ふたりは断罪黙示録 作:弐式炎雷
キーノ村の歴史。興味が無いので次に、と言い出す仲間を蹴り飛ばし、ウルベルトは村人達から情報を集めていた。
戦闘に特化したプレイヤーだとしても無暗に突貫はしない。たっちも一見バカっぽい振る舞いが多いが人心掌握に
ペロロン「どうせ『イビルアイ』だろ」
ぶくぶく「……っていう奴がいるから話しが進まないんだ」
るし★ふぁー「……当人が居たら泣いてしまいますよ。話しはちゃんと聞きましょう。おかしなイベントが始まらない為にも」
ブルー・プラネット「異世界なのに自由なお前らはある意味凄いな」
不安を見せる要素がまるで見当たらない。
水を得た魚のようにはしゃぎまくっている。特にたっちは一番嬉しそうだ。
しかし、所詮は農村。自分達の国の歴史を詳細に理解している者は殆どいない。より詳しい説明を聞くには大きな都市に行くしかないのだとか。
キーノ村の他には『ファスリス村』に『アンネ村』がある。
ウルベルト「……読者の想像では私は情報収集に向かない筈なんですけどね」
役に立たない
ぷにっと萌えは建設に忙しく、
どのメンバーも人間離れしているが一番の問題はモザイクモンスターが多い事だ。
名前だけ判明しても活動が思うようにいかない。
ぶくぶく「……既存のキャラクターだけではねー」
やまいこ「村に我々が居るだけで酷く場違い感が凄いんだけど」
餡ころ「あっ、私は
モザイクから妖怪系異形種に変化。それにより様々なステータスが自動的に調整されて――
新生『餡ころもっちもち』爆誕*1。
ブルー・プラネット「……いいなあ」
餡ころ「残り発売予定巻数から言って……。全員分は絶望的よ。……これ、どうするつもりなのかしら」
やまいこ「想像で創れってことでしょう」
ぶくぶく「現時点で確定しているのは『暗黒騎士』が居るってことだけ」
彼女達が話している間も村人たちは入れ替わり立ち替わりつつ巨大モンスターの触手攻撃を受けたり、避けたりしていた。
人間の身体で巨体を支える事は無理である。可能にするには一〇〇人以上は必要だ。それでも軽く力を込めただけで潰れそうだが。
カルネ村は数多の創作物における『特異点』のような存在だ。しかし、今作はその村が吸収合併によって消失した。残っているのはかつてあった歴史のみ。
この場合、多くの二次創作も巻き込まれる形で消えてしまうことを意味する。
ここにカルネ村は無い、と明記されてしまったから。
たっち「どうしたらいいんだっ!」
ウルベルト「うるさいですよ、たっちさん。無くなったのは名前だけです。行動には何も支障がありません」
たっち「雰囲気は大事ですよ、ウルベルトさん。私は読者の味方です。正義の使者として……」
ウルベルト「……空元気の様なたっちさんが羨ましく思えますよ」
どんな時でも初心を忘れない。そして、期待に応える男である。
――対象年齢が低いのが気になるけれど。
ダークファンタジーは高い年齢層向けだ。決してちびっ子が読むものではない。
世界的に有名な書籍*2でさえ児童文学である。映像では伝わらないが書籍ではかなり子供向けの文章が踊っている。
ウルベルト「襲撃イベントが無くなったせいで天使召喚の鑑賞会はお預けのようですが……。この先、どうします? エ・ランテルに行きますか? 都市名は
順当に行けばカルネ村の次は街で知名度を上げるイベントだ。しかし、ここにはモモンガが居ない。しかも異形種のまま行動している。
全員が人間種に擬態するのも手間だし、別に隠すことも無いのでは、と。
キーノ村が既に他種族を受け入れている。これがどういうことか調べてからでも遅くはない。
――というより、この村に居る
なにより、このモンスターを使役する『覇王』にも興味がある。
まだ序盤なのに――
たっち「……こんなのどうしたらいいんだー」
ウルベルト「……原作十二巻でモモンガさんも同じことを言ってましたね」
たっち「先例に倣うのは基本ですから。……しかし、予定が狂えば行動も狂う。次にすべきことは先へ進む事」
思い悩まず、あくまでマイペースな聖騎士は演技こそ悪目立ちするが未だに不安を見せてはいない。
