ふたりは断罪黙示録 作:弐式炎雷
たっちとウルベルトは二人だけで歩いているわけだが、ゲーム時代ではありふれていた光景も既に終わりを告げたはずである。しかし、それがまた再開するとは当人達も想定外の出来事であった。
ならば期待に応えなければならない。
たっち「今更ですが……。どんな事が起きても我々は共闘できるという事でよろしいですか?」
ウルベルト「ゲーム的なファンタジー限定ですよ。……
たっち「……最悪、我々の精神体が崩壊するかもしれません」
ウルベルト「……気持ち悪いですよ。それ、恋愛フラグって奴
時代はLGBT*1に寛容な世界である。
ウルベルトとしてはプレイヤーとしてのたっちで居てほしい。妙な同性愛は却下である。
そういうものも『勘違い系』に含まれるので表現が難しい。
たっち「じゃあ会話を無しにしますか?」
ウルベルト「しばらくは無しでいいと思います」
たっち「………」
ウルベルト「………」
無言のまま雑木林を進んでいくと開け場所に出た。その
それほど遠くでもない。この辺りは丈の長い樹木が多いけれど森は別方向にある。
方位で言えば二人は西側に進んでいる。トブの大森林は北側だ。
平地と雑木林が交互にあり、道路は全て獣道。人の手が入っているのはあちこちに見受けられるが村人や歩行者の姿は見受けられない。
自分達だけが移動出来て、その間住民たちが居ないのもおかしなものだ。
たっち「………」
モンスターに気を付けつつ慎重に進む聖騎士。しかし、迷彩処理を施していないので見ようによっては目立つ。しかも赤い
対するウルベルトも黒さで目立ちにくいが肩に着けている大きな薔薇が派手だった。
ウルベルト「……居ますね、この先に」
たっち「モンスターは普段、どういう生活をしているのでしょうか?」
通常のモンスターは突然出現する。一定時間毎に。
倒されると消えて、再ログインすると再生成される。そんな感じである。しかし、異世界の場合はちゃんと生活の跡があり、生態系が確立されている。
いくら邪魔だと、脅威だと言われていても即座に絶滅できるほど簡単ではない筈だ。特に小型モンスターは繁殖力が強い。
この場合の世界における処理はどうなっているのか。
実際に異世界を調査したことが無いので何とも言えないわけだが。
分析はタブラ達に任せるとして戦闘民族たるたっち達は敵を見付けたら戦うだけだ。
問題のモンスターは平原に居座る形で蹲っていた。
赤黒い縞模様の虎。白い鳥の翼を背中に生やしている大型種。
いかにも凶暴そうな面構えが一頭。
たっち「……ああいう生物がポンと居るものですかね」
ウルベルト「……居るんですからどうしようもありません。……というかアレ。何なんですか? 羽毛ある蛇なら知っているんですが……」
ウルベルトが指摘したのは『ケツァルコアトル』というモンスターだ。
虎と蛇では見た目がまるで違う。
方や爬虫類。方や肉食獣だ。
対象モンスターの大きさは遠目だが推定五メートル以上の巨体。立ち上がっていればもっと大きく見えるかもしれない。
そして、問題なのは獣は嗅覚に優れている。おそらく今以上に近づくことは危険である。
強さの程は全く不明。たっち達も初めて出会う――見る――モンスターだった。
たっち「……すみません。
ウルベルト「村人たちはああいう手合いと渡り合えるんですよね? ……確かに難易度が高そう。強くなければ生活するのは難しい、というよりは無理でしょうね」
確実に
序盤から
たっち「……あ、バレた」
謎の獣がたっち達の方に顔を向けている所だった。
眠っていたように見えたが物音でも感じ取ったのか、見えない威圧感を放っている。明らかに見つかったとして間違いなさそうだ、と判断した。
即座に行動しないのは見定めているからか。
たっち「さすが獣。既に臨戦態勢は整っていましたか」
ウルベルト「テリトリーが広すぎます。ここは黙って引き返した方が賢明では?」
たっち「そうですね。無謀な突貫はやまいこさんが適任です」
それを当人に伝えたら酷く怒りそうな気がした。しかし、そんな軽口を叩きつつも少しずつ現場から離れていく。
