ふたりは断罪黙示録 作:弐式炎雷
#15 天空城
無理な引き延ばしというか辻褄合わせというか。陳腐な手法の連続に満足する読者が居るのであればタグをもう一度確認してほしい。ここは低年齢の来るところではない。
情報過多こそ本領である。
たっち達の一時拠点となる施設が完成する頃には夜の
公式はそういう表現だが実際のはモノクロの映像が正しい。
そんな中で魔法的な灯り。火を起こした自然の光りが加われば色味は蘇る。
たっち「激動の一日でした」
ウルベルト「……でしょうね」
簡易的な円卓を囲む至高の御方達。
地上攻略組は一〇人足らず。残りはナザリック地下大墳墓に引きこもったまま。――彼らは彼らで拠点の点検や自我を持った
今のところ氾濫の予兆は無い。
普通に考えて即座の反旗は考えにくいものだ。
ペロロン「ゲームであれば新規ダンジョンの捜索か敵性体の討伐だけど……」
たっち「現地の調査と観光が基本ではないかと」
ペロロン「……戦闘用に調節された俺達にそれが出来ますか?」
たっち「努力すればできますよ。手から武器が外れないわけではありませんから」
聖騎士の言葉に納得する
夜間になると
それとは別に夜間になっても援軍は無し。来ないものとして既に諦めているが、原作のイベント通りにならないと困るのは
睡眠を必要としないメンバーも多く居るので寝床の必要性に疑問を覚える。その辺りは個別に考察してもらうとしてたっち達の冒険の目的を一つでもはっきりさせなければならない。
無意味にモンスターを倒すだけでは物語の意味が無い。それはそれ専用に作らなければならないからだ。
たっち「一通り国を巡りながら南方へ。そして、東方へ」
ウルベルト「南方にあるという浮遊する都市はどうします? 多分、多くの人達が『天空城』と呼んでいるやつですが」
たっち「余裕があれば」
ブルー・プラネット「個人的には砂漠化を止めてみたいな。折角魔法が扱えるから」
タブラ「その為には多くの砂をどうにかしないとね」
ぷにっと萌え「適切な魔法を選んで実験するしかない。物事を安易に進めること程危険なものは無い」
タブラ「……既に充分危険な状況ですけど」
ウルベルト「手っ取り早く超位魔法で地域そのものを変質させるのも手ですよ」
ブルー・プラネット「……手法の一つではありますが……、それは最後の手段として」
たっちとウルベルトが議長となって話し合っているのだが、ここにメインメンバーである『モモンガ』の姿が無い。それに対してNPC達は不安に駆られてソワソワしていた。
アウラとマーレとシャルティアは勅命があるまで待機する、という感じで控えていたが気になる問題はすぐには払拭できなかった。
マーレ「……も、モモンガ様に連絡しないと……」
アウラ「こちらはこちらで重要な問題があるから後でするんじゃないの?」
双子という設定を持つ
自発的に行動するようになった彼らの事は少なからず気にしており、敵対こそしないとは思いつつもどんなことを話すのかには興味があった。
ただの愛玩動物の様なNPCとして作り上げたのだからいくらかの不満があってもおかしくない。大抵はそれらの不満が溜まり、襲い掛かってくるものだ。
現に敵対した大人のマーレは――おそらく
ペロロン「姉貴。アウラ達が気になる?」
ぶくぶく「……気ニナラナイトイッタラ嘘ニナル」
棒読みで返答する
声優の仕事柄、様々な状況に見合った声の出し方が出来る。それは今でも健在のようだ。
さすがに変声は出来ないようだ。魔法の力を使えば出来るかもしれないけれど。
ぶくぶく「アウラというか、NPC全てが、ね」
たっち「無理に会議に参加されなくてもいいんですよ。もう殆ど済んでいますから」
ぶくぶく「何がよ。異世界に今後の方針もクソもないでしょ。当たって砕け散るのみ」
たっち「そうですね」
それはそれで確かに真理だとたっちは思い、苦笑しながら会議をお開きにすることにした。ウルベルト達も異論は出さなかった。
寝床についてはナザリックに戻るなり、雑魚寝してもらうなりして解散宣言を出す。
姉の不安をよそにペロロンチーノはシャルティアに対し、それほど深刻には思っていなかった。
守りも攻撃も充分に与えている。敵対に関しても遠距離攻撃を得意とする自分ならば対処は難しくないと自信を持って思っていた。それはそれで油断に繋がると言われそうだが、これでも歴戦のプレイヤーだ。
