を数万人も逆しても平然としている主人公とか。
女だけは殺せない。人は殺せない。仮に殺すと物凄い罪悪感を覚えるような偽善者とか。
その手の創作物には飽き飽きだ。
たっち「そ~れ、ぶっ飛べ~」
声だけは楽しそうに言いながらたっちは大人のマーレを空高く投げ上げる。それを見越したウルベルトは呪文の用意を始めた。
どんな魔法も発動まで意外と時間がかかるものである。速攻魔法と言えど全てが適応されているわけではない。
とはいえ、読者には体感時間が伝わらないが各
ちなみに一番長いのは『永続』である。
ウルベルト「派手に散れ。我が深淵なる魔法によって華を咲かせよ。〈
この魔法は本来第八位階の火属性魔法である。先の魔法同様にウルベルトが扱えば威力が段違いに上昇する。
任意のタイミングで爆発を生じさせる魔法でもあるので、扱いに慣れた者にかかれば非常に危険なものとなる。
右手に生み出した魔法――直径はおよそ二メートル以上――はかなり巨大な大火球の
近くに居るぶくぶく茶釜たちに熱が伝わっていないのか、平然としていた。普通であれば魔法とはいえ炎の輻射熱に炙られる筈だ。
平気なのは種族による恩恵か。
ゲーム内であれば『
生み出した魔法は誘導機能を有していない。任意で狙いを付けるしかない。
熟練したプレイヤーであるウルベルトはしばらくゲームから離れていたとしても感覚はまだ残っているし、僅かな時間とはいえ、ある程度の勘を取り戻している。
無造作に思える投擲によって標的に向かう大火球。久方ぶりに見る魔法にたっちとぶくぶく茶釜は感心しながら眺めた。
多少、狙がずれようが使った魔法は当てる必要が無いものだ。
しかし、ここにモモンガ居れば隠密行動ではなく物凄く目立つ行動ばかりする彼らに酷く呆れた事だろう。
運が良い事に今は外の様子を探っている暇が無かった。
たっち「たーまやー」
ぶくぶく「マーレの玉ごと派手に散ったわね」
ウルベルトの感覚により魔法は派手に大爆発。正に太陽が突如出現したかの如く。
広範囲に広がる爆炎に巻き込まれた大人のマーレは火達磨となって――たぶん――散ったか、死体として地面に叩きつけられる筈だ。
あの攻撃に耐えられればもう一度打ち上げる所存ではあったが――三人の興味はかなり早い段階で霧散する。
ウルベルト「何か喋るかと思いましたが……。しっかり死んだようですね*1。反応がありません」
たっち「普通のクリーチヤーは死んだら消えるか、アンデッドとして蘇ります。それとデータクリスタルとユグドラシル金貨を落とすのが
ウルベルト「そうでしたね。そういうことにこだわる二次創作は一つか二つ……。あれ? これ前にも言いませんでした?*2」
たっち「……我々はのんびりと喋っているように聞こえるかもしれないけれど、実は物凄く早口だった」
ぶくぶく「相対的な時間の流れはそれぞれで感じ方が違うからね。……実はまだ五分も経過していないという……」
体感時間は長い。けれども経過時間は思っている程短い。
思考速度の問題もあり、それはあながち間違いでもなかったりする。
ウルベルト「実はたっちさんが投げる前に鼻が千切れて彼は空を飛ばなかった」
ぶくぶく「それは無い。私はしっかり見たもん。あと、服だけ地上に残されたってオチも無い」
それにしても
後方に居る仲間にも見えている筈だが、おそらく大した問題だと思っていない。
ペロロンチーノの背に乗っているシャルティアは口を押えて驚いている、かもしれない。
ギルドメンバーにとっては
ぶくぶく「あれ? なんでうちの
ウルベルト「転移の影響では?」
何でもかんでも『転移の影響』にしてしまうと謎が謎として機能しなくなる。
似てはいるが大人版である。それとクリーチャー名は地の文だけで彼ら自身が名乗った事はない。
あくまでビジュアル的に理解しやすそうな表現として。
ぶくぶく「犯人は地の文ね」
たっち「ある意味では真理だと思いますが……。進むには支障があります」
ぶくぶく「そうね。途中で唐突なエンディングとかされるの嫌だし……」
完。または終幕。
やろうと思えば出来る。それが創作者の特権である。
終わりを決めるのは読者ではない。
ぶくぶく「……よし。進もう。進めるだけ進もう」
ウルベルト「我々の戦いはこれからだ」
たっち「第一部・完。……長い戦いでした」
ぶくぶく「それから数百年後、新たに転移してきたプレイヤーと出会い、数々の冒険の幕が……」
それぞれ終わりそうなフラグを口に出しつつ進む。集落まであと少し――
既に視界には収めている。黒い煙も見えている。それなのに彼らはゆっくりと徒歩で進んでいた。
もちろん、自分達は異形種だから。いきなり突貫すれば混乱だけが広がる。特にぶくぶく茶釜は
ぶくぶく「人型になろうと思えば出来るけれど……。肉体的に今の