精神的な強化を異形種であるアバターが与えてくれるお陰とはいえ、通常であれば立ち止まっていてもおかしくない。
特に――原作に無い行動が出来る二次創作は極まれだ。
たっち「断罪っ!」
ウルベルト「……今はノリませんよ」
たっち「うあああ」
思い切り地面に突っ伏す白銀の騎士*3。
おそらく
童心に帰っているたっちは本当に子供っぽく
人間側から見るとたっち達は物凄い速度でやりとりしていて何をしているのか、通常であれば理解できない*4。これは行動ではなく視覚と聴覚から感知するのが難しい、という意味だ。
屈強な村人であればなんとか聞き取れていると思われるが、それでも怒涛のやり取りには驚いている。そして、これが現地の人間に向けられた途端に相対速度が噛み合うのだから不思議な現象である*5。
たっち「……村を救うイベントが無いなら強大な敵の方を探すとしましょうか」
と言ってみたものの見えるのは一〇メートルもある黒い巨体のモンスターだけだ。これではないとすれば自分達が倒すべき敵はどんな存在なのか。
確実なのは村に居る
ペロロン「普通に考えて人間でこのモンスターと戦うのは無茶だよね。データがあるから対抗できる、と頭では分かってても」
餡ころ「我々もサラリーマンとして出会っていれば逃げるしかないけどね」
獣王メコン川「……まだこちらに来て数時間……。一日経つ前に終わりそうな雰囲気だ*6」
村に到着は出来た。情報も収集中。次は他の街への移動となる。
無理に恩を着せなくとも行動に支障が出るわけではない。事件にかかわらない選択も世の中にはあっていい。
率先して関わると後々言い訳が難しくなるのは世の常である。
ウルベルト「村はこのまま放っておいても滅びそうにありませんから、次に行きましょう」
ぶくぶく「土地を借りられたとはいえ私達は無一文も同然」
ペロロン「……働くしかないのか」
ぶくぶく「きっと冒険者になっても稼げないわよ。村人達よりも強大なモンスターが蔓延っているならまだしも」
農作業する至高の四一人では絵面的にも貧相である。それはそれで喜ぶメンバーが居るけれど――
武装を持ち込めているのだから冒険者らしい仕事に就きたいと多くは思った。
何もせずに『ナザリック地下大墳墓』に引きこもっていても面白くない。異世界なのに探訪しないのも勿体ない。
新しい世界を冒険する。元の世界に戻る方法を探る。この二つが大きな選択となる。
たっち「私は冒険ですね」
ウルベルト「……私もです……が……。複雑な気分ですよ」
ぶくぶく「元のジメジメとしたサイバーパンクに戻って社畜人生を続ける?」
ウルベルト「……それでも我々の住む世界ですからね。捨てるに捨てられない」
餡ころ「他の創作ではできない
その手のアイデアは多く存在していた。しかし、その多くは途中で頓挫している。
やる気もアイデアもロクに無い創作家達の怠慢で。そのクセ、評価だけは一人前。しかも後半は――*7
タブラ「それは既に存在しているけれど評価の色で誰にも気づかれていません。一般読者が知っているのは未完成の方です」
ぶにっと萌え「……しかし、それはあくまで可能性の一つであって本編は
タブラ「転移より『漆黒聖典』が大事ですもんね*8」
餡ころ「……ちなみにさ。その方法というか魔法なんだろうけれど、誰か使えるの?」
タブラ「んー。
平然と答える大錬金術師。
数多存在する魔法は様々な奇跡を成し遂げる。時には極大
けれども、あるのだ。条件さえ整えれば不可能な事など何も無いかの如く。
タブラ「その魔法で地球に行く場合はアバターの問題を解決しなければなりません。そこを忘れてはいけませんよ」
ウルベルト「そうでしたね。我々の本体は地球にあるんでした」
今の姿のまま帰る話しが多くされているが、根本的にそれは無理である。
ゲームデータが顕在化している。それは理解している。だが、それをそのまま地球の大地に馴染むのか、と言われればどれだけの人間が首肯するのか。
バカな奴ならたくさん居る。
たっち「ログアウトボタンを使えるようにすればいい」
