Hollow Faker ─偽造者─   作:karmacoma

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遭遇

 エスカレーターを登りきり二階のエントランスへ着くと、シアターへと続く通路の途中に受付嬢が映画の切符を切っていた。床には全面に、血のように赤く美しいペルシア絨毯が敷き詰められており、高い天井には豪華なシャンデリアが通路全体を照らし出していた。

 

 カーキ色の壁面と赤い床が絶妙のコントラストを醸し出しており、これから見るであろう映画には似つかわしくないリッチな雰囲気を演出している。

 

 須藤達也が受付嬢に切符を渡すと、彼女はフレンドリーな笑顔で対応してきた。覚悟のもとに張り詰めていた達也は、その笑顔に幾分気持ちが和らいだと言えば嘘ではない。(何だ、結局噂はただの噂でしか無かったのではないか?) そんな気持ちすら抱かせたほどだ。

 

「大人一名様・E-51番席ですね。本上映は全席指定となっておりますので、私がご案内差し上げます。こちらへどうぞ」

 

 切符を切られ、言われるがままに後をついていき、シアター内へと続く扉を潜った。その先にある光景を見て、達也は思わず固唾を飲んだ。

 

 全席が、ほぼ満員に近い状態なのである。にも関わらず、一切の雑音や喧騒が皆無だった。既に予告が始まっており、場内に響くのはスクリーンに映る番宣の音声のみだった。

 

 半分の輝度に落とされた薄暗い照明の中を、受付嬢が先頭に立ち、ペンライトで照らしながら右端の通路を進んでいく。その後に続きながら、左側に列挙する観客達を見た。すると彼らの左手の甲には、既にオプティカルケーブルが接続されており、オプトネット上で番宣を見ていることが伺えた。場内が不気味なほど静まり返っていた原因はこれだった。その全員が、背もたれに寄りかかり脱力している。

 

 ならば何故わざわざスクリーンに映像が投影されるのか。それはオプトネットが切り開いた歴史に遡る。西暦2142年にオプトネットというシステムが開発され、その信用と安全性が一般に定着されるまで、18年という長い歳月を要した事による。しかし一般消費者向けにまで敷居が下がったとはいえ、そのオプトネットシステムを体内に埋め込むという手術を拒絶したものが、日本国内でも3割ほど存在する。

 

 つまり映画館とは、2160年となった現在ではオプトネットを持つ者と持たぬ者、その双方が楽しめるエンターテインメントとして新たな道を切り開いたのである。オプトネットを持つ者にはシアタークラスの本格的なVRオプトシネマを、持たぬ者には通常の迫力ある映像を大画面で提供するという、2つの顧客を手にしたのだ。

 

 達也は観客達の左手に意識を向けながら、その大半がオプトネット保持者である事に気がついた。別に珍しい光景でもなかったので、達也はそれを無視した。それにしても、この受付嬢は一体どこまで館内の奥に連れて行くのかと気になっていた矢先、最前列の前から3列目・右端の席にペンライトの光を落としていた。

 

「こちらがお客様の席となります。どうぞお掛けください」

 

 静まり返ったシアター内に気を使ってか、囁くように言うと受付嬢は席に手をかざした。

 

「席の左手肘掛けにオプティカルケーブルがございます。お客様、オプトネットの使い方はご存知でしょうか?」

 

「ええ、大丈夫です。仕事でも使ってますので」

 

「でしたら結構です。どうぞごゆっくりご鑑賞くださいませ」

 

 達也はいちいち(仕事で)などと、余計なことを言ってしまったと後悔した。クラッカーの達也にとって、そうした情報が個人特定にも繋がりかねないと恐れていたからだったが、ただでさえ普段からコミュ障という自覚もあり、仕方のなかった事だと溜め息をついて忘れることにした。

 

 達也は周りを気にして、極力音を立てないように座った。しかし背後の気配に気づいたのか、前に座っていたものが振り返り、達也の顔を覗き込んできた。

 

 達也は反射的に目を逸らし、左手肘掛けから伸びたオプティカルケーブルを手に取ったが、今度は身を乗り出して達也の方を振り返ってきたのだ。(失礼な奴だな)と心の中で思いながらその顔を見たが、前席に座っていた男は達也と目が合うなり、(ニタァ)と不気味に微笑んだ。薄暗い照明と相まって、邪悪さを感じるほどの笑みだった。そしてその短髪だが線の細い男は、あろうことか達也に話しかけてきた。

