『あらたな世界』×『むげんの世界』?   作:赤貞奈

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地獄と歌姫と殺人と双子 二話

 

■商業都市コルタナ

 

 

 

「ちゃんおじしゃーん!まーだー!」

「ひでくんも早く早く!」

 

エミリーとカリンがカフェの前から張達を呼んだ。その姿がやはり子供にしか見えなくて、張は少しだけ笑う。

 

なお、今は張もエミリーもアクセサリーで容姿を誤魔化している。

指名手配されているので、当然といえるが、どうやらヒデキ達は違うらしい。

彼らの容姿は一週間前に出会った時と何一つ変わっていなかった。

それらの詳細をラスカルさんに聞けば、ヒデキは指名手配を受けていないそうだ。

犯罪者クランである〈IF〉にサポートメンバーだとしても、一応は所属しているのに犯罪歴が無いのはどうかと思うが。

 

常に変装する必要は無く、アクシデントが起こった時のみ臨機応変に対応する。

それでもわざわざ素顔を晒す必要は無いと思いもするが、曰く、このアクセサリーの変装も完璧では無く、万が一変装がバレて、大事になるのを避けるためだそうだ。

 

長くなったが、結局のところ、この集団は余人には犯罪者の集団ではなく、普通の家族か何かにしか見えないだろう。…………男性一人に子供四人だと、『普通』とは言い難いかもしれない。

 

「ああ、すぐ行く」

 

 

張はそう言ってエミリー達の待つカフェの前まで歩いていき……言葉を失った。

 

 

(…………なぜ、いる?)

 

 

このカルディナのカフェは空調を効かせ続ける高級店でもなければ窓を広く取っているので、カフェの外からでも店内の様子が見て取れる。

そして張は見たのだ。

 

テーブルに座って何事かを話している——“蒼穹歌姫”の姿を。

 

 

(考えてみれば彼女も珠が標的なのだから、珠がある街で鉢合わせることもあるだろうが……)

 

 

 張にとっては、自分の預かった支部を潰し、右腕を奪った仇敵とも言える相手だ。

 しかし、張が抱いたのは復讐心でも殺意でもなく、懸念だった。

 

 

(どうする……。ラスカルさんから任された仕事は、観測だ。珠を目当てに集る人材のデータ蒐集。ここで揉め事を起こすのは……万が一にもこちらの正体がバレれば、任された仕事の達成も難しく……)

 

 

 張は自分に任された仕事を全うするため、考えを巡らせる。

 基本的には真面目な社会人のような男である。

 裏社会の住人だったが。

 

「二人とも。ここではなく、違う店に……」

 

「わーい“あいしゅ”ってかいてあるー!」

「ジュースってかいてあるー!」

 

 

店の移動という張の最善策は、店の品書きを見て笑顔で店に入った少女達に木っ端微塵に打ち砕かれた。

 

そして、二人だけをこの店に置いておくことなど……張の仕事を考えれば出来るはずもない。

 

 

「……ええい、ままよ」

 

 

張は覚悟を決め、少女達に続いて店内に入り、

 

 

「あ。すみません。ただいま満席でして」

 

「ああ、それは仕方ないな」

 

 

店員から救いの手の如き情報を聞いて『これで店を変えられる』と期待し、

 

 

「そちらのお客様と相席でお願いします」

 

「………………」

 

 

六人用のテーブルに三人で座っていた“蒼穹歌姫”一行と同じ卓を勧められたのだった。

 

 

「あ、ああ。すまないが、まだ連れが二人いる。あの卓では入りきらないから、今回は遠慮し……」

人数オーバーという最期の希望は、

 

 

「大丈夫だよ!私、エミちゃんと一緒に座る!……エミちゃんこっちこっち!」

「わーい」

 

またもや、少女達によってへし折られた。

 

 

 

◆◆◆

 

□ カルディナ あるカフェの店内

 

 

 

A・RI・KAとユーゴーがコルタナにある珠について話していたところに、相席を求める店員が来て、二人はそれを了承した。

 

 

「“あいしゅ”♪“あいしゅ”♪」

「ジュース♪ジュース♪」

 

 

相席となった少女達は、可愛げに歌いながら、ニコニコ笑顔で席に座る。

 

( 可愛いお嬢さん達だこと。……今夜のベットでも相席できないかしら)

 

A・RI・KAは舌足らずな少女に何かひっかかりを感じるが、可愛いらしい少女達を自分の手で大人にしてあげたいと思った。

 

しかし、そのすぐ後に、保護者らしい三十代ほどの男性がどこか疲れた顔で少女の隣に座った。

 

 

(ちっ……保護者同伴か)

 

 

A・RI・KAはさりげなく左手の甲を確認し、少女は〈マスター〉で、男性はティアンと判断した。そして、初めて会ったはずの男性から直感的に誰かの面影を感じた。

 

 

「……うー、ん?」

 

 

突然、キューコは顔を少し青ざめさせ、突然首をかしげた。

 

「どうかした、キューコ?」

「何だか、さむけがする」

 

 

不安げな顔でキューコの身をあんじたユーゴーに、キューコは身体の不調をとなえ、

 

 

「ちょっと、もどるね」

 

 

ユーゴーの左手の紋章にもどった。

 

