『あらたな世界』×『むげんの世界』?   作:赤貞奈

4 / 6
お気に入り登録ありがとうございます!


地獄と歌姫と双子 三話

■ 【テトラ・グラマドン】

 

 

 

「エミリーちゃん達も今頃はコルタナについてますか!」

 

 

メイド服を着た、十代後半ほどの女性——“マキナ”は、自分の主人であるラスカルにそう問いかけた。

 

 

「……ああ。ヒデキがいる限り旅の途中で他の〈超級〉や神話級に出くわす事故など起こりうることはない。今頃コルタナだろう」

 

 

ヒデキの能力を知っているラスカルは、平然と答える。

 

現にエミリー達一行はコルタナに着くまでに一度も戦闘をしていない。——この砂漠に大量に棲むワームでさえも一匹も遭遇していないのだ。

 

 

「あー。あの理不尽な索敵能力(・・・・・・・・)があれば、確かにそんな心配はいらないですね」

 

 

マキナは記憶の中にあるヒデキの能力を思い浮かべ、自分の考えが杞憂であることを覚え、エミリー達の安全を確信する。

 

「……ヒデキがいるといないとでは遺跡の攻略速度が段違いだからな。……本当に勿体ない。あいつがエミリーに固執しなければ、それこそ幾らでも使い道はあったのに」

 

 

「仕方ありませんよ。それが、彼の“契約条件”なんですし…………それよりも、ご主人様!紅茶が入りました!」

 

 

マキナはトレイにのせたティーカップにポットから紅茶を淹れ、ラスカルに渡す。

ラスカルはそれを受け取って一口だけ飲み、そのままテーブルの上に置いた

 

 

「おいポンコツ。お前、この紅茶淹れるとき……水は何を使った?」

 

「【快癒万能霊薬】です!ご主人様がお疲れなので五本分たっぷり入れました!」

 

「そうか……。お前、腕立て伏せ五〇〇回な」

 

「なにゆえ!?」

 

 

ラスカルは疲労の元凶であるポンコツメイドにそう言い捨ててから、一本一〇万リルの薬品を五本も使った贅沢な……しかしクソ不味い紅茶を、勿体無いので苦い顔をしながら飲み干した。

 

そして、ポンコツメイドが腕立て伏せを始める横で、一束の資料に目を通し始める。

 

「フレームが、フレームが軋むぅ……。あ、ご主人様は何をご覧になっているんですか?」

 

「昨日寄った街で〈DIN〉から買ったフリーの〈超級〉と準〈超級〉の目撃情報だ。まだ全部は目を通していなかったからな」

 

「ほへー」

 

「既に国に所属している連中より、そういった連中の方が引き込みやすいからな。まぁ、ゼタは皇国の【魔将軍】を引き込むことに成功したらしいが。……黄河から球を盗んだ件といい、アイツの手際には感心する」

 

「ご主人様がスカウトしたのはあのガーベラさんでしたね!同じサブオーナーなのに、ゼタさんって本当に有能ですね!」

 

「ガーベラをスカウトした責任はあるかもしれないが、『同じサブオーナーなのに』のくだりは無駄に俺を下に置いてないか?…………それにヒデキだって、俺が勧誘しただろう」

 

「下には置いていませんが反省してくださいね!えっへん!…………ヒデキくんの件は、実際はエミリーちゃんの成果なので、ノーカンです!」

 

なぜかマキナはそう言って胸を張った。

 

「そうか……。反省を込めて、俺の〈エンブリオ〉の腕立て伏せを一〇〇〇回に増加だ」

 

「うぎゃあ!?ご主人様のドS!他の人には優しいくせに!」

 

「……お前がポンコツでなければ俺もサドらなくて済むんだが」

 

 

そんなコメディーが【テトラ・グラマドン】で展開され、ラスカルはついさっき、〈DIN〉の資料で見つけたコルタナ付近のある〈超級〉——“【冥王】ベネトナッシュ”についての情報を張に伝え忘れたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

我に返ったラスカルは、張に先程見つけたと【冥王】の目撃情報を伝えるために、通信魔法用のマジックアイテムを使った。

 

 

「ああ、そうだ。やつもコルタナにいる可能性が高い。……なに?“蒼穹歌姫”が?……それも考えていたが、やはりカルディナは全て集める心算か」

 

 

しかし、張の方からも、A・RI・KAと接触してしまい、おそらく勘付かれただろうと言う報告がなされたのだった。

 

 

「まず、渡したアクセサリーの偽装容姿を切り替えてくれ。そうだ。事前に伝えたとおり、つまみを部分を捻れば五パターンで切り替わる。……あと、ヒデキ達にも偽装をするように伝えて欲しい。既にアンタ達がいるとバレているから時間稼ぎぐらいにしかならないだろうが、それでしばらくは見つからないはずだ」

 

 

張に当面の対処法を伝え、さらに指示を出す。

 

 

「最優先はアンタの生存だ。次点がデータの蒐集、その次が珠の確保だ。エミリー達については気にするな。……ヒデキ達に関してはデスペナルティになる可能性もあるが、なったとしても〈監獄〉に送られることはない。最悪、鉄火場に置き去りにしてアンタの安全が確保できてから二人を拾ってくれればいい。それで問題ない。……ああ、引き続き頼む」

 

 

そうして通話を終えて、ラスカルはマジックアイテムを傍らで腕立て伏せをしていたマキナに渡す

 

 

「今の指示に言及してこないってことは、張もエミリーの本性を確認したらしいな」

 

 

通話中の張の言葉や声の雰囲気から、想定通り何かしらのトラブルでエミリーが本性を見せたのだろうとラスカルは推測した。

 

 

「よいしょ、うんとこしょ。ご主人様、本当に張さんに伝えなくてよかったのですか?」

 

