【掌編集】ビー玉と石ころ~艦これその他盛り合わせ~ 作:T・G・ヤセンスキー
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「――もう、うんざりなんだよ」
俺は煙草を灰皿で乱暴にもみ消しながら、監督に吐き捨てた。
「……毎回毎回、パターン通りのお決まりの台詞ばかり。いくら脇役とはいえ、これじゃあ、あんまりじゃないか」
俺の剣幕に、監督が苦りきった表情を浮かべる。長い付き合いだ、別に俺だってこいつを困らせたいわけじゃない。だが……
「お前の気持ちはよーっくわかってるつもりだ。お前ほどのベテランが、お決まりの演技ばかりを要求されて、欲求不満になるのは当然だと思う。だが……」
……やっぱりだ。やっぱりこいつはわかってない。
「違う、そういう事じゃないんだよ。俺は別に、自分の演技力を見せびらかしたいとか、この役に不満があるとか言いたい訳じゃねえんだ。視聴者が、いつも変わらないこのキャラクターの『お約束』を愛してくれているのもよくわかってる」
拳をがつんとテーブルに振り下ろす。アルミの灰皿が跳ねて、机の上でカラカラと乾いた音を立てた。
「この役は俺にとっても大事な役だ。いや、それどころか、この役は俺の人生そのものだと思ってる。大袈裟じゃなく、生涯この役を演じ続けていきたいと思ってるんだ」
どうにかわかってほしくて、必死に説得する。
「だからこそ、なんだよ。たとえ脇役だとしても、創作の中のキャラクターだとしても、こいつは生きてる。生きて、いろんなものを見て、経験して、成長してるはずなんだよ。俺はそこの部分を視聴者に見せてやりたいんだ」
ありったけの熱意をこめて監督に訴える。
「約束するよ。今までのこいつのイメージを壊したりはしない。だから……成長した、さらに魅力的なこいつを、みんなに見せてやる訳にはいかないか?」
渋面の監督と、真っ向から睨み合う。監督の目の奥で、何かが揺れ動いたような気がした。
だが――
「……駄目だ。台本通り、変更はなし。アドリブも一切許さん」
監督の最終判断は、非情だった。
奥歯をぎりっと噛み締めた後、ゆっくりと息を吐く。
「……わかった。監督はあんただ。ちゃんと従うよ」
何度も繰り返してきた議論だ。結論もいつも同じ。
「……すまないな」
「……謝らないでくれ、余計みじめになる」
ぱんぱん、と両手で自分の頬を叩いて気持ちを切り替える。
タイミングを見計らっていたのか、ノックに続いてドアが開き、ADが俺を呼んだ。
「イクラさん、出番です」
「おう、今行くよ」
――乳児役をつとめて、はや50年近く。
「チャーン」「ハーイ」「バーブー」以外を喋れるのは、まだまだ当分先の話のようだ。
Fin.
※タラちゃん実写だと世代交代の回数が凄いことになりそう