たっち「そこは相変わらずズボラな事で」
ウルベルト「今のアバターは太らないと思いますから。そのままでいいん
じゃないですか禁止法でも施行されたように――
それにしても急がないと廃村となると分かっているのか。いやに暢気な三人組である。いや、後方にまだ数人のギルドメンバーがセリフ無しで付いてきている。こちらも危機感が欠如した有様となっていた。
先程の戦闘も実は見ていたが、止めようと思った者は誰も居ない。
セリフをばっさりと切り捨てれば居ないものとして扱えるし、後で『実は』と付け加えれば居るものとしても扱える。
これが文字世界の妙である。代わりに漫画やアニメの場合は隠しようがない。
特にアニメはコマ割りが無くなり、大抵大画面だ。
漫画は逆に小さなコマの場合もあるのでシーンや情報量の都合では非常に見辛くなる。
ウルベルト「……今更ですがピンポイントで例の村に行くとして……、充分に怪しい一団ですよね、我々は」
たっち「そうですね。お約束ではありますが……。距離的な都合で村が一番近い。馬車でもあれば無視して大都市に行けるんですが……」
これほど遠い道のりになるとは。しかし、書籍の進行具合ではこれくらいが普段通りだったりする。
合間に回想シーンや村側の戦闘シーンが挿入されるので。
今作はそういう余計な『相手側の事情』は書かれないので*3一本道のストーリー進行となっている。
後方に飛ばされた筈の
五本の太い脚を器用に動かす様に一同は感心する。あと、地面を穴だらけにする強靭な脚力とそれに伴う地響きが凄まじい。
メンバーの一人が『実はスキップをミスした拍子に空高く飛んだだけだったり』と呟いた。
相対的な大きさからあり得ない事も無い。しかし、黒い煙はさすがに襲撃イベントの筈だ、と。
夕飯時に発生させる煙は大抵は白い。黒いのは料理を失敗した時では、と思うものの燃料が薪の場合は場合によれば黒くなるのか、と疑問に思う。
まさかそんな下らないオチなわけが、と人間時であれば脂汗が出るメンバーが多数。
たっち「大丈夫ですよ。謎のアナウンスを信じれば凄いのが居る筈です」
ウルベルト「村に居るとは言ってませんでしたが」
そうしている間にも
たくさんの木々を薙ぎ倒すかと思われたが
たっち「さあ、面白くなってきましたよ」
ウルベルト「相対的に不安が増大しました」
ふと思えば――
分かってて村の救済に行くのは実に怪しい。恩着せがましい。分かっているなら襲われる前に助けろよ。そもそも――
全く
異世界に転移。よーいドンで救済。全てを見透かしたような言動ばかり取って世界を平定し、ハッピーエンド。
――なんだその、えーと、んー。な、なんだ。なんなんだ。*4
たっち達が下らない脇道に逸れようとしたものを無理矢理に修正して強引に辿り着かせたものの、現場は騒然となっていた。*5
原作からそうだったが村の名前が書かれた看板は存在しない。だから、ここが何の村か村人に尋ねなければ判明しない。
たっち「都合のいい村人は全員死んでいると思っていいのかな?」
ウルベルト「ただの廃村ですよ、それじゃあ……。そもそも我々が向かう先に目的の村があるとは限りません」
そうなのだが、オバロはそういうご都合主義がある程度は必要な作品である。
事件が勝手に起こり、人々が右往左往する。それに我らのモモンガことアインズ様が関わったり、触れ合ったりする。
世界征服という目標を掲げてみたものの実際問題として未知の探求こそが本来の楽しみであり、重度の引きこもりではない。
社会人だから引きこもりである筈は無いのだが――
ウルベルト「もし、私一人で旅をするならほとんどデミウルゴス*6に一任している話しになるでしょうね」
その場合、部下任せの部分を省略すればビックリするぐらい物語が消化されてしまう。
ある意味では面白みのないファンタジーだ。
しかし、
たっち「ごめん下さ~い」
ウルベルト「そもそも会話が通じるのか、という問題ですが……。通じるんでしょうね」
ぶくぶく「アー●語や●●ック語だったら嫌だな……。最近のだとリパ●●●語というのがあるようね。個人的にはやっぱりヒュ●●●語の会話文を聞いてみたい」
仮に喋ったとしても誰が理解できるのやら。
人工言語は本当に本気で理解したい人しか通じないし、広まらない。
例え漫画化、アニメ化しても一時的なもので終わる。海外作品のように長く愛される作品が生まれにくいのも問題かもしれない。
たっち「翻訳に適した魔法というものがありましてね」
ウルベルト「……少なくともたっちさんには扱えないですよね?」
回想シーンしか出番が無かった為か、
しかし、そこに
オバロ的にはたっち達は拠点に引きこもり、NPC達が
たっちの言葉に反応したのか、村の奥に居た青年が――それにしては
まるで――敵を発見した様な異様な雰囲気を醸し出しつつ。