とんでもない
気がかりがあるとすれば造形を発注する時、巨乳にしてやらなかったのが残念でならない。
ペロロン「命令すれば拠点から出る事が出来る。当たり前の楊で異常事態だ」
気の抜けた言い方で言ったものの本当は物凄い問題ではないかと頭の中では警鐘が鳴っていた。しかし、それがどう危険かまでは想像できなかった。
シャルティアが、ではなくて。NPC全てだ。
自我を得たNPCが独自判断で人間世界に進出する。自分達が与えた能力を持ったまま。
会議自体は解散宣言が出たが居座るかどうか任意となった。これは睡眠無効の種族が居る為だ。
ペロロンチーノ達は自分の部屋へと向かう。
それぞれの部屋というか小屋の様な建物の内装はまだ未整備だが古風な様子には満足していた。
豪華絢爛である必要は無いけれど、本来の部屋の中とは違う異質な空気感は嫌いではない。ただ、シャルティアは至高の御方が寝泊りするには貧相過ぎると文句を言っていた。
ただ、プレイヤーが寝るのはゲームの中ではない。本当の寝室だ。そこはこの建物よりは近代的である程度は便利だ。だが、地下大墳墓の部屋より貧相なのは変わらない。
あそこはあくまで理想の形を体現したものだ。
ペロロン「……命令すれば大抵の事が出来る……」
例えばシャルティアを裸にすることも。
自害についてはアンデッドなのでどうなるか分からないが、簡単には出来ない筈だと予想する。
後はどんな気がかりがあるのか、思いつかないが今のところは大丈夫だと割合楽天的に考えていた。
ペロロン「
いちいち原作をなぞるより迎え撃った方が健康的だ。
対処方法が無いわけではない。かといって黙って食らわせてから悩むのはバカだ。
しばらくシャルティアを見つめて唸りながらペロロンチーノは悩んだ。そして、夜明けが訪れる。
時間感覚は人間時と違うようで物凄い速さで経過したように感じられて驚いた。
普段は物凄い速度で行動できるのに、と。
意識の傾け度合いによっては自由に調節できるのかもしれない。
悶々としていると姉のぶくぶく茶釜がアウラとマーレを伴って訪れてきた。
異形種といえどペロロンチーノは眠る事が出来る。うっかり物思いに耽ったせいで姉の姿を見た途端に眠くなってきた。
もちろん、眠気を吹き飛ばす事は造作もない。
ペロロン「どうしたんだい、お姉さま」
ぶくぶく「……なんとなく。……アウラ達を押し付けようかと思って」
子供好きだろ、と小さく言われたことに少しばかりの怒りを覚える。NPCに何が出来るというのか――
ペロロンチーノとて幼子や女児であれば誰でもいいわけではない。
主にゲームの中の事だが――姉は弟を何だと思っているのか、と不満を言おうか悩んだ。
ぶくぶく「……転移して一日が過ぎた。ということは、だ……。捜索願いとかその他が気になる頃合いなのよ」
ペロロン「……何も起こらないまま数年くらい経過すると思うよ、絶対」
確信をもって絶望的な答えを提示する。
異世界転移は気軽な帰還を用意しない。何らかのイベントを消化したとしても帰れる保証が無いのが通説だ。
転生であれば得体の知れない神様の力を使えるけれど、転移は理由が判明しない事には自力での行動しか出来ない。
ペロロン「………」
階層守護者が三人も居る。しかも小汚い小屋の様な場所に、と薄っすら思いつつ彼らを眺める。
正直なところ、自我を得たNPCの扱いはペロロンチーノとて分からない。反乱を除けば彼らはゲームキャラクターだ。
自分達で設定した以上の働きは想定していない。だから、それ以降の事も想定外だ。
今更頭を撫でて可愛がるほど珍しい顔をしているようには見えない。そもそも変化していない。
話題も合わなさそうだ。地下世界の事しか知らない相手だ。世の中の風俗は知識として身に着けているかもしれないが――
ペロロン「側に置くのが嫌なら俺がどうしようと文句はない、と見ていいんだな?」
ぶくぶく「……おおう。部屋の中が異臭で満たされるような……」
ペロロン「……だが、よろしく」
そそくさと姉は去った。
残されたアウラとマーレは困惑気味だったが、だからといってすぐに
他のメンバーも自分の創造したNPCの扱いに悩んでもいい頃合いだ。そうペロロンチーノは判断することにした。
