HIDDEN SHADOWはSPORTS DAYに繋がる二話完結型のストーリー。
どのような結末を迎えるかお楽しみください。
奇妙な鏡の中から伸びた手が、突然俺の足を掴んで鏡の中に引きずり込んだ。
俺を助けようとして隅田仁……彼は“ドクター”と呼んでほしいと言っていたのでドクターと呼ぶが、彼もまた俺と一緒に鏡の中へと入ってしまった。
華の件、そして彼が持つ青い箱について色々問い詰めようと思ったのにこんなことに巻き込まれるなんて……
引きずり込まれた先は鏡の中。しかしそこは鏡の中であるはずなのに、鏡映し、つまり反転したものが何一つなかった。まるで学校のそのままコピーしたかのように。
俺とドクターがこのトラブルの件はどちらのせいか言い争っている最中、奇妙な顔の無い少女が俺たちを追って来た。オバケなんて初めて見た。しかしドクターはそれを「エイリアン」だと言う。追われる中、美術室に入った俺は体操着姿の少年少女たちの描かれた不思議な絵を目にする。ドクター曰く、それらはデータ化されたもので過去に同じようにここに引きずり込まれた者たちらしい。
俺たちはこの事件の真犯人を見つけるため、そしてこの世界から脱出するために体育倉庫に向かった。そこで俺たちが目にしたのは木製の壁に付けられた奇妙なひびと、頭の中に語り掛けてくる声だった。
ドクター曰くその声の正体は。学校の都市伝説の一つである、家庭科準備室のソータはソイツと共謀して華の命を狙っているらしい。華を狙うなんて俺が許せない。しかしヤツらにとって俺たちは邪魔者らしい。現に俺は今、バスケットボールの化け物に襲われている。
「危ない!」
ボールの化け物に襲われ倒れているドクターが俺に叫ぶ。怪物は俺に向かってそのボールの腕を大きく振りかざす。
しかしそれを間一髪で避ける。一応はサッカー部だ。反射神経には優れているつもりだ。だがこのまま逃げ出すわけには行かない。ドクターが倒れている。助けなければ……しかしどうすれば? 仮に逃げて助かったとしてここから脱出する手立てはない。ドクターの方が明らかにこの世界に詳しい。彼無しでは死ぬも同じだ。
「僕のことは気にするな! 今は自分の命を……」
「あんた無しでどうやって逃げ出せばいいんだ!?」
「それは……」
ドクターは言葉を詰まらせる。彼もそれを自覚している。だがすぐにバスケットボールの怪物の攻撃がまたやってくる。これをずっと避け続けることは無理だ。まずはこいつをなんとかしなければ……
ふと地面に転がるバスケットボールに目を向ける。ボール……そうか、ボールにはボールだ!
俺はサッカー部。エースってほどではないがボールの蹴る力には自信がある!
「ドクター、ボールをこっちに!」
「なるほど、頼んだ!」
ドクターは痛む体にムチを打って、自分の近くにあるバスケットボールをこちらに投げた。
「いっけぇー!」
投げられたボールに思いきり俺がキックを入れる。ボールの怪物はその攻撃は予測していないようだった。そのままヤツの胴体にあたる部分にヒットし、成すすべもなくその衝撃でヤツはバラバラになり、地面にはいくつものバスケットボールが散らばった。
「君はすごいな! フットボール部か?」
「いいや、サッカー部!」
「同じようなもんだろ。さっきの攻撃がかなり効いて背中が痛いがなんとか大丈夫そうだ」
「ああ。俺がやってやった! 俺がエイリアンを倒した!?」
「そのキック力羨ましいよ。だけどまだ完全に倒したわけじゃないぞ。大知性体はまた何かを操って……」
そうドクターが言っている途中、倉庫の中に入っていた跳び箱が突然カタカタと音を立て始めた。
「マズい、また来るぞ! 逃げろ!」
そう言うとドクターは立ち上がって体育倉庫から走り出す。俺は動き出した跳び箱を横目に彼についていく。
「なぁこれからどうするんだ!? 脱出の手立ても何も無いだろ!?」
「ああ、信号の発信源は裂け目の中だし、相手との交渉も決裂。考えうる限り最悪の事態だ!」
「最悪の事態か。俺が頑張ってあれを倒したのに!?」
「それとこれとは話が別だ。一応脱出の方法なら一度考えた! ついでにこちら側にも追って来れないようにする!」
「それどうやるんだ!?」
「まずは物置部屋に向かう! 僕の推測が正しければ同じところから出れる!」
俺たちは後ろから追って来る跳び箱に目もくれず、とにかく前へ前へと走って行く。
「ソ、ソータくん……」
「素晴らしい足だ。それが僕の“物”になれば」
左手を緊張している華の手の上に置き、右手を彼女の横顔に当てる。
「こ、これは覚悟を……」
華は顔を大きく赤らめて目をつぶる。彼女の想いとは異なり、ソータの狙いは彼女の心ではなく体である。
「さぁ、僕の物に……」
「華ー? 華ー、スポドリ買って来たけど」
突然、後ろからアキの声が聞こえてくる。その一瞬で、ソータは彼女に襲い掛かるのをやめた。
「そうか、“まだ”なんだな」
「まだってどういう……」
ソータは彼女の手から自らの手をどかすと、そのまま「また会おうね」と言って校舎の中へと逃げるように走って行った。
「あっ、華どうしたのこんなところで? 手洗い場の後ろで何してたの?」
「え? い、いや何もしてないよ! 手汚れてたから洗ってただけ!」
「……蛇口の無い後ろの所で?」
「乾かしてただけだって! それよりスポドリありがと~、後でお金渡すね!」
「う、うん……なんか様子おかしいけどどうした?」
