ふたりは断罪黙示録 作:弐式炎雷
カルネ村は確かにあった。他の村に取り込まれて消滅してしまった後だった。*1
端的に言えば区画整理によって。
度重なる襲撃や犯罪者たちの手によって力なき村民は苦渋を舐めさせられていた。しかし、そんなことをいつまでも続けることは出来ないと王国のみならず国民の食糧事情を預かる各国が国際会議を開き、農業の革新に着手することになった。もちろん、林業や漁業も議題に含まれる。
貧相な村人「まずは地域に出没するモンスターの掃討から始まり、他の村の協力を取り付けたりと大忙しなんです」
一休みの為に借りた
村民全てが筋骨隆々というわけではなく、屈強なのは全体の三分の一程。それでも多いくらいだが――
ウルベルト「この地域の事は詳しくは存じませんが……。それは国全体の問題ですか?」
貧相な村人「さあ? 私は国の全てを見てきたわけではないので……」
その答えに安心するウルベルト。
村人なのに国の全ての事情を知っているかのように話す
これが普通なんだよ、と過去のゲームに出てきた村人たちに言いたいくらいだ。
現在居る村は『キーノ村』といい、インベリア神国領だと言う。
ウルベルト「……インベリア?」
貧相な村人「『トブの大森林』を含む国家の事です。大部分は森の中にありますが……」
たっち「……ますます
村人の知識はインベリア神国の詳細までは持っていなかった。
首都は森の中にあり、森以外の国土はそれほど広くない。しかし、村人が生まれる前から国が存在していた事だけは間違いないと言った。
併合したカルネ村は名前は消えたものの村人まで消えたわけではない。
より広大な土地を開墾できるようになり、様々な農作物が作られるようになった。その影響からか、作物を求めて度々モンスターが襲ってくる。
しかし、今回は謎の武装勢力まで来た。おそらくモンスターの襲撃に乗じて土地を奪う為ではないかと、予想されている。
それらを返り討ちにする屈強な村人が居るわけだが――
貧相な村人「彼らは首都で身体を鍛えてきた若者でね。年寄りたちには大助かりさ」
たっち「それにしては随分と
ウルベルト「……我々の出番が無いほどに」
ぶくぶく「……何のためにここまで来たのか」
優しい難易度であればたっち達が強さを見せつける内容になっている所。しかし、高難易度は彼らよりも頼りになる存在によって迅速に解決させられる。もちろん、それに見合った敵も存在する。
人はそれを『お約束』と呼ぶ。
折角なので色々と聞けるだけ尋ねてみた。しかし、ここで必要以上の情報は出せない、という場合は手詰まりになる。
それはそれで高難易度らしいのだが、自前の捜索だと更なる時間がかかってしまう。
ご都合主義のファンタジーであればそれもありではあるが――
ウルベルト「そういえば、ここに来る途中で見かけましたが……。矢鱈と巨大なモンスターが居ました。あれは……」
貧相な村人「黒山羊のタマちゃんかい? さっき派手な音が聞こえていたから、そうじゃないかと思ってたけど」
たっち「……随分と可愛らしい名称で……」
黒山羊と出たので
村人が把握しているということは前々から存在が認知されていたということ。それにしては随分と落ち着いているものだとウルベルトは呆れるがたっちはあまり興味を示さなかった。
地味な情報収集は戦闘特化のプレイヤーである彼には少し退屈であった。
貧相な村人「王国が誇るアダマンタイト級冒険者『覇王』エンリ様の愛玩動物でね」
ウルベルト「……凄い事になっているようで……」
自分達の記憶にある『エンリ』なる存在は確かに『覇王』も含まれている。しかし、それらが実際に使われるパターンは少ない。
大抵は勘違いによる成り上がりが精々だ。その中にかのモンスターを使役しているものは数えるほどしか存在しない。いや、ほぼ無いに等しい。見つけたとしてもごく僅かな筈だ。
多くは謎の吸血姫や女暗殺者の相手だ。
改めて思うが――台詞中心の会話劇は脚本形式が相応しいと言っても動きや内情が分かりにくい。
それと個別の演出も気が付けば無くなっている。せいぜい音楽の指定くらいか。
村人は説明口調で丁寧にたっち達に色々と教えてくれた。と書けば大抵の事は省略できるので楽である。
基本は村の成り立ちから。しかし、見ず知らずの者達に語るものか、と思われるが滅多に来ない来客であればあり得る。もし、それを職業としているのであれば
であれば今の状態はどれに当たるのか。
貧相な村人「実は私は亜人なのさ」
ウルベルト「……そのノリに乗らなくても結構ですよ」
貧相な村人「そうかい? 雰囲気的に意外な展開が好ましいかと思って」