顔はモンスターに向けたまま、ゆっくりと後退していく。決して相手を刺激しないように。慎重を喫して。
ここはたっちもウルベルトも心得ているようで、間抜けな行動には出ない。
だが、当のモンスターにそんな小手先が通じる訳もなく――
想像を絶する速度によって一気に詰め寄ってきて、たっちを巨大な前足に備わっている凶悪な爪によって――凪ぐように――吹き飛ばす。
たっち「……うおっ?」
空間そのものを切り取るような斬撃エフェクトを幻視した。
振動も移動に際する様々な音が――全く聞こえなかった。
そのすぐ後から轟音が鳴り響く。正に音を置き去りにする一撃だ。
強靭な腕力――脚力とも――による攻撃によって水平方向に飛ばされるたっち。
正確に描写するならば、上方からの叩きつけの後で地面に打ち付けられ事によりバウンドし、更なる追撃による横凪の一閃を防御した結果である。
普通の人間が見たらほぼ一撃――一回――の攻撃に見えるほどの速度。しかし、実際には連撃だった。――それをほぼ本能で防御したたっちの技量もまた凄いのだが。
雑木林の樹木をへし折りつつ、しかし速度が緩まない弾丸。
白銀の鎧が木っ端微塵にならないのが不思議なくらいだ。
ウルベルトの目にもモンスターの攻撃はほぼ残像にしか見えなかった。
謎の獣「………」
その連撃の後、軽い動作でウルベルトを一瞥するも次の攻撃は
今のは単なる挨拶だ、と言わんばかりだ。
ウルベルト「……くっ」
モンスターは軽く飛び跳ねるように元の位置に戻り、猫が待機するような姿勢を取る。顔はウルベルトを見据えたまま。そう簡単に獲物から顔を背けるほど傲慢ではない、という意思表示かもしれない。
歴戦のプレイヤーが戦慄している。それだけ目の前のモンスターは規格外であった。
敵意を感じない事を確認してから顔を横に向けると甚大な自然災害が視界に入る。
どうやればそれが出来るのか。
大地が大きく抉られ、何らかの砲弾が樹木を打ち抜いたような――
信じられない被害がそこにはあった。
それにもまして――ウルベルトは確信できるのだが――これだけの災害にもかかわらず、たっち・みーが一撃で死んだ、とは思っていない。
思っていないが確実に大きなダメージは受けた筈だと。
ウルベルト「……腐っても世界最強の男……。腕の一歩も折れていれば常識の範囲ですが……」
案外ピンピンしていそうな雰囲気もある。
確かに見た目ではモンスターの攻撃は強力だったと言える。だが、それは攻撃を受けた直後のダメージであって二次被害は別問題だ。
アダマンタイトそのものにダメージを与えても、地面にぶつけたダメージは別であるのと一緒。
今回の場合はモンスターの攻撃に約一〇のダメージを受けたとする。その後、樹木などにぶつかるが、それらは全くのノーダメージだ。副次効果があっても約五ダメージで終わる。例え三十七本の樹木にそれぞれぶつかっていたとしても。受けるのは精々最初の一本だけだ。
各プレイヤーが持つステータスの妙――
ウルベルトは後方に軽く飛び跳ねるように後退しつつたっちに連絡を入れようとする。まだ空を飛んでいるかもしれないが気絶するにはまだ早い。
三度目の
さすがの聖騎士も予想外の攻撃には参っていたようで、軽口も控えめに弱気な言葉に聞こえた。
ウルベルト「……生きているなら戻りましょう。あれは少人数でどうにかなる気がしません」
その言葉の後で転移を試みるも魔法は発動しなかった。どうやら今いる地域は転移無効に設定されているらしい。それを軽く脳裏に置きつつ駆け足にて移動をする。
先程のモンスターが攻撃の際に地域一帯に禁止領域を設けたようだ。通話は阻害されていないので移動のみだ。
それと追ってくる気配はないが一気に詰め寄られるおそれはあったので警戒は怠らない。
それから無心で移動しつつキーノ村が見えてくるころ――敵の追跡も確認できず――
仲間達がズタボロのたっちを回収する。それだけでなんと心強い事か、と。
最後まで警戒しつつ仲間の下に合流するウルベルト。
ウルベルト「たっちさん。無事、なようですね」
たっち「はっはっは……。いやー、参りました。見事な
最強の男が仲間を前に空元気だ。それだけでモンスターの脅威が分かろうというもの。
