コンスタントに書いてる人ってすごい
華はアイツと付き合い始めてから変だ。約束をすっぽかすし、さらにその理由まで嘘をついていたなんて。別に嘘をつくことは珍しいことじゃない。でもついたとしてもそれはどうでもいい嘘か冗談ぐらいだ。それにああいう風に約束を破るならちゃんと正直に話してくれるはずだ。俺は華とは幼馴染だからいつもと違うというのがよく分かる。
しかし一番気になるのは隅田仁という転校生だ。華の彼氏。あんな変人のどこが良いんだか。だがアイツが変人かどうかよりも一番の問題がある。それは……
「どうしたんだ光輝。箸止まってるぞ?」
「えっ?」
兄貴に指摘されてようやく気付いた。そういえば今は夕食の最中だった。箸で掴んでいる餃子は醤油を吸って黒くなってしまっている。
「何か考え事でもしてたのか?」
「いや? 別にそういうわけじゃないんだけど」
「じゃあ餃子が不味かったとかか? うーん、今日はニラをちょっとばかし入れ過ぎたかな」
「そんな、美味しくない訳じゃないよ! ほら、今回も変わらず美味しい! いや~、この味は狙おうと思っては出せないね。料理人になったら?」
「見え透いたようなお世辞は結構。でもまぁ料理人ってのも悪くないかもな。そういう道に進むのも……」
兄貴も俺と同じだ。すぐに自分の世界に入って考え込むところがある。こうなればゆっくりと考え事に集中できる。
一番の問題はあの仁が入っていた青い妙な箱だ。そもそも倉庫にあんな場違いなデカい物があるのもおかしいのに、何よりもその中がとても広かった。まるで宇宙船のリビングのようだった。一瞬夢だとも錯覚したけど、寝た記憶なんて無いし感覚で分かる。あれは間違いなく現実だ。
あんな妙なモノの中で妙なことをしてるようなヤツ、華に何かしたに違いない。明日学校でとっちめてやろう。
「ごちそうさま」
「なんだちゃんと食べれるじゃないか。あんま飯食ってる時に考え事するなよ。飯は飯だからな」
「兄貴が言えたことかよ……」
「こうか、こうか……」
光輝が家で考え事をしている頃、華は家でバトンの受け渡しの練習をしていた。
「ちょっと純一ー! 悪いけど少し手伝ってくれない?」
「何だよ、手伝うって何?」
「今度の運動会でリレーやることになったの。そのバトンの受け渡しの練習!」
「んなの練習するようなことじゃないだろ」
「こういう小さい事でも練習することが勝利に繋がるの! それに、良い走りっぷりなんて言われたら、さ……」
どこか華は顔を赤くしてバトンを見つめている。
「姉ちゃん、どうした?」
すると突然、インターホンの鳴る音が聞こえた。しかも一回ではなく五回ほどせっかちに鳴らされた。
「何だろ、宅配?」
「何か頼んでたっけ?」
インターホンを鳴らした本人を見るため、部屋を出て玄関へと向かう。しかし既に母が出ようとしていた。
「はいはい、今出ますからー」
母が扉を開けると、そこにはいつものようにソニックドライバーを鳴らしているドクターが居た。
「あら、あなたは……?」
「どうも、華の友人のドク……隅田仁です。華は居ますか?」
「あっ、あんたどうしたの?」
華はすぐ母と代わってドクターの相手をした。
「やぁ。突然で申し訳ないけど今日の夕飯の献立は?」
「今日? 今日はから揚げとコロッケだけど」
「そりゃいいね。突然だけど僕も夕飯にお邪魔していいか?」
「どうして?」
「僕っていつも頭を回転させて色々考えてるだろ? だから人間より早くお腹が空くんだ。だからいつもターディスの中のキッチンで簡単にご飯を作ったりしてるんだけど、最近外食が多かったせいで保存してた食材の賞味期限が切れてるのについさっき気づいたんだ。ほらこれ見て」
そう言うとドクターは懐から何やらカラフルなボトルを取り出して見せてきた。
「何これ?」
「エキゾチックフードって言うんだ。賞味期限は7646年の7月42日なんだけど既に10年も過ぎてる! そのせいで茶色だったのに虹色になってる!」