そう言いつつも説明の殆どに嘘は無いと改めて明言する貧相な村人。
貧乏というよりは身体つきが痩せ型なので。かといって家が豪華かというとそうでもない。
可も無く負荷も無い農家らしい佇まいだ。
使い古した農機具が散乱し、一部は修復によって輝いていた。
ぶくぶく茶釜は許可を貰って家の中を探索する。そして早速排泄関係で絶句する。
近代的な村ではないので虫がたくさん湧いていた。
それ以前に――*2
ぶくぶく「……リアル便所。下水関係も未整備か……」
感心していると身体に小さな虫がピトピトピトとくっついてくる*3。それらを無意識的に吹き飛ばしつつ天井に視点を動かす。
通常のファンタジーでは絶対に見ない風景がそこにはあった。
ぶくぶく「……古き良きファンタジー。しかし、それは……」
かつて自分達も持っていた文化である。
近代化した世界の住人であるぶくぶく茶釜にとっては逆に憧れを抱く。けれども長居したいかと言われると答えに窮する。
より一層の不満でも抱けばこの世界の様な暮らしも悪くはないか、と。
だが、モンスターが居るし、おそらく国による徴税はかなり重い筈だ。だからこそ戦乱が良く起きる。
それを知っているプレイヤーならば異世界に永住するのは――基本的に世捨て人の境地に至った者くらいだ。
ペロロン「姉貴……。そこに居るのは絵面的にも不味いって自覚ある?」
天井の更に上から声がかかった。
普通の感覚だと何も違和感は無い。けれども今自分は異形種であり、しかも
その考えは意図的に意識から外していたが改めて言われると恥ずかしさがあった。
ぶくぶく「……絵面を気にしていたら何も発見は無い。……で、弟。何か用? お姉ちゃんはウンコの使徒として物思いに耽りたいんだけど」
ペロロン「……ここがアニメや原作じゃなくて良かったね。……あとドラマでもなくて……。ドラマはドラマなんだけど」
家屋の屋根に陣取る
それぞれ好き勝手に村人と交流を始めていた。
襲撃イベントは無かったが返り討ちイベントが発生していた。これにはたっち達も驚きを隠せない。
るし★ふぁー「にゃーん」
ウルベルト「……天下の往来で自己アピールですか?」
村の中心部と思われる場所で存在をアピールする
簡単に言えば地面に寝転がって可愛い動物ですよ、と伝えていた。
これが可愛い雌猫であれば可愛げがあるが雄である。いい歳したおっさんである。
汚れが付かない事を利用した行動だが、仲間から見れば気持ち悪いの一言に尽きる。しかし、
至高の御方が村人風情に腹を見せて媚び
シャルティア「るし★ふぁー様ぁぁ!」
るし★ふぁー「ふっ……。扶養家族の為なら俺は自分を犠牲に出来るのさ」
寝転がったまま
モモンガでなくとも蹴り飛ばしたくなること請け合いである。
獣王メコン川「……じゃあ今回は
るし★ふぁー「コロコロ種族が変わると俺達の存在意義が薄れる。……頑張ってデザイン画をプリーズ*4」
これをアニメに起こすと複数のモザイクモンスターが居るのだが、なんともシュールな風景である。
既に姿が確立しているメンバーは違和感が無いのに――
発注ミスによる作画崩壊といい勝負である。
ペロロン「……あーあ、天使召喚の鑑賞会はお預けか……」
るし★ふぁー「最高位天使を召喚するって奴ですね」
ペロロン「……るし★ふぁーさんが例えで言っちゃうとセリフのコピペと大して変わらない……。……まあ、そうなんですけど」
地面に寝転がっていた問題児が起き上がり――今更――辺りを見回す。
死屍累々とした惨状の片づけに村人は大忙し。それに対しギルドの面々はただ見物するのみ。
一部は情報収集している。るし★ふぁー達は暇を持て余している。
武装勢力は既に鎮圧されているので何もすることが無い。
なんとも頼もしい事で――とすっかりやる気を喪失。
たっちは役に立たないと分かったウルベルトが率先して情報集めに奔走し、ぶくぶく茶釜は彼を補佐する形になっていた。
元々リーダー格だった男がどうしてポンコツとなり果てたのか。それは転移による――以下同文。
他のメンバーも同様であると考えるのが自然である。――何が*5。
ウルベルト「まず我々は村人の好意により、近くの空き地で寝泊まりしてもいい事になりました」
ぶくぶく「寝床は自分で作れ。……難易度が高い」
ウルベルト「異形種の中には飲食不要が居るだろうから食事抜きです」
ぶくぶく「よく分かっていらっしゃる。無知を利用した仲良し作戦は難しそうよ」
るし★ふぁー「村長は? 気のよさそうな村長からたくさん情報は貰えないの?」
ウルベルト「農作業に出かけてて不在でした」
ぶくぶく「まさかの不在。大抵は暇を持て余して滞在しているものよ。しかし、現実は違った」
