信仰を神に示すがため、我が身さえも神へと捧げるか。
ならば良かろう、燔祭の時は訪れた。
私は神に備えられたのだ。これを栄光といわずして何と言う。
信仰の絶対を示すがため、喜んでこの身を炎へ投げ打とう。
ゆえに───繁栄は此処に約束された。犠牲を明日へ捧げよう。
とかいう詠唱で一作品書いてみたい(小並感)。
因みに上記の詠唱は別に宝具でもなんでもない。
なのでお気になさらず、ただの持病ですので。
─────第五次聖杯戦争。
極東はとある地方都市。
今に魔道を伝える三つの家によって行なわれてきた魔術儀式。
それが、聖杯戦争。
勝者にはあらゆる願いを叶える万能の杯を与えるという謳い文句とともに当事者三家は勿論、多くの魔術師を喰らってきた蠱毒の如き戦い。
此度で都合五度。
その参加者が一人であるキャスターのマスターは、この戦いを生き抜くための武器にして盾、使い魔にして奇跡の具現たるサーヴァントに問いかけた。
───遠坂のサーヴァント。アレは一体なんだったのだろうか?
その問いは先刻の戦いにおけるものだった。
『遠坂』。
マキリ、アインツベルンに並ぶ、この聖杯戦争の元凶にして始まりの家。取り分け歴代でも屈指の優秀さを誇る遠坂の一人娘が側に控えていたサーヴァント。
武器は弓である。
戦い方は極めて弓兵らしい間合いを取った遠距離での狙撃だった。
だが───問題は、
───宝具を使い捨てる英雄など、聞いた事がない。
弓兵はまるで消耗品のように本来、サーヴァントの切り札であるはずの宝具を使い捨てていた。
恐ろしきはそのスタイルで居て尚、宝具を補填し続けること。まるで複数、否、無限に宝具を所有しているが如きその戦い方は何れの神話にも、伝説にも、人類史にも存在していない。
未来をも見通す慧眼を持つアニムスフィア家だからこそ、断言する。あの英雄は過去にも現在にも不在していると。その確信に、キャスターは呆気なく同意と答えを齎した。
───アレは未来の英雄。恐らくは抑止力と契約した何者かだろう。
英霊が記される座には過去も現在も、そして未来に誕生する記録すら記述されている。だからこそ、サーヴァントは未来からも呼び出されるのだと、遥かな世界を見通す最高位の魔術師は言った。
その後、聖杯戦争はより苛烈化し、弓兵は道半ばで倒れた。
他のクラス、セイバーも、ランサーも、ライダーも、アサシンも、バーサーカーも、参加者の悉くを食い破り、遂にキャスターとそのマスターは万能の杯を手にする。
そのマスターこそ───マリスビリー・アニムスフィア。
苛烈な生存競争の記憶は色濃く残り、大願成就を成し、カルデアを設立した今日日忘れることは無い。そしてだからこそ、思いついたのだ。
英霊を生きた人間と融合させる極めて非人道的な魔術師らしい計画。
本来は英霊に適合するように生まれた赤子を調整、デザイン・ベビーを作り上げ、その赤子を触媒にサーヴァントをデミ・サーヴァントとして現世に繋げ止めるというのが実験本来の趣旨である。
だが、仮に、仮にだ。未来で英雄になる可能性を秘めた今の人間。
それを見つけ出し、そして仮にその人間の
それは天文学的可能性である。その人物の未来の姿を引き当てることはともかく、未来において英霊となりうる人物を現世で見つけ出すのは極めて至難。
可能性は分岐する、未来は一つではないのだから。
しかし、彼はアニムスフィア。未来を憂う、星見の魔術師。
彼は読んだ、星を、未来を、人類史を、可能性を。
─────故に、彼は今に目を覚ましたのだ。
☆
「───………」
残心。区画ごと吹き飛んだ武家屋敷を見送って、静かに弓兵は弓を下ろした。