ウルベルト「……そう。結論は既に出ている。しかしですよ、たっちさん。仮にボタンがあったとしても二度とこの世界には来れません。魔法も当然消えます」
それはそれで別に構わない、と思う者が居てもおかしくない。当然の道筋に帰るだけなのだから。
しかし、折角未知の世界に来ているのに探訪しないのは勿体ない、という気持ちを持つ者にとっては大問題である。
何のための転移でダークファンタジーなのか。某
現代社会の
特にモモンガやウルベルト辺りは戻ってもいいことは無いと知っている。であれば残って冒険していた方がマシである。
その辺りは仲間と言えど意見が割れる処だし、どちらを選ぼうと無理強いは出来ないし、してはいけない。
やまいこ「それぞれ別々の人生を歩んでいるんだし、選択はそれぞれ自由よね」
たっち「……みんなで幸せを勝ち取る方法は無い。私だってそれくらいは分かりますよ」
しかし、冴えない主人公やほっとけないタイプの厄介な主人公は
そのせいで仲間割れが起き、無駄に長大なファンタジーと化すことも――ありえない話しではない。特に週刊マンガ系は――
例えばモモンガであれば――仲間と共に幸せになる道を選び、全員分の負担を背負おうとする筈だ。もちろん
たっち・みーの場合は視界に入る者が対象で、それ以外はさすがに適応外。己の力量で出来る範囲は奮闘する程度だ。さすがの聖騎士も出来ないことくらいは弁えている。
ウルベルト「帰る方法は別にありますけどね。……で、どうします? まだ冒険を続けますか?」
たっち「当然です」
即答する聖騎士。
他のメンバーも折角異世界なのだから少しは冒険を楽しみたかった。けれども、やはり元の世界の事が気になるものだ。
その辺りはウルベルトも強くは言わないのだが――
タブラ「どちらにせよ。方向性が決まったのであればまずは強大なモンスター討伐を目標にしましょう。ここで遊んだところで地球に持ち帰れるわけではない。可能性としては
ぷにっと萌え「せめて魔法文化だけでも持ち帰られたら」
タブラ「そんなことしたら文明が崩壊します。絶対に悪用するに決まっている」
世の中には善人しか居ないわけではない。
性善説は理想ではあるけれど、残念ながら欲の無い人は居ない。特に未来文化を持つ彼らの世界には――
ウルベルト「理想論を語ったところで不毛ですよ。……しかし、それもオバロが完結してしまえばすべて水泡に帰します。今だけですよ、賑やかなのは」
タブラ「本家のTRPGが未だに現役であればオバロが無くなろうと問題はありません。あちらこそが作品にとって大事な資料ですから」
原作に出る予定のない情報が多い事も原因だ。
であればその他に属する部分はいかようにも拡大解釈していい、となる。そして、それは現実に創作物として存在している*10。
冒険と自分達の身の振り方がある程度固まってきたところで主目的であるモンスター退治へ話題を傾ける。
既に主要メンバーは揃っている。
たっちとウルベルトをメインに据えてペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜。
餡ころもっちもち。やまいこ。タブラ・スマラグディナ。ぷにっと萌え。
獣王メコン川。るし★ふぁー。ブルー・プラネット。
ペロロン「……あと、誰が居るの?」
ぶくぶく「建設担当だからプラネットさんは除外よね」
姿が確立している者はだいたい揃っている。後は柔軟に転移でもしてもらうことにする。
普通のバトル物は揃っているメンバーだけが戦闘できる。追加となると止め処も無くなる。
一度離脱すると再加入が出来なくなるのは――ゲームの仕様では――ありえるかもしれないが、そういうシステム的な制限が無い場合は無理な突貫をしなくて済む。
対ギルド戦とは違い、対国戦闘の場合は――そもそも――長期戦は当たり前だし、追加の戦力投入も当たり前。
レイドボス戦とは違う。
原作にある『一五〇〇人の襲撃』というのは募集した結果が数に現れているだけだ。
もし、
上位ギルドが参加していないのが証拠である。
