ソータは今この学校のどこかにいるらしい。彼は今魂だけの存在となっている。
「でも不思議に思ったんだ。ヤツら同じ存在に、データだけの存在ならソータにも入れ物が必要なんじゃないか?」
「その心配は無いだろう。大知性体との契約にはその肉体も紐づいてる。いわば彼専用の入れ物、永遠に年を取らない体にもしてもらったのさ」
「そんなことが……」
「だがそれを維持するにはある程度のエネルギーと魂が必要なはずだ。だからあの絵だ」
美術室にあった少年少女の絵。あれらはソータを維持するための生贄でもあるのだろうか。
「だから彼は狙い続けた。一つは自らの存続のための犠牲者、もう一つは弱い体から抜け出して理想の体を手に入れるための良質な肉体を」
「それでついに華のことを見つけたってわけか……」
「ヤツは彼女の体を奪って自らの物にするはずだ。早く見つけて止めるぞ!」
ドクターは手にしたソニックを光らせながら進もうとするが、突然少年の声が後ろから聞こえてきた。
「誰を止めるって?」
ソニックドライバーは後ろの方を反応している。そこには青白い顔をした体操着姿の少年が立っていた。
「反応はどうやら君からのようだな“ソータ”くん?」
「僕の名前を知ってくれてるなんて。最近学校に来たばかりなのに」
ソータは不敵な笑みを浮かべてこちらを見つめている。
「コイツが幽霊のソータ?」
「そうだ。最近学校に登校するようになった? ちゃんと練習してる? 全部嘘さ。彼女が目的だから彼女の前にしか現れない。他の人間はむしろ邪魔だからな」
「僕は彼女にちょっと走り方を教えてあげていただけ。せっかくの才能が埋もれさせるわけにはいかないから」
「彼女は元から足が早い。最近はいろんな場所で走ってるから余計に早くなったかもしれないな。だが皮肉にもその足の速さが君にとっては極上の体、ということか」
「そうだ。だから僕は彼女の体が欲しい。こんな満足に走れない……ニセモノの体は捨ててやるんだ。そしてその足で僕は走る」
「どうして華なんだ? 他にも足の速い奴ならいる! 男にだっているし、俺だって……」
光輝はソータに詰め寄る。しかし彼はやれやれと顔を横に振って答える。
「君たちじゃダメなんだ。僕が求めているのはリレーでかならず優勝できる足だ!」
ソータには並々ならぬ執着を感じる。単なるリレーで勝ちたいというだけじゃない。なぜ彼女に固執するのか?
「彼女は僕の求める良質な肉体に近づきつつある。アドバイスをしたその日からさらに大きく進化した。あとはゴールテープを切る時、彼女の肉体は僕が求める理想そのものになる!」
ドクターは手にしたソニックで自身の頭をポンポンと叩き、思考を巡らせている。
「お前は運動会に出れなかったことに固執する悪霊のような存在になった。運動会に出られる人間は妬ましい。だから自分が最も優れた人間の体で優勝する。そうすることで出られる人間に対する復讐になるわけか」
「ああそうさ。もう僕は運動会に出られない弱い人間じゃなくなる。勝って見返してやるんだ! 僕を役立たずと思っているアイツらに!」
ソータは思わず笑いがこぼれる。もうすぐ長年の雪辱が果たされるのだ。だがドクターはそれに対し冷たく答えた。
「勝ったところでそれは君の勝利じゃない。華の勝利さ」
「君には分からないだろうドクター。走れない者の気持ちが! 運動会の時、自分は何もできずただ見ているだけ! その日は出場している人だけしか主役にはなれない。後ろで見ていたってただのモブなんだよ!僕は……主役になりたい! たった一度だけでも!」
ソータはその不健康そうな青白い顔を鬼のように歪ませ憤った。その迫力に光輝は少し後ずさりした。