 

腕立て伏せをしながら、マキナはラスカルに問いかける。

 

 

「エミリーのことか。それなら、あいつも目にして理解しただろうし、問題ないだろう」

 

「違います!ヒデキくんの方です!……そんなこともわからないんですか?ご主人様はポンコツですね!」

 

「ポンコツはお前だろう!……ヒデキについても問題はない。ヒデキは、多少言葉足らずだったが、張に対して自分を偽らなかった。少なくとも“敵判定”とは判断していなかったんだろう。ひょっとしたら、今頃は“仲間判定”になっているかもしれないぞ」

 

 

ラスカルは聞いているかもわからないマキナにそう言った。

 

 

「ご主人様、張さんに嫉妬しているんですか!ご主人様はヒデキくん達に懐かれるまでに相当時間かかりましたもんね!」

 

「……よし、腕立て伏せワンセットプラスだ。よかったな」

 

マキナは余計な事を言ってしまい、その結果、ラスカルは罰は増を増やした

 

 

「ご主人様の鬼!悪魔!犯罪者!」

 

「最後のは悪口になってないぞ」

 

 

うぬぬ。と唸っているマキナを放置し、ラスカルは自室の窓越しにコルタナの方角を見る。

 

 

「問題があるとすれば、ヒデキ達が【冥王】と接触する可能性があることだろう。あいつらの目的から考えれば、【冥王】側に流れる可能性もないわけではないしな…………張に伝え、邂逅を阻止するように対応してもらおう」

 

 

ラスカルはそう独りごちるのだった。

 

 

 

 

□■商業都市コルタナ

 

 

 

A・RI・KAはカフェを出た後、このコルタナでひときわ華美な豪邸……市長邸の傍にまで移動していた。

 

今は市長邸を囲む壁を背に、彼女の指示で人探し中のユーゴーから連絡を受け取っていた。

 

 

【師匠。すみません、見失いました】

 

 

ユーゴーは五人を捜して近辺を走り回ったそうだが、見当たらなかったらしい。

捜す途中でひどく怯えた男達と触れ合いはしたが、それ以外は特に何もなかったという。

 

 

【ああ。きっと見た目変えたんだよ。多分偽装関係のアクセサリー使ってるねー】

 

 

この世界は現実リアルとは異なり、スキルやアクセサリー一つで簡単に偽装をすることができる。

 

だが、この世界では、装備できるアクセサリーの数が決まっている。

なので、偽装の為に大事な装備枠をアクセサリーよりも、スキルの方が便利といえる。

 

まぁ、逆にいえば、スキルの為にジョブを埋める方が勿体無いし、どんな弱者でも高性能なアクセサリーをつければ、一定以上の偽装が出来ることを考慮すれば、一概にスキルの方が優秀とはいえない。

 

 

(そういえば、偽装関連の〈超級職〉を狙っていたが、既にとられていたと、誰かがぼやいていたなー……って、そんなことより、今は【殺人姫】についでだ)

 

 

いつのまにかずれていた思考を元に戻し、【殺人姫】の対処のためにユーゴーに指示を出す。

 

 

【まー、変わるのは姿と見かけのステータスだけだろうから、行動までは変わらないよ。あの子が想定通りの相手なら、必ず何かやらかすね。ユーちゃんは騒動の起きている現場に急行する方向でお願い】

 

【……分かりました】

 

【そんじゃま、アタシは市長から珠パクってくるねー。行ってきまーす♪】

 

 

そうして、ユーゴーとの会話を終え、市長邸の正門まで歩き出す。

 

その道中、A・RI・KAは【殺人姫】達とユーゴーについて推察する。

 

 

(【殺人姫】とユーちゃんの相性は抜群だし、いかに〈超級〉であっても、私が戻るまでは、時間を稼げるでしょ)

 

A・RI・KAはキューコの能力を思い出し、彼女の能力ならば、【殺人姫】を無力化できると考えた。

 

 

(心配なのは、他の連中か。……ティアンの二人(張とオオバ)はおいておくとして、問題なのはメイデン(カリン)の〈マスター(ヒデキ)〉の方か…………彼は厄介そうだな。察しがいいのか、直ぐに私達から離れようとしていたし)

 

 

先刻のカフェでヒデキが、A・RI・KAを見て、すぐにその場から離れようとした事を頭に浮かべた。

 

 

(それにしても、何故メイデンのマスターが〈IF〉に所属しているんだろう)

 

 

メイデンのマスターは総じて“Infinite Dendrogram”を世界と考える——所謂“世界派”と呼ばれる者だ。

 

故に、彼らはPKはしないし、犯罪も率先して犯そうとはしない。

デンドロを現実と同一視しているし、当然だろう。

 

だからこそ、A・RI・KAは、ヒデキが大量殺人者である【殺人姫】と随伴していることに疑問を感じた。

 

 

(まぁ、指名手配犯のに彼みたいな子はいなかったはずだし、おそらく彼は、噂に聞く〈IF〉のサポートメンバーかな。……ならば、腐っても此処コルタナはカルディナでも有数の大都市だし、〈マスター〉はそこそこいる。たとえ、準〈超級〉であったとしても、対処できるでしょう)

 

〈超級〉がそんなゴロゴロいてたまるか。という常識的な考えから、ヒデキの実力を見定め、自身がいなくても、十分に対応できると判断した。

 

よって、一番の問題はやはり【殺人姫】だが、それはユーゴーが対処できる。

 

A・RI・KAは、そう結論づけ、市長邸の正門までの歩行の速度を少しだけ早めるのだった。

 

 





ネタバレ①

オリ主の『味方判定』に“なりやすい”のは、

エミリー>張>>>>>>ラスカル=ゼクス>>ガーベラ の順番です。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。