ふたりは断罪黙示録 作:弐式炎雷
残り時間が差し迫っているというのでたっち・みー達がモモンガを急かし始める。
急展開に対して意外とモモンガは慌てる傾向にある。それゆえにコンソールの操作を――普段であれば冷静に対処できる――誤る。
文字一つ打ち込むのも重労働という有様。
モモンガ「まだ少し余裕があると思うのですが?」
ウルベルト「そうですよ、たっちさん。ここでおかしな文章になったらアルベドが可哀想です」
たっち「……すみません」
それぞれの視界に映る個人ウインドウの片隅には時計がある。これは残り時間を示すわけではない。けれども秒針となる数字は今も動いている。これが全て『
モモンガ「……人に見られた状態だと恥ずかしいですね」
タブラ「……大勢の前で『愛してる』なんて普通は書けませんよ」
見た目は白骨骸骨たるモモンガとて中身は純心な男性プレイヤー。そこはかとなく羞恥心と戦うことになる。
アルベドの設定は実のところ長すぎて読み込めなかったが最後の文章にある『ちなみにビッチである』を書き換える。――というのは理解した。それとまともに読み込んでいたら七分などあっという間に過ぎ去ってしまう事も。
こんなことを何故書いたのか、尋ねる時間的余裕は無いが、周りが早くしろと
今まで寂しかった気持ちが嘘のように霧散していた。
正直に言って少し黙れよ、と言いそうになるほど――
それにしても製作者であるタブラは書き換えに何も口出ししてこない。それどころか一緒になって騒いでいる。
とはいえ、とモモンガは専用コンソールに顔を向ける。
アルベドという
モモンガ「……こんな女性が
たっち「……可愛くても異形種ですよ」
モモンガ「……分かって、ますよ」
吐き捨てるように言いそうになった言葉を飲み込んで冷静な対応で応える。
確かにアルベドはモンスターだ。人ですらない。プレイヤーでもない。
だが、彼女の表情はとても魅力的であった。
色々と迷いはしたが仲間達の――強引な――後押しにてボタンを押していく。それを羨ましそうに――悩ましげに、かもしれないけれど――タブラに見つめられながら。いや、ペロロンチーノ達を含む大勢の仲間達に見られながら、だ。
定番らしい『モモンガを愛している』を避けて別の言葉となるとすぐには浮かばなかったが、同じ単語を書けとは言われていない。
短時間で思いつくことは多くないが、仲間たちに見られても良いものとなると更に限定的になる。
小声のタブラから『何でもいいですよ』と言われた事で
モモンガの妻である。*1
文字数的には一文字余る文章だ。
近くで見ていたたっち達は
モモンガ「……定番ならこれでもいいって事ですよね?」
たっち「……なんと無難な……」
ウルベルト「多くの二次創作が撃沈しましたね。愛している、が多くの懸念を生むというのに……。これでは平和街道まっしぐら……。……いえ、かえってもっと不穏になる可能性もありますか……」
物騒な事を呟き始めた黒い山羊を無視して最大の問題は済んだ、とモモンガは思った。
残りは時間経過のみ。その筈である。
不満そうな態度を見せていたたっち達は入力を終えた文章の書き換えを指摘して来なかった。色々と思い悩みつつ自分の指定場所へと戻っていく。
残り時間は二分――
モモンガ「えっと……。名前を言うんでしたね。たっち・みー。ウルベルト・アレイン・オードル……」
モモンガはメンバー一人一人の名前を言っていく。
言われたメンバーはそれぞれ自分なりのポーズを取る。それとタブラの名前の時に一度アルベドの様子を窺う。
何も起きない事に安心しつつ儀式を継続する。
最後の『るし★ふぁー』まで無事何事もなく終わった後は静寂に包まれるところだが、ゲーム内のBGMがそれぞれのプレイヤーの耳に聞こえていた。
