【KENSHI】あぽかりぷす異世界へようこそ!   作:うささん

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【07】カニ喰いねえ!

 シミオン砦は集落を壁で囲んだような場所だ。

 城壁というほど分厚くない壁は、寄せ集めの建材を立てては繋ぎ、さらに継ぎはぎで補強したものだった。 

 それでも外の世界とは隔離されて獣が入り込む隙はない。そこで暮らしてみれば安心感というものが生まれる。

 反乱農民たちのリーダーであるシミオンとは初日に会っただけだ。その後姿を見ていないがどこに行ったのかは誰も答えてくれなかった。

 反逆者の集まりだと言うが、日々普通の暮らしをしているようにしか見えない。

 でも毎日門を潜って武装した男たちが出入りしている。都市連合の兵隊に比べたら武装は貧弱で農民に毛が生えた程度にしか思えない。

 実際、見てきた目で反乱農民の砦を見れば、新たな自由を勝ち取るには大きな困難を伴うだろうと予感することができる。

 都市一つの戦力にすら蹴散らされそうなくらいだ。

 

 砦の物資は豊富ではない。水も食料も足りていないが、乳が出る羊がいることは歓迎された。

 砦の建物の隅にテントを張ることを許されてそこに寝泊まりしている。

 リドリーの隠れ家と違って、壁のおかげで獣におびえることもない。床は固いけれど。

 ジュエルとイズミは相変らず落ち着きがない。品のなさは相変らずだけど、この砦にいる住民もそう変わらない人たちだった。

 まともなのはシミオンと幹部の人とリドリーくらいだ。

 

「狩りに行くぞ……」

 

「お恵みあざっす! あざっす」と檻の中で今日の配給を受けるバカ貴族を見下ろしてリドリーが宣言する。

 囚えてから一週間余り、シミオンがいないのも貴族の息子の処遇を巡ってのことらしい。

 身代金や物資との交換をするらしい。取引の場所は厳重秘密のようだ。

 目下、捕虜の監視と世話というのが私たちに割り振られた仕事だった。

 

「今日はどこに行くの?」

「少し西だ。海岸線辺りだな」

「そこはまだ行ったことないよね」

「海藻でもないよりはマシさ。貝でも掘るか」

「潮干狩りか……」

「何だそれ?」

「潮干狩り知らない?」

「さあね」

 

 狩りに出るついでに食用になるものなら何でも持って帰るという使命も帯びている。

 すでに何度か狩りに出かけているが、罠にかかった小動物を持ち帰った程度で大きな働きになっていない。

 オオカミ程度は持ち帰りたいのが心情だ。

 

「今日こそは何か仕留めたい」

 

 クロスボウの点検をする。矢は十分ではないものの慎重に使っていきたい。

 私のクロスボウの腕前はちょっとだけマシになった。少しでも戦力になるならと砦の人が教えてくれたのだ。

 十メートル程度ならだいたい当たる。動いてたらわからないけど、相手が直線の動きをするように誘導するのだと教わった。

 正面から撃てば命中率も上がる。

 

「引き撃ちってやつさ。剣士もやる手だ」

「どんな感じで? よくわかんない」

「足だよ、足。足が速い奴もいれば遅い奴もいる。こっちの足が速いほど引き離したやつらの距離も広がる。一息で追いつくのもいれば、二息かかかるやつもいる。クロスボウ装填しておけば一息分撃てる。剣士なら準備ができてない奴を一撃かませる。腕の一本でも取れればこっちが未熟でも勝率は上がる」

「それ、とんでもなく疲れない?」

「やられるか、やるかだぞ。周りを囲まれたら死ぬだけさ」

「ふうん……」

 

 そんな滅茶苦茶は無理。自分の足の速さなんて高が知れている。でも手法は理解できる。卑怯も何もないのだ。

 日焼けした肌にマントを羽織る。日差しは容赦なく肌を痛みつける。

 長袖の服はなかなか手に入らない。普通のシャツに比べて何倍も高いのだ。

 この世界に始めてきた頃に比べれば筋肉もついたけど、武器はまだ重すぎる。

 今持っているナイフでは戦闘力は乏しい。最低でもカタナ、サーベルを持てるくらいになりたい。

 なまくらでもいいから持たせてほしいけど、今のお前ではもてあますだけだ、とリドリーにはくぎを刺されている。

 ジュエルとイズミも素人だけど度胸だけはある。実力は伴っていないけれど。 

 メンバーが増えて戦力を充実させる必要性は感じていたのか、そのうち稽古はつけてやるとリドリーが約束した。

 

「やっぱさ、拠点は欲しいよな」

「俺たちで国を建ててやろうぜ。オクランどもをぶっ殺す」

 

 ジュエルが言い出してイズミが返事する。

 オクラン。この世界の単語にはまだ慣れがない。地図もない。国の名前とかもわからない。

 ざっくりとリドリーから聞いた話では、この周辺は都市連合の支配で、都市ごとに独立しているが、連帯して国の形を取っているらしい。

 人がいない地域の方が遥かに広くて、どうにか繋いだ線に交易路を敷いて物資のやり取りをしている。

 都市連合の支配地域を離れると、西も南も人外の魔境と化す。化け物ばかりで、そこに人がいたとしても絶対に近づいてはならないということだ。

 人を喰らうカニバルなんて生易しいレベルだよ、と言われた。

 どんだけおかしいのこの世界……

 

 そのオクランというのは中央に存在する地域で、聞くと嘘でしょうと思うほど豊かな土地らしい。

 水も豊富で豊かな土地を持つ勢力と都市連合は仲が悪い。しょっちゅう土地を巡っての戦争をしているとのこと。

 行ってみたい、と言うと、よせよせ、お前みたいなナルコはひん剥かれてリバース送りだぞ、とジュエルに言われた。

 ナルコ?