「わー!“めいでん”だったんだー!」

 

 

キューコの正体に驚いたエミリーは子どもらしい笑顔でそう言った。

そして、満面の笑みでユーゴーに話しかける。

 

 

「おにーしゃんも、〈ましゅたー〉なんだね!」

「うん。そうだよ」

「うわーうわー!いいな“めいでん”、かりんちゃんとおしょろいだー!」

「……カリンちゃん?」

 

ユーゴーはエミリーの口から突如出てきた“カリンちゃん”という言葉に首を傾ける。

 

 

「うん!ねー、かりんちゃん!…………ねー、ねー、かりんちゃん!」

「ジュース♪ジュース♪ジュ————んー?エミちゃん、なんか言った?」

「かりんちゃんとおなじ“めいでん”がいたー」

「ほんとー!どこにいるの!?どこどこ!?」

「もう、おうちにかえっしゃったよー」

「えー!エミちゃんだけずるい!私も見たかったよー!」

 

カリンは恨めしそうな表情で、エミリーの肩をポカポカと叩く。

 

 

「これで、みたことあるのろくこになったー!」

「……六個?」

 

 

ユーゴーがエミリーに問いかけ、エミリーはそれに笑顔で答える。

 

 

「うん!えっとね!……“しゅらいむ”とー、“むしさんとー、みえにゃいのとー、みえにゃいのとー、おにーしゃんの“めいでん”さんとー、かりんちゃんー!」

ユーゴーとエミリーが微笑ましい会話をしている最中、A・RI・KAは彼女達の正体について、考えをめぐらしていた。

“エミリー”という名前、彼女が挙げた〈エンブリオ〉の特徴、それらを元に、A・RI・KAは今までの違和感の正体に予測を立て、

 

 

(もしかして、この子…………)

 

 

「あ。あと“まきにゃ”!」

「まきにゃ?」

「“まきにゃ”はね、おっちょこちょいでね、“おしぇろ”よわいの!いつも“らしゅかりゅ”におこられてるの!でもともだちなの!」

 

 

それは、“まきにゃ”・“らしゅかりゅ”のキーワードにより、確信に変わる。

 

(……【殺人姫】か!?)

 

 

 

そして、A・RI・KAは、さらなる情報を探るために、〈超級エンブリオ〉である右目を忙しなく動かし始める。

 

「すいません、少し遅れました」

 

「あー!ヒデくん遅ーい!」

 

そこへ、先程三人に置いていかれたヒデキとオオバがカフェに到着し、店員に場所を聞いて、やってきた。

 

ヒデキは簡単にユーゴー達に挨拶をすませると、カリンとエミリーに奥へ詰めてもらい、オオバを椅子を半分こにして座った。

「少しオオバと話していましてね……それで、もう休憩は終わりましたか?」

「まだだよー。…………あ、きたきた!やったー。ジュースだ!エミちゃんもアイスきたよー!」

 

「“あいしゅ”ー!」

 

 

ヒデキは、念願の代物が届き、目を輝かせている少女達に、目を伏して、申し訳なさそうに言った。

 

 

「……そうですか。喜んでるところ悪いんですが、少し時間がおしています。早く食べちゃってください。……そうですよね、張さん(・・・)?」

 

そう言って、張に目配せをする。

 

 

「ああ、ヒデキの言う通りだ」

 

張は額に垂れる冷や汗を拭いながら、ヒデキの思惑——一刻も早くこの場を離れること——に賛同し、相槌を打つ。

「ご注文のアイスとジュースです」

「「わーい」」

「「いただきまー(しゅ)!ごちそうさま(しゃま)でした!」

 

エミリーとカリンはヒデキ達の言葉を知ってか知らぬか、エミリーはアイスが溶ける前に、一瞬で食べ終わり、カリンはちょびっとだけ飲んで、残りをヒデキ達に渡した。

 

ヒデキは渡されたジュースをオオバと分け合って、一気に飲み干した。

 

 

「……超音速機動……ね」

 

 

エミリーがあまりにも自然に行った動き——即ち、戦闘系超級職についた一部の人間の特権である高速移動に、A・RI・KAはひとりごちた。

 

「そ、それでは用事も済んだことだし、出るとしようか」

「わかったー!それじゃあねおにーしゃんとおねーしゃん!」

 

「バイバイ ! 」

 

 

少し狼狽している張の言葉と共にエミリー達は席を立ち、ヒデキは机に勘定を置く。

 

そして、その場から逃げるように張達は店を出た。

 

 

張達がテーブルを離れ、残ったのはユーゴとA・RI・KAだけになったとき。

 

 

「ユーちゃん。さっきの人たち、尾行して」

「え?」

「アタシが珠の回収をしている間、さっきの人たちの監視。何かあったら、《地獄門》を使って制圧して、少なくとも一人はユーちゃんとの相性はすごくいいはずだから」

「師匠、それはどういう…………!」

「詳しく話してると距離を離される。すぐに行動して。詳細は後から【テレパシーカフス】で伝えるから」

 

 

いつもの余裕が消えた、真剣な表情のA・RI・KAを見たユーゴーは、事態の深刻さを感じ、具体性のない、曖昧な指示に従うのだった。

 

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