この話だけでも近々完結できるよう頑張ります。
時は戦国。平野に相対する二人の武将が今まさに戦を始めんとしていた。
馬にまたがり、刀を振り、槍を振るい、鉄砲を放つ兵士達に合図を出した。
一気に兵士たちは武将と共に走り出し、敵軍へと迫っていく。
それと同時に、彼らの背後にそびえる大きな山から怪物の唸り声が響きだす。
兵士達と武将に対し、深い心配をしながら待っていた女子供たちは、遠くから響き渡るその唸り声に恐れをなしていた。
「やはり…戦が始まるとき、“彼ら”がやって来るのですか……!」
「“鬼”が、戦の中に再び……!」
兵士たちが敵を見つめ走り出したとき、目の前にさざ波のような不思議な音を発しながら、青い箱が現れた。
「さぁ華! 一度ぐらいは江戸時代の暮らしを楽しんでみたいとは思わないか?」
ドクターが操作盤をいじりながら華に言う。
「じゃあ今度は江戸時代?」
「徳川家康が築いた最大の幕府だ! テレビで見るような時代劇の舞台!」
ターディスはいつもの音をふかしながら、中心の円筒が動き出す。しばらく時間が経った後、音と揺れが停止。
江戸時代に着いたのだ。
「わぁ……」華は江戸時代に着いたことに感激した。ドアのもとへと走っていく。
「そうだ、着替えないとさすがに不思議に思われるから…」ドクターがそう注意する前に華は外へ出てしまっていた。
「全く、よくはしゃげるな…」
ドクターがつぶやきながら共に外へ出ていく。
「ねぇドクター?」華が周りを見渡す。
「どうした?」
「ここって本当に江戸時代…だよね?」
辺りは草に囲まれた平野。どっからどう見ても江戸の町ではないことは確かだ。
「恐らく……着地する場所の座標を間違えたんだろう。少し進めば町は……」
そう言い終わる瞬間、一発の弾丸がターディスに打ちこまれた。その音を聞いて華は頭を抱え伏せた。
「これは…銃の弾か。ずいぶん古いタイプだな。江戸には…」
ドクターが撃たれた方向を向くと、そこには赤い旗を掲げた兵士たちが。
「すまない華、場所じゃなくて…時間を間違えたみたいだ」
「じゃあここはどこ!?」華が叫んだ。
「向こう側からも軍が来るな。ここは……戦国時代だ」
すると再び弾丸が撃ち込まれた。ドクターも伏せ、華の腕を掴みターディスの中へと入ろうとする。
しかしターディスには弾丸の雨が降り注ぎ、とても近づけなかった。
「走るぞ!」
二つの軍が迫って来るのとは別の方向へと逃げていく。しかし二人は狙われているのか、弾丸のほかに矢も飛んできた。
「いつものドライバーでなんとかできない!?」
「こっからじゃ無理だ!」
その瞬間、平野に大きな唸り声が響き渡った。それと同時に兵士たちの攻撃も止まる。
「熊か……いやこんな大きな声は出せないな…」二人は草に隠れる。
「あれは何!?」
と言いながら頭を抱える華。
ドクターが草の中から顔を上げると、兵士たちは何かを見つめていた。
「家康様!あれは…?」徳川家康。二つの陣営の片方を担う。馬にまたがる彼に一人の兵士が質問をした。
「あれは……鬼だ……」
彼らの目の前には、人の何倍もある巨体、赤い肌に黄色と黒の角の鬼がそびえ立ち、叫んでいた。
「ねぇドクター、いつものソニックドライバーでここ開けられない?」
「無理だ。木には効かないって前に言わなかったか?」
「じゃあそれを木にも効くように改造してよ!」
「面倒なんだ」
「まったく……なんとか抜けられないかな、ぬーん!」
華は木でできた格子から体を抜けさせようと頭を押し込んでいる。
鬼が現れたとき、気を取られていたドクターと華は近くまで迫っていた家康軍の兵に頭を殴られて失神していた。
そして目が覚めたとき、どこかの地下牢に閉じ込められていたのだ。
「華の体じゃ通り抜けられない。少しは落ち着いたらどうだ?」
「あんたと違って私は普通の人間なの!むしろなんでこんな状況で落ち着いていられるの?」
「別に今から処刑されるわけじゃないだろう。殺すつもりだったらとっくに殺してるはずだ」
「確かにそうかも……」
「だとしたらどうして僕たちを生かして捕えているか、だ」