様々な思い出が詰まった『ナザリック地下大墳墓』とメンバーとの冒険の日々は現実の世界で改めて思索することにした。今はただ、終わりゆく景色を眺めるのみ。
たっちの言葉が正しければ別の世界に行くらしい。しかし、モモンガには窺い知れない事だ。
朝四時に起きて会社に行かなければならないのだから。
そして、次の日まであと数秒に差し掛かった。ここでメンバーが何を言おうと無視することに決めた。
あれほど騒いでいたメンバーも居なくなれば寂しいと思う。今日は逆の状況なので驚いたが、かつての栄光をもう一度見られただけでモモンガは物凄く嬉しかった。
最後の瞬間、モモンガは『ユグドラシル、今までありがとう。メンバーのみんな、ありがとう』と――
そして――
〇〇:〇〇:〇〇
サーバーが落ちる――筈だった。
時間は更に進むかと思われた。しかし、数値は忽然とモモンガの視界から消え去り、残っているのは暗い景色のみ。そして、小さく『……よしっ』という声――
モモンガは耳に聞こえるメンバーの声で戦慄を覚える。
たっち「おめでとうございます!」
勝ち誇ったように叫んだ後、彼の背後で爆発のエフェクトが起きた。そして、現れた文字は『異世界!』だった。
どう見てもナザリック地下大墳墓。異世界らしさは
ぶくぶく「……なんとなく分かってた」
やまいこ「……それよりコンソールが出せない……、というのはまあいいとしよう」
餡ころ「……元の世界に戻る方法が無いまま来て良かったの?」
そう思いつつ、餡ころもっちもちも異世界には興味があった。それとこういう不測の事態は実際に起きる前までは
るし★ふぁー「……想定内とはいえ……」
ヘロヘロ「みんな一気に不安になってますね。長期休暇だと思えばいいんじゃないですか?」
黒い
例えば家に残した家族。会社。家のあれこれ。
ゲーム内に持ち込めないものが実に多い。それを無視するのは気持ち的にも無理がある。
ベルリバー「俺、実は既に死んでいるって言ったら信じる?」
ぷにっと萌え「現実の身体はどうでもいいんで」
ホワイトブリム「漫画連載が出来なくなるじゃん」
ク・ドゥ・グラース「今更!?」
現実の問題が気になるならゲームにアクセスするべきではない。そんなことも分からない
モモンガは玉座からメンバーを睥睨しつつ呆れたり、含み笑いを浮かべたり。気持ち的には混乱気味だったのは彼らと一緒。
その中でも不安が
例えるなら体温が急上昇していったものが一気に下降するようなもの。
モモンガは改めて周りに顔を向ける。専用コンソールは各メンバーも出そうとしていた。何も無い中空に指を向けてもウインドウは出てこなかった。
この状態ではログアウトも出来ない。――それは何となく理解した。しかし、実際に起きると――まだ――現実味が無く、無意味に動作する自分を止められない。
アルベド「皆様方。一体どうなされたのですか?」
玉座の側に居たアルベドが喋る。
聞きなれない言葉にモモンガは数秒から一分ほど気づかなかった。
おそらくメンバーの中で状況を一番理解していると思われるたっち・みーとウルベルト
たっち「モモンガさん。アルベドが喋りましたよ」
ウルベルト「ここは気づくまで待ってあげるのが正しいのでは?」
二人の言葉すらもモモンガにとっては右から入り、左から抜け出るような有様だった。
たっちはアルベドに向かって色々と動きを見せる。内容的には肩に手を乗せろ、モモンガの身体を揺すってみろ、というもの。
それとは別に現実味を理解し始めたメンバーが次々と玉座に顔を向ける。
中には不安を示す『
エントマ「わーい、わーい」
源次郎「……それどころじゃないか」
少しずつ賑やかさが蘇りつつある第一〇階層。
その中で冷静なのはたっち・みーとウルベルトの二人だけではないだろうか。次に気が付いたのはペロロンチーノとぶくぶく茶釜。
