Lost Slugger   作:ルイレツ

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Lost soldiers

 

 

俺は、空虚な心で本隊に合流するべく歩んでいる。

部隊は全滅。

慕ってくれた友や部下は残らず殺された。

 

生きる気力を失ってしまった。

この世にしがみつく理由はただ一つ。

 

―――後は頼みます、先輩・・・

 

鎧武者が最後に残した言葉があるからだ。

 

彼に貰った命。それを無意味に使い潰すことなど出来ない。

 

義務、使命感。

俺はそれだけを胸に、本隊へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

本隊に合流した俺は、めいじ館の巫剣との戦闘を報告するために、作戦司令部へと急いだ。

作戦を根底から覆す強大な敵だ。

上官に掛け合って、作戦の是正(ぜせい)具申(ぐしん)しなくては。

急ぐ俺の耳に聞き覚えのある声が届いた。

 

「先輩・・・?金棒先輩じゃないっスか!!!」

「・・・泥鎧か!!」

「てっきり死んだんだと・・・お互い、よく生き残ってたっスね・・・」

 

そこにいたのは先の戦闘で死んだとばかりに思っていた泥鎧であった。

俺一人が生き残ったわけではない!

心が一気に温まる思いだ。

 

「どうやって生き延びた?」

「よく分からないっスけど、敵の大技が不完全だったんじゃあないっスかね?ほら、あっちにも部隊の生き残りが何人かいるっスよ」

 

もしかすると、自分達の決死の特攻は無駄ではなかったのかもしれない。

生存者がいたことにより、生きる気力が沸々と湧いてくるのを実感した。

 

泥鎧の指差す先には、見覚えのある禍憑が数人浮いていた。

彼らは式童子と呼ばれる禍憑で、宙に浮き、遠距離攻撃を得意とする。

禍憑でも中位に属する存在だ。

 

視線の合った式童子は、先ほどの戦闘の礼を口々に言う。

 

その中で一人、前へ出てしっかりと礼を述べる式童子がいた。

 

「先ほどは助かった。金棒。礼を言わせてくれ。」

「あなたは・・・?」

 

俺は彼に見覚えがあった。

昔、共闘した覚えが記憶の片隅に残っていた。

当時はウェイウェイと(やかま)しい記憶がある。

 

「お前!あの式童子か!何だその言葉遣いは、似合ってないぞ!」

「ウェ――イ!!うるさいジャン!部下の前だ、若い頃の言葉遣いなど出来るか!」

 

俺は可笑しな言葉遣いの式童子に笑いかけた。

彼は以前、チャラけた態度で部隊の顰蹙(ひんしゅく)を買っていたことを覚えている。

いつの間に言葉遣いを改めたのだろう。

 

目の前の式童子は度々戦場で共闘する腐れ縁だった。

それほど深い付き合いはしてないが、古い馴染みの大切な友だ。

 

「取り合えず、さっきは助かった。正直私たちが生き残ったのは奇跡だ。全く、神に感謝の一つでも捧げたくなったよ」

「そうだな・・・犠牲は大きいが、確かに俺たちは生き残った。」

 

俺たち先遣部隊は巫剣の攻撃でほぼ壊滅。

本隊に温存されている戦力でもあの強大な力を持つ巫剣にどれだけ対抗できるのか。

数を揃えても対抗は出来ないだろう。

 

「作戦司令部に私からめいじ館の巫剣の存在を伝えた。作戦にどのような影響があるのか計り知れん」

「そうか・・・」

「ブリーフィングまで時間がある。先ほどの激しい戦闘の後だ。ゆっくりと休むといい。」

 

暗に部隊が壊滅したことを気遣ってくる。

彼も幾多の部下を失っただろうに。気丈な心を持つ男だ。

昔とは大違いな態度に、俺は人知れず笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の作戦のブリーフィングまで間がある。

泥鎧と俺は、コンディションのチェックがてらに会話をしている。

 

「泥鎧、改めて良く生きてくれた。負傷した箇所はないのか?」

「大丈夫っス先輩。先輩こそ爆心地にいたじゃないっすか。問題ないんスか?」

「ああ、俺は平気だ」

 

俺はすこぶる元気で問題は無いのだが。

一人、この場に欠けている人物がいる。

 

「鎧武者・・・あいつはどうなったんスか・・・?」

「・・・俺に禍魂を譲って、死んだ」

 

泥鎧は悲しみに満ちた顔をする。

禍憑は戦闘を主とし生きる存在だ。

死別することは珍しくない。

 