矢は狙い道理に直撃した。不意討ち着弾、回避は不可能。
ましてや敵手が英霊でもない魔術師程度ならば。
己の仕事を成し遂げた弓兵は背を向ける。
最早、やるべきことは済んだ。
此処に居残る理由など無い。
だが……。
「………」
「───流石。勘が良い。少しの汚れも見逃さないその悪辣さ。掃除稼業は馴れたものだな、お互いに」
「─────」
応答は弓矢だった。
既に仕留めたはずの獲物、生命なきこの場に響き渡った声に、弓兵は即座に反応。練達の動作で弓を番え、打った。
赤い軌跡を描いて飛翔する矢。それはさながら猟犬が如く、弓矢にしてはあり得ない軌道で獲物に噛みかかるように声の人物へと向って飛ぶ。
内包する威力、殺傷力はともに魔術師で防げる域を超えている。高位の魔術師ならば或いは二、三防げるだろうが、それまでだ。
ただ連射するだけでこの弓兵は、勝負を決めることが出来る。
たかだか魔術師では人類史に名を残し、精霊に等しい存在とその身を昇華した英雄には勝てる道理などないのだから。
ならばこそ……着弾半ばで撃墜された矢は一体どういうことなのか。
穿つ七閃。黒いナイフは飛んでくる矢に対して、鏡合わせのような軌道で一撃一撃を撃墜した。その威力。相殺するだけの力は紛れもなく、弓矢と同等レベルの一撃であった証明。つまるところは、敵手もまた。
「つまらん来客かと思えば、さて……君も随分と変り種のようだ」
「言うほど変わった背景がある訳ではないさ。そら、よくある話だろう。ピンチで覚醒するヒーローの話は」
翻る黒いコート、褐色の肌、そして
ともすれば弓兵と似姿の男は肩を竦めて言う。
「しかしつくづく未熟者め。戦場で気を抜くなど言後両断。ましてその背に守るべき誰かを背負っているとあれば尚のこと」
そういう男の両腕にはオルガマリーが抱かれている。
爆発の衝撃が影響しているのか、その意識は失われているものの、煤けた以外にその身は無傷、何故ならば、抱えた男が即座に安全圏まで離脱したが故に。
「本来ならば万死に値するが、アーキマンの言葉もある。それに今の
「ふん、正義の味方だと? この私をどう見たらその感想が口に出るのかね。参考までに聞いておこう」
「ああ、失礼。今の君は例外だった。燃え尽きた正義の味方だった何者か」
素っ気無い口調で言う男。
弓兵はその言葉を聞き、額に皺を寄せる。
考えるまでも無く不機嫌である。
そんな弓兵の態度を考慮する間もなく、次の瞬間に男は戦いの火蓋を切る一言を口ずさんでいた。
「半ばで倒れた正義の味方であった何者か、その無念と苦渋は図り知れまい。故に同情はしない、共感もしない。だが、代わりにその足跡に報いよう。安心してくれ、
「ッ! ─────ほざけ……ッ!」
触れてはならない一線に触れた。
それは弓兵が発露した激情を見れば一目瞭然である。
故に男───デミ・サーヴァント、アルターエゴは両手に黒塗りのナイフを構える。
両手指に挟み込んだ八本のナイフは獣の爪のように。
駆け出す足は荒野をかけるハイエナのように。
サーヴァント同士の戦いが幕を明けた。
……先方はやはりアーチャーだ。
未だアルターエゴとの間合いは数百メートル。
精々が数十メートルだろう投擲武具では超えられない距離の壁。
しかし、弓で矢を撃つアーチャーにとっては絶好の間合いだ。
否、遠距離を支配する弓兵だからこそ距離を詰められる前に倒す必要がある。
「狩り立てろ……!」
打ち放たれる五条の光。
先ほど見た赤い軌道を描いて獲物へ飛ぶ。
その矢の名を
音速の六倍に近い速度をたたき出しながらしかも敵手に着弾するまで永続的に追尾する弓矢。言うまでも無く脅威だ。