楽しそうにぶくぶく茶釜が合の手を入れる。
自分達の都合に合わせて登場人物達が揃っているわけではない。それぞれ生活の為に動いているので、それぞれにタイミングというものがある。
それらを上手く利用することで伏線や辻褄を合わせていく。しかし、今作はそれらを無視する形である。
元より全てを書ききる気は無い。よってどうなるか、村長カモン。
最強の村長「……おわっ、いきなり風景が変わった」
ぶくぶく「……最強」
何もない空間から突如として屈強な村人よりも一回り程筋肉が厚そうな精悍な男性が現れた。
呼べば出てきます。それがご都合主義である。
るし★ふぁー「勝手に転移する装備品を持っている人みたい……*6」
ウルベルト「元に戻しておいてください。そういうご都合主義は要りません」
その言葉に反応し、最強の村長は消え去った。
村には居る事が分かっているので後で会えばいいだけだと判断する。
ウルベルト「まず、るし★ふぁーさん。我々の寝床を作ってください」
るし★ふぁー「いやいや。ここはアウラ達にやらせましょう。原作でもそういう役回りだったでしょう? せっかく命令できるんですから」
ブルー・プラネット「仕事が欲しいと訴えてくるNPCを使うのは悪くはありませんが……。ちゃんと出来るんですか?」
今まで命令された単純作業しか出来ない事を知るからこその疑いだ。普通のプレイヤーであれば当然出てくる問題である。
それに自我が芽生えたかどうか半信半疑なところもある。
ぶくぶく「知能は高いから出来るはずよ。でも、そんな命令与えたことないし、そもそも戦闘以外は何が出来るのか……」
ペロロン「……俺達のNPCは……。いや、実際にやらせてみよう。戦闘は俺達が担当。細かい事務作業はNPCって事で」
たっち「命令ばかりする傲慢な上司みたいですね」
ウルベルト「部下を使うのは当たり前の事です。要はどういう命令を与えるか、です」
ブルー・プラネット「木材は三年ほど寝かして乾燥させたものでなければ建材として使えないって分かってるのかな?」
ペロロン「リアル世界の事情をあいつらが理解しているとも思えませんが……。そこは便利な魔法で解決すればいいんじゃない? 案外、リアル世界より色々出来るかもしれませんよ」
ウルベルト「では、魔法はぷにっとさんとタブラさんの意見を聞くとして。武装勢力や情報は引き続き我々が集めます」
ぶくぶく「了解」
たっち「……襲撃イベントが無いとは……。我々はどうしたらいいんだ」
がっかりするたっち。そのイベントから全てが始まるというのに序盤で喪失してしまうとは、と。
こうなると次は右か左に向かう、という選択をしなければならなくなる。
所謂――マルチシナリオだ。順番がフラグに影響を及ぼさない限りしばらくは何を選んでも大丈夫だが、歴史が存在する世界ではやり直しは出来ない。
特定のイベントに関連している場合は当然、後々影響が響くものだ。
自分で動けるプレイヤー達はそれぞれ支度を始める。
情報集めと拠点づくり。暇を持て余す者。雑木林に向かって怪しいモンスターが居ないか調査する者。
シャルティアは今のところペロロンチーノの背中に乗っている。
たっち「……よくよく考えたら我々が襲撃者を迎え撃つには過剰戦力ですよね」
ウルベルト「……そうでしょうね」
襲撃者どころか世界すら滅ぼせるのではないか、と。
それとナザリック地下大墳墓に今も居るギルド長モモンガの存在を薄っすら忘れかけた。
キーノ村に来てもうすぐ一時間。プレイヤーとしてのステータスの影響か。経過時間がいやに遅い。
おそらく、はた目からは相当早口で行動しているように見えている筈だ。
体感時間の妙というか不思議な現象である。
ウルベルト「もうすぐ王国戦士長が来る頃合いでしょうか?」
たっち「役に立たない集団に活躍させるのも酷でしょう」
ウルベルト「……現地の人達は頑張っているのです。我々とは違い……。レベル三〇台の行動などたかが知れる。たっちさんも弱体化してみたらいかがです? そうすれば我々の早口が聞き取れないレベルだと気づくかもしれませんよ」
たっち「レベル三〇なら村人の方が強いですよね。弱体化すると元に戻すのに数日はかかりますから嫌です」
ウルベルト「ここでは何十年もかかりそうですけど」
たっち「……大丈夫。かなり高レベルのクリーチャーが出てくればいいんです」
ウルベルト「その前に駆逐されますよ。それより姿が確立しているメンバーを集めておきましょうか。残りはどうせ役立たずばかりだから」
詳細な情報があればいいのだが、おそらく全てが解禁される機会は無さそうだ。
知らないモンスターの情報が多く出ているし、既成クリーチャーかどうかの判断も難しくなっている。