多くのNPCはナザリック地下大墳墓に侵入する敵対プレイヤーの排除が主な仕事だ。
外でウロウロしているモンスター退治ではない。
その設定、というか仕様が生きていれば他のプレイヤーに対して敵意を見せる可能性がある。
今は拠点の外に連れ出しているので防衛目的からは外れている。それでも他人を見たら襲い掛かるのかが心配の種であった。
それとは別にゲーム内ではNPCと言えどじっくりと触れ合うことが実は難しい。
感触自体が制限されているので触ったところで肉質的なものは感じない。いや、感じにくい。
データで出来ているからその辺りは気にしないようにしていた。しかし、今は違う。
長めの耳に触れれば肉質を感じられるはずだ。よりリアルに。
姉としてもその辺りを気にして遠慮がちになっていた、と考えればよそよそしい態度も理解できる。
ペロロン「……裸の命令を出しそうで怖い」
アウラ「?」
ペロロン「あー。君達は……俺達の事をどう思っているのかな?」
落ち着いた時に聞こうと思っていた質問を投げかける。
別に臣下の儀を執り
アウラ「あたし達を創造した至高の御方です」
マーレ「そ、そうです」
シャルティア「はいでありんす」
三人共に瞳を輝かせ、胸に手を当てつつ自信を持って言い放った。
直接言葉として言われると想像通りとはいえ気恥ずかしい。
ペロロンチーノの顔は少し赤くなっているに違いない。怒りではなく恥じらいで。
通常なら表情に出せる感情も今は無味乾燥としている。
たかが『
ペロロン「……その至高の御方が今日の気分でお前達を殺したいと思ったら受け入れるのか?」
アウラ「えっ!?」
マーレ「そ、それは……」
軽い言葉に対し、即座に反応した。
内容によると思うが、柔軟な対応は本来ならばしないのが正しい。
メンバーの会話にいちいち反応を返すようでは邪魔以外の何物でもない。
アウラ「単なる気分だけで殺されたくはないです」
戸惑いを見せつつもアウラは言った。笑顔ではなく、無表情でもない。
表現の難しい複雑な心境に見える顔だ。隣に控えているマーレはより一層の悲壮感に包まれていた。
ペロロン「俺がぶくぶく茶釜を殺せ、としっかり命令した場合は従うか?」
アウラ「し、従えませんっ!」
マーレ「い、いくら、ペロロンチーノ様のご、ご命令だとしても」
シャルティア「……妾は従うでありんす」
武装を解いているとはいえシャルティアはペロロンチーノ直属のNPCだ。アウラ達とは違い、より命令を強く受ける立場に居る。
だが、そんな彼女とて本音の部分では従いたくない気持ちがあった。
アウラ「第一っ!」
ペロロン「………」
食って掛かろうとしたアウラの顔面を殴りつける
命令に従わないどころか反論を企てようとした。そのせいか、思わず手が出た。
武器を使わなかったのは運が良かったのかな、と。
ペロロンチーノがいくらレベル一〇〇のプレイヤーだとしてもアウラ達も同レベル帯のNPCでありクリーチャーだ。
人間種でありながら恵まれた武装により、思っている程ケガは酷くない。精々鼻血が出る程度だ。
実際には鼻血すら出るわけが無いのだが――
女の子だから殴れない、というわけではない。
メスのクリーチャーくらいたくさん殺してきている。
異形種である今のペロロンチーノの手が止まるわけがない。いや、よそ様のNPCだと分かっている相手の場合は迂闊に殴りかかったりはしない。
ペロロン「………」
思わず殴ってしまったが硬い顔だ、という印象を受けた。
石や壁を殴りつけたような衝撃に似ている。
高レベルNPCを敵に回した場合、一撃で撃破するのは難しそうだ。
それから勝手に反論しようとしたので罰として裸になってもらおうか、という考えが脳裏に浮かんだが速やかに去ってもらった。
ペロロン「……よし」
異形種だからと一撃で顔面を粉砕するような事態にならなくて良かったと安心する。
多少の殴打はNPCにも適応されている。これは『同士打ち』の禁止が解除されているからだが――
通常であればノーダメージ。
ペロロン「……命令してみようか。俺の言動が気に食わないなら遠慮くかかってこい」
マーレ「ぺ、ペロロンチーノ様……」
ペロロン「お前達が慕う至高の御方とやらの正体が何なのか分かるかもしれないぞ」
元は命令通りに動く人形。