それこそ、人間ではどうあっても無駄足掻きほどの抵抗も出来ないぐらいに。
だが、対するは人間にあらず、サーヴァントだった。
「食い荒らせ……!」
瞬間、大地に映るアルターエゴの影が脈動する。
さながら蛇のように蠢いた影はあろうことか三次元に立体化する。
そのまま影は顎門が如く二股に分かれ、飛んでくる魔弾を影の中に取り込んだ。
魔弾が闇の彼方へと消えていく。
「虚数属性かッ……!」
怪現象にアーチャーが毒ずく。
流石は英雄、百戦錬磨の慧眼はその正体を見破っていた。
残り、二百。
「ならば……」
番える。それはさながら杭のように漆黒の矢。
狙いを定めて、アーチャーは打つ。
「対応が早いなッ、流石……!」
アルターエゴは迎撃ではなく回避を選択する。
矢の正体に何らかの不利を悟ったのだろうか。
だが、矢は一本ではない。
如何なる手法か、弓を構えるアーチャーの手に次々と全く同質の矢が補填されていく。二本、三本、四本、五本─────まるで補充に限りが無いように。
「チィ……!」
回避し続けるアルターエゴであったが、遂に舌打ちとともに迎撃へと躍り出る嵌めになる。アーチャーを眼前に、円を描くように駆けながら射線を切りつつ接近するアルターエゴだったが、それも限界。
敵手もまた卓越した弓の達人だ。
如何に的が巧みに動き回ろうが、経験とその視野は即座に補足を完了する。
「……ッ!」
「ハッ!!」
打たれた矢を、手に構えたナイフを投擲して撃ち落す。
激突……と同時にアルターエゴが回避を選択していた理由が浮かび上がった。
なんと、投擲したナイフに矢が着弾した瞬間、ナイフが
「やはり影縫い……その的確な判断と手数の多さに心底、感心と敬意を覚える」
そう、アーチャーが打つ矢の正体。それは影縫い。
名の通り影を縫い付ける効力を持つ魔弾である。
アルターエゴの主力武器は他ならぬ己の魔術特性虚数。
それは手に構えるナイフにすら転用されている。
何せ、このナイフ自体、虚数属性で形作ったものなのだから。
故に真の姿は変幻自在。ナイフと見せかけたこの一撃は敵に接敵すればあらゆる形に姿を変え、その間合いを侵食する。
だからこそ、虚数……言ってしまえば、『世界の影』とでも言うべきものであるが故に形作るこの魔術属性は捉え縫いとめられてしまうのだ。影を縫いとめるという効果を有するアーチャーの矢に。
早い有効打の選択。そもそも対応策を有すること、即座に有効なその手段を選択できるアーチャーの判断力に思わず、と言った風に感嘆の声を洩らす。
しかしアーチャーにだからと言って容赦は無い。
連射、連射、連射、連射、連射─────次々と打ち放つ。
残る間合いはおよそ百。
アルターエゴが攻撃補足を可能とするまで僅かだ。
故に、距離が詰まる必然として、弾着速度は上がる。
連射、連射、連射、連射、連射─────捉えた。
「ぐっ……しまった……!」
「───終わりだ」
アルターエゴの足が止まる。
影縫いの一撃は確かにアルターエゴの影を縫いとめてた。
その必然としてアルターエゴは行動を失う。
絶好の瞬間、アーチャーは戦いを決する言葉を紡ぐ。
「
己に対する
まして矢先に捉えられるアルターエゴは影縫いにより行動を封じられて無防備。回避は不可能、迎撃は不可能、防御は不可能。
よって───詰み。彼に反撃の一手は存在していない。
故に……次の一手が存在せず、この上なく勝負が決してしまった故に。
条件は此処に満たされた。
「まだだ」
諦めの悪いその一言。
だが、簡素に呟かれたその言葉にアーチャーは
───同時に悪寒は現実に顕れる。
「何ッ!?」
バキンッ、という音とともに影縫いの矢が