 

「あれぇ?兄さん見ない顔だねぇ。もしかしてこの映画見るの初めて?」

 

 唐突にそう問われた達也は、咄嗟に頷いて返す他に方法がなかった。しかしその対応を見た男は、更に嬉しそうに目を爛々と輝かせて達也を見返してきた。髪をハードジェルでツンツンに立たせたであろう髪型だが、よく見ると若い。線の細さから、恐らく年は18、9と言ったところではないだろうか。このような状況で赤の他人に話しかけられた経験のない達也は、男の発する次の言葉を待った。

 

「そうなんだぁ。まあこの映画楽しいからさ、いいキャラに当たるといいね? ついでに一緒の部隊になれたらもっと楽しいかもねぇ。席も近いし。へへ、へへへ、へへへへへ」

 

 これ以上無いほど不気味に笑う男だったが、達也は冷静に男の目を見ていた。その目に悪意はなく、親愛の情がにじみ出ている。上映まであと数分だ。危険はないと判断し、この男から映画の情報を何か聞き出せるかもしれない。達也は男の座る席の背もたれ上部に打ち付けられたプレートを見た。そこには(C-51)と刻まれている。達也は男に質問した。

 

「君は、この映画を見るのは初めてではないの?」

 

「違うよぉ兄さん。初回放映分も含めて、これ映画館で見るの三回目だよぉ?」

 

「じゃ、じゃあそれなら、あの当時に起きた事件のことも知ってるよね?」

 

「もちろん知ってるさぁ。ネット界隈じゃ有名な話だったからねぇ。...どうやら兄さんもあの噂を頼りにこの映画を見に来たってクチかい?フヒ、フヒヒヒ!」

 

「そうなんだ。...あーもう!もっと話してたいのに、映画が始まってしまう。良ければ、映画が終わった後にでも話を聞かせてもらえないか?個人的に興味があるんだ」

 

「へへ、いいよぉ?それならさぁ、もう一人当時のサバイバーを連れて行きたいんだけど、構わないかなぁ?」

 

「も、もちろん構わないよ!当時を経験した者に二人も会えるなんて、こんな機会は滅多に来るもんじゃない。で、その人はこの会場の中にいるのかい?」

 

「俺の隣にいるよぉ?...おーい真希ぃ、話聞いてただろぉ? このお兄さんに挨拶しなよ」

 

 すると男の左隣り、C-50番に座っていた女性がクルンと振り向いた。ツインテールの髪型が特徴的だが、男と同じで線が細く、端正な顔立ちの少女だ。

 

 その子は達也の顔を見るや、大きな目をパッチリと開き、口先を尖らせて体ごと振り向き、達也の顔を覗き込んできた。男が言葉を次ぐ。

 

「俺の妹だよぉ?どうだい、可愛いだろぉ?」

 

「あ、ああ!そうだね。真希ちゃん...でいいのかな。年はいくつなのかな?」

 

「14。よろしく!」

 

 その真希と呼ばれるサバサバとした子は明るい表情で、達也に手を差し出してきた。達也はその手を優しく握り返し、固く握手を交わす。男はそれを見て、正面にいる達也に手招きしてきた。

 

「兄さん、耳貸して。真希もちょっとこっち」

 

 達也は言われるがまま、ニタリ顔の男に顔を寄せた。隣の真希も顔を近づけてくる。耳元で男がそっと囁いた。

 

「兄さん、今のうちに名前教えて?僕の名は黒田(くろだ) (あきら)

 

「あたしは黒田(くろだ) 真希(まき)

 

 達也はそれを聞いて二人の顔を見やった。果たしてこの場で本名を告げ合う事に何の意味があるのかと、疑問に思ったからだ。達也はそれをそのまま口にした。

 

「その、今本名を教え合う事に何か意味があるの?」

 

「大ありさぁ。この映画を見始めれば分かるよぉー」

 

「そう。それに今のうちにチームを組んでおいたほうがいい。お互いがお互いをすぐに識別できるように」

 

 …一体何のことを言っているのか理解できなかったが、放映当時の映画視聴者二人がこう言っているのだ。ここは素直に従おうと考えた。

 

「...分かった、俺の名は須藤達也だ。アキラ君、真希ちゃん、よろしくね二人共」

 

「こちらこそよろしくぅー、須藤兄さん」

 

「よろしくね、達也お兄ちゃん」

 

