【掌編集】ビー玉と石ころ~艦これその他盛り合わせ~ 作:T・G・ヤセンスキー
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「──ふゆきすばるさん、どうぞー。面接室にお入り下さい」
自分を呼ぶ声に、冬木スバルは、閉じていた目を開ける。
(これで、数えてるだけで2314回目の【落ち戻り】か……)
――たった今目を開けるまで、自分は安アパートの一室にいたはずだ。
自室に届いた封筒を破り、3日前に面接を受けたこの会社の不採用通知を目にしたところだったはずだ。
しかし、今、自分はこうしてここにいる。
(……全く、何なんだろうな、この力)
この会社の面接を受け、3日後に自室に届く不採用通知を目にする――すると、いきなり激しい頭痛に襲われ――自分の名を呼ぶ声に目を開けると、また、この待合室に戻っている。
スバルは延々と、この【落ち戻り】のループを繰り返し続けていた。
おそらく、面接に合格して採用されれば、このループからは抜け出せるのだろう。
しかし、毎回自室に届く書類の文面は決まって、『残念ながらこの度は……』という定型文だった。
初めてこの面接を受けた時――このループに入り込む直前のスバルは、あろうことか、面接前に待合室で居眠りをやらかしてしまい、名前を呼ばれてはじめて目を覚ましたのだ。
【落ち戻り】がその瞬間からリスタートしている以上、いくら経験を重ねてスバルの面接スキルが磨かれてきたとはいっても、採用の可能性は、限りなく低い。
ましてや、スバルはある時期から、面接の際、「ほどほどに手を抜いて」受けるようになっていた。
毎回【落ち戻り】の際に襲われるあの頭痛――
――ひょっとしたらあの頭痛は脳内出血か何かの予兆で、ループを抜け出してしまったら、自分は3日後にそのまま死んでしまうのではないだろうか?
面接を受けるのを辞退したり、採用通知の封筒を開かずにいたらどうなるのか、といった事も、同じ危惧からスバルには試せなかった。
抜け出そうとさえしなければ、今のスバルの生活というのは、実際悪くない。
それどころか、相当に恵まれていると言えるだろう。
採用面接を受け、3日後に自室で不採用通知を受け取る。このルーチンを繰り返す限り、スバルはいわば不死の存在だ。
3日間の間に本を読んだり映画を見たり、1泊2日で旅行したり。娯楽には事欠かない。
……完結済み作品以外の漫画やアニメを見るのが苦痛になってしまった事だけは、ひどく残念だったが。
その気になれば、今のスバルには、競馬の12レース全てを的中させる事も可能だ。
実際何度かは実行し、豪遊してみたり恵まれない子ども達のために寄付してみたりもした。
だが、あるループの時にそうした事がきっかけで暴漢に襲われそうになってからは、結局やめてしまった。
その時は幸いな事に大事には至らなかったのだが、犯罪に巻き込まれたり事故にあったりでアパートに戻れなくなり、届いた不採用通知を受け取れなくなってしまっては、困るのだ。
結局、ギャンブルや贅沢や慈善は、ほどほどの範囲でたまにやるだけになった。
――いったい、この力は何なのだろう。
――この生活は、何なのだろう。
――ぬるま湯のような地獄なのか。
――ぬるま湯のような天国なのか。
結論は出ないまま、冬木スバルは今日もまた面接を受け、3日後にはまた不採用通知を受け取る。
彼の就職活動は、まだまだまだまだ終わらない。
FIN.