『あらたな世界』×『むげんの世界』?   作:赤貞奈

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殺人と双子 四話

 

■商業都市コルタナ

 

 

 

カフェでの一件から数時間が経過した。

 

張はその間に、立ち寄った路地裏でエミリーの本性を目撃したり、ラスカルに“蒼穹歌姫”との遭遇についての報告や、今後の行動指針について指示を仰いだ。

 

 

そして現在、張達がいるのはバザールである。

ちなみに、彼らを探しているユーゴーは、同じ場所で【冥王】の〈エンブリオ〉である“ペルセポネ”と会話していたりする。

 

それでもユーゴー達に見つからないのは、張達がアクセサリーによって容姿を変更しているからだ。

今回は張達だけでなく、ヒデキ達も容姿を偽装している。

 

そんなこんなで、一先ずの安全を確保した張は、バザールに並ぶ珍しい商品に夢中になったエミリー達の面倒を一旦ヒデキに任せ、先刻ラスカルから通信で伝えられた【冥王】を、自身が使役する鳥のキョンシーを用いて観察していた。

 

市長邸の門の前でラスカルから伝えられた容姿の男——【冥王】を見つけ、暫く観察していると市長邸から市長が現れた。

【冥王】と市長が、何か会話をしているようだが、視界のみを共有している張には、会話の内容は理解できない。

恐らく交渉をしているのだろうと、張は推測した。

 

短い会話の末、交渉が決裂したのか、市長は突然、二体の純竜を召喚し、【冥王】と市長の戦闘が始まった。

 

しかし、それは戦闘と呼べるものではなかった。

戦闘とは両者の戦力がある程度拮抗して初めて起こるものである。

只の市長と〈超級〉である【冥王】の戦力差は一目瞭然だ。

市長が召喚した二体の純竜は、【冥王】が召喚した巨大な竜のスケルトンの尾骨によって、瞬く間に倒されたのだ。

 

その後、慌てた市長は自宅に逃げ帰り、それを追いかけようとした【冥王】達を超音速で動くナニカが阻んだ。

 

そして、息つく間もなく戦闘が始まった。

今度こそ、戦闘と呼べる闘争が始まったのだ。

 

ナニカ……恐らくは“蒼穹歌姫”の奇襲から始まったこの戦いは、暫くすると、拮抗することになった。

どうやら、お互いに相手の相性が悪く、千日手になっているようだ。

 

 

張は、そこで【冥王】の観察を中断した。

彼の目前に、エミリー達を連れたヒデキが戻ってきたからだ。

 

ヒデキの顔色は少し悪い。

エミリー達に振り回されたのだろう。

張は、彼女達の面倒を短時間だとしても、ヒデキに任せっきりにしたことに少しの罪悪感を覚えた。

 

 

「どうでしたか?」

 

 

恐らくはラスカルからの伝言についての疑問をヒデキは問いかけたが、張はヒデキの言葉におし黙る。

ラスカルが最後に出した指示を思い出したからだ。

 

(そういえば、ヒデキと【冥王】を接触させるなと、ラスカルさんが言っていたな)

 

 

そのことを思い出した張は、ヒデキに市長邸で起こった事件の本末を正直に伝えるべきか迷い、

 

 

「ああ。【冥王】さんは今は(・・)興味ないですよ。優先順位が変わりましたからね……尋ねたのは、【冥王】と“蒼穹歌姫”の戦闘結果です」

 

ヒデキの言葉で払拭される。

そして、同時に張は困惑する。

 

 

(何故、知っている!?……【冥王】と“蒼穹歌姫”のこともそうだが、それよりも俺が市長邸を観察していたこと(・・・・・・・・・・・・・・)を何故知っている)

 

張はラスカルからヒデキの索敵能力に関しては聞かされていた。

コルタナまでの旅路も彼の先導により、モンスターや〈マスター〉などに遭遇することなく進行した。

 

だが、

 

 

(……これほどとは聞いていないぞ!?)