「君の気持ちはよく分かるよ。憧れの運動会に出れずにそのまま亡くなった、というか大知性体になった。固執する理由は分かる。けどこんなこと辞めるんだ。彼女の体を奪って、命を奪って運動会に出られればそれいいのか?」
「ああ、それで満足さ……。僕は決して諦めないよ。この体をさらなるレベルへ昇華させるためにはね」
「なら僕からも言っておくことがある。」
そう言うとドクターはソニックドライバーを手にソータへ向ける。
「華の体は絶対に奪わせやせない。たとえ君がどんな存在であってもだ」
「……悪いけど僕には味方がついてるんだ。大知性体という強大な味方がね。彼がいる限り僕は勝てる」
「彼なら今は鏡の中だ。色々あって今ここには居ない。すまないね」
「……」
「君は今すぐに華の肉体を手に入れることはできない。今の君はあの世界との繋がりが断たれてる。そうだな、取り残されたデータだけの存在。いわばただの“幽霊”状態さ」
ドクターはソータにソニックを向けてその体を解析した。ドクターが彼の体を触ろうとするが、彼の体はまるで煙に触ろうとするようにすり抜けてしまった。
「鏡が移動したせいで本体と接続ができてない。だから彼女の体を奪おうとしても無理だ」
「今はね。そうだろドクター?」
「ああ。逆にこちら側から君を消すこともできない。いわば冷戦状態だな」
ドクターは彼の周りを回りながらソニックを光らせ続けている。
「しかし鏡は時間を移動しただけ。必ず大知性体は再び現れる」
「それが僕と君との勝負の時になるってことか。なら受けて立とう。僕たちは華を必ず助ける」
「なぁ今僕たちって言ったか? 俺も入ってる?」
「ああ。君も巻き込まれたんだから当然さ。それに華が危ない」
「言われなくてもわかってるよ。華のためなら俺も戦う」
「君にはなにもできないよドクター。彼女は僕のものだ」
「どうだろうな? 楽しみに待ってろ」
ドクターがそう言うと、ソータはそのまま煙のように消滅してしまった。完全に死んだ……わけではないのだろう。
ドクターはソニックに表示された情報を見るとすぐさまポケットにしまい光輝に話しかける。
「さぁ光輝、もう時間が無いぞ。どうやら鏡がここに戻ってくるのは7日後らしい。その日に大知性体も現れる」
たった今ソータに宣戦布告をした彼は光輝の肩を叩き、あの青い箱の方へと戻っていく。しかし光輝には残り7日という言葉が気になった。その日は確か……
「なぁ待てよドクター、7日後は運動会じゃないか?」
「何だって?」
それを聞いてドクターは大きく慌て、壁に頭を打ちつけた。
「なんてことだ! 運動会と大知性体の現れる日が被ってる!? そんなことがあるのか!?」
「でもアンタすごい技術を持った宇宙人なんだろ? 雨を降らせて延期にさせるとかできないのか?」
「悪いが僕が持ってるターディスに天候操作機能は無い。雲が出てれば刺激して雨や雪を降らせることはできるけど、どうだ運動会当日は今年一番の晴れ模様! 雲一つないからその手は使えない」
「早めることはできないだろうし……、他に手は無いのか?」
「んー、そうだな地震なら起こせるがターディスの調子が悪いから最低震度7からしかできない。都心でそんな大地震を起こしたら華どころか多くの人間が死ぬ。これはダメだな」
「それじゃあ残された手は……」
ドクターは大きく息を吸い込んで光輝に語り掛ける。
「かなり忙しいことになると思うが、運動会当日に大知性体をやっつける。この方法しかない」
「ならやるしかないな。どうやって戦う?」
「幸運なことに7日も猶予がある。その期間にしっかり準備すれば大丈夫さ。ソータは今僕たちに手を出すことはできないしね」
「それで準備ってのは?」
「第一段階、華にソータの危機を知らせる」
「今日はこれで終わり。それぞれ解散」
時間は既に18時を回っていた。運動会の練習も本日はここまで。華とアキは教室に戻り着替えを取っていた。
