『あらたな世界』×『むげんの世界』?   作:赤貞奈

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地獄と双子 五話

■商業都市コルタナ バザール

 

 

 

「よくもうちの商品を台無しにしてくれたな!耳を揃えて弁償してもらおうか!」

 

商人は丸々太った体を震わせ、【タウラス・レオ】による被害を抑えたエミリーに対して、叫び散らした。

 

その光景は、張達当事者にとどまらず、周囲を見ていた他の者達にも同じ感想を抱かせた。

 

即ち、「こいつは何を言っているんだ?」と。

 

 

「待ってくれ。それは横暴というものだろう。今回の件は——」

 

商人の言葉に呆気にとられた張は、無言のエミリーとどうすれば良いかわからず慌ててるカリンの代わりに、商人に話しかけた。

 

「お前がコイツらの親か!親ならば責任とって払ってもらおうか!九〇〇〇万リルだ!」

 

しかし、商人は張の言葉を遮り、そう捲し立てた。

 

この商人もエミリー達の正体を知っていればここまで強気には出なかっただろうが、今のエミリー達は偽装により、ただのティアンに見えている。

 

 

「私の後ろにはダグラス・コイン市長がついているんだぞ!お前らを逮捕して奴隷にしてやってもいいんだ!」

 

 

その言葉を聞いて、張は辟易した。

今は昔のヘルマイネでのことを思い出したからだ。

そして、賭博都市と商業都市の政治の違いについて考え、嘆息した。

だが、その態度が、商人は気に食わなかったらしい。

 

「チッ!どうせ金など持っていないのだろう!おい!こいつらを捕まえろ!」

 

 

背後に控えていた屈強な護衛に、張達の捕縛を命じる。

 

そこまできて、商人のあまりにもあまりな言動に、周囲の市民が抗議の声を上げるが、商人が彼らに話を振り、「じゃあ、代わりに払え」と言えば、反論の声は止む。

 

「ヒデくん!ちょっと来て!」

 

 

事態についていけず、しばらくワタワタしていたカリンは、一度深呼吸をして気持ちを切り替えると、大声でヒデキの名を叫んだ。

 

ヒデキはカリンの言葉に応じ、急いで彼女の元に向かう。

 

 

「オオくんかして!」

 

どうやらカリンが必要だったのはヒデキではなくオオバだったらしい。

正面にいるヒデキに対して、両手を前に出し、オオバを預かり、抱き抱える。

 

すると、どこからともなく小型のアイテムボックスがカリンの手元に出現した。

 

 

「これ、あげる!」

 

 

カリンはそれを商人に渡す。

商人は不審に思いながらも渡されたアイテムボックスの中身を確認し、驚愕する。

 

 

「……いっ、一億リルだと!?」

 

 

そう。カリンが無造作に渡したのは一億リルという大金であった。

商人の驚愕は、張を含めた周囲の市民にも伝わり、辺りに動揺がはしった。

 

 

「商人さん。お釣りは結構ですので、これで手を打ちませんか」

 

 

カリンの行動の意図を汲んだヒデキは、商人がこれ以上文句を言う前に交渉を持ちかけた。

 

しかし、意図がわからなかった張は、商人には聞こえないように、ヒデキに問いかける。

 

 

「いいのか、あんな大金を渡して?……一応、ラスカルさんから軍資金を貰っているから、それで俺が払うこともできるが」

 

「大丈夫ですよ。……アレ、偽物(・・)ですし。あんな手合いは長引くと面倒ですから、早く離れましょう」

 

 

張はヒデキの言葉で納得した。

同時に少し驚いたりもした。

ヒデキとカリンが簡単に犯罪行為に手を染めたことをだ。

だが、考えてみれば、そもそも〈IF〉は犯罪者クランなので、何も問題はなかった。

そして、ヒデキの言葉に続けて、無理矢理会話を終わらせた。

 

 