「7月42日?」
「未来では一か月が増えてるんだよ」
「大体今は2019年だから賞味期限切れて無くない?」
「確かに今は2019年だけどターディスの中は日付の概念が曖昧だし、いつも色んな時代にいるからそんなことは些細な問題だ。ともかくこれを買ってから100年既に経ってるんだ。いつも食材の賞味期限とかを目安に自分の年齢を確認してるんだけど、久々に確認してみたらこうさ。で僕が言いたいのは……」
そう言うとドクターは一呼吸置いてから一言。
「食べ物が無いから一回だけ恵んでくれ」
「わざわざ変な説明せずにそう言えばいいのに」
「感謝するよ。ああそうだ、礼にこのエキゾチックフードあげるよ」
「気持ちは嬉しいけど人間は腐った食べ物は食べれないの」
「食べろなんて言ってないじゃないか。これは腐ると良いニオイがするんだ。それに暗いところで光るようになるから間接照明として使える」
「本当?」
「ああ本当だ」
ドクターに頼まれ、華は三崎家の食卓に彼を招待することとなってしまった。
ドクターは変人なので食事が出るまでの間、何かしらしでかさないかと不安に思っていたが特段心配になるようなことは何も起こさなかったし、弟とも打ち解けていて思ったより悪くはなかった。父が帰って来た後に少しだけ紹介して早速夕食を食べることになった。
「ところでカスタードは無いかな? 揚げ物にはカスタードがよく合うんだけど」
「ごめんね仁くん、うちにはないの」
「そうなんだ、そりゃ不思議」
「いや、カスタードを常備してる家なんてある?」
「イギリスの家庭にはあったよ、カスタードクリーム」
「ここ日本」
「僕も食べてみたいな、仁ちゃんが言うようなカスタードコロッケ」
純一は何やらおかしな呼び方で彼のことを呼んでいる。
「仁ちゃん?」
「純一に僕のことをドクターと呼ぶように言ったんだけどその呼び方が気に入ってるみたいで。まぁドクターって名前も同じようなもんだし特に気にしないけど」
ドクターはそう言いながらもどこか不満そうだ。そんな様子を見てクスッと笑う。
父はそんな私たちのことを不思議に思う訳ででもなく、いつもと同じように無言で食事を口に運んでいる。そう思っていると
「ところで、隅田くん家は?」
父が珍しく食事の場で口を開いた。驚きだ。ドクターには何か人の心を開かせるものがあるのだろうか、親戚の集まりでもあまり口を開かないのに。
「ああ、父と母が今海外に行ってて。それで普段は一人暮らしなんですけど寂しくて」
「中学生で一人暮らし? 色々危なくないか?」
「去年まで海外に居たんですけどその頃からですから。むしろ日本は治安が良いから一人暮らししてても怖くないですよ」
普段の彼からは想像できないほど丁寧な言葉遣いだ。見た目の年齢が上だろうと基本失礼そうな口を聞くのに。
「俺も中学になったら一人暮らししようかな~」
「仁くんがちょっと特殊なだけよ。純一はダメ」
純一の軽い冗談でも母はたしなめる。純一は何かと危なっかしいから注意するのもおかしくはない。それに自分の息子だしまだ出て行ってはほしくないんだろう。
「それともう一つ……」
父は食べる手を止め、箸を置いて彼に聞く。
「華とはどういう関係なんだ? いきなり相手の家で食事に誘うなんて普通じゃない」
「そうそう! 一体どういう関係なの? 気になるわ~」
「ちょ、ちょっとパパママ……」
まさかの問い詰めに少し焦る。私とドクターは二人が想像しているような親密な間柄ではないが、こう聞かれるとなんだか妙に嫌な気持ちだ。
「ただの友達ですよ。僕って変人だからあんまり一緒に遊ぶ友達居なくて。引っ越してからは彼女ぐらいしか」
「本当か?」
「本当です」
父はドクターから私のほうへ顔を向ける。
「華、本当か?」
「ほ、本当本当!」
それを聞くと、父は顔色を一切変えずに箸を持った。
「なら大丈夫だな」