 嬉しそうに微笑む二人の笑顔が達也には眩しかった。兄の方は最初不気味に感じたが、いざ打ち明けてみれば、こんなに仲の良さそうな兄妹と巡り会えたのだ。達也は誰にともなく感謝した。それを察したのか、アキラは顔を近づけたまま、達也の目を覗き込んで小声で囁いた。

 

「ところで須藤兄さん、この映画の噂、どこまで知ってる?」

 

「え? そりゃまあ、行方不明者が出たとか、主演の不破 樹が失踪したとか、そこら辺は知ってるけど」

 

「そうかい、そうだよねぇ。じゃあ兄さんには特別だ。この映画を見たものにしか分からない、もう一つの噂があるって事を教えてあげるよ」

 

「...何?その噂って」

 

 ニタリ顔だったアキラが突然真顔になり、鋭い目つきで達也の目を射抜いた。耳元で小さく深呼吸したアキラの鼻息が、達也の耳にかかる。彼はこう告げた。

 

 

 ──この映画にはルート分岐があり、誰も見た事のない真のエンディングが存在する。しかしそれを見て生きて帰った生還者(サバイバー)は誰一人として居ない──

 

 

 ...達也はそれを聞いて悪寒が走るあまり、全身が痺れて麻痺状態に陥った。硬直したままアキラの目を見返すことしか出来なかったが、やがてアキラは先程のニタリ顔にゆっくりと戻っていった。

 

「どうだい兄さん、面白そうな噂だろう?」

 

「そんな..そんな噂が流れていたのか、知らなかった。じゃあ、行方不明者というのはもしかして?」

 

「そう、そのもしかしてだよ。このシアターに来ている大半の客たちは、恐らく当時放映された視聴者達、いわゆるサバイバーだ。万が一の可能性にかけて、真のエンディングを見ようと集まってきたのさー。僕と真希もその内の一人だ。見れば分かると思うけど、映画の内容は苛烈を極める。兄さんに声をかけたのは、ほんの少しでもその可能性を上げるためなのさぁ。分かってもらえたかなぁ?」

 

「兄貴、口が悪い!...達也お兄ちゃん、私達の名前忘れないでね。一度映画の中に入ったら、それどころじゃなくなるから」

 

「あ、ああ。真希ちゃんも、その真のエンディングを見たいんだね?」

 

「もちろんよ!」

 

「分かった、俺もなるべく頑張ってみる」

 

「...っと、そろそろ映画が始まるなぁ。兄さん、オプトネットに接続しといた方がいいぜ。僕たちはもう繋いであるからね」

 

「分かった」

 

 左手の肘掛けに伸びたオプティカルケーブルを手の甲に差し込むと、視界が一気に切り替わった。体が脱力し、目を閉じても映画の番宣が強制的に映し出される。やがてその番宣も終わると視界が暗転し、暗闇の中にプログラムの数列が流れ始めた。それと合わせて機械的な女性の音声が脳内を過る。

 

『ようこそ、TOKIOSシネマ 渋谷へ!これより本上映に先駆けまして、オプトネットの起動を開始致します。本作品はVRオプトシネマ・フルダイブ型の上映となっております。

 

ご気分の優れぬ方、体調の悪い方は、これより30秒間表示されます視界中央の白い点より、目を大きく逸らしてくださいませ。それを持ちまして、対象者の方は通常のスクリーンによるご鑑賞のみとさせていただきますので、何卒ご了承いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。』

 

 暗闇の中、言われたとおり視界中央に直径5センチほどの小さな点が表示されたが、達也は躊躇することなくその白い点を見つめ続けた。30秒が過ぎて白い点が消え、暗闇の中再度アナウンスが流れる。

 

『...只今VRオプトシネマ対象外のお客様がいらっしゃいましたので、係員により救護活動を行っております。お客様各位には大変お待たせしまして申し訳ありませんが、今しばらくお待ちくださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます』

 

 

 …この状況で、オプトネットを拒絶した者がいるということなのか。アキラは言っていた。(このシアター内にいる客の大半が、一年前に放映されたセルフ・ディフェンス・フォース経験者)だと。

 

 それでも脱落者が現れるというのは、余程の事態だと達也は感じた。しかし自分の体調は万全だ。強いて言えばミントタブレットが食べたいが、そんなものはこれから起きるであろう出来事に圧倒的に劣る。

 

 達也は暗闇の中、大きくあくびをした。やがて再度、女性のアナウンスが頭の中に響く。

 

『大変お待たせしました、お客様の救護活動が完了しましたので、起動を再開致します。各自そのまま、リラックスした体勢でお待ちください』

 

 すると突然、頭の天辺から足の指先まで虫が這い回るような不快感に襲われた。フルダイブ型VRMMO経験者である達也は、オプトネット接続前の全身スキャンが始まったのだと分かっていた為、まんじりともせずにその不快感を受け流していた。

 

──Mental OK.