魔法からして名称変更が多い。この状態で進まれると二次創作は益々作りにくくなる。
既製品のままというのも問題ではあるが実際に同一名称があるから困る。*7
ぶくぶく「では、早速行動開始。我々のカルネ村から冒険が始まる」
ペロロン「俺達の使うカルネ村の由来は何なの? それあまり意味ないよ」
ぶくぶく「ノリよノリ。いいじゃん。元カルネ村でもあるわけだし」
併合されただけでカルネ村ではないとは言い切れない。
名称変更されたとはいえ元の名称で呼んではいけないわけでもない。
空き地に怪しい一団が拠点を製作しているころ、この国の全貌を解明したいところだが――
小さな村が全ての情報を握っているわけもなく。
まず判明しているのはインベリア神国の領土内である事。
両隣に聞き覚えのある国がある。
戦争状態については村人には窺い知れない事だったので不明である。
武装勢力は盗賊上がり上がりだったり、モンスターが偽装していたり、様々である。目的は金品か食べ物。
ウルベルト「……南方には『スレイン法国』」
たっち「『リ・エスティーゼ王国』は崩壊寸前?」
聞きなれた国が亜人達の襲撃に遭い、各地で戦闘が繰り広げられている。北部は最強の
力を持つ亜人達との長きに渡る戦争が続いているのだが村としても生活がかかっているので逃げ出す事は出来ない。だから、一部で身体を鍛えて村を守護する若者が各地に派遣されていた。これは帝国も法国もどうようである。
屈強な青年村人「南方から来た亜人連合の襲撃があってな。海沿いから狙われている」
たっち「そんなに脆弱な国なんですか?」
屈強な青年村人「この村は周りから狙われているせいか、我々の様な屈強な一団が自然と出来上がる。しかし、全てがそういうわけじゃない。海沿いは強い漁師が居たはずだが……。厄介なモンスターにでも襲われたのでは、と予想されている」
ここから海まで数百キロメートル。
単位は自動翻訳のお陰か、地球――主に日本――の単位として聞こえる。
現地民の言語は不明。しかし、文字は見られないものだがタブラがあっさりと解読した。
英語と日本語をベースとした単純なものらしい。
タブラ「これなら翻訳の魔法とかアイテムは必要ないですね」
ペロロン「俺達は翻訳してくれないと駄目ですよ。言葉だけじゃあ……」
ぶくぶく「固有名詞は流石に無理っしょ」
ぷにっと萌え「そこまで翻訳はされなくてもいいと思います。日常会話程度で……」
仲間と村人を交えた会談が続く。
ここまで一時間も経過していない。驚くほど早期に現地に溶け込む一流プレイヤー達。
そもそも何の違和感も無いのかお前ら、と誰かが突っ込むべき。
ブルー・プラネット「移動する時はすべて撤去しますので。しばらく土地をお借りします」
最強の村長にひとまずの許諾を得るモザイクモンスター。
交渉事は殆ど事務的とはいえ丁寧に
プレイヤー達は社会人として挨拶は大事だと思っているからおかしいとは思っていない。
それぞれの活動に一段落がつく頃、キーノ村のすぐそばにまで巨大なモンスターが近寄ってきた。
作業に集中すると意外と気づかない。それほど移動に際し静かだったと言える。
たっち「……あれがペットとは……」
ウルベルト「『覇王』エンリ……。ついに我々が相対する最強の敵……。相手としては相応しい気が……」
謎の冒険者エンリの情報は作業に意識が向いていた為に得ていない。意外と忘れっぽい事にウルベルトは自嘲気味に苦笑する。
顔の表情はどのメンバーも変化はさせられないが感情まで無くしているわけではなかった。
表現こそ出来ないが喜怒哀楽は人並み。
そんな物思いの合間に村人の何人かは巨大モンスターに近寄っていく。
屈強な青年村人「手合わせよろしくお願いします!」
たっち「……マジか!?」
推定レベル九〇超えのモンスターに村人が挑む。
一般人であれば軽くぶつかっただけでも命取りだ。本気か、とたっちは驚愕する。
かのモンスターはどうやら村人達にとって鍛錬相手となっているようだ。
よく見れば頭上と思われる黒い触手で村人たちを打ち付けていく。しかし、決して致命傷にならない程度に抑えられもの。
知力が高くなければ出来ない芸当だ。
ウルベルト「……最初に飛んできたのは謎のままですが……。あれは何らかの伏線でしょうか?」
たっち「……気にしたら負けって意味かも」
今までの想定を覆す超展開は
しかし、未だに不明なのが難易度だ。
何処がどう高難易度なのか、実は測りかねていた。
一般的な高難易度はモンスターのレベル上昇と
この世界の場合であれば挑戦できるプレイヤー数の制限といったところ。
レイドボスは