だが、生きていてくれて良かったと思う。貴重な戦力をいきなり失うのは心許ないので。しかも最大戦力が太刀打ちできないのは痛い。
ペロロン「……上からチラっと見ましたが……。俺にも見覚えのないモンスターでした」
ウルベルト「強化種って奴でしょうか? なんの
タブラ「撤退出来たということは運が良かった。プレイヤーを驚愕せしめるモンスターの登場とは……」
ぷにっと萌え「序盤でたっちさんがズタボロなら王国には更なる強敵が居るのでしょうか? 帝国ともなると我々でもどうにもならないくらい強化されていたり……」
たっち「想像したくないですが……。通常の倍から百倍は想定しないと……。百倍だと何もできませんね」
ペロロン「精々十倍です。そうでなければ……ステータスの異常数値によって世界そのものが破壊されていますよ、とっくの昔に」
もし、それがありえるならば――確かに世界が壊れていなければ辻褄が合わない。つまりそれほど強大な敵は居ないと見るか、世界の大半が破壊されている事に――自分達は――気づいていないかの二つくらいだ。
事前に上空から世界を一望したペロロンチーノの見立てでは世界は
地域限定かもしれないけれど。数百キロメートルの範囲は確かに破壊の後が無い事を確認した。
やまいこ「近場にそんなヤバイモンスターが居るなら村人に聞けばいいじゃない」
ウルベルト「……おっしゃる通りです。ですが、仲間内でのすり合わせも大事ですよ」
大体序盤に世界最強の男を吹き飛ばすモンスターが居てたまるか、と。
しかもまだまだ居そうで怖い。早くお家に帰りたい、と様々な思いが浮かんできた。
ブルー・プラネット「モモンガさんへの連絡は済んだ。……何だか上の空だったが……」
タブラ「……よし。辻褄合わせは済んだ。後は自由だ」
ぷにっと萌え「俺達が『アインズ・ウール・ゴウン』だ」
やまいこ「ある意味、間違っていない。……しかし、過剰戦力と思っていたのが随分と昔のように……」
先程まで世界を滅ぼせる筈だったのに急に雑魚モンスターと化してしまった。
しかし、弱体化したわけではなく、敵が強かっただけだ。俺達の戦いはこれからだ、のように。
たっちのダメージは既に回復しているが次の行動について慎重にならざるを得ない。
小さくはないが農村の近くに異常な強さを持つモンスターが生息していたのだから。どう対処すべきか。
戦うばかりではいけないと判断したタブラが――色白の死体じみた異形の姿のまま――気さくに村人に話しかけ始めた。
よくよく考えれば化け物然としたタブラを村人はどう思っているのか。
種族は『
マーレ「た、たっち・みー様、ご無事ですか?」
たっち「おう、無事だとも。ちびっ子たちよ」
いきなり鼻に指を突っ込むんじゃないかとペロロンチーノは危惧したが敵と味方はちゃんと区別できているようで安心した。
自分達のNPCに対してそう簡単に酷い真似が出来るものか、と危ぶんだが――
姉のぶくぶく茶釜も今のところ逃げ出さずに付き合っている。これはもう慣れたと見ていいかもしれない。
至高の御方とはやはりNPC達から見たたっち達の事で間違いなく、誰がそう呼ばせたのか――彼らの中に既にあったとしか言いようがない。
側に居るシャルティアに尋ねてみたところ、そう呼んだ方がしっくりくると言ってきた。
矛盾のない言動。または違和感の欠如は物事を運ぶ上では必要なことかもしれない。けれども、大きな間違いを見逃す危険性も孕んでいる。
自分達は何かを忘れている。または見ないようにしている。
それが何なのか知るのは怖い。異形種の肉体となっているとしてもそう感じる。
餡ころ「一匹のモンスターはすぐに倒されても四〇匹がかりなら楽にボコれる」
ぶくぶく「そう思っていたら相手は一〇〇匹も実は居たってことに」
タブラ「確かに一頭だけってことはないでしょう。しかも平原に居る程度の奴です。何らかの生態系があると見て間違いない」
たっち「では、やはり赤っぽい虎は討伐しておきますか? 盾役が居れば何とかなりそうな気がします」
ぷにっと萌え「……それは早計かも。無理な戦闘は避けて