 

──Vital OK.

 

──Welcome to the SDF!

 

 そのメッセージが目の前を過った瞬間、唐突に視界が明るくなった。目を下に落としていた達也が顔を左前方に上げると、先程と同じ映画館のスクリーンが目に入った。しかし、そこから正面へと目を落とした時だった。

 

 そこにはアキラがいた。いや、居たはずである。しかしそのアキラの後頭部がザックリときれいに削り取られている。そして血管が生々しく脈打ってはいるのだが、その空白に大脳と呼ばれるものがまるで無いのだ。そして肌の色は、白蝋のように青白い。

 

 悪夢だった。もう一度まじまじとアキラの後頭部を見た。大脳がないという認識は正解だ、合っている。しかしそこには小さな中脳が残されており、その中脳に上から真っ直ぐに、電極のような針金が突き刺さっていた。

 

 そしてその針金の先端には、まるで(生牡蠣)とでも呼べるような脳の一部らしき小さな欠片がぶら下がっている。左横を見ると、真希も同じ状態で正面だけを見据えている。このような状態で、正常な会話などできるはずも無い。そう頭では分かっていても、彼に声をかけずにはいられなかった。

 

「...えっと、アキラ...君? 真希ちゃん?」

 

「ん?よう須藤兄さん。無事入れたねぇ」

 

「どうしたの達也お兄ちゃん?顔色悪いよ?」

 

 まるで何事もなかったかのように、二人は後ろを振り返った。

 

「えっと!そ、その、二人共...頭が...つまり、脳がその、無いように見えるんだけど...」

 

「気持ち悪い?気持ち悪いかい?須藤兄さん?」

 

 アキラは振り向いたまま背もたれに寄りかかり、醜悪な部分を見せつけるように達也へと詰め寄ったが、達也は近寄られても動じなかった。

 

「そんな事はどうでもいいんだ!二人共そんな状態で、大丈夫なのかって心配なんだよ!」

 

「あたし達は大丈夫だよ。これが映画に入る前の通常だからね」

 

「そ、そうなんだ。でもそんな小さな脳しか無くて、その、ちゃんと考えたりは出来るの?」

 

「当たり前じゃない。自分の頭、触ってみたら?」

 

 真希にそう言われ、達也は恐る恐る自分の後頭部に手を伸ばした。アキラ達のようにえぐり取られているのではなく、頭髪と頭蓋骨の感触がしっかりとあった事を受けて、達也は腹の底から溜息を漏らした。その様子を見て、アキラはおろか真希までもが、兄そっくりの邪悪な笑みを浮かべて達也を見ていた。

 

「まあ、兄さんみたいに完全な状態でログインする例は珍しいかなぁ。周りを見てごらんよ?」

 

 言われるがままに、達也は背後を振り返って観客席全体を見た。アキラの言うとおり、頭部はおろか鼻や目が欠けている者や、手足の一部が欠損している等、健常そうな者は誰一人として見当たらなかった。

 

 もう一度言う。これは悪夢だった。ゾンビの中に一人で放り込まれた気分と言えば分かってもらえるだろうか。達也は憔悴し、顔を右手で一撫でした。眉も、瞼も、鼻も唇もある。しかしその事に安堵する余裕などない。

 

 目の前を見れば、頭部の大半を欠損した兄妹がニタリ顔で微笑んでいるのだ。彼らの事を思うと、笑ってなどいられない。達也は二人に問うた。

 

「とりあえず、二人共無事なら良かった。この後はどうなるの?」

 

「当然映画が始まるよぉ?ただその前に映画の説明が入るから、ちゃんと聞いておいてねぇ?」

 

「分かった、ありがとう。...二人共ほんとに大丈夫?」

 

 達也はアキラの頬に両手を添えた。アキラはそれを受けて目を閉じたが、温かい。次に真希の頬にも両手を添えた。アキラよりも体温は低いが、肌の温もりが感じられた。それを感じて達也は安心し、その手を離した。

 

「...須藤兄さん、優しいねえ。なあ真希?」

 

「うん。暖かかったよ、達也お兄ちゃん」

 