一分二分と経過するごとにメンバーが自身に起きたことを理解し始める。
モモンガはアルベドに揺すられたところで異常事態である、と認識し始めた。
ギルドメンバーに触れる事はアルベドにとって不敬な行動である。それを可能としたのは創造者『タブラ・スマラグディナ』の命令があったからこそ。そうでなければ自主的にモモンガの身体に触れる事は無かった。
モモンガ「……サーバーダウンが延期になった、のか?」
たっち「そんなわけないでしょう」
気楽な言葉にモモンガは頭を押さえる。
彼の言葉を信用するわけではないが、と思いつつ想定された異常事態は実感が伴わない。悪質な嫌がらせの
ウルベルト「……地の文が脚本っぽくなくなってますね。情報量の多い『オーバーロード』を詳細に説明するのはやはり……」
ぷにっと萌え「端的な行動だけだと面白くないですから仕方がありません」
るし★ふぁー「……よーい、ドン。……で、カルネ村を攻略するんでしたか?」
ばりあぶる「まずは外の様子を見る。またはNPCによる忠誠の儀式を執り
ベルリバー「忠誠は省略でいいんじゃないですか?」
ペロロン「……
シャルティア「はい、ペロロンチーノ様」
甘ったるい声を出すシャルティア。彼女の創造者であるペロロンチーノに声を掛けられるだけで顔が蒸気してきた。――見ようによっては怒りが沸々と湧き立つ様子に似ている。
ぶくぶく「原作通りNPC達が喋ったので帰ろうとしていいですか? べ、別に気持ち悪いとかじゃないんでからねっ」
ぶくぶく茶釜の側には『
アルベド同様に自主的に動き、そして喋る。今は周りの様子を窺いつつ不思議そうな顔をしていた。
やまいこ「ボクのユリ*2も喋るようになったよ。わー、首の断面がゲームよりもリアルになってる~」
餡ころ「さっきまでずっと付き従っていたNPC達なのに今更な反応をするのは何故?」
餡ころもっちもちも側に居る自分のNPCの様子を伺いつつ疑問に思った。けれども自主的に喋ったり動いたり――なにより能動的に動くようになった事態には素直に驚いていた。
特定の命令をいちいち言わなければ*3行動しなかったNPC達だ。手間を一つ省けただけで随分と気持ちが変化したものだと――
確かに異常事態が起きた。半ば想定内だとしても――
モモンガはゲームの時と今との差異を思索する。
まず専用コンソールや様々な情報を映し出す個人ウインドウが消えたことを確認。次に場を満たしていた
アルベドは機械的な動きではなく流動的――一般プレイヤーと遜色ない動きと言った方が正確か。
それと言葉だ。
NPCは特別な場合を除き喋ることは無い。彼らに声を与えている『声優』が豊富に居ない。
そう言い切れるのは
モモンガ「……これがアルベドの本来の声ということか」
タブラ「それぞれ無難な声が与えられたようですね。アウラ*4達も見た目通りのものです」
ぶくぶく「手間を考えると自主的ってところが羨ましいわ。実際、声を入れるのすっごい大変なのよ。広辞苑のような
DMMORPGである『ユグドラシル』はただプレイヤーが縦横無尽に遊ぶものではなく、何本かの
イベントに必要なNPCは当然喋るし、声も与えられている。喋らないのはプレイヤーが製作したNPCや召喚した傭兵モンスターの
課金制のゲームなので資金力次第では不可能ではないけれど――
タブラ「この後、通常であればアルベドのおっぱいを揉むイベントでしたね」
やまいこ「……自分のNPCに触れられるから今更な気がするけど」
ヘロヘロ「何の為におっぱいが付いているというのか。もちろん、揉むためさ」
自信たっぷりに言い放つヘロヘロ。
その意見に賛成する者は多かった。
性別があるならば避けては通れない道である。そして、ギルドメンバーは全員が社会人。性に興味が無いプレイヤーはここには居ない。それはぶくぶく茶釜とて同様に。