それが今は自我を得て自発的に行動する。ある程度の感情も備わっているし、多彩な表情変化も見せる。
当たり前が当たり前ではなくなった。それだけでペロロンチーノ達の思考は充分に狂う。
それは感覚的なものだが。
いつも動くのが当たり前のエスカレータが突然動かなくなっただけで人は平衡感覚を狂わせる。それと似たようなものだ。
だから、アウラ達と対等に話す事自体が既に異常である。
言葉を交わす度に違和感が増大する。それはとても気持ち悪い。
それは心理現象でいう所の――
不気味の谷。
ぶくぶく茶釜がよそよそしく――または不安に思う――する原因だと考えられる。
そもそもゲームデータで出来ているものが生物だなどと認められるものか。
ペロロンチーノ自身、アバターはゲームキャラクターだと――頭では――思い込んでいる。
その作り物が生物として存在していい筈が無い。そんな考えが拒否感を生んでいる。
こいつらは何なんだ、と。
ペロロン「俺は冴えない主人公ではないし、遠慮もしない。勘違いは……たまにするかもしれないが……。その上でお前達はどう行動する? 従来通り命令を持つ従者で居るつもりか?」
アウラ「………」
少し鼻血が出たアウラは黙ってペロロンチーノを見据える。
驚きはなく、ただ答えに窮している、そんな感じだった。いっそ怒りでも見せてくれれば楽だったろうに、と。
戸惑いは対応に苦慮する。彼らの考えを読めるほど器用でもない。
シャルティア「我らは被造物にしてNPCでありんす。創造者がそうあれとお望みならば従うのが必定……。しかしながら、お戯れも程ほどに……」
生意気にも異見してきたシャルティアに多少の苛立ちを覚える。これはおそらく異形種としての特性だな、と自分の事を分析する。
本来の自分はそう簡単に他人に手を出す性格ではない。だが、出たという事はアバターに問題がある。
ペロロンチーノ自身、アバターも信用していない。他のメンバーもそれぞれ疑問を抱くはずだ。
異形種である為に平気になっている部分に。
シャルティアの言う通り戯れかもしれない。けれども確かめたい気持ちに嘘はない。
特に裸は――
煩悩がきちんと機能していれば自分の下半身が激しく反応するものだが、選んだ種族が悪いのか、それとも感じ方の問題か。
今のところ人間の時以上の性的興奮は起きていない。興味はあるようだから不能になっているわけではないと思いたい。
ペロロン「はっはっは~。冗談、冗談。なにマジなってんの~」
棒読み気味に言ってみるもののアウラ達の表情に安堵の色は無い。それがそうであると分かる分、ペロロンチーノは他人に完全に無頓着――あるいは無関心――というわけではないようだ。それはそれで安心できる。
他人の感情を理解できる異形種という意味で。
アウラ「そ、そうですよね~」
鼻血を出しながら苦笑を浮かべるアウラ。
その顔にもう一発拳をぶつける。
ゴツっと硬いものに当たる音が拳に伝わる。先ほどより手加減しているが元々の筋力の高さまでは調節できない。
それにしてもNPCの苦笑が実に腹が立つ。どうしてかそう思えてしまった。
きっとそれが『不気味の谷現象』なのだと感じた。
ペロロン「笑うなとは言わない。けれども……、お前達は俺達の想像以上の動きをしている……。はっきり言えば気持ち悪い。どうしてかそう思えてしまう」
アウラ「………」
鼻血を出しつつも顔はペロロンチーノに釘付け。
泣き叫ばず。助けを呼ばず。言い訳をしない。
反論こそ危惧していたが単なる殴りつけでは動じないようだ。それはそれで立派な心掛けだ。
姉が憎たらしいから仕返しをしているわけではない。姉は姉で尊敬できる人間だ。
であればこれは何だというのだ、とペロロンチーノ自身戸惑う問題であった。
ペロロン「……ほんとに何マジになってんだか……」
単なる装飾用のアイテムも今は様々な活用が出来る。これは使用方法がゲームよりも多くなったことを意味している。
通常は――運営方針などにより――制限のかかった事も今はより多くの拡張性が備わり、想定以上の結果を出せる可能意を秘めている。しかし、それらの詳細については頭脳担当に任せる事にする。問題は――
目の前に控えている三人のNPCと今後どういう付き合い方をすればいいのか考えなくてはならない事だ。