 リバース?

 またわからない言葉が出てきた。

 

 

 イズミが叫んだ。

 

「カニだー!」

 

 海岸線に蟹の群れがひしめいていた。そう蟹がたくさん……

 あの、これでかすぎませんか……

 

「カニ……あれが蟹……?」

 

 その姿は確かに蟹だが私の知るサイズではなかった。そのハサミで人間の胴くらいなら簡単に挟めそうなくらい大きい。

 それが海岸線に数百匹の単位で群れている。

 ヤバい。手を出したら死ぬ。むしゃむしゃと想像の中の私が蟹に掴まれて頭から喰われている。

 

「産卵の時期か。夜を待って卵が孵るのを待つ」

「え? 夜まで待つの?」

「産むだけ産んであいつらはどっか行っちまう。夜になったら子ガニを狩る。クラブレイダーも産卵には手を出さないからラッキーだぞ」

「クラブレイダーって?」 

「東にいる連中だが、カニがいるところならどこでも現れる連中さ。カニを崇めてる頭のおかしい奴らだ」

 

 知らない勢力の説明のたびにリドリーは頭がおかしいを付け加える。リドリーにとって理解しがたい奴は皆そんな感じなのだ。

 確かに意味不明ですけど……

 夜になるのを待って月の位置を確かめる。卵から孵る時間までは予想がつかない。

 

「チョコ起きろ」

「ふあ……?」

 

 リドリーに起こされる。月明りの下での白い海岸のおかげで周囲も明るく感じる。明かりがなくても海岸線は視認できた。

 

「あれってカニ?」

 

 すでに卵を産んだ親ガニは海岸にはいない。あれだけ群れていたのに目立つ姿はどこにもいなくなっている。

 代わりに海岸にうごめくのは産卵から孵ったカニたちだった。

 

「ジュエルが合図する」

「オッケー、こっちが待ち構えて捕まえるだよね」

 

 枯草に火がついてゆっくりと海岸に向かって走っていく。火をつけたのはジュエルとイズミだ。

 日中に乾いた草を編んだ。何でかと聞くと、火の誘導線を作る。火に驚いたカニはその線に従って逃げる。という作戦だった。

 この辺りは雨は希少だ。乾燥し、火をつければすぐに燃え上がるのだ。

 前にやったことがあるのか、と聞いたが誤魔化された。何でだろう?

 

「ほれほれ、食い放題だぞ!」

 

 一部誘導されてきたカニの子どもたちがやってくる。生まれたばかりだけど、私が知る蟹の大きな奴特上サイズだった。

 狩った獲物を入れる袋を広げておく。蟹を捕まえて入れるのだ。ハサミを使われないように切っておいた蔦のひもでハサミを縛るのだ。

 リドリーが捕まえ、私が縛る。袋に入れて中で蠢く蟹を見る。首尾は上々だった。

 四人分の袋に蟹を詰めて狩りが終わる。

 

「よしじゃあ、食い放題タイムの始まりだぞ!!」

 

 興奮したリドリーが叫ぶ。持って帰れない分、自分たちで捕まえて食べる。

 その熱意にこっちまで熱くなった。

 蟹、カニ、KANI! 

 捕まえ、仕留め、解体。

 蟹の部位を分けて生で食べられる部分を直に食べる。塩分は海水の塩。新鮮ぷりぷりの食感と味が口の中に広がってその美味しさに涙が出た。

 美味しい! 何てことだ。こんなに美味しいものがあるなんて。

 茹でる。調味料はない。でも身を割いて頬張る。塩ゆでもいける!

 脳みそも残さない。ジュージュー音を立てるのを四人で囲んで脳みそスープを楽しんだ。

 

「こりゃ癖になるな!」

「まーだいけるぜ!」

 

 何匹も確保して蔦で縛ってあった。

 すでに海岸線は静寂を取り戻し、子ガニたちは海に戻って行った。私たちのおなかに収まったの以外は。

 膨れたお腹をさすって四人は砂に大の字になって寝ころんだ。

 ああ、何という至福の時間だったのでしょう。こんな世界でもすごくイイことあったんだな……

 明け方に私たちは蟹のお土産を持てるだけ持ってシミオン砦に戻ったのでした。

 

「帰ったか。リーダーから指令だ。都市連と取引に行くぞ。お前たちも来い」

 

 持ち帰ったカニのお土産を渡してすぐにそう言われた。どうやら人質交換の目途がついたらしい。

 こうして人数合わせの一員として私たちも人質交換の場に立ち会うこととなったのです。

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