※この企画は、改造ポケモン(アルタイル・シリウス、ベガ、プロキオン・デネブ)を扱っており、関連要素が多分に含まれています。
※この企画は二次創作であり、原作や改造ポケモン製作陣とは一切関係ありません。
※企画について、原作や改造ポケモン制作陣に対して不利益を齎す意図はありません。何かありましたら即座に削除します。
※世界観設定や登場人物の一部を『Communio -In Paradisum-』から引っ張っていますが、関係性は「平行世界の同一人物」程度しかありません。
・書き手にアンチ・ヘイトの意図はありません。但し、取り扱っている作品の世界観上、特定のキャラクターに対する厳しい発言や表現があります(重要)
・書き手にアンチ・ヘイトの意図はありません。但し、取り扱っている作品の世界観上、特定のキャラクターに対する厳しい発言や表現があります(重要)
・書き手にアンチ・ヘイトの意図はありません。但し、取り扱っている作品の世界観上、特定のキャラクターに対する厳しい発言や表現があります(重要)
・意識不明の重体になった娘、娘を糾弾する連中、娘を祀り上げて勝手に神聖視する連中に囲まれた父親が感情をむき出しにするシーンがあります。ご注意ください。
・精神的にボロボロになった青年がネガティブに突っ走っていたり、無気力になっているシーンがあります。ご注意ください。
β.深淵を覗く
その日は、星が綺麗な夜だった。
これから起きる出来事など想像できないくらいに。
「今回の作戦が失敗すれば、ホウエン地方はおろか、この世界……人類やポケモンたちの未来は無い」
青年の告げた言葉に、少女は表情をこわばらせた。事態の深刻さを受け止めているからこその表情だったのだろう。
「――行ってくれるね? ハルカちゃん」
今、自分はどんな表情をしているだろうか。冷静な大人として振る舞えているだろうか――そんなことを考えて、青年はひっそり自嘲する。
今の己は、立派な大人からは程遠い。何処からどう見ても、今の自分は“ずるい大人”だ。自分は安全圏で高みの見物と洒落こみながら、齢16の少女――アユミ ハルカへ世界の命運を押し付けている。……しかもその子は、自分にとって一番大切な人なのに。
彼女のことは、自分が一番知っている。周囲からは英雄だの伝説のトレーナーだのと囃し立てられているけれど、本当はどこにでもいる優しい女の子なのだ。伝説のポケモンを捕まえたり、チャンピオンとして殿堂入りしたり、廃人御用達の施設で勝利を重ねていようとも。
危機的状況下では、指揮官として完璧に振る舞わねばならない。実際、青年はそう振る舞おうと心を砕いていた。
だけど、悔しい。大切な人を送り出すことしかできない自分の無力さが、憎くてたまらなかった。
只の人間としての自分が悲鳴を上げている。ハルカを引き留めるための言葉を探している。そのための言葉は沢山あった。
「任せてください!」
それらの言葉を、ハルカに向けることはできなかった。
そんな資格、自分には存在しなかったのだ。
指揮官たる青年の言葉を真正面から受け止め、押し付けられた運命に殉じることを決意した英雄。鋼よりも固く揺らがぬ意志を抱く瞳は、既に只の少女を殺し終えた後だった。
ハルカにそんな選択をさせたのは、他ならぬ自分なのだ――そう思った瞬間、指揮官としての自分が崩壊した。視界が歪み、喉の奥底から鳴り損なった笛みたいな息が漏れる。それでも踏み止まったのは、「彼女の前では頼れる大人でありたい」というなけなしの矜持だった。
何も言えない。言ってはいけない。「行かないでくれ」なんて、何もできない自分に言う資格は無いのだ。この少女に全部背負わせて、高みの見物をする以外に能のない無力な大人に――背負わせた張本人である自分に、愛する人を死地へ送り出す身内のように振る舞うなんて、許されるはずがない。
「ごめん」
――それでも。
「ごめんよ、ハルカちゃん」