それと全てのプレイヤーがレベル一〇〇だと思っている者が居るかもしれないが、そんな記述は何処にも存在しないし、全員がプレイヤーでもない。
拠点襲撃でも『適正レベル』が設定されており、プレイヤーには補正が強制的にかかる。
ウルベルト「村人達に聞いたところ、あのモンスターに似た類似モンスターは知らないそうです」
たっち「……というのはご都合主義だったりしませんか?」
ウルベルト「いえいえ。複数体居る場合も想定した上での質問です」
覇王が使役する仔山羊は一体のみ。
類似モンスターの存在は確認されていないが――少なくとも噂話でも聞いたことが無いという。
キーノ村だけで全ての情報が出揃うのは確かにご都合主義だ。そんなことはありえてはいけない。
ペロロンチーノは背負っていたシャルティアを降ろす。
せっかくなので戦闘参加の意思を訪ねてみる。
シャルティア「……至高の御方の足手まといになるのではありんせんか?」
ペロロン「……まあ、邪魔になるよね」
そもそもNPCとの連携は経験が無い。いくら武装を整えているとはいえ拠点防衛のNPCだ。しかも敗北経験がある。
いくらシャルティアがレベル一〇〇だとしても無敵ではない。攻略方法さえあれば倒せる存在だ。
まさに多勢に無勢。
るし★ふぁー「そいつ標準語で喋れたっけ?」
ペロロン「喋れるんじゃない?」
るし★ふぁー「……柔軟な思考が出来て自発的に喋れる。そんな存在を置いていくのは勿体ないけど……。良い方法が無いのも事実」
ペロロン「ナザリック自体を持ち運びできるわけじゃないから」
通常であれば命令以外の事はしないNPCも今は色々な動きを見せている。るし★ふぁーは自分が創ってきた
急に動いたり喋ったりするのは怖い、と。
ファンタジーとしては一般常識かもしれないが、ギルドメンバーは少なくとも現実世界の人間だ。ゲームでなければ割り切るのに時間がかかるのは当たり前。
ぶくぶく「
るし★ふぁー「いや……。きっと動いたり喋ったりする筈だ。少なくとも命令で動くようにしているから」
餡ころ「そういえば召喚物も自発的に喋るよね。あれって仕様だった?」
やまいこ「そうなると『次元界』が実在することになるよ。それはそれで怖い」
地獄も存在し、悪魔達の世界が実在することになる。当然、天使達も。
そうなれは神も実存する事が確定してしまう。
タブラ「会ってみたいな……。神」
ぷにっと萌え「それでもクリーチャーの一つですよ」
タブラ「そうですね」
ウルベルト「……外野が盛り上がっているようですが、当初の目的を忘れてはいけません。我々には倒すべき敵が居て、この世界を冒険する権利を貰っている」
そうでなければ自分達がこの世界に居る理由が無い。
権利を失うことは――きっと――終わりを意味する。それが自然の摂理である、と言わんばかりに。
至高のメンバー――いつの間にやら定着しているが――が話し合っているところに新たなNPCアウラとマーレが到着する。
先程葬った大人版の姿ではなく、拠点に残したままの子供の姿だ。
こちらも自発的に喋るけれど敵対は見せていない。一応、ぶくぶく茶釜が攻撃の意思を確認する。
マーレ「ぼ、僕に似た敵ですか!?」
ぶくぶく「声はいつもの奴だわ。オーケーオーケー」
アウラ「ということはあたし達のそっくりな敵がまだ現れる可能性があるんですね」
可能性については色々と議論の余地がありそうだが、しばらくは問題が無さそうな予感はしていた。
自分達が迷う時。それは現れる。
プレイヤーとしての勘のようなもので誰もそれを否定しない。たっちもウルベルトも。
通常の異世界は徐々に敵が強くなっていくものだが、今回は最初から強い敵が色々と出てきている。
レベル一〇〇でなければ早々に詰んでいてもおかしくない。だからこそ高い難易度だと言える。
それと近くには
ウルベルト「アウラ達は建設の手伝いをお願いする」
アウラ「了解しました」
元気
立て続けに想定外の出来事が多かった為に精神的には結構疲労していた。
ペロロン「見た目には普段通りの
機械的なNPCから生物的なNPC。見た目では違いは分からない。けれども中身はかなり違っている筈だ。