ワイワイガヤガヤと賑やかな討論が始まった。それらを遠巻きに見つめるNPC達の瞳は実によく輝いていた。
それと村人から聞けた情報によれば
つまり、とんでもなく強いモンスターである。
遊び相手を倒すのは可哀相、と餡ころもっちもちの意見を――無理矢理に――採用することになった。
あれは敵ではない。味方だ、と。
攻撃ではなく、じゃれた程度。
それで世界最強の男が吹き飛んだが、当人が気にしなければ問題は無い。
たっち「……その前に。倒していいモンスターかどうかの情報が欲しいです。ああいうのがまだまだ控えているんでしょう?」
タブラ「……この世界は本当にどうなっているんだか……。私にも予想がつきません」
ぷにっと萌え「その上で村に襲撃をかける
それらを返り討ちにする村人も大概だが。
もし、モモンガ一人であったならば早期退場は確実。NPCの全滅もありえない事態ではない。――実際には無謀な突貫はしないと予想している。
暢気に天使を鑑賞している暇はない。
タブラ「……ここは『モモンガさん、早く逃げてー』の世界なんでしょう」
ぶくぶく「どこに逃げろっていうの」
やまいこ「……かなり詰んでるわね。我々でも手に負えないレベルなら仕方がないわ」
ペロロン「……たっちさんが四〇人くらい居てもダメ?」
ウルベルト「……回復役は必須。単なる攻撃一辺倒だけでは……」
こんな世界で暮らす村人達の姿を改めて見据えると色々と納得できた。
ここでは強くならなければ生きていけない。
確かに彼らの様な存在でなければ厳しい世界だと理解した。
進行の辻褄が合った以上、たっち達は今以上に速度を上げる理由が無くなった。装備品とアイテムの確認を中心に拠点づくりを眺める。
例のモンスターは平原の一部を縄張りにしているが村人を襲うことは滅多にないという。
食べ物を持って近づけば攻撃されない。それを後で言われてがっかりするウルベルト。ただ、たっちは苦笑していた。
屈強な青年村人「あれは昔から居ますからね。子供達を背中に乗せても暴れない大人しいモンスターです」
たっち「いきなり攻撃を受けましたよ」
屈強な青年村人「貴方なら死なないと思ったのでは?」
それにしては派手に飛ばされた。
事前に対策を整えていれば耐え切れたかもしれない。けれとも結果論である。
猛獣系なので今すぐ討伐しなければならない理由は無いので、後々挑戦することにする。
ペロロン「……序盤の村でゲームオーバー。……ここは地道に弱いモンスターで経験を積むのが良いようですね」
たっち「居るとは思えませんが……。それにしては尋常ではない強さを持つモンスターでした。ああいうのって公式に居ましたっけ?」
るし★ふぁー「……『
彼が言ったモンスターは猛獣型
レベルは八〇を越え、ボスクラスと言ってもいい。ただ、たっち相手に苦戦するかと言えば相性次第では手強い程度。
白い大理石で出来た猫型
攻撃は単調な爪による引っ掻きと飛び掛かり。
最大の特徴は大きな口での飲み込みだ。異次元のような広い胃袋に収められ、飲み込んだ者は窒息させられる。収容人数は少ないが複数人収められる、とか。
魔法で言うところの『
脱出方法は内部からの攻撃で穴をあける。身体が硬いので結構時間がかかる。
ペロロン「レベルの高さから苦戦しそうだけど、対策さえ整えておけば大抵はなんとかなる」
ぶくぶく「拘束系は地味に
更にこのモンスターは破壊されると爆発する。近くに居た場合はダメージを受けるので注意する事。
るし★ふぁーが自分の知る限りの情報を伝えた。
たっち達が遭遇したのは生物的だったので
たっち「斬撃主体の私は意外と
ウルベルト「単純な物理攻撃主体ならやまいこさん辺りが適任でしょう」
やまいこ「……素早い敵はちょっと。いやいや、相手は
たっち「念のためですよ」
それぞれ立ち位置を決め、モンスター対策を話し合う。
討伐する気満々だが、それは絶対ではない事を忘れてはいけない。
彼らが会合をしている合間も周りでは杭を打つ音が響き、壁が形成されていく。
足場を組めと命令するブルー・プラネットと適切な指示を飛ばすアウラとマーレ。
便利な
異形種でも騒ぎにならないキーノ村の住人たちのお陰で作業は滞りなく進んでいる。それとは別に一向に王国からの援軍が来ない。