許されたかった。許してほしかった。他の誰かに何を言われようとも構わないけれど、ハルカにだけは許してほしかった。
自分の浅ましさを目の当たりにしても、ハルカはそれを拒絶しない。
頬に触れた指先に気づいて視線を向ければ、そこには慈母がいた。
「謝らないで下さい。貴方が悪いわけじゃない」
柔らかに微笑んだ少女の瞳は、青年が愛した眼差しだ。
「世界を救って、帰ってきます。――貴方の元へ、必ず」
初めて出会ったときのように、橋の上で彼女の戦いぶりを見たときのように、宇宙センターで共に戦ったときのように、目覚めの祠へ向かわんとする彼女と話したときのように――流星の滝で、彼女と対峙したときのように。
宝玉のように瞬く光を、どんな状況かでもそれを失わなかった少女の在り方を、青年は愛している。慈しんで、大切にしたいと願っている。それを曇らせ、陰らせるありとあらゆるものから守ってやれたらと望んでいる。彼女が幸せであってほしいと、祈っている。
許されたのだと思ったら、もう我慢できなかった。腕の中に、少女を閉じ込める。言葉に出来ない代わりに、彼女を強く掻き抱いた。ハルカも何も言わず、青年の背中に腕を回す。――お互いがお互いに対して、祈りを捧げていた。
***
――結論から言って、作戦は失敗した。
隕石を完全に破壊できず、破壊できなかったソレはホウエン地方へと降り注ぎ直撃したのだ。
ホウエン全土は壊滅的な被害を受け、隕石を破壊に向かった少女は意識不明の重体を負った。
『彼女が失敗したから、ホウエン地方は壊滅的な被害を被ったんだ』
『彼女はホウエンを滅ぼした戦犯だ』
――戦犯を糾弾する人の声が響く。
『彼女が命を懸けて作戦の実行役にならなければ、世界は滅んでいたかもしれない』
『彼女が作戦を遂行したからこそ、この程度の被害で済んだんだ』
『彼女は世界を救った英雄だ。ご両親も鼻が高いだろう』
――英雄を讃え、祀り上げる人の声が響く。
憎悪も賞賛も、善意も悪意も、すべて1人の少女へ向けられた。肝心要の少女は、未だに意識が戻らない。
戦犯を糾弾/英雄を称える声はホウエン中から聞こえたけれど、女の子を案じる声はごく僅かで。
「お前なんかに、ハルカを任せるんじゃなかった!」
少女の父親がこちらを睨みつける。彼の妻や友人に抑えられていなかったら、青年は殴り飛ばされていたかもしれない。
「ほんの少しでも、お前を認めるんじゃなかった! 何してでも、付き合いを辞めさせるべきだった!」
「やめろセンリ! 彼は――」
「どうしてウチの
だけれど、この人はハルカの味方だった。この世界で数少ない、彼女の味方だった。
只の女の子であるハルカをよく知っていたし、父親として当然のことを語っているだけだった。
彼が語っていることは正論であったし、揺らぐことのない事実だった。
「お前のせいだ」
憎悪に塗れた瞳が青年を射抜く。
彼の言葉は、青年の中にすとんと落ちてきた。
(――ああ、そうだ)
只の女の子がそんな風に扱われるようになった世論を作ったのは。
頑張った女の子の努力が報われない世界にしてしまったのは。
結果に見合わない業と傷を負わせ、意識不明で眠り続ける末路を背負わせてしまったのは、他ならぬ――
「ハルカじゃなくて、お前が行けばよかったんだ! ――お前が死ねばよかったんだ!!」
彼――アユミ センリの言葉は、青年にとっての真理だった。
***
「この街を死に場所に選ぶなんて美しくない真似を、私が許すと思ったのかい?」
馴染みのある声に振り返れば、ホウエン地方の現役チャンピオン――ミクリが呆れた様子で立っていた。非常に迷惑そうな顔をしているけれど、彼は彼なりに、こちらのことを案じているのだ。長い付き合い故、それくらいは分かる。
昔の自分だったら、彼の言葉に言い返すくらいの元気があったのかもしれない。足を止めて、ミクリが佇む方向へ踵を返す余裕だってあっただろう。しかしながら、今の青年にとって、ミクリの気遣いなど何の価値も見いだせなかった。