そう言うと、父はから揚げを口に運んだ。
「なんかすまないな、せっかくの家族団欒だったのに」
「いいのいいの。別にパパもママも怒ってたりしないし、むしろパパのああいう姿見れてちょっと嬉しかったかも」
ドクターはそれを聞いて胸をなでおろした後、ポケットからあの機械を取り出した。
「実は君に少しだけ報告したいことがあってね。あの場じゃ話せなかったんだけど例の学校から出てるっていう信号と鏡のこと」
「何かあったの?」
「この鏡から信号が出されてたんだけどそれだけだったんだ。きっとどこかからの信号を中継してるだけなんだ。だから本体を学校で今日一日探してたんだけど見つからなくて」
「思ってたんだけど、その信号って何か悪いモノなの? ただの信号なだけなら問題ないんじゃない? それか信号と勘違いしてるとか」
「悪いモノじゃなければいいんだがそもそも鏡から信号が出るなんて当たり前なことじゃない。それに出されている信号はこの時代のこの星のモノじゃない特殊な信号なんだ。良いモノでも悪いモノでも調べてはっきりさせておかないと」
「それもそっか……」
「ところで何か最近身の回りでおかしなことは無かったか? さっき食事の時様子がおかしかった。僕がいるいない関係なさそうな時に」
「おかしな、こと……?」
無い事は無い。突然目の前で現れて目の前で消えたソータという男の子の事。しかし彼の事はドクターの思う“おかしなこと”の範疇には入らないような気がした。それに鏡の信号と関係があることだろうか?
「特に無いよ。しいて言うならあなたがウチでご飯食べたことぐらい」
「そうか。なら他は聞くことは無いな」
そう言うとドクターは機械をポケットに戻して歩き始めた。
「ねぇ、私は何かすることある?」
「今回の件は僕一人でもなんとかできるよ。それより君はすることがあるだろ? 運動会の練習。僕のことは気にしなくて大丈夫だ」
そう言うとドクターは手を振って目の前から立ち去って行った。
運動会の練習……。ソータが教えてくれたようなやり方なら、きっとみんなの足を引っ張ることなく走ることができるかもしれない。
「元の生活で生きていかないと、おかしくなっちゃうよね」
ターディスの事は運動会が終わるまで考えないことにする。今はソータが教えてくれたように練習しよう。
キンコンカンコンと、最後のホームルームが終わるチャイムが鳴る。運動会が近いため、今日から部活は無しとなる。うちの部活の練習試合は別で週末にあるが。こうなると放課後はどのクラスも運動会の練習ばかりするようになる。しかし俺は違う。今日こそはあの隅田仁という転校生の事を問い詰めるのだ。
ホームルームの直後、俺はすぐにクラスを出て隣のクラスに居るであろう仁を追う。その途中で練習に誘われたが他に用事があると言って断った。クラスのみんなに挨拶をした後、彼は練習にも行かずそのままどこかへと歩いて行った。手に持っている変な棒を光らせながら。
しかしこうして隠れて追っているとまるでストーカーみたいだ。しかし別に相手は華でもなければ女性でもないし、別に誰も気には留めないだろう。男が男を追って何が悪い。
そのまま仁は周りに誰も居ないことを確認しながら、物置部屋の中へと入って行く。もちろん周りには俺がいる。
物置部屋の中にはあの青い箱があった。これが部活に使うためのもの? 一体何の部活なんだ? どちらにせよ既に部活は今の時期は無い。だというのにわざわざ使うなんておかしい。やっぱり何かあるはずだ。
そう考えていると中から足音が聞こえてきた。マズいと思って俺は隠れた。
「やっぱりこの鏡は信号を出しているだけだ。けど何度調べてもただの鏡だ。ソニックでちまちま調べるよりはこの鏡を持って学校中を捜索したほうが良さげかな……」
彼は何やら奇妙な鏡を手に変な棒を光らせている。やっぱりコイツはおかしい。問い詰めるなら今しかない。
「おい仁!」
「うわっびっくりした! 君は昨日の……。なんでこんなところにいるんだ?」
