Lost Slugger   作:ルイレツ

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Lost Slugger

 

 

 

遠くから地鳴りが聞こえ、天は曇りだし、地面を雷が照らし出す・・・

交戦している禍憑のチームは大丈夫なのだろうか。

 

地震の如き揺れが生じている。

不規則な揺れは、巫剣の攻撃だ。

大地を揺らす攻撃とは・・・

 

雷光は断続的に落ちている。

だが、明らかに一つの方向に指向性を持って落ちている。

敵には天候すら自在に操る巫剣がいるのだろう。

 

大気は右へ左へと不自然に流れる。

強風に合わせて氷河を思わせる冷風が流れたり、

はたまた熱砂の砂漠を思わせる灼熱の風が吹き荒ぶ。

 

天変地異、世界の終わりを思わせる異常な大気。

 

これらを為す巫剣とは如何ほどの存在なのだろうか。

 

同じ世界に存在すると思えない力の差に、前線での一方的な蹂躙を予感させた。

 

「我らは現エリアより撤退する。しかし、敵は圧倒的。こちらの精鋭と言えど容易く潰されるだろう。低位禍憑では鎧袖一触だ、戦闘をさせる訳にはいかぬ。先ずは彼らから逃がす。」

 

益荒鎧は動揺を前に出さず、毅然とした態度で言う。

誰もが絶望する中で、己を見失わない。

司令官に相応しい姿だと俺は感じた。

 

敵は、人がゴミを掃除するように、大した手間もかけず我々を屠れるのだ。

連中を前に、俺たちの戦力は虫も同然だった。

 

撤退は相応の覚悟が必要になるだろう。

 

幸い、撤退も迅速に行える。

駅に拠点を設けたからだ。

線路に沿って行軍出来れば移動は早いだろう。

 

「彼らの撤退を援護するため、殿(しんがり)の決死隊を募る。しかし、現状の我々では壁の役目も果たせぬだろう。故に秘策を使う」

「よろしいのですか?」

「構わぬ。本来十分に禍魂を貯めて使用する目的だったが、最早潰えた。無意味に残すより、使ってしまえば良かろう。」

 

圧倒的な敵を相手に殿を買って出る。

疑いようもなく、死して帰ることは出来ないだろう。

 

しかし、益荒鎧には秘策があるそうだ。

もしや、それこそが作戦前に式童子が(ほの)めかした機密事項だろうか?

 

式童子が益荒鎧の決定に頷き、説明を始める。

 

「機密であるのだが、作戦が破綻した以上隠しても仕様がない。我々が集積した禍魂を解放。我らの戦力を一時的に上昇させる。本来ならば、圧倒的な禍魂で戦死した仲間を復活させ、疑似的な不死の部隊を構築する存在を呼び込むはずだったのだが・・・」

 

確かに、蓄積した禍魂を解放すればめいじ館に対抗できる巨大な力を得られるかもしれない。

 

しかも、全滅した先遣隊は作戦が成就すれば復活するはずだったのだ。

 

疑似的な不死を実現できる禍憑の召集。

 

禍憑のトップに君臨する、彼岸の将軍を呼び込むための作戦だったのか。

しかし、作戦が破綻した以上夢と潰えたのだ。

 

だが、希望が見えてきた。一矢報いるチャンスは存在していたのだ。

 

「復活が前提にあったとはいえ、金棒ら先遣隊には無茶な戦闘を頼んだ。此度は我が陣頭に立つことで謝罪としよう」

「しかし、指揮官であるあなたが出れば、我々の戦闘指揮を執るものがいません!」

「式童子、貴官が引き継げ・・・任せるぞ。」

 

殿(しんがり)を自らが引き受けると言う。

いくら禍魂で強化されても、生きて帰るのは難しいだろう。

益荒鎧の覚悟に、式童子は険しい表情で了解と返答をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

決死隊を編成し、禍魂を解放するまで時間稼ぎが必要だ。

そして、それは遊撃隊である俺の役目。

 

「遊撃隊の諸君、殿隊が準備を完了させるまでの時間稼ぎを、どうか頼む」

 

指揮権を引き継いだ式童子が己の無力を呪わんばかりの苦しい表情で、命令を下した。

禍魂による力の底上げが無い状況で、めいじ館の軍勢と交戦することは如何なる禍憑も死を意味する。

 

彼は、俺たちに死ねと命令する戦況と、己の無力を許せないのだ。

 

だが、指揮官が苦しい表情をしたままではいけない。部隊の士気に悪影響を与える。

最後の別れになるかもしれない。

どうせなら明るく送ってほしい。

 

俺と泥鎧は、新しいポジションに収まった式童子指揮官様に声を投げかける。

 

「おいおい、指揮官殿!どうした?そんな何週間も糞が出てないレディーみたいな表情で!便秘経験豊富な巫剣ならお前を助けてくれるかもしれんぞ!!」

「もしかしたら指揮官殿の便秘でクッサイ糞なら敵も鼻が潰れて逃げるかも知れないっスよ!!」

 

―――そうなりゃ指揮官は俺たちの救世主だな!!