ただでさえ重い身体と心に、更なる疲労が蓄積された程度にしか思えなかったのだ。
「……僕のことなんか、放っておいてくれ」
青年はふらつく身体に鞭を打ちながら、死に場所へ向かって踏み出す。
だが、その一歩目は、何かに引っ張られるような感覚によって妨げられた。
のろのろと首を動かせば、眉間の皺を数割増しにした友人が、青年の腕を掴んでいる。
「放っておいてくれと言っているだろう」
「放っておけるはずがない。……洒落にならないだろうが。目覚めの祠で永眠者が出るなんて」
ミクリは深々とため息をつく。
「復興も、大衆の認識を変えるのも、中途半端なままじゃないか」
「どうでもいい」
「良くない。ハルカちゃんが意識を取り戻したとき、今の世界とお前を見たら何を思う?」
ミクリの言葉に、青年は一瞬動きが止まった。
脳裏によぎったのは、病室で昏々と眠り続けるハルカの姿。機械に繋がれた沢山の管が、少女の身体にも通っている。微かな呼吸と、心臓の鼓動を示す電子音が耳を打った。『いつ目覚めるかは分らない。明日か、明後日か、1か月後か、1年後か……それとも死ぬまでこのままなのかも』――医師の言葉を聞いて、崩れ落ちるアユミ家の人々。
確かに、生物上、アユミ ハルカは生きている。だけど、意識が無いまま眠り続けるなんて、生きていると言えるのだろうか? 心臓が動いていて呼吸をしているだけでしかないのに? ――くるくる表情を変えるハルカを知っているが故に、そんな彼女を愛していたが故に、青年は認めることなどできなかった。
周りの連中は身勝手だ。世界を救うために戦った少女を、勝手に祀り上げる奴らがいる。勝手に非難する奴らがいる。自分たちが同じ立場に立たされたなら、真っ先に逃げるくせに。
青年だって同罪だ。ハルカが命懸けで宇宙へ向かったとき、自分は安全圏で事態を静観していた。彼女の代わりに死地へ向かう勇気もなかったし、世界を救う力もなかった。
ずっと見てきた。人の業も、己の業も、その悍ましさを。心がすり減っていくのは当然だ。でも、それを吐露できる相手はもう……青年には存在しない。
「疲れたんだ」
「ダイゴ」
「僕はもう、疲れたんだよ」
青年――ダイゴは首を振り、振り切るようにして一歩踏み出した。
ミクリは諦めていないようで、尚も腕を掴んで引っ張る。
「話なら幾らでも聞いてやる。だから早く、祠から出るぞ」
「…………」
「ここ最近、目覚めの祠内部に新たな空間が発見されてな。同じ頃から、原因不明の地震が多発してる。こんな危険地帯に長居するわけには――」
――祠内部が激しく揺れたのは、ミクリがそう言ったのと同じタイミングだった。
天井や床に亀裂が走る。ああ崩落するな、と、ダイゴはぼんやり考えた。放心状態故の静観を選んだダイゴと対照的に、ミクリは生きるために足掻くように行動する。ポケモンたちを繰り出し、安全を確保しようとする友人の雄姿を眺めていた。
果たしてダイゴの予想通り、祠の大部分が崩落する。だが、死ぬことは無い。手持ちポケモンたちを捌き、危機を脱したミクリのおかげである。勿論、ダイゴは彼に感謝なんかしなかった。自分でもびっくりするくらい、もう何も関心が持てなかったのだ。
視界の中に飛び込んできたのは、黒。
人の憎悪や悪意をに固めたような黒。
常闇を連想させるような、黒。
「おい、どうした――」
一歩遅れて、ミクリが同じ方向を向く。
彼の言葉は、闇の向うで蠢く黒に飲み込まれた。
――その日。
ダイゴとミクリは、
眩く輝く
『
アルタイル・シリウス本編では闇堕ちの経緯が一切語られていなかったのと、書き手がダイハル好きだったことからこういう筋書きとなりました。
AS本編におけるネメアの出現場所が目覚めの祠だったので、SS内部でも「ダイゴとミクリがネメアと遭遇したのは目覚めの祠」という解釈となっています。
……ただ、図鑑の説明を見る限り、ネメアの生息地は「どこかの滝の洞窟」になってるんですよね。ううむ。