朝。柔らかい布団の感触の中で起きると同時に日の光が目に突き刺さる時間。博麗 霊夢は今日も賽銭箱を覗き込んでいた。が、いつもと違うことが一つ。
「・・・虚さん、きっといい人なんだろうな〜」
そう。昨日此処に訪れた人でも妖怪でもないナニカによって、途轍もない金額が賽銭箱には入れられていた。しかし、それを見ていた大妖怪、八雲 紫は顔を曇らせていた。
「ん?どうしたの紫?」
「いいえ。なんでも」
霊夢に話しかけられ紫は微笑みで返したが、依然として顔は晴れないのだった。
(悪魔になり、物に憑依し、記憶や心を見ることが出来る。どれもバラバラすぎて能力の全容が掴めないわ。悪いことをするつもりでないとは言っていたけど、この札束を見る限り、無自覚に誰かの不幸を招いてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けないと)
そう。紫が案じているのは千夜住 虚のことである。というのも彼女はこの幻想郷の管理人のようなもので、もし何か危険があれば速やかに排除するのが役目と言ってもいい。彼女自身もそれに慣れており、その危険が例え人であったとしても、容赦なく消し炭にするだろう。しかし、無自覚の内に危険となっていた場合はどうにもいたたまれないものがあり、殺したとしても何処と無く後悔が残ってしまう。故に彼女は、力を持つものを入念に観測し、この世界の危機とならないように最大限善処する。例えば霊夢がいい例だ。霊夢は《空を飛ぶ程度の能力》を持っている。一見すると空中浮遊するだけの能力に聞こえるかもしれないが、その本質は『ありとあらゆるものから宙に浮く』ことにある。そうなれば霊夢は一種の無敵状態となり、彼女の相棒のような存在である霧雨 魔理沙に【夢想転生】と命名されていなければ、確実に彼女を倒せるものはいない。紫はそれを恐れた。何故なら、万が一霊夢が幻想郷に対して敵対行動を取った場合、まず紫では勝てないからだ。それはおそらく、今回観測している対象も同じだろう。結論から言うと、紫は勝てない存在が敵に回るのをなんとしても避けたいというわけだ。この美しき世界を守るために。
「おーい!霊夢ー!」
そうこうしているうちに霊夢の名を呼びながら魔理沙が大慌てでやってきた。
「そんなに慌てて。今度は何?またお宝?」
「なっ!?今回は違うんだよ!」
「・・・はぁ。お宝じゃないなら異変?正直言って面倒なんだけど」
「それがもうある意味大異変なんだよ!虚がぶっ倒れて!髪の毛とかめっちゃ白くなってて!」
「・・・どこにいる?」
「ゑ」
「虚さんがどこにいるかって聞いてるのよ」
「ま、魔法の森のアリスの家d」
アリスの家で看病されてる、と伝えたかったのだが、霊夢は目にも留まらぬ速さで神社から飛び、魔法の森の方角へ向かっていった。その後アリスの家のドアを盛大に叩き、眠っていた虚に大変不快な思いをさせたことは言うまでもない。
だんだん文章力が戻ってきた・・・