「大丈夫ならいいんだ。こんな俺に話しかけてくれて、ありがとうなアキラ君、真希ちゃん。この映画が終わったら、三人でメシでも食いながらゆっくり話をしよう」

 

「当然、兄さんの奢りだよなぁ?」

 

「あたしパフェ食べたーい!」

 

「OKOK、Anything you need.(何でも欲するがままに)

 

「やったぁ!楽しみだね兄貴!!」

 

「焼き肉って手もあるなぁ?」

 

「どこでもいいよ。今日は大盤振る舞いだ!」

 

「へへ、話せるねえ兄さん!よし、今日もいっちょやるか真希!」

 

「うん、あたし頑張っちゃう!」

 

 三人で盛り上がっていると、壇上スクリーンの上手からグレースーツ姿の美しい女性が現れた。右手にはワイヤレスマイクが握られている。中央まで着くと、口元にワイヤレスマイクを構え、左手を大袈裟に広げて口上を述べた。

 

「ようこそ、セルフ・ディフェンス・フォースへ!我々は皆様を歓迎致します。この映画をご視聴するに当たり、最低限の注意事項がございますので、それをご説明させていただきます。まず最初に...」

 

 達也はその説明を聞きながら意識を集中し、鋭い目線を壇上に送っていた。彼女が話した要点は主に以下の点となる。

 

1.本上映中、途中での意図的な退場は、キャラが死亡した時以外は一切認められない。また死亡したキャラに関しては、オプトネットのログインを強制解除され、スクリーンでの通常閲覧のみとなる。

 

2.本上映のリアリティを求めた性質上、フレンドリーファイアは有効である。但しそれを実行に移し味方を殺した場合、非常に重いペナルティが課される。

 

3.本上映においての各キャラクター配置及び階級分担に関しては、完全なランダム配置となる。但し過去に本上映を閲覧し、特定のスキルをLv3以上に伸ばしている場合は、それが継承された状態で本上映に参加する権利が認められる。

 

4.本上映開始時の初期装備は、階級により限定されている。但しストーリーの進行上新たに手に入れた武器やスキルは自由に使用することができ、その点に関しては階級の制限はない。

 

5.特殊スキルのレベルは、そのスキルを反復使用する事によってレベルが上がっていく。またある特定の階級でしか使用出来ないユニークスキルが存在する。それを手に入れた場合、優先的にそのスキルを伸ばすことで物語を有利に進める事が可能となる。

 

6.キャラクター本体のレベルは存在せず、操作するものの潜在能力により、基礎体力や俊敏さが決定される。但し階級によりこれらのパラメータが上下する場合もある。

 

7.本上映中の各個人の呼称に関しては、オプトネットIDに刻まれた本名を使用するものとする。尚これに関しての弊害及び訴訟等に関して、弊社及び関連企業は一切の責任を負わないものとする。

 

8.7で述べられた以外の本上映内でのあらゆる個人情報漏洩等に関しては、配給元及び配給先、関連会社は一切の責任を負わないものとする。

 

 

 大まかに言ってこの8項だった。視界の中央にメッセージが表示される。

 

■以上の項目に同意された上で、参加することを了承しますか?

(Yes / No)

 

 達也は迷うことなくYesに目線を合わせて選択した。そして突然視界が再度暗転する。達也は目を閉じ、脳内で映画のルールを繰り返し考えた。全ては真実の為に。そしてアキラと真希の為に。

 

 しばらく待つと、緩やかな風が達也の頬を撫でた。ゆっくりと目を開ける。すると自分が大通りのど真ん中に立っている事に気がついた。車一つ、人っ子一人居ない渋谷の道玄坂。そこにはカラスの鳴き声も響かない。

 

 達也は空を見上げた。まるで明け方のダークブルーに染まった星空だ。右を見ると、先程までいた映画館のシャッターが閉じているのが見える。左腕に装備された腕時計に目をやる。

 

 午前4時59分。背中には重装備のバックパックが背負わされている。そして左手には、これもズッシリと重いミニミ軽機関銃のキャリングハンドルを手にしていた。

 

 達也は片膝を付き、ミニミに装填された弾薬のベルトパック弾数を確認する。5.56mmNATO弾が約200発。確認するまでもなく、追加弾倉も恐らくバックパックに収められているだろう。

 

 これだけの重装備ながら、不思議と苦ではなかった。そして銃器の扱いもごく自然に、まるでつい昨日まで使っていたかのように扱い方を熟知していた。リアルでは触ったことすらないのにだ。

