【掌編集】ビー玉と石ころ~艦これその他盛り合わせ~   作:T・G・ヤセンスキー

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【オリジナル】陽だまりの中で君は

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 春の公園。一人の老人がベンチに腰かけて微笑みながら、陽だまりの中で今を盛りと咲き誇る桜の木を眺めている。

 

 いつ公園に来てもそこに座っているのを見かける老人の姿は、なんというか、凄く風景の中におさまっていて、私はひそかに、歳をとったらこんな風になりたいなどと思ったりしていた。

 

「……いつもここに座ってらっしゃいますよね。桜、お好きなんですか?」

 

 以前、老人に一度声をかけてみた事がある。

 

「ええ、まあ、そうですな。日本人なら当然……とでも言いたいところですが、あの桜は特別でしてな」

 

「と言うと?」

 

「なに、あの桜は、わしが植えたんですよ。妻が、浮気相手の男と一緒に姿を消した、その次の日の夜に植えたんです。……もうじき、15年になりますか」

 

「……これは失礼しました」

 

「構わんですよ。もう昔の事です」

 

 老人はゆったりと笑う。

 

「……15年間、毎日ここに?」

 

「そうですなぁ。一日一度はここに来て、あの桜の木を見ないと、どうも心がざわざわして落ち着かんです」

 

 私は驚いた。

 

「春だけではなく、夏も秋も冬もですか?」

 

「そうですなぁ」

 

「素晴らしい。よっぽど大事にしてこられたんですね」

 

「そうですなぁ……何だかんだいって、いまだに愛しておるんでしょうなぁ」

 

 桜の木のことを言ったつもりだったのだが、老人の目には、別のものが写っていたらしい。

 

 それから他愛ない会話をいくらか交わし、私はその場を後にした。

 

 振り返ると、老人はやはりベンチに腰掛けたまま、元通りゆったりと桜を眺めている。

 

 陽だまりの中、その光景はやけに私の心に残った。

 

 

 

 

 ――――

 ――

 

 

 ……三カ月の海外出張を終え、私はまた元通りの日常に戻ってきた。

 

 出張から帰ってからというもの、何度か公園に足を運んだことはあったのだが、不思議なことに、一度もベンチに老人の姿を見なかった。

 

 老齢とはいえ、急に亡くなったり病に伏せったりしそうな様子には見えなかったが、大丈夫だろうか。

 

 お元気でいるといいのだが、とぼんやり思いながら車に乗り込み、ラジオをつける。

 

 

 

『……つづいてのニュースです。先月、死体遺棄の疑いで逮捕されて取り調べを受けていた○○容疑者が、改めて殺人容疑で再逮捕されました。調べによりますと○○容疑者は15年前、妻とその交際相手を殺害し、自宅近くにある公園の桜の木の根元に、二人の死体を埋めて隠していた模様です。逮捕の日に至るまで、実に15年と37日。捜査陣の粘り強い努力が身を結び……』

 

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