しかし、俺たちは最高のチームだった。

彼を失ったことを受け入れるには時間が必要だ。

 

「そうっスか・・・じゃああいつの分も生きていかないと駄目っスね」

「ああ・・・」

「んじゃあ、俺ももう休むっス。先輩も休まないと身が持たないっスよ」

 

険しい表情で休む態勢に入る泥鎧。

心の整理が追い付かないのだろう。

 

俺も泥鎧や式童子が生きていてくれたから少し立ち直れた。

しかし、心の傷が癒えるには時間が圧倒的に足りない。

心の疲れがドッと湧いてくる。

 

次の作戦に支障が出ないよう、俺は体を休めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩を挟んで幾らかの時間が経った。

 

司令部より招集が掛かった。

次の作戦の詳細が煮詰められたのだろう。

 

現地指揮官である益荒鎧とその参謀である、式童子が中央に陣取っている。

その周りを囲むように部隊長が並んでいる。

 

俺は、その中の部隊長の一人としてブリーフィングに参加した。

 

指揮官である、益荒鎧が重く芯に響く声を上げる

 

「諸君、任務ご苦労。さっそくだが、先ほどの作戦の成否は既に耳に入っているはずだ。」

 

重苦しい空気が流れる。

先遣部隊は全滅。

戦術レベルで禍憑を脅かす、超抜級の戦力を持つ巫剣の出現。

これだけの悲報で禍憑の士気は下がる一方だ。

 

益荒鎧は重い言葉をその場にいる俺や、隣の参謀長である式童子に向ける。

 

「先ほどの作戦に参加した同胞の魂に安らぎがあらんことを。黙祷を捧げる」

 

そして、俺たちは死者を想い、黙祷を捧げた。

 

暫くして益荒鎧は沈黙を破り、ブリーフィングを進める。

 

「さて、強大な巫剣と遭遇し、生きて貴重な情報を持ち帰った貴官らに最大の敬意を送りたい。ありがとう。」

 

頭を下げる益荒鎧。

現地指揮官に礼を言われることなど滅多にない。

素直に喜んでしまいそうだ。しかし・・・

 

「強大なめいじ館の巫剣の出現で今後、作戦の変更がされるのか、それが貴官達の懸念だろう。しかし、本作戦は予定通り進行中である。よって、作戦に変更は無いとする。何か質問は?」

 

予定通り進行中?

その言葉に俺はイラつきが隠せなくなる。

 

そもそも今回の作戦は人海戦術、ローラー作戦のようなものだ。

豊富な人員により、数で巫剣を押しつぶし、勢力圏を拡大しようとするものだ。

家屋や人間に被害を与えることで、禍憑の力の源である禍魂を補充する目的もある。

 

数で押し、進撃する。

シンプルで分かりやすい作戦なのだ。

 

だが、めいじ館の巫剣は単純な数で圧倒できない。

 

人海戦術で打撃を与えようにも、主要な箇所は彼女らに守られるだろう。

あるいは、その圧倒的な力にモノを言わせて各個撃破されるかもしれない。

数と言うこちらの優位性はめいじ館の巫剣のおかげで全く意味が無くなったのだ。

 

彼女ら最強の個体の襲来により、現作戦は破綻したと言える。

 

しかし、目の前の指揮官殿は、最初から予定通りだという。

 

「ふざけるな・・・!俺たちの犠牲が予定通りだっただと?」

「気を悪くしたなら謝ろう。だが、上官に向かってその発言はなんだ?次は無いと思え」

「いいや、言わせてもらう!この作戦はイカれてる!このまま敵陣に突入してもめいじ館の巫剣に見つかれば死ぬだけだろうがッ!!!レミングの集団自殺みたいなクソ作戦につき合えるかッ!!!!」

 

俺が言いたいことは山ほどあるのだ。

怒りを募らせて益荒鎧を糾弾する。

 

しかし、目の前の益荒鎧はゆっくりと立ち上がった。

そして、素早く拳を握りしめると、俺に向かって思いっきり振り被る!

 

「グうェェッ!」

 

壁が迫って来るような巨大な拳に俺は回避することもままならず、その衝撃を受け地面に叩きつけられた。

拳を収めた益荒鎧は言う。

 

「貴官の懸念は最もだ。だが、部隊の士気を下げるような発言は控えろ。もう一度言う。作戦の変更はない。以上だ。」

 

―――質問はあるか?