 

 そのようなギャップを感じながら、達也は自分の武装を確認した。左腰にホルスターがあり、ベレッタM92Fが収められている。右腰にはグルカナイフ、胴体及び脚部には防弾型のボディーアーマーが装備されており、分隊支援火器担当である事が伺えた。

 

 ケブラー製のヘルメット左側に固定されたヘッドフォンからは、様々な通信が行き交っている。それに聞き耳を立てながら、達也はTOKIOSシネマ側の通りに身を隠した。

 

「ザー・・・...藤....須...佐....須藤三佐!...現在地を知らせよ、繰り返す、現在地を...ザーー・・・」

 

 微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。応答しなければ。達也がヘルメット越しに左耳へ手をやると、突然視界にウィンドウが開いた。

 

『通信を受信しました。左側頭部にあるボタンを押すことにより、応答が可能となります』

 

 唐突に女性の声が大きく脳内に響き、達也は仰天した。

 

「うっわ!!...びっくりしたー」

 

『驚かせてしまい申し訳ありません』

 

「えっと、君、喋れるの?」

 

『はい。本上映内に置いて、須藤達也様専用のサポートをさせていただきます、Fghting Unison Reality Intelligence《戦闘同調型現実知性》、通称フューリーと呼ばれております。以後お見知りおきを』

 

「要はAIなのね、分かった。よろしく頼むよフューリー」

 

『お任せください』

 

「早速だけどフューリー、この通信は敵方が放っている可能性はない?」

 

IFF(敵味方識別装置)信号の偽装は、人工衛星自体をハッキングする必要があり非常に困難かと思われます。この通信の波長を見る限り、その可能性はほぼ皆無かと進言致します』

 

「ほお、よく知ってるね。頼りになりそうだ」

 

『光栄です』

 

 Identification Friend or Foe、略称IFFの存在を知っているかどうかを、達也はこのAIにわざと試したのだ。別に戦争に関わっていなくとも、このくらいの知識は達也の中にあった。それに正直に答えたこのAIは、相当高度なプログラミングが施されているに違いない。

 

 それでなくとも、話し相手ができた事に達也はいくらか安堵していた。何せ全くの初心者なのである。そういった救済措置があるのは、達也にしても非常にありがたかった。

 

『現在のステータスをご覧になりますか?』

 

「気が利くね。是非頼むよ」

 

『畏まりました』

 

 すると視界の目の前に新たなウィンドウが開き、そこにはこう表示されていた。

 

──────────────────────

 

Name: 須藤達也

 

Age: 23

 

Rank: 3等陸佐

 

Equipment(装備): ミニミ軽機関銃・ベレッタM92F・グルカナイフ・重装ボディーアーマー・ケブラーヘルメット

 

Ammo(弾薬数): 5.56mmNATO弾×1200発、9mmパラべラム弾×100発、手榴弾×10発、C4爆薬×5個

 

Skill: 次元移動(ディメンジョナルムーブ) Lv1

 

Strength(腕力): 20

Dexterity(素早さ): 50

Intelli()gence(): 55

Consti()tution(): 70

Spirit(精神力): 25

 

──────────────────────

 

「なるほど。DEX(素早さ)INT(知性)CON(体力)が特に高いけど、これは実際の戦闘ではどう有利に働くの?」

 

『そうですね、まずDEXは主に遠隔武器の命中率と素早さ・ディフェンスに作用します。またナイフ等刃物を使用した暗殺系のスキル成功率にも影響を与えます。

 

次にINTですが、これは全パラメータ中最も重要視するべきステータスです。例えば須藤様の攻撃により敵が出血した場合、INTが高ければ高いほど継続ダメージ量が増し、結果敵の死が早まります。またハンドグレネード等の爆破系武器も、INTが高いことでより広範囲の敵に致命傷を与えるほど、ダメージ量が増加します。そして部隊指揮の正確性にも影響を与えるため、集団戦闘での火力増加にも繋がります。

 

最後にCONですが、これは単純に須藤様の体力・耐久値に繋がります。この数値が高ければ高いほど、より多くの攻撃に耐えられる体を持つことになります。しかし体力が高いからと言って、それに頼り切ったゴリ押しは危険と言わざるを得ません。時にはDEX系のスキルを使用して回避に専念し、最も高いCONはあくまで保険として考えておいた方が無難です。

 