普段は弟に厳しい
ペロロン「……それ以前に全員が異形種プレイヤーだからな……」
餡ころ「……卑猥な言葉を大声で言っても何も起きないのは理解した」
武人建御雷「……うん。元々の身体と同様の動きは出来るし、能力もゲーム時代のものが使える」
弐式炎雷「……ナーベラル*5を『
獣王メコン川「……可愛いルプスレギナにお座りを教え込んでみた」
ばりあぶる「ゲームの時より動きが多くて新鮮ですね」
賑やかな様相と化した第一〇階層にしばし戸惑うモモンガ。しかし、いつまでも玉座に座っているわけにはいかない。
現実世界に戻れない原因と外の様子を調べなければならない。
しかし――メンバーに悲壮感が無いのが頼もしい。それに引き換え自分は内面的には混乱し、声をかける事もままならない。先ほどからアルベドが心配そうにこちらを見ている。
彼女は『
タブラも軟体系モンスターなのに笑顔になる事が出来ない。――笑顔なんてできるのか疑問だが。
完全な
ただ、同じく異形種である筈のNPC達は柔軟に対応していた。それがまた不思議というか驚きであった。
ユグドラシルのサービスは終了した。おそらくそうだとモモンガは理解し、次にどうすべきか――
当たり前だが朝四時に出社する予定以外は考えていない。
たっちが言っていた『カルネ村』なる場所の攻略に行くのが正しいようだが、聞いたことも無い村の名前をどこから仕入れたのか。
広大なマップを持つユグドラシルの全てを攻略したわけではない。自分の知らないところがあっても不思議ではないけれど、それでもこの現象は『アインズ・ウール・ゴウン』だけのものなのか、と。
他のギルドはどうなったのか。それも確認しなければならない。
手始めに運営への連絡だ、と早速行動を再開する。
モモンガ「……メール機能が使えない状態で運営にどうやって連絡すべきか」
たっち「『
ウルベルト「仲間同士の連絡は今まで通りです」
忠実な部下のようにたっちとウルベルトが報告してきた。
今回は二人が主役という話しだった。モモンガ首を傾げる。それと台本形式に無理が生じてきているような気がするが動きを表現する手間が省けているようなので無視する。
ぷにっと萌え「モモンガさん。一時解散しましょう。落ち着いた時に円卓で会議ということで」
モモンガ「了解です。では皆さん、それぞれ自由行動にしましょう。気が付いたことがあれば連絡をください」
ペロロン「了解」
ぬーぼー「了解」
スーラータン「了解」
フラット「了解」
ベルリバー「了解」
チグリス・ユーフラテス「了解」
ウィッシュIII「了解」
次々と了解と言っていくメンバー。
今にも飛び出しそうだったたっちとウルベルトもいきなり外に出る事をあきらめたようで他と同じく『了解』といって立ち去って行った。
第一〇階層の玉座付近は転移阻害対策が施されており、各メンバーが所持している指輪型アイテム『
このアイテムは都合一〇〇個製作されており、残りは『宝物殿』に収められている。その宝物殿には
タブラ「……ルビが長いアイテムだな」
フラット「限界数字があるからこれより長い場合は継ぎ足しになる」
テンパランス「……俺達、原作に登場していないけれど活躍する機会あるのかな?」
死獣天朱雀「……大半はNPCが動くから……、実際は我々の出番って少なそう……」
『オーバーロード』はモモンガとNPC達の物語である。そこに旧来のメンバーも同席しては飽和状態となるのは自明の理。
だからこそ多くの二次創作に出せる『オリキャラ』は多くない。まして複数人の『オリ主』は設定するだけで大変である。
更に台本形式だとNPC分のセリフが加算され、倍化した分量を書かなくてはならなくなる。実際にNPCも喋っているのに書かれていないのはストーリーが進まなくなる為の措置であった。