 

遊撃隊の禍憑が傑作だと大きな笑い声をあげる。

 

俺たちが己を励まそうとしていることにようやく気付いたようだ。

式童子がバツが悪そうな表情で皮肉を返した。

 

「そうだな!人がヒーヒー苦しんでいるのにからかう貴様らを置いて、便秘仲間の巫剣に助けて貰いに行くとするよ!!!」

「ははぁ!遂に化けの皮が剝がれやがったか!敵前逃亡だ!攻撃せよ!!」

 

俺たちは式童子に殺到し、もみくちゃにする。

悪ふざけの極みだ。

 

決戦前に皆の笑い声が響く。

俺は不思議と、弱気な気持ちが沸いてこなくなった。

 

もみくちゃにされた式童子は吹っ切れたようで、俺たちに簡潔に問いを投げた。

 

「死ぬぞ」

「何を今更。この場に決死の覚悟を抱いてない奴なんていないさ」

 

周囲を見渡しても敵を恐れるものは一人もいない。

誰も彼も不敵な笑みを浮かべ、覚悟を決めた男だけだ。

 

それに、俺は死ぬ気なんてサラサラ無かった。

 

「俺は、アイツと約束した。この金棒で他の禍憑を救うと。こんなケチ臭い戦場で死ぬ気なんてないさ。それに、犠牲は無駄にはならない。俺達の禍魂と誇りは常にお前らと共にある。」

「・・・武運を」

 

死して禍魂が彼らに取り込まれようとも、生きて共に戦場を駆け抜けようとも。

俺の魂は仲間と共にある。

 

式童子も覚悟を決めたのか。

言葉は不要だと、振り向かず益荒鎧がいた本部に戻っていく。

 

俺たちも戦場に向かう時間だ。

隣の泥鎧と、共に戦場に向かう禍憑たちに向けて叫んだ!

 

「お前らと共に戦えた幸運に感謝する。行くぞッ!!」

 

遠くに聞こえていた戦場の音は既に近づいている。

全霊で戦いに挑むだけだ。

 

俺たちは巫剣を迎え撃つべく、戦場へと疾走した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らと共にある、か・・・」

「ふっ、覚悟は決まったようだな」

「ええ・・・お待たせしました。」

 

式童子は指揮官の椅子に堂々と座る。

隣の益荒鎧は彼の見違えた様子にニヤリと笑う。

 

「指揮官、決死隊、準備が整った!」

 

益荒鎧から指揮権を譲られる。

彼は殿として撤退を援護し、死ぬだろう。

 

これからは私が指揮官だ。

私が皆を率いていくのだ!

私は腹の芯より声を立ち昇らせ、全員の注目を引き付ける!

 

「全員!傾注せよ!!これより我らは撤退する!この戦は大きな犠牲を生むだろう!」

 

先に戦った先遣隊。

各エリアを制圧に向かった小隊たち。

禍魂で部隊を強化する時間を稼いだ金棒たち。

殿を引き受けた益荒鎧の決死隊。

今から多くの犠牲が生まれるだろう。

 

「しかし!!彼らの魂は死なず、彼らの禍魂と誇りは常に私たちの血と肉となり生き続ける!」

 

そう、彼らの禍魂は私たちに力を与え、彼らの誇りは私に覚悟と進む道を照らしてくれた。

 

「戦いを恐れず進めッ!!同胞たちよっ!!必ずやこの戦の借りを連中に叩き返すべく、我らは転身する!全部隊、出撃するッッ!!!続けぇ!!!」

 

私たちは惨敗する。だが、生きる意味を失うわけではない。

ここから、巫剣に反撃するべく、私の戦いが始まるのだ!

 

多くの犠牲があった。

しかし、私は振り向かない。

私が立ち止まるのを彼らは望まない。

 

今は無様に逃げよう。

何時の日か再び反撃の狼煙を立ち昇らせる、その時まで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは、決死隊が編成されるまで、時間稼ぎを行った。

激しい戦闘で、泥鎧の行方が分からなくなる。

 

それでも、俺は必死に金棒を振り回した。

どれくらいの時間が経っただろうか。

 

本部があったステーションに、膨大な禍魂が集まるのを感じる。

 

「・・・決死隊、間に合ったか。」

 

禍魂で強化された彼らならば、強大な力を持つ巫剣に対抗できるだろう。

俺たちの仕事は終わった。

 

気が付けば、周りの禍憑は一人もいなくなっていた。

 

どれも一筋縄ではいかぬ力を持った禍憑だったが、遂ぞ敵の一匹すら倒すことが出来なかった。

めいじ館の巫剣はつくづく化物染みた連中だ。

 

俺は一人、巫剣の眼前に立ちふさる。

 

一人で何が出来るのだ?

 

嘲笑いと困惑の視線が俺を突き刺す。

 

「友と誇りかけて、巫剣を食い止めよう。それが俺の仕事だ」

 

俺は自分の証と言える、金棒に誓う。

こいつらを打倒し、生き残る。

 

迫りくる巫剣を前に、俺は金棒を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

金棒は生還できたのか?それはわからない。

しかし、彼の誇りは式童子や他の禍憑に受け継がれるだろう。

 

この大規模な犠牲を残した作戦は、β制圧戦線と呼ばれている。

 

 

 

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