何もアルターエゴは変わったことをしたわけではない。
ただ概念現象として縫いとめられている状態から強引に動いて縫いとめていた要因から抜け出しただけ。
己に返ってくる負荷を度外視して強引に動き、矢を引きちぎった。事実を述べるならばただそれだけである。ただそれだけを、我が身一つでやってのける。
自由を得たアルターエゴはアーチャーの宝具の射程から逃れ出でる。よって、決戦の一撃は何も無い地帯に着弾。決戦となり得ず。
「チィ、ならば……!」
言い表せぬ謎の予感を覚えるアーチャー、それを振り払うようにアーチャーは立て続けに影縫いの矢を穿つ。
残り距離は五十。
この詰まった間合いでは最早、卓越した弓兵の矢を回避することは不可能。
迎撃する八つのナイフは、手数不足。
我が身に二本、影に三本、被弾を許す。
掛けられた概念は単純に先ほどの三倍。
影縫いの概念はより強固にアルターエゴの自由を束縛する。
己が自力では絶対に脱せぬその束縛。
故に─────
「まだだ」
───当然の結末として不条理が起こる。
バキンッと音を立てて引きちぎられる束縛。
こと此処にいたって、確信する。
理由は不明、原理は不明、されど、影縫いの一撃はもう効かない。
ならば……。
「お前の行為は
燃え盛る街を往く赤い猟犬。
追尾必中の魔弾を七つ。アーチャーは打つ。
「……!」
無言の気合で迎撃に躍り出るアルターエゴ。
完璧に着弾するタイミングに合わせてナイフを振るう。
刹那……矢が爆発する。
これぞ、
内包する神秘を解き放ち爆破させる宝具を打ち捨てることで可能とする一撃限りの自壊技。
本来、宝具を一つ、二つしか保有しないサーヴァントにとっては切り札を自ら捨てる行為だが、宝具の補填が効くアーチャーは例外的にこれを技として利用できる。
回避不能の範囲攻撃。
宝具という神秘の結晶が爆裂はサーヴァントであっても無事ではすまない。
だからこそ……。
「こちらも捉えたぞ」
宝具は宝具でこそ、破るのみ……。
アルターエゴの体が青白く輝く─────。
「ガッ………!!?」
─────瞬間、勝負は決まっていた。
如何に間合いを詰められようとも弓兵だからといって近接戦闘の心得が無いわけではない。アーチャーは最優クラスのセイバーや敏捷力の高いランサーであろうとも堅実に受けに回れば立ち会えるほどの技量を有している。
だからこそ、解せない。
“見えなかった、だと……!?”
戦慄はまさにそれだ。
高速? 音速? 神速? 否、否、否である。
まさしく発動した瞬間に終わっているとは最早理外の速度。
英霊の反応速度を越えて、文字通り勝負を一瞬で決めた。
それは宝具ほどの神秘ぐらいでしか成す事のできない奇跡のはずだ。
ならばこそ、アルターエゴは何らかの宝具を使用したのだろう。
では、真名解放は? その特性は? その効果は?
頭を過ぎる疑問符が多すぎる。
何も分からなかった。何も出来なかった。
英霊を一方的に封殺した不可視の手段。
不条理に驚愕と困惑をしたままアーチャーは倒れた。
アルターエゴはそれを見送ってポツリと、
「宝具───
静かなる
《ステータスが更新されました》
クラス:アルターエゴ
真名:■■■
性別:男
属性:秩序・善
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷C(EX)
魔力B 幸運E 宝具EX
【スキル】
逆転劇 A+++
自身の不利が確定した瞬間、その不利を打開する手段を最速で構築する。
A+++ともなれば、因果の呪いすら打開する事が可能。
また、出力時、ステータス値が大幅に変動する。