「運動会までもう1週間切ったねー。華の方はなかなか調子よさげじゃない?」
「まぁね。良いアドバイス貰ったし。ところで今日はドク……じゃなくて仁見かけないね」
「用事があるから先に帰ったらしいよ。アイツ運動会の練習まだ一回も来てないけど大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。ああ見えて運動とか得意らしいし」
カバンの中からパウダーシートを取り出しながら言った。
「さすが。もうそこまで親密な仲に?」
「そういうのじゃないよ。それにアイツよりももっと、さ……」
華は冷たいはずのパウダーシートを顔にくっつけて顔を赤らめていた。それを見てアキはニヤニヤしている。
「えっ、まさか仁よりもいい奴が?」
「ま、まぁまだそういう関係ではないんだけどさ! まぁその、ちょっと気になるってだけで……」
「ふーん……オタッキーな華ちゃんに言い寄る男って意外と多いんだね」
こんな感情を持つのは久しぶりだ。ソータくんは色白で正直あまりタイプと言えるような相手ではないのだが、彼には何か特別なものを感じる。それにどこか惹かれている。また会いたいなという感情が心に芽生えている。
「意外って何意外って!」
「へへ、私はそういうの無いなぁ。この学校変なやつばっかりだし」
「変な奴多いのは認めるけどね。エイリアンいるし」
「そうそう。エイリアンみたいなヤツね」
「おい華、誰がエイリアンだって? そりゃ事実だけど」
突然教室の扉が勢いよく開かれた。噂をすればというやつか。そこにはドクターと光輝が居た。
「あっ、仁帰ったんじゃなかったの? 光輝もなんで一緒?」
アキは仁から用事があるから帰ると聞いていたはずだった。どうしているのだろうか。忘れ物? そのことよりも気になるのは光輝がいること。この前約束を破ったため直接を顔を合わせるのは少し気まずい。
「光輝とは友達になったんだ。彼が華の件で僕に怒ってたんだけどまぁ仲直りしたからね」
「そのこと言うなよ」
「事実だしもう過去のことだ。それよりも華、今は君と話したい」
「あららナンパですか? 残念だけど華にはもう他に気になる人が……」
「そういうことじゃない。全く思春期の子供はそういう話ばっかりだな」
「それで何の話、ドクター?」
華はパウダーシートを置き、机に手をかけてドクターの方を見る。
「なぁ待て華の気になってる人って?」
アキの言葉の中でふと語られた「他に気になる人」が光輝の心に大きく刺さった。今はそっちの方が気になってしまっている。
「その話は後。華、君はソータって人間を知ってるね?」
その言葉を放つと、華は少し驚いて机にかけた手を離して自分の手を揉み始めた。
「さ、さぁ? 私は別に……」
「彼と会った。君とは何度も会っているはずだ」
「……まぁそうだけど。でも不思議だね、アキも含めてみんなそんな子は居ないって言ってたのにドクターは知ってるの?」
「ドクターだけじゃなくて俺も知ってる」
「みんなが知らないのは彼がこの学年、学校に今在籍してないからだ。君の前にだけ現れてる」
「それってどういう……」
そう聞いた後のドクターの返事は驚くべきものだった
「彼は君の体を狙ってる。君の肉体を奪うつもりだ」
「いきなり何? どういう意味で……」
「端的に言うと彼は凶悪なエイリアンと共謀していて、君のことを殺そうとしてる」
突然の訳の分からない言葉に呆然としていた。いきなり自分がエイリアンに狙われてると言われても……。いや、グレイブにバグラなどと出会った後だ。信じないことはないが“ソータ”がエイリアンだなんて信じられることではなかった。彼はそんな人間ではない。いつも自分に向ける目は間違いなく優しい目だ。