 

張は自身に襲いかかる疑問を無理やり抑え、平静を装ってヒデキに返答する。

 

 

「……【冥王】と“蒼穹歌姫”はお互いに相性が悪いらしい。戦況は平行線を辿っていた」

 

「そうですか」

 

 

ヒデキは張の言葉に軽く答えた。

 

 

 

「では、暫くの間彼女達はあそこから離れられないでしょうし、今のうちに色々と準備を終えておきましょう……近くに彼女のお仲間もいますし」

 

「そうだな」

 

先程のやりとりでヒデキの索敵能力の脅威を知った張は、ヒデキが当然のように“蒼穹歌姫”の仲間(ユーゴー)の位置特定をしていることに反応をしめさなかった。

張はヒデキの提案に賛成し、エミリー達に移動することを伝えようとした。

 

 

しかしエミリー達は動かない。

彼女達の目線は、バザールに置かれた巨大な檻をさしていた。

 

檻の中には角を生やした獅子……【タウラス・レオ】という上位純竜クラスの魔獣が腹這いになっている。

 

どうやら、エミリー達はこの魔獣のことが気になるらしい。

 

 

「ちゃんおじしゃん!なんでこのこ、【ジュエル】じゃなくておりにはいってるの?」

「エミちゃん。私分かったよ!この子も私とおんなじように、【ジュエル(紋章)】の中じゃなくて、外にいたいんだよ!」

 

「……カリンのような我儘な理由じゃないですよ。恐らく、【従魔師】専用に『テイム挑戦権』という名目で売っているんですよ。当然まだテイムされてないので【ジュエル】にも入れられません」

 

エミリーの問いにカリンが的外れな答えを言うが、ヒデキがそれを訂正し、張が答えようとしていた言葉を、先んじて言った。

 

 

「テイムできにゃかったら?」

 

「金は戻らん」

 

「ふーん。じゃあおみせのひとはテイムにしっばいしてほしいんだね」

 

「エミちゃん!そういうのは分かってても言っちゃダメなやつだよ!」

 

 

エミリーの明け透けな言葉に、張は内心で呟く。

檻の横の看板によれば、これまで何週間テイム成功者が出ていないらしい。

それも当然と張は考えた。動きを抑制するための薬品に加え、テイムを阻害するために精神に干渉するアイテムも使われているのが張には見て取れたからだ。

しかし、今から檻の傍でテイムに挑む【従魔師】はそれに気づいていないようだった。成功を疑っていないのか、【タウラス・レオ】を手に入れた瞬間を夢想して顔も緩んでいる。

 

 

「あれは失敗するだろうな」

 

 事実、テイムに繰り返し失敗しているらしく檻の中の【タウラス・レオ】は身じろぎし続け、【従魔師】の顔には焦りが見えてきた。

 

 

「じたばたしてるね」

 

「テイムに失敗したモンスターが暴れることもある。今は檻と薬があるから大丈夫だがな」

 

「そうなんだ。じゃあ、あぶないね」

 

「「……?」」

 

 

 張とカリンがその言葉に疑問を思うと、エミリーは檻の中を指差した。

 

 

「くすり、きれてるよ。あれはくすりがきいてるフリだよ」

 

「……何だと?」

 

「あとね、みじろぎしてるのは、じゅんび。きっとね、おおばりにたいあたりするよ」

「エミちゃんすごい!?なんでそんなこと分かるの!?」

 

 

 なぜそこまで分かるのかとカリンと同じように張も思ったが、問題はそこではない。

 エミリーの言葉の通り、【タウラス・レオ】は身を起こし、檻に体当たりを始めたからだ。

 

そして、【タウラス・レオ】の体当たりが檻に当たるたびに、檻の格子が下の方から少しずつ歪み、外れていくのを目撃する。

 

本来では有り得ない光景の理由を探るため、張は思考を加速させた。

 

 

『BUUUUULUGAAAAAAAAAA!!」

 

 