以上となりますが、ご期待に沿えましたでしょうか?』

 

「ああ、十分だ。ありがとう。ちなみに今覚えている、この 次元移動(ディメンジョナルムーブ)ってスキルはどう役に立つの?」

 

次元移動(ディメンジョナルムーブ)は陸佐以上の者が使用できる貴重なユニークスキルです。現在戦闘モードではない為、チュートリアルは実戦の場でご説明差し上げます』

 

「了解、それにしてもいきなり3等陸佐って...よく知らないけど、これってかなり偉いのと違う?」

 

『最高指揮官である陸上幕僚長から数えて、6番目の権限を行使できる役職となります。尚3等陸佐以上は一つの小隊を率いる立場となり、作戦立案・部隊運用等の高度なスキルが要求されます。本ミッションの行方を左右すると言っても過言ではない階級となりますので、くれぐれもご注意ください』

 

「それはプレッシャーだねえ、まあ頑張ってみるよ。通信に応答した方がいいよね?」

 

『是非そうしてください。一刻も早い部隊集結を進言致します』

 

『了解』

 

 達也が左耳に手をかざすと、視界中央に周辺地域のマップが表示され、自分の現在地を示す矢印型のポインターと向いている方角が、赤く明滅を繰り返している。そしてウィンドウ右上に現住所が表示されているが、その更に右にXとYという謎の数列が示されていた。達也はフューリーに質問した。

 

「なるほど、マップはこうやって確認するんだね。この小さく表示されているXとYの数字だけど、これは何?」

 

『それはエリア全域に渡る現在地の詳細な座標です。Xは横軸・Yは縦軸を表すものとなり、部隊再編の際や通信等でその数値を付け加えることで、より精密且つ迅速な敵陣偵察や部隊集結に役立ちます。また特に地下での行動時にも適しており、慣れればこの座標のみを頼りに行動指針を決める事も可能ですので、ご活用される事を進言致します』

 

「さすがフルダイブ型のVRオプトシネマだね、芸が細かい。分かった、とりあえず返事を返して見よう」

 

 達也は左側頭部のレシーバーボタンを押した。

 

「あー、えーと、こちら須藤三佐。現在地・道玄坂二丁目6-17、TOKIOSシネマ前。座標・X1258、Y3825、送れ。繰り返す、こちら須藤三佐...」

 

 するとチューニングノイズの向こうから、微かに応答する声が響いてきた。

 

「ザー・・ピーガガ!..こちら第一小隊、不破一佐。そちらの現在地を確認した。本隊は現在、円山町3-7、渋谷警察署前にて部隊を編成中。座標・X2644、Y0953。集結地点までのマップを送る。速やかに部隊と合流せよ。繰り返す、速やかに部隊と合流せよ」

 

 達也はその凛とした声に聞き覚えがあった。頭では分かっていたつもりだったのに、その声を聞いて体が震えた。それは紛れもなく、セルフ・ディフェンス・フォースの主役であり、その後現在まで消息を絶っていた、不破 樹その人の声だった。感極まった達也の喉から、思わず声が漏れた。

 

「そ、そんな...不破...さん?」

 

「ザー・・...須藤三佐、私語は慎め。積もる話は後で聞いてやる。今は速やかに道玄坂上まで上り、第一小隊と合流せよ。いいな?」

 

「り、りょ、了解しました!須藤三佐、直ちに合流ポイントへ向け部隊と合流します!」

 

「よろしい。待っているぞ」

 

 そこで無線が切れた。この坂を上れば、憧れでもあった不破 樹がそこに待っている。その現実とあまりのリアルさ故に、一瞬この世界がVRオプトシネマだという事を忘れてしまう程の臨場感だった。

 

 地面に置いたミニミ軽機関銃のキャリングハンドルを握って立ち上がると、達也は周囲を警戒しながら足早に道玄坂上を目指し、鼻息も荒く前進した。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

■用語解説

 

 

スキル

 

 セルフ・ディフェンス・フォース内で各キャラクターが習得できる特殊技能。階級や役職によって覚えられるスキルは制限されており、それぞれの役職に応じた特色のあるスキルが複数存在する。また各階級に応じたユニークスキルと呼ばれる特殊技能もあり、通常のスキルよりも効果が強力な場合が多い。尚これらのスキルには各個にレベルがあり、反復使用する事によってレベルとその効能が上がっていく。最大レベルは5であるが、Lv3を越すと次回映画視聴時にもそのスキルを引き継いでのログインが可能となる。スキル全体の数は数十とも数百とも言われているが、セルフ・ディフェンス・フォースの公開時期があまりにも短かったため、その全容は現在も解明されていない。