来ると思っているのはたっち達だけで村人は援軍――要請をそもそも出していない――については関知していない。
襲撃者は村人自身が片付けてしまったのだから。
この上さらに戦士長と某国の特殊部隊の死闘を見せられても――
屈強な青年村人「他の村もそうだが……。こういう襲撃は良くある。大抵は野盗崩れの兵士が多い」
ぶくぶく「……それ以前に私の様な
屈強な青年村人「蛆みたいな異形種とも会った事があるから、大抵は平気だ。襲ってこなければ、という条件が付くけど」
目の前の青年は想像以上に波乱万丈なる人生を歩んでいる事は理解した。
それはそれで知りたいようで知りたくない事実が含まれていそうだ。
この青年に限らず、多くの住民は西洋風の顔立ちで金髪碧眼が多い。次は茶髪という具合だ。しかし、黒髪黒目の人間が逆に見当たらない。
当たり前のようで西洋風なんだな、と感慨深げに思う赤い
人間とモンスターの区分けが出来ないということは敵味方はどう判別しているのか。
ぶくぶく「……私らはプレイヤーとモンスターは区別できているのよね」
ペロロン「そりゃあ、専用の見分け方があったから……」
原作もその辺りは詳しく書かれていない筈だ。だが、彼らは区別するすべを身に付けている。
方法が提示されていないだけで見た目で判断していると後々矛盾が生じてくる。
なんとなくモンスターだ、ということに説得力があると思うのか。
ぶくぶく茶釜は自分達のNPCや使役の為に連れてきた
言葉が通じる通じない。敵対しているか、などで楽に区分けすることは出来ない。
やろうと思えばすべてを敵として認定でき、戦うことが可能となる。逆にすべてと会話することも――
この世界はそういうものだと判断したい気持ちがあり、同時に摩訶不思議な仕様に困惑もしている。
何の情報も無い世界を旅する事は途方もない危険を孕んでいる。ゲームの時のように楽に撤退することは出来ない。
ぶくぶく「……思い悩んでも異形種は強固なメンタルによって精神が守られているから平気でいられる。……実際はかなり困惑していないとおかしいところよね」
たっち・みーが異常に明るいのは本当は真逆の感情を抱いているからではないのか、という予感がした。
普通に考えてもおかしい事は理解している。それで平然とできる『人間』など居るはずがない。
ゲームと同じ感覚を持っていると言っても限度がある。
ここは素直に人間的な感情を持っていた方が実は建設的ではないのか。明らかに不健康だ。
仲間達もその辺りは実感として持っているのか疑問だが、少なくとも弟であるペロロンチーノには自分の考えを共有させたい。これはただ姉としての素直な気持ちである。
ぶくぶく「さあ、選べ弟よ。お前は人間を食らう化け物になるのかを」
ペロロン「飲食不要のアイテムがあるから平気」
あっさりとこの世の摂理を攻略する弟。それに軽く身体を震わせつつも内心では笑えていた。
便利な道具があるおかげで意外と苦境は攻略できている。それはおそらく事実である、と。
ぶくぶく「……お、お姉ちゃんはそんなアイテムなんか要らないんだからねっ!」
ペロロン「水分くらいは必要だろう。俺も可愛い女の子が居ないと寂しくて死んじゃいそうだ*2」
姉を前にして軽口を叩く弟。棒読み気味とはいえ心にも無い事を言うのは不安そうな気配を漂わせる姉が側に居るから、というのは勘繰りすぎか。
ペロロンチーノ自身も少しずつこの世界に滞在する事のデメリットは感じてきている。
人間は食べるために生きていると言っても過言ではない。であれば生物である異形種の自分達はどう過ごしていくのか。
モンスターとて無限に湧き出るわけではあるまい、と。
序盤で挫折を感じる至高の御方。
普通の精神を持っている者ならば元の世界に戻れない事で思い悩むのは仕様と言ってもいいくらいだ。それが起こらないのは強固な精神ゆえの振る舞いである。
敵が現れれば即座に戦闘系プレイヤーとしての戦意が湧く。昔からそうだったように――
それから新たな敵や援軍などが無いまま日が暮れていく。
――いや、村の側に居るタマちゃんの影かもしれない。