屈強な青年村人「なんだてめえら。
敵意剥き出し。それと村人にしては良い身体つきをしているとたっちは感心した。逆にウルベルトは嫌な予感を覚えている。
ぶくぶく茶釜は良い男、と小さく呟いていた。
確かに良い男なのだろう。筋骨隆々の金髪碧眼の異国の男性。歳の頃は二〇代半ば。
農作業で鍛えたにしては筋肉の発達がおかしいくらい見事なものだ。
たっち「ええ、そうなんですよ」
ウルベルト「……すみません。今のは冗談ですよ。たっちさん。救済イベントから襲撃イベントに切り替えてどうするんですか!」
たっち「すみません。……戦い甲斐のある筋肉を見てつい……」
それと足元に転がる武装した襲撃者の屍らしき山も――
どうやら一足先にイベントが一つ
●●●●●と●●には書けなかった本当の高難易度オーバーロード。
おそらく●●●・●●●すらもギャグ方面でお茶を濁す結果しか書けなかったものである*7。
たっちやウルベルトから見て村人のレベルは六〇以上。どうしてそう言えるのか、レベル五〇台のモンスターを今まさにおばちゃんと思われる村人が素手で殴り殺している現場を見てしまったからだ。
見間違いでなければやられているモンスターは武装した
鎧は身に着けていなかったので襲撃に相乗りして返り討ちにあった模様。どういう理由かはたっち達には窺い知れないけれど。
一歩間違えれば自分達もああなると――
屈強な青年村人「冒険者か? それにしては奇抜な格好だな、あんたら」
ウルベルト「異形種も居るんですが……」
後方に居る赤い
真っ当な人間であれば異形種を見ただけで嫌悪する。それはウルベルトの知識のみの情報ではあるけれど、この集落では見慣れたものなのか、と。
ぶくぶく「精悍な青年君。我々は怪しくないよ」
頑張って人型に変態しても説得力が皆無である。
どう見ても異形。それで人の好いモンスターだと言い張るつもりか、と思いつつもウルベルトは青年の反応を窺う。
多少、眉は寄せたが襲ってくる気配はない。むしろ返り討ちにするからかかってこいと言わんばかりの自信が窺えた。
たっち「ふふふ。我々の姿は世を偲ぶ仮の姿っ! 世界に平和をもたらす為ぶっ!」
つい、勢い余ってウルベルトはたっちの背中を蹴りつけた。並みの攻撃ではビクともしないと判断し、渾身の力で。
たっち・みーはメンバーの中でも割合悪乗りするタイプだと今更ながら気づいた。
もし、ペロロンチーノとヘロヘロでも居れば五人戦隊だとか常軌を逸した言動をするに
きっと至高戦隊とか頭の悪いなネーミングの集団だ。
あとナザリックは変形も合体もしない。ちびっ子のみんな、悪いな。こればっかりは諦めてくれ。
――たっち・みーに飛び蹴りをかます現場をもしNPCが見ていたら大騒ぎしているところだ。
ウルベルト「長旅で少々頭がおかしくなっているだけです。我々は旅人です。村々を回っているのですが……、なにやら取り込んでいるご様子……。モンスターの襲撃でもあったのですか?」
地面に顔を
確かに奇異な姿をしている連中ではある。だが、そんな存在は村の周りではありふれている。
屈強な青年村人「南方というか南東方面からモンスターの進軍があったそうでね。ここ最近はよく襲いに来るんだ」
ウルベルト「……そうですか。もし、よろしければ討伐をご一緒させていただけませんか? 何なら村の仕事も手伝いますよ」
屈強な青年村人「旅人さんに手伝ってもらうようなことは無い……と、言いたいところだが……。いくつか
青年の言葉に相槌を打つウルベルト。
まずは第一段階を突破する。しかし、自分の知っている展開と違うので戸惑いもあった。
南東からモンスターの襲撃。それは全く未知のイベントである。
倒れ伏しているたっちを無視して村に案内されるウルベルトとぶくぶく茶釜。
異様なモンスターにも関わらず通してくれたことを尋ねなければならない気がしたが、それらはすぐに解決する。
この村には人間以外の種族が居たからだ。
醜悪な顔だが肉体的に人間より優れた亜人種。それと自分達と同じ異形種達が。
屈強な女村人「この村は『キーノ村』さ」
たっち「……なんだ、カルネ村じゃないのか」
ウルベルト「帰ろうとしないでください。村は村です。歴史が変わってたって別にいいでしょう」
たっち「えー。カルネ村じゃないと先の展開が分からないもん。やだー、やだー」
棒読み気味だが気持ち悪い発言に聞こえた為にたっちの後頭部を拳で殴りつけるウルベルト。
新しい展開に童心に帰っているようだ。道理ではしゃいでいると思ったら、と呆れてしまった。いや、自分も少し童心に帰っている気がするから一概に責められないか、と。
家屋の修復は手際のよいメンバーを呼び寄せてやらせた。ウルベルト達は戦闘は得意だが手先の細かい仕事は苦手である。これは取得している