 

 

オプトネットID

 

 脳に埋め込まれたチップに刻まれている本人認証の為のコード。名前・生年月日・性別・住所等の個人情報が刻印されており、一切の偽装は不可能となるはずの仕様だったが、一部ハッカーやクラッカーがこのオプトネットIDを解析し、自分独自のプロクシを使用する事によってIDを偽装するという手法が取られ始めている。その為企業と政府はオプトネットのアップデートによりセキュリティを強化しているが、その都度ハッカー達にIDを解析されて不正利用が続くという、いたちごっこを繰り返している。

 

 

ミニミ軽機関銃

 

 ベルギーの国営銃器メーカーが開発した、5.56mm×45mm NATO弾を使用する軽機関銃。ミニミ(MINIMI)とは、フランス語で「小型機関銃」を意味する「MINI Mitrailleuse」ミニ・ミトラィユーズ)を略したものである。FN MAGを元に軽量化し、また軽量な小口径弾を採用することにより機関銃手一人当たりの携行弾数を増加させる事に成功した。日本やアメリカでは分隊単位に配備され、火力支援に使用される。弾帯のほか、小銃用のSTANAG マガジンでも給弾を行えるが、装弾不良が起こりやすいために推奨されていない。冷却は空冷式で、銃身交換も容易である。

 

 二脚銃架(バイポッド)が標準装備されており、簡単に携行できる分隊支援火器として使用されるほか、アメリカ陸軍や陸上自衛隊では三脚を付けて使用することもある。世界各国の軍隊によって使用されており、紛争地における各種作戦でも信頼度と射撃性能について優れた評価を受けている。

 

 

ベレッタ M92F

 

 ベレッタ・モデル92(イタリア語: Beretta modello 92)は、イタリアのベレッタ社が設計した自動拳銃。通称M9の名称で制式採用したアメリカ軍を筆頭に、世界中の法執行機関や軍隊で幅広く使われている。弾薬は9×19mm パラベラム弾を使用する。

 

 

グルカナイフ

 

 通称ククリは、ネパールのグルカ族をはじめとする諸種族、およびインドで使用される刃物。形状からナイフや鉈、刀、マチェテにも分類できる。ククリナイフ、ククリ刀とも表記される。ククリは湾曲した刀身の短弧側に刃を持つ「内反り」と呼ばれる様式の刃物である。大きな特徴は「く」の字型の刀身と、その付け根にある「チョー」と呼ばれる刻みである。

 

 

Fghting Unison Reality Intelligence(戦闘同調型現実知性)

 

 略称フューリーは、セルフ・ディフェンス・フォース内で視聴者の戦術サポートを行うAI。高度な言語モジュールを搭載している為、人間と遜色ないほど流暢に話す。状況に応じてのチュートリアルから、戦局を有利に進める為の情報解析を得意とし、セルフ・ディフェンス・フォース内にログインした全てのユーザーに一律搭載されている。

 

 

IFF (敵味方識別装置)

 

 敵味方識別装置(: Identification Friend or Foe、略称:IFF)とは味方を攻撃すること(同士討ち)を防ぐため、航空機や艦船・個人に搭載されている電波などを用いて、索敵範囲内の対象が敵か味方を識別する装置。現代の敵味方識別装置は、識別信号を敵に偽装されることを防ぐため、高度に暗号化された方法で識別信号をやりとりするほか、暗号化鍵の漏洩や味方の離反に備え、暗号化鍵を変更してそれまで味方であったものを敵として識別することが可能である。

 

 

次元移動(ディメンジョナルムーブ)

 

 陸佐以上の者が使用できるユニークスキル。このスキルは全方位の有視界200メートルまで瞬間移動することが可能で、更には移動先が敵の射線から外れた安全地帯へと自動的に補正されるという特徴がある。尚有視界外である建物の影や上空等には移動できない。また次元移動(ディメンジョナルムーブ)は、味方一名に限り対象に手を触れる事によって、その味方も一緒に瞬間移動し退避させる事ができるという特徴も併せ持つ。

 

 

フレンドリーファイア

 

 主にVRMMO内では、味方の同士討ちを指す。セルフ・ディフェンス・フォース内でこれを行った者は、攻撃力の低下・移動速度の減少等重度のペナルティを受ける事になる。

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