「賠償金は確かに払った。俺達は帰らせてもらうからな」

 

張は、エミリーを、ヒデキはカリンの手を握り、この場を離れようとした。

 

 

「待て!まだ払い切ってないぞ!一億リルどころでは、こちらの損害がデカすぎる!……とりあえず店に来い!」

 

 

欲に目が眩んだ商人は、控えさせていた屈強な護衛に張達を連れ戻させるように命令し、顔の贅肉を揺らしながら叫んだ。

 

どうやら、張達をいいカモだと思ったのだろう。

商人は張達から更に毟り取ろうとした。

 

護衛達は主人の命令を遂行しようと、張達の捕縛に動く。

 

 

「……知りませんよ。どうなっても」

 

 

呆れ顔で呟いたヒデキの言葉を、捕縛しようとした護衛が聞き取る前に、

 

「——マイナス」

 

エミリーがその首を刈り取った。

 

護衛の男が斧——ヨナルデパストリに何かを食われて光の塵になったときには、エミリーはもう一人の護衛の腰に斧を叩きつけ、上半身と下半身を両断していた。

 

二度の惨劇を終えたところで、周囲はようやく異常事態に脳の状況認識が追いついた。

 

 

「うわぁああああああああ!?」

 

「さ、殺人だああああああああ!?」

 

 

 周囲に集っていた人々は、悲鳴を上げて逃げ惑う。

 バザールは檻のモンスターが暴れていた時と同じか、それ以上の混乱に包まれる。

 

 

「ば、バケモノめ! おい! さっさとあいつを殺してしまえ!」

 

 

 商人の男がそう言って、

 

 

「――マイナス」

 

 

 エミリーが投げた斧で男はたるんだ頬から頭部を輪切りにされて、息絶えた。

 残る護衛の男達も武器を向けていたが、それらも同様に容易く殺傷されていく。

 そうして、商人と護衛達は皆殺しとなった。

 

 

「ッ…………」

 

「張さん!すぐに離れてください!今から個々に大量の〈マスター〉が来ます!僕達のことは気にしなくていいので、今は自分の生存のみを優先してください!」

 

エミリーのつくった惨状に言葉をなくし、呆然としていた張にむかって、ヒデキはそう告げた。

 

「しかし——」

 

「お願いします!死なないでください!絶対に、絶対に僕らの前からいなくならないでください」

 

 

ヒデキの急な豹変に、張は戸惑う。

ヒデキと出会い、 短い期間の中でもヒデキの性格をある程度は理解ししていると、張は思っていた。

 

だが、張の目の前にいるヒデキは、普段の様子とはかけ離れている。

冷静さを失い、見えないナニカに焦り、必死に張の生存を訴える姿に初対面のときの面影は一切感じられなかった。

 

「了解した」

 

ヒデキの言葉に張は力強く答え、その場から立ち去った。

自身の生存を約束して。

 

 

 

◇◇◇

 

 

張が鉄火場から離れようと、エミリーの殺戮の暴走は止まらない。

その場にいた三人の〈マスター〉がが事態の収拾するためにエミリーの傍に駆け寄る。

しかし、彼女達はすぐにエミリーによって、デスペナルティとなる。

 

 

「あの少女を止めろ!」

「《看破》で見えるステータスは偽装だ!正体が別にある!」

 

 

騒動が拡大し、今しがたの三人意外にも多数の〈マスター〉が集まり、エミリーに対処せんとしている。

それを視界に収めたエミリーは、

 

 

「——マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス、マイナス」

 

口からそんな言葉を吐き続け、襲いかかる〈マスター〉達を次々に排除していく。

エミリーに接近した〈マスター〉は一瞬で切り刻まれ、その死体は光の塵なり、その全てがヨナルデパストリに吸収された。

 

「これでも喰らえ!!《ストーム・スティンガー》!!」

 

 

しかし、彼らもただやられるだけではない。

〈マスター〉の一人がエミリーに【疾風槍士(ゲイル・ランサー)】の奥義を放った。

 