ドクターの言う通り、どうして生かしておいたのだろう。突然青い箱から現れた人間など、不気味だと言って殺すのも変な話ではない。それも皆が血気盛んな戦国時代ならなおさらだ。
「そういえば、戦の中で赤い鬼が出てきたな、あれと何か関係があるかも」
「妙に落ち着いてるけど、鬼がいるってどういうこと!?鬼は架空の生き物じゃ……」
「こういう状況に慣れてるだけさ。鬼は確かに君たちにとっては妖怪という迷信のひとつだ。だが長い歴史の中で鬼は実在するのに実はいなかったという風に歴史が曲解されたのかも」
ドクターは落ち着いた口調で言う。華にとっては昔から鬼は存在しないものと思っていたので、どこか不思議な気持ちだ。これまで色々な冒険をしてきたが、鬼が存在しないという根底が覆されるというのは初めてだ。
「でもでも、鬼たちがエイリアンって可能性もあるんじゃない?地球を侵略しに来た!」
「どうだろうな。ここから出て鬼の元にいかないとわからない。僕もエイリアンだと思ってる」
「やっぱり?」
「鬼が実在するなんて不思議じゃないか。僕としても非常に興味がある」
そんな話をしていると、突然牢屋の前に槍を持った兵士が現れた。
「お前たち、家康様がお呼びだ。ついてこい」
兵士は華たちの牢屋の扉を開いた。ようやく出られるのだ。
「ようやく来たか。華、家康は武将でお偉いさんだ。失礼がないように」
「わ、わかってるよそんな事!」
ドクターたちは兵士に連れられ、暗い地下牢から地上へと登っていく。
「すごい……映画の中でしか見たことなかったけど……」
華たちは屋敷の中の廊下歩かされていた。屋敷の中はとても綺麗で、数人の使用人が床をふいている。綺麗に手入れされた庭も見える。まさに和の世界といった感じだ。
「この時代は争いをしていることを除けば素晴らしい時代だ。日本ながらの建築様式が素晴らしい」
ドクターが褒めながら歩いていく。しばらく歩くと、兵士たちは立ち止まった。障子を開け、華とドクターを連れ込む。そこには少し崩した着物を着た男性が座っていた。ただものではないオーラ。まさかこの人が…
「これはこれは!あなたが徳川家康で?」
「貴様!失礼だぞ」
ドクターが兵士に注意をされた。
「すまない、日本の偉人に会うのは久々で」
「不思議な装いをしている。このあたりの出身ではないな?」
家康が聞いた。
「えっ、あっ、はい!そうです!」
華がしどろもどろに答えた。
「となるとやはりお前たちは……鬼の一族か?」
「えっ?」
「はい!その通りです!僕たちは鬼の一族で」
それを聞いた途端にドクターは素早く返事をした。華は驚いた。
「ちょ、ちょっと何言ってんの!?」
「鬼に近づける口実になるかもしれないからな」
ドクターがボソボソと華にしか聞こえないように話す。
「ならば話は早い。鬼の血を引くお前たちに頼みがある」
家康は立ち上がり、屋敷の外にあるひとつの山に目を向けた。
「あの山に住むという鬼たちを説得しに行ってほしい」
「説得?」
ドクターも山に目を向けた。家康はうつむいて話し出す。
「鬼たちはいつも戦になると山を下りてくる。そして兵士をさらい山へと帰っていくのだ。兵士たちを取り戻そうとしても鬼に百の兵を動員しても返り討ちにあってしまう」
「鬼の一族である僕たちなら鬼と対等に話ができると?」
「その通りだ。鬼の邪魔のせいで徳川軍は他の軍に押されている。このままでは私の首がとられるのも時間の問題なのだ」
「だけど……ドクター?」
歴史上のこと、過去に介入してしまうのはいけないことだと華は感じた。
よく見るアニメやゲームでは過去を変えてしまうせいで未来に影響が起こる。時間旅行においてそのことは一番に留意しなくてはならないと華は思っていた。
「もし無理だと言うのなら、あの青い箱は返さない」
家康の横で座っていた整った身なりの青年が言った。
「僕たちが拒否するって? とんでもない。喜んで僕たちは山の鬼を説得しに行くよ。あなたのような偉大な方の首が飛んでしまう危機というなら、仲間たちを叱りにいかないと」
「えっ!?いいの!?」
華は目を丸くして驚いた。
「素晴らしい返事だ。それでは準備の後に行ってもらいたい。護衛に兵士を十人つけよう」
ドクターと家康は目を見つめあい握手をした。