頭ではそう思っても確かめる方法は自分達には無い。
攻撃して血が出れば本物か、というと違う気がする。何が、と言われても困るけれど。
ペロロンチーノは彼らを信用することが出来るのか、という問題について少しだけ考えていた。
ぶくぶく茶釜は創造者とはいえ全体的なデザインを実際に組んだりしたのは別のメンバーだ。多くのメンバーもデザイン担当に任せている。
その観点から言えば中身まで用意する事など不可能である。
タブラ「通常であれば深く考察せず、ストーリー重視で進むところです。しかし、これは違う」
ぷにっと萌え「これ、じゃなくて全て違いますよ。最初から最後まで『テーマ』に沿って進んでいます。そこに一つたりともストーリー重視*11があったでしょうか」
タブラ「一つか二つくらいはあったんでしょうね」
やまいこ「原作からして独自設定満載で情報の小出しをしている。二次創作では悪手とされる『ぼくのかんがえたせってい』に従って。それとコピーライトが何処にも無い。代わりにゲフンゲフン芸が……」
餡ころ「参考資料の提示は作家連中もちゃんとゃっているから別に隠す必要は無いんだけどね。あと、違法でもない。ラノベは大概、載せていない事が多い。……自信が無いからかしら?」
本筋とは関係のない話しが続くがアウラ達はそれらを聞き流しつつ自分達の仕事に向かった。
さて、脚本らしく人物名を羅列してきたものの小説というには大雑把すぎる。
人数が多い分、彼らを事細かに描写しているだけでストーリーを忘れそうなので色々と割愛させてもらっているわけだが――
BGMくらいは適時適当なものを合わせておこう。それとモンスターの数は多めに。
戦闘シーンが多ければそれだけ臨場感も増す。
ただし、強すぎるプレイヤーにとっては雑魚と戦う気持ちしか湧かない。
三〇分ほど経過した後、本筋の通りであれば王国からの援軍――または戦士長率いる視察団が訪れる予定だ。そう思っているのはプレイヤー達だけだが――
しかし、その兆候は一向に見られない。途中で屈強なモンスターに蹴散らされたのか、と仲間達は危惧する。
ここいらに出没するモンスターは聞いた限りではレベル三〇以上がざらに居る。
最弱と言われる
タブラ「……原作通りの強さならまず来られなくて当たり前ですよ」
たっち「軟弱な奴らめ」
ウルベルト「……平坦な喋り方だとたっちさんの言葉でも特に気になりませんね。どうしてでしょうか?」
たっち「感嘆符がついていないからでは? いくら私でも四六時中叫ぶのは疲れますよ」
意気揚々と大声で走り回っていた聖騎士とは思えない発現にウルベルトは頭痛を覚える。
彼と二人で主役を張る予定のウルベルトとしては大人しい方が静かでいいし、あまり騒動は好まない。
戦闘は好きだけど。
ペロロン「モモンガさん以外が原作知識持ちだとすると……。なんだか可哀相ですよね」
ぶくぶく「何も知らない方が派遣が多くていい事もあるわよ。
大抵は勘違いもの担当でしたから。
こちらはそんなことをすればいつでも脱出不能世界に放り込みますけどね。
ぶくぶく「……不死者にとって恐ろしい世界よね。未来永劫変化の無い世界に入れられるって」
ペロロン「実は怖い地の文。しかし、この先はどういった展開になるのかな」
彼らは一見するとメタ発言をしているように思われる。しかしながらプレイヤーはだいたいこういう発言が多い。
異世界に居ても現代社会の事をよく思い出すし、そういう知識を持っている。
知らないのはNPCや現地の生物くらいだ。
試しに『●●ホ』を見せて『知ってる』と答える現地の人間が居たら怖い。
ペロロン「じゃあ『ポケ●●』を見せたらどうなるかな?」
ぶくぶく「なにそれ怖い」
餡ころ「未来人の我々からすれば古代の秘宝よ」
やまいこ「『バーチャル●●●』がトレンドなのよ」
タブラ「『ゲーム●●●』があまりに高性能だからミサイルに転用されるとか言われていた時代があったらしいですよ」
ぷにっと萌え「『ファ●●●』を改造して敵の通信を傍受する映画があったような」