奥義の効果で加速し、超音速で放たれる【疾風槍士(ゲイル・ランサー)】の一撃をエミリーは無防備に喰らう。

しかし、その攻撃はエミリーの皮膚の防御力だけで受け止められ、有効打にならなかった。

 

 

「何なんだ、コイツ!?」

「異常なまでの物理耐性……こいつはティアンじゃない!恐らくは物理防御に特化した〈エンブリオ〉の〈マスター〉だ!」

 

「だったら俺の出番だぜ!!」

 

 

即座にエミリーの正体を分析し始めた〈マスター〉に応じ、ローブを着た【紅蓮術師】の〈マスター〉が前に出る。

エミリーはそれに対応して【紅蓮術師】へと向かうが、

 

 

「《ゼロ・チャージ》!《クリムゾン・スフィア》!!」

 

 

魔法の高速詠唱に特化した〈エンブリオ〉を有する【紅蓮術師】は、超音速で遅い来るエミリーに対応し、奥義である魔法を発動させた。

だが、放たれた《クリムゾン・スフィア》をエミリーは超音速機動をもって避ける。

標的を失った《クリムゾン・スフィア》は、そのまま進行方向を炎上させながら移動する。

 

そして、その先にはヒデキ達がいた。

 

彼らのスタータスでは、その攻撃を対処する力はない。

迫り来る死から逃れる方法はないのだ。

だが、少しでもダメージを減らそうと、オオバをカリンが抱え込み、その前にヒデキが立つ。

 

そんな彼らを嘲笑うかのように、燃え盛る火の玉は無情にも近づき、

 

——ヒデキ達を庇うために戻ってきたエミリーによって止められた。

 

 

《クリムゾン・スフィア》の効果時間が終わって炎は消え去り、そこには五体満足のエミリーが立っていた。

だが、装備品はそうではない。耐火性能を持たされたオーダーメイドのドレスは燃えていなかったが、ラスカルから渡された偽装用のアクセサリーは熱量に耐えきれず融解していた。

 

 

ゆえに、今そこに立つエミリーは偽装容姿ではなく……彼女自身の姿だった。

 

——指名手配されたその容貌も。

 

——【殺人姫】としてのスタータスも。

 

 

「……嘘、だろ?」

 

 

仕留め損ねた【紅蓮術師】の首を、その小さな手で掴み、枯れ木のように砕き折ったエミリーを看破した者が絶望に満ちた声を上げる。

 

 

エミリー・キリングストン

 職業:【殺人姫】

 レベル:528(合計レベル:928)

 HP:8056(+36550)

 MP:350(+36550)

 SP:1980(+36550)

 STR:3050(+36550)

 AGI:4356(+36550)

 END:1680(+36550)

 DEX:687(+36550)

 LUC:100(+36550)

 

 

エミリーの名に、そのレベルと比較して低く……そして高いステータスに、周囲が動揺する。

 

 

「エミリー……【殺人姫】エミリーだと!?」

「なんだ、このスタータス……なんなんだよ!」

 

 

異常なステータスであった。

 元の値は超級職としてはあまりに低く、修正後の値は恐ろしく高い。

 しかし、それは当然なのだ。

 その数値修正こそが、【殺人姫】の真骨頂なのだから。

 そのパッシブスキルの名は、彼女の二つ名の由来でもある《屍山血河》。

 【殺人姫】の奥義にして、【殺人姫】が【殺人姫】である由縁。

 

 全ステータスに――『人間の討伐数(・・・・・・)と同値のステータス修正を適用する』スキル。

 

 エミリーがこれまで殺してきたティアンと<マスター>合わせて……三六五五〇人。

 その全てが、彼女のステータスとなって顕れている。

 

 殺せば殺すほど――エミリーは強くなり続ける。




ネタバレ⑤

カリンとヒデキに自我はありません。
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