「アンタと話したいことがあって来たんだ」
「どうしてわざわざこんなところまで? 廊下でも良かった」
「その……あまり周りには聞かれたくないことなんだ」
「そう。僕と話したいなんて嬉しい限りだな。けど申し訳ないが僕はちょっと忙しいんだ。部活動でね」
「今は運動会の前で部活はどれも停止してる。運動部も文化部もだ」
「先生から許可をちゃんと取ってる。だから問題ない」
そう言って仁はすり抜けて消えようとするがそんなことはさせない。
「こんな青い箱……というか電話ボックスみたいなヤツを学校に入れる許可? 取れるわけないだろ。それにその変な鏡!」
「随分と勘が良いんだな。でも今この件について言われても正直困るんだ。明日にしてくれないか?」
「いや、そんなことよりもっと大事なことがある」
「大事なことって?」
「華に何をしたんだ?」
俺がそう言った途端、仁は鏡を置いてこちらを見つめた。
「僕が彼女に何かしたって?」
「ああ。華があんたと付き合う前はあんなんじゃなかった。約束なんて破らないし、何かあるならすぐに正直に言ってくれてた。間違いなくアンタのせいだろ!? こんな変な箱に鏡に棒を持って、華に催眠術でもかけたのか?」
「あー、確かに僕は彼女に色々なことをしたというか見せたことは事実だけど……」
「見せた!? 色々なことをしたって……何を!?」
「まぁいろいろ刺激的なことさ。あんなことを体験すればそりゃあ彼女だって色々変わるだろう。まぁ僕に責任があるし一応謝っておくよ」
「刺激的なこと…? あんなこと…!?」
恋をした女性は色々変わるとよく言う。ということは……
「おまっ……許さないぞお前!?」
「だから謝ったじゃないか! そんなに怒らなくても……いや分かったぞ、君は華のことが好きなんだな?」
「な、何言ってんだ! す、好きとかじゃなくて俺の華にあんなことやこんなことしたって言うから……」
俺が華のことを好き!? いや俺はあくまでアイツの幼馴染なだけで別に嫉妬していたりするわけではなく、ただこんな変な奴と付き合ってるというのがどうしても気に入らないだけで別に好きだなんて……
そんなことを考えている光輝の後ろで、鏡がそっと揺れた。
それと同時に、突然仁の持つ光る棒が何やら変な音を出し始めた。まるで警告音のような。
「うわっ! 今度はいきなりなんだ!? 何が起こったんだ!?」
そう言いながら仁は光る棒をたたき出す。しかし何も変わらない。
「おいおい本当か!? 急に信号が強くなったぞ!? 何が起きてる!?」
「そんな変なことして話をずらそうとしたって……」
そう言い終わる前に、俺は突然何かに足を掴まれて地面に倒れ込んだ。その際に頭をぶつけてしまい、血が出てしまった。
「何だよ……って!?」
それは鏡の中からだった。そこから伸びる手が俺の足を掴んでいる。そしてそのまま鏡へ引きずり込もうとしている。
「何が起きてる!? これはただの鏡のはず……、いや違う、普段はただの鏡に化けてるんだ! 動き出す時だけ鏡ではなく別世界への入り口になるんだ!」
「訳の分からないこと言ってないで助けてくれよ! うわーっ!」
そのまま俺は下半身が鏡の中に埋まってしまった。このままじゃ全て入ってしまう。
「大丈夫だ、ソニックで鏡を閉じればいい! そうすれば……」
「いいから早く……むごっ!」
引きずり込む力はとても強く、俺は成すすべもなく体のほとんどが鏡の中へと入ってしまう。
「いいやそんなことしてる時間は無いな! 掴まれ!」
そう言って仁は俺の手を掴む。だが彼が引っ張る力よりも、引きずり込まれる力の方が強い。
「マズい、このままじゃ……あっ」
仁はそのまま体勢が崩れてしまい、俺の手を掴みながら一緒に鏡の中へ引きずり込まれてしまった。
物置部屋の中に残っているのは、青い箱と金の鏡だけ。
DWは久々に見ると面白いですね。S8が結構好きです