【掌編集】ビー玉と石ころ~艦これその他盛り合わせ~   作:T・G・ヤセンスキー

4 / 14
台本通りにお願いします。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

「――もう、うんざりなんだよ」

 

 

 俺は煙草を灰皿で乱暴にもみ消しながら、監督に吐き捨てた。

 

 

「……毎回毎回、パターン通りのお決まりの台詞ばかり。いくら脇役とはいえ、これじゃあ、あんまりじゃないか」

 

 

 俺の剣幕に、監督が苦りきった表情を浮かべる。長い付き合いだ、別に俺だってこいつを困らせたいわけじゃない。だが……

 

 

「お前の気持ちはよーっくわかってるつもりだ。お前ほどのベテランが、お決まりの演技ばかりを要求されて、欲求不満になるのは当然だと思う。だが……」

 

 

 ……やっぱりだ。やっぱりこいつはわかってない。

 

 

「違う、そういう事じゃないんだよ。俺は別に、自分の演技力を見せびらかしたいとか、この役に不満があるとか言いたい訳じゃねえんだ。視聴者が、いつも変わらないこのキャラクターの『お約束』を愛してくれているのもよくわかってる」

 

 

 拳をがつんとテーブルに振り下ろす。アルミの灰皿が跳ねて、机の上でカラカラと乾いた音を立てた。

 

 

「この役は俺にとっても大事な役だ。いや、それどころか、この役は俺の人生そのものだと思ってる。大袈裟じゃなく、生涯この役を演じ続けていきたいと思ってるんだ」

 

 

 どうにかわかってほしくて、必死に説得する。

 

 

「だからこそ、なんだよ。たとえ脇役だとしても、創作の中のキャラクターだとしても、こいつは生きてる。生きて、いろんなものを見て、経験して、成長してるはずなんだよ。俺はそこの部分を視聴者に見せてやりたいんだ」

 

 

 ありったけの熱意をこめて監督に訴える。

 

 

「約束するよ。今までのこいつのイメージを壊したりはしない。だから……成長した、さらに魅力的なこいつを、みんなに見せてやる訳にはいかないか?」

 

 

 渋面の監督と、真っ向から睨み合う。監督の目の奥で、何かが揺れ動いたような気がした。

 

 

 だが――

 

 

「……駄目だ。台本通り、変更はなし。アドリブも一切許さん」

 

 

 監督の最終判断は、非情だった。

 

 奥歯をぎりっと噛み締めた後、ゆっくりと息を吐く。

 

 

「……わかった。監督はあんただ。ちゃんと従うよ」

 

 

 何度も繰り返してきた議論だ。結論もいつも同じ。

 

 

「……すまないな」

 

「……謝らないでくれ、余計みじめになる」

 

 

 ぱんぱん、と両手で自分の頬を叩いて気持ちを切り替える。

 

 

 

 

 

 タイミングを見計らっていたのか、ノックに続いてドアが開き、ADが俺を呼んだ。

 

 

 

「イクラさん、出番です」

 

「おう、今行くよ」

 

 

 

 ――乳児役をつとめて、はや50年近く。

 

 

 

「チャーン」「ハーイ」「バーブー」以外を喋れるのは、まだまだ当分先の話のようだ。

 

 

 

 

 Fin.





※タラちゃん実写だと世代交代の回数が凄いことになりそう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。