「いきなり変だよドクター。そんなこと言われたって」
「突然のことで申し訳ないけど彼は危険なんだ。関わらない方がいい」
その言葉を聞いて少し不快に思った。確かに彼は不思議なところもあるがそんな危険なようには思えない。なぜか迫っては来たがそのぐらいだ。しかし何故急にドクターがそんなことを言ってくるのだろうか? だが少しだけ思い当たる節はある。
「ねぇドクター、まさかさっきのを見てたんじゃないよね……?」
「さっきのって?」
「さっきのって?」
「さっきのって?」
その言葉にアキと光輝も反応した。
「だからその、私がソータに言い寄られてたところ……」
「どうしてその話が出てくる?」
「ドクターは確かにすごいし、色々なことも教えてくれたのは分かるよ? でもだからってソータくんのことを悪く言う?」
ここ最近、自分はドクターとターディスに乗り旅を続けてきた。そんな自分が別の男に撮られることにどこか焦りを感じているに違いない。
今考えればこの時の考えは少しおかしかった。ソータに対する特別な感情が先行して、どこか自分を見失っていた。
「別に僕は彼に嫉妬しているわけじゃ……」
「最近私が今の世界にエンジョイしてるのが嫌なの? そんなに一緒に冒険に行きたい? それは分かるけど私にも私の時間ってものがあるの! それに他の人のことだって好きになるし……」
「あー、君は勘違いしてる。僕の言ってることは事実だ! なぁ光輝、君からも言ってやれ」
「他に好きな人……? 仁じゃなくて?」
今の華に光輝からの質問は耳に入らなかった。
「私は足速い方だけどリレーは苦手だったの。自分のペースでいつも走ってたから。でもソータくんはそんな私に優しく教えてくれた! そんな彼が悪い人だと思う?」
「それも彼の策略だ。君の体を使う時に不自由が無いように得意分野を伸ばさせてるんだ」
「訳の分からないこと言わないで! 彼は悪い人じゃない!」
「なぁ華、その好きな人って……」
「その、ソータくんのことが好きなの! 好きになったの! こんな私だけどそれぐらいの感情はあるし……、エイリアンとか関係無いから!お願いだから邪魔しないで! 光輝もこの前のことは悪かったと思うけど、変なことドクターと一緒にやらないで!」
華は激昂し、そのままカバンを手に教室から出て行ってしまった。
「あー、ごめんね仁くん、光輝。華、さっきから色々様子がおかしくて不機嫌なだけだから……ちょっと追ってくる!」
そう言うとアキは華を追うようにカバンを持って教室から出て行ってしまった。
「思春期の女子は情緒不安定だな。ソータのことが好き? なるほど、人は恋をするとおかしくなるものとは言うが……これはちょっとばかし予想外だったな」
「ウソだろ、華がアイツのことを好き……?」
まさかの華の恋の話を聞いてしまい、驚きと焦りと落胆の気持ちが胸に襲い掛かって来る。
「多難だな光輝。ともかくこうなったんじゃ彼女を説得するのは難しいな。どちらにせよ彼女に彼は危険だという考えは植えついた。あとはこっち側で解決していくしかない」
「べ、別に俺は華のことが好きでやってるわけじゃ……」
「そうか? 彼女と話している時君の顔が少し赤くなってたし、彼女がソータのことを好きだと言った瞬間の心拍数が跳ねあがった。単に幼馴染なだけって感情じゃ起きないよ。否定したってソニックが証明してる」
ドクターはそう言いながらソニックドライバーを振り回している。
「分かったよ。でも今は俺の想いよりも華がどうなるか、だろ?」
「これ以上彼女にソータの事を言ってても仕方ないな、僕たちが裏で守るしかない」
「ちょっと華ー! どうしてさっきあんなに怒ったの?」
「アキ……いやちょっとムカついただけで」