しかし、張が答えを導き出したと同時に幾度となく繰り返された体当たりにより檻は壊れ、【タウラス・レオ】が、雄叫びと共にバザールへと飛び出した。

 

檻から解放された【タウラス・レオ】は、手始めに檻の前にいた【従魔師】を食い殺し、次いで近くにいた『テイム挑戦権』を販売していた店の従業員達を手にかける。

これまでの鬱憤を晴らすかのような暴れ方だった。

張は解決策を思考するが、それより早く従業員を食い殺した【タウラス・レオ】は、次の獲物に狙いを定める。

それは張達……ではない。

 その場から逃げ出そうとしている小さな少女とその両親、親子連れであった。

 

 

『BUUUGAAAAAAA!!』

 

 

 【タウラス・レオ】は吼え猛りながら、次の獲物へと駆けていく。

 瞬く間に人間を三人、血肉に変えようとして。

 女の子は泣いていた。

 両親は、せめて娘だけでも守ろうと娘をその身で庇う。

 しかし、人の肉の壁など【タウラス・レオ】には無意味のはずで、親子は瞬く間に肉塊となる……はずだった。

 

 けれどその直前、【タウラス・レオ】の進路に小さな人影が割り込んだ。

 

 その姿に、張は驚いた。

 自分の側にいたはずのエミリーが……超音速機動でそこに立っていたからだ。

 

 

『BUUUUUOOOOAAAAAA!!』

 

 

 【タウラス・レオ】はエミリーも当然獲物として攻撃しようとし、

 

 

「――マイナス」

 

 

自動殺戮モードに移行したエミリーによって、一瞬で四肢と首を裂断されて息絶えた。

【タウラス・レオ】は即死。損壊の激しさもあって一瞬で光の塵となり、その場にドロップアイテムだけを遺して消え失せた。

 後には、【タウラス・レオ】の返り血に濡れるエミリーだけが立っていた。

 

 

「……エミリー」

「エミちゃん!?大丈夫!?怪我はない!?」

 

訳が分からず立ち尽くす張とエミリーの安否を心配して駆け寄るカリン。

張はカリンの行動を見て、焦りを覚える。

何故なら、エミリーはまだ自動殺戮モードが解けていない。

故に、張は今のエミリーに近寄るのは危険だと考えた。

 

「待て、カリン!まだエミリーは——」

 

 

自動殺戮モードが解けていない。

張がそれを叫ぶ前に、

 

 

「……カリンちゃん?だいじょーぶってにゃにが?」

 

 

いつも通りの舌足らずな声でエミリーが答えた。

 

「張さん。心配しなくても僕達はマイナス判定にはされません。……なので、仲間を爆弾扱いするのはやめましょう」

 

 

ヒデキは、張に諭すように言った。

外見年齢を考慮すれば立場が逆な気もするが、ヒデキの言っていることは何一つ間違っていない。

張は自身の失敗を恥じ、素直にヒデキの言葉を心に留める。

 

 

「すまない。すぐに行く」

 

「謝る相手は僕じゃなくてエミリーですよ」

 

ヒデキは張の言葉に返答しながら、エミリーの元に向かっていく張の後を歩いた。

ヒデキに追随しているオオバも当然の如く、エミリーの元に向かう。

 

しかし、それよりも先に、

 

 

「おい!お前がうちのモンスターを殺したのか!」

 

衣服に多数の宝石をつけた、よくいえば恰幅のいい、悪くいえばひどく肥満した男が現れた。

背後には屈強な男達を何人も引き連れている。

 

雰囲気から察するに、肥満した男はどうやら【タウラス・レオ】の『テイム挑戦権』を売っていた商人らしい。

しかし、その態度は騒動を収めたエミリーに感謝している、というものではなかった。

 

「よくもうちの商品を台無しにしてくれたな!耳を揃えて弁償してもらおうか!」

 

 

商人の意味不明な発言を聞いた張は、この騒動がより一層面倒なものになることを予感し、一つため息をついた。




ネタバレ②

オリ主のパーソナルは、原作が開始した年——『2045年』が関係している。
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