 

益荒鎧の言葉に反論が無いのか、沈黙する部隊長たち。

 

「では、作戦行動の確認に移る。参謀長、後は頼む」

「は・・・」

 

部隊の配置など、細かい説明が行われたが、頭の中に入ってこない。

 

クソッタレめ!

 

上官の指示だ、疑問を持たずに作戦を遂行しろというのだろう。

だからと言って首を吊って死ねと言われてはいそうですかと死ねる訳がないだろう。

 

益荒鎧が秘策を隠しており、その作戦を遂行する。

そんな理由があるのなら話は分かる。

だが、その有るのか無いのか分からない作戦の為に俺の仲間は死んだのだ。

他の部隊長も反論しないのが癪に障る。

一体何を考えているのか。

これから無残に散るかも知れないのに。

 

結局、益荒鎧への苛立ちで、ブリーフィングの内容は細かいところまで頭の中に入らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリーフィングが終わり、俺の頭の中では色々なことがグルグルと渦巻いた。

 

鎧武者や部隊の皆が死ぬのは予定通りだというのか?

式童子や他の部隊長は何故反論をしないのか?

なにか別の作戦があり、それがめいじ館の巫剣へのカウンターとなるのか?

 

考えてもどうしようもない。

既に作戦は決行する前準備に入ったのだ。

ならば、余計なことを考えるのは止めよう。

雑念が多ければ余計な感情に引っ張られる。

そのノイズに引きずられると、戦場で死ぬだけだ。

 

心を入れ替えようとした矢先、声がかかる。

 

「先ほどの指揮官の発言、済まなかった。」

「式童子・・・」

 

彼はフヨフヨと浮いて近づいてくる。

参謀長として、ブリーフィング中はフォローを入れなかったが、個人的に謝罪するというのだろう。

 

「いや、謝らなくてもいい、何か別の作戦が関係するのだろう?」

「それは機密事項だ。」

 

秘密を聞いて、言えません。

それでは何か秘密があると言っているようなものだ。

 

半ば秘密を漏らした式童子の表情を伺うと少しだけ茶目っ気のある顔をしていた。

やはり、根元では昔と同じ性格らしい。

オチャラケた性格の彼が、参謀長という立場に上がったサクセスストーリーは気になるところだ。

 

別に本筋の作戦があると言うのなら(うれ)いは無くなる。

 

益荒鎧を(おもんばか)った式童子は、指揮官のフォローも入れたいようだ。

 

「益荒鎧は現場の叩き上げの指揮官でな、融通が聞かないところがある。しかし、現場からの信は厚い男だ。今回の作戦も意味がある。お前には酷だが、従ってくれ。」

「意味があるのなら迷いはない。ただ、俺は訳も分からず消耗品みたいに使い潰されたくない。納得して戦いたい、それだけだ」

 

生き死にがダイレクトに存在する戦場。

そこには納得して戦うなどと言う綺麗ごとは介在できない。

ただ、仕事を漠然と(こな)すしか無い部分もある。

 

それでも、己の命を懸けて全うする仕事だ。

そこには誇りが存在する。

 

己の誇りと、納得が出来るなら戦場を躊躇(ちゅうちょ)する理由は何処にもない。

 

「・・・その様子だと、納得してくれたのだな。次の作戦も頼りにしている。」

「ああ、任せてくれ。・・・しかし、あの頼りないお前がこうも性格が変わるとは。今度、じっくりとお前の遍歴を聞きたいものだな」

「ウェ・・・それはかンにンして欲しいジャン・・・」

 

余り思い出したくない過去なのだろうか?

口調が昔に戻っている。

今回の作戦が終わったら聞き出してやろう。

面白くなってきた。

 

「生き残った後の楽しみが増えたな。生き残るためにも、あいつらの綺麗な顔に金棒のデリバリーサービスを届けてやらないとな」

「その時は任せてくれ、ピッチャー式童子の剛速球で迅速に送り届けてやる。」

「はは、焦ってトラブルを起こしそうなピッチャーだな」

「・・・バットが血濡れたイカレバッターに言われちゃお終いだ」

 

―――違いないな。

 

式童子と軽口を叩くことで、俺のコンディションもようやく本調子に戻ってきた。

次の作戦を絶対に成功させる。その意欲が湧いてくる。

 

さて、作戦開始まで時間がある。

体を休めて完全に体調を戻そう。

 

俺は、先ほど休んだ時より体が軽くなるのを実感するのだった。

 

 

 

 

 

 

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