タブラ「『プレ●●●』を数台連結して人間の精神を全てデータとして保存する映画も」
これが彼らの日常会話である。
そもそも事前に情報を集めて攻略するのもメタ発言と大して変わらない。初見なのに倒し方を熟知しているのは常識から言えば――本当ならば――おかしい。
ナザリック地下大墳墓の初見攻略は事前情報が無い状態だったようだが、全てが全て初見ということは無い。
手探りの初心者は最初だけ。今の彼らに知らない事は未発見の分野のみ。それ以外は既知である。
仮の村づくりを仲間達に任せ、たっちとウルベルトは二人だけで雑木林の奥を目指す。
キーノ村に滞在していても新手の予感が無さそうだと判断した。元より巨大モンスターが場所を占拠している。戦闘には適さない。それにそれに――
戦士長が来てもどうしようもない。
たっち「名称から
ウルベルト「あれより大きいか、小さいか。きっと後者です。大型は結構目立ちますし、空を軽く見てもらっても予兆のようなものは無かったそうですから」
速度の観点からも
しかし、カルネ村は無く知らない名称の村がある。
この先の冒険は色々と通常とは違うことは理解した。その上で自分達は何をしたらいいのか。
意味も無く異世界に居ても仕方がない。
ウルベルト「実はたっちさんこそが諸悪の根源ではないですか? 転移の関係で
三文小説では良くありふれたネタである。
最初から主人公が入れ替わっている。そう言っているウルベルト自身にも言えるけれど。
テンションのおかしい聖騎士が居るのだからあり得ないと断定することは出来ない。
たっち「そうかもしれませんし、そうでないともいえます。私はただ多くの観客が望む結果に応えたいだけですよ」
ウルベルト「……そうですね。たっちさんは
期待されれば応えなければならない。それは確かにヒーローの鉄則である。しかし、それはオバロには合わない芸風だ。
だが、それもまたプレイヤーの在り方の一つでもある。
応援の数だけたっち・みーは強くなれるし、何度でも立ち上がる。
たっち「……聞こえるか? 泣き叫ぶちびっ子の声が」
ウルベルト「泣き叫んでいるんですか? ……そこは違うような……」
たっち「戦闘前からテンションを上げていくことは意外と大事ですよ。ウルベルトさんはゲン担ぎとかしないタイプですか?」
素の調子で尋ねられたのでウルベルトは驚いた。
精神の強度は現代世界とは違うとはいえ、なかなか慣れないものである。
モンスターの死体を見ても平然としていたところは自分でも驚いてはいたが、それでも驚きは一瞬で平定される。
ウルベルト「した方がいいですか? クールキャラで厨二キャラの方が合っていると思っていますけど」
たっち「長い人生において、ゲン担ぎはなかなか侮れませんよ。縋るものがあるだけでも……」
ウルベルト「そんなものが無い人はどうするんですかね」
たっち「見つけるしかないですよ。なんでも誰かが用意してくれるとは限りませんから」
ウルベルト「……そうですね。って言うのは私らしくなさそうだ」
たっち「いつものウルベルトさんでいいんですよ。私の意見は真っ向から否定する。それはそれでゲン担ぎになれば私は一向に構いませんとも」
多くの犯罪者と向かい合っている為か、多少のヤンチャでは動じない。
それを知るウルベルトとてたっちを後ろから葬りたいと本気で思うほどには――憎んでいない。必要とあれば本気で憎む演技も辞さないけれど。
二人で並ぶ今は共に戦う友だ。強敵と書いて友も読ませるかもしれないけれど。
いや、敵は敵だ。友にはなりえない。そうウルベルトは思いつつため息をつく。
ウルベルト「……今、後ろを振り返ると世界が物凄い速度で組み替わっているとしたら信じますか?」
たっち「ウルベルトさんがはっきりと言えば信じますよ」
前を歩く聖騎士は即答する。
何の疑いも無い、とは言わないけれど仲間の言葉を信じているからこその返答だと受け取った。
なんともこそばゆい事にウルベルトは人間の顔であれば頬が赤く染まるところだ。もちろん、羞恥で。
何色にも染まらない黒い色で良かったと――