「だからなんでもないって! 練習行こ練習!」
あんなことがあったばかりで、胸のバクバクが止まらない。気づいたふりはしてないけどきっとアキは既に気付いている。私の顔が赤いことに。
「熱でもある?」
「な、ないない! ほら、私肌弱いからさ、ハハハ……」
「ま、気にしないけど? 見てない間に何してたかは……ご想像しておきます」
「えぇ!?ちょっと!」
練習に向かうアキの背中に、少し強めの平手打ちを入れた。
「まさかドクター、鏡の中に入って戻るのか!?」
「ああ、君がさっき言った案を採用するよ! アレンジバージョンだけど」
跳び箱に追われながら俺たちはあの鏡のある物置部屋に急いでいた。
「でもさっき無理だって……」
「この世界がヤツらの作り出したものじゃない、既にあったというのを聞いて少し思い出したんだよ。かつてタイムロードの技術で作り出した不思議な鏡のことをね」
「タイムロードの鏡……?」
「タイムロードの技術は時空間を航空する技術、そして外より中が広い技術なんだ。後者の鏡版。有事の際は鏡の中に作った避難スペースに入り込むのさ。ただあまりうまくいかなかったみたいで閉じ込められる事故が多発。それからはタブーとされて封印されてたんだ。でも何かの拍子で盗み出されて、それで今この学校にあるってわけさ」
「さっきから知らない事ばっかりなんだけど」
「後で一つ一つ単語を説明していくから今は気にするな。さぁ入るんだ!」
気付けば物置へとたどり着いていた。跳び箱の怪物はその段を弾き飛ばすようにしてこちらに攻撃してきた。俺たちはなんとか避けて部屋の中に入る。ドクターは入らせないために扉にソニックの光を当てて厳重に扉を閉めた。
「ターディスはここには無いな。だが鏡はあった! これだ!」
そこには俺たちを引きずり込んだ鏡が残っていた。金で縁取られた、何の変哲もない鏡。道中見かけた鏡と異なり、これはしっかりと俺たちの顔を反射して映している。
「これの波長を少し変えれば元の世界に戻れるようになるぞ……」
しかしそう簡単には行かない。扉にガンガンッとおそらくあの跳び箱が攻撃してきている。この部屋の扉は古い。破られるのも時間の問題だ。
「なぁ早くしてくれ!」
「ああ早くやってるよ! よし!行けた!」
ソニックドライバーを止めると、鏡はまるで水面のような姿になり、手を突っ込むとまるで水を触っているようだ。
「さぁ跳び箱に殺される前に飛び込め!」
俺は言われるがまま、そのまま鏡の中に飛び込む。
しかしドクターはすぐには飛び込むことなく、扉を開いて跳び箱を中に入れさせ、早口でまくしたてるように話す。
「どうしてお前がここから今まで出られなかったか? それはこの世界の性質にある。ここは現実世界の鏡がある場所、施設を再現して作られている。そして危険から逃れるための避難所だ。生命体が入って来たと感知すればこの世界は外は危険だと判断してここから生命体が外に出れないように封じ込める。たまたま裂け目がここの中に開いてしまったばかりにお前は危険な外に行くことができないまま軟禁状態になっていたわけだ」
「わざわざ丁寧な説明を感謝しようドクター。だが貴様は今そのソニックドライバーでこの世界の性質を少しばかり変えた。もう私もここから出ることができる」
「ああそうかもしれないな。だがこれを作ったタイムロードは賢い。もし外部から操作されたとこの世界が理解すればきっとこれ以上操作されないために数秒後に自主的に避難するだろうね。ターディスみたいに」
大知性体にそう告げてからドクターは鏡の中へと入った。
「待て! ドクター!」
追うように大知性体も揺れる鏡の中へと入っていく。
「はぁはぁはぁ……ここはどこ?」
「現実の世界さ。正直できるかどうかは賭けだったけど、できてよかった」
二人が居るのは倉庫部屋。さっきまでの世界には無かった青い箱があることから現実だと分かる。
「賭け? じゃあ根拠が薄かったってことか?」
「タイムロードの鏡なら、中にも入ってきた時と同じ鏡が出現する。それを利用すれば外に出られる。この鏡はかなり古い物だから壊れてたけどソニックで直して出れるようにした。もし鏡の世界が避難所ではなく別のポケット宇宙、異空間だとしたら脱出は不可能だったね。そうならあちら側に鏡が存在しないから」
「あの大…知性? みたいなやつもこっちに出られるようになるんじゃないか? もしあんなのが現実に来たら……」
「いいや“まだ”来ないよ。僕があっちの世界で鏡にソニックを当てたから鏡の世界が攻撃されたと勘違いして移動したんだ」
光輝は自分が出てきた鏡のところに目を向けるが、そこには何もなかった。
「それじゃあの怪物と一緒に鏡が消えたってこと? 良かった。これで全て解決か」
敵が鏡と一緒に消えたというのに、ドクターの顔はどこか訝しげだ。
「いやまだ終わってない。鏡はあくまで移動しただけさ」
ドクターはソニックを光らせながら鏡のあった場所を照らしている。
「座標は移動してない。ということは時間移動したな」
「ってことはあれが戻って来るってこと!?」
「その通りだ。いつ戻って来るか調べる前に一つ確認しておきたいことがある」
「それって何だよ」
「まだ鏡の世界に戻っていないであろう存在がいる。ソータさ」
そう言うとドクターは鏡をターディスの中に運び、手に持ったソニックドライバーを手に倉庫部屋の外へと出て行った。
次回のチラ見せ
「誰を止めるって?」