「だからってあそこまで怒ることないよ。言ってる意味はよく分からなかったけど仁も光輝も華のことを心配してたんだよ。そのソータって人との関係を」
「分かってるけど……認めたくないの」
「認めるって?」
「彼が……危険な人だってこと。おかしいところは確かにあるんだけど、優しく教えてくれたし、私の事を考えてくれてた」
それに何よりも彼には走ることを褒められた。自分という人間には今まで人から褒められるようなところが無いと思っていた。言ってしまえばオタク気質だし、特段人より得意なところがあるわけでもなければ人間性もすごく高いわけじゃない。現に今ドクターと光輝に怒ってしまったし。
そんな自分が唯一人より優れていると思っているのは走るのが速い所だ。周りからも感心されることはあるが思った通りの反応は貰えたことが無かった。そんな中、自分の走りを見て褒めてくれる人が現れた。ソータだ。しかも彼はただ褒めるだけではなくよりその能力を上げるやり方を教えてくれた。それがたまらなく嬉しかった。気づけばそんな彼のことを意識していた。
「ドクターの言う事はいつも正しい。それは分かってるんだけど……」
「さっきから不思議に思ってたんだけどさ、そのドクターってのは仁のこと?」
「そうだよ。物知りだからそういうあだ名なんじゃない?」
「へー、不思議なあだ名だね。もっとアピールしてもいいのに」
「そういう変なところがあるヤツだからさ。私の事を心配してるのは分かってるんだけど、私とソータとの関係は内緒にしておきたかったから……」
「ま、そういうこともあるよね。でもそれが分かってるなら、ちゃんと謝ったほうが良いよ。あっちは呆然としてたけど別に怒ってたわけじゃないし」
「うん、私も明日謝るよ。ごめんねアキのことなんか巻き込んじゃって」
「いいのいいの。華のこと大事だからさ。それじゃあまた明日ね」
そう言った後、アキと手を振って別れを告げた。今日は色々あって頭の中がこんがらがっているが、今日のところは家に帰ってゆっくり休もう。
既に時間も18時半を過ぎていて暗くなっている。そのまま帰路へと着くが、どこが街灯の様子がおかしい。さっきから点滅を繰り返している。
ここのあたりの街灯は工事でまだ新しいはずなのだが……
すると突然、後ろからあの声が聞こえてきた。
「華、さっきはごめんね」
後ろにはソータが立っていた。いつもと変わらない体操着姿だ。まさかこの姿で帰っているのだろうか?
「ソータ、くん……?」
「さっきはちょっと怖がらせてごめんね。つい君のことを見過ぎてた」
点滅する街灯に照らされながらこちらに向かってくる。
「一つ聞いておきたいんだけどさ……、ソータくんって何者?」
「隣のクラスの生徒だよ。普段は休みがちだけどね。もしかしてこの服がおかしい? さっき制服が汚れちゃったからこれ着て帰ってるだけだよ」
「それは本当?」
さきほどドクターから聞いた話を思い出す。彼はただの生徒じゃない。たとえ好きでもその違和感は拭えない。
「……本当に決まってるじゃないか。まさか仁から何か言われたのかい?」
「ドクターのこと知ってるの?」
そう聞くと、ソータは少し黙った後に指で頭を掻きながら言った。
「ああ。急に僕に喧嘩をふっかけて来たよ。『華にこれ以上近づくんじゃない』って言ってね。光輝? とかいう彼も連れてた」
彼はどこか不機嫌そうにそう語った。ドクターは時折口調が荒々しくなる。だからこそ勘違いされやすい。
「ごめんね。きっと何か勘違いしてあなたの事を敵視してるだけなんだと思う。彼は良い人だから心配しないで」
「良い人? 彼が? それはきっと誤解だよ。彼は次にこう言ってた。『彼女は僕の物なんだ。だからお前は手を出すな』と」
「えっ……」
その言葉を聞いて驚いた。本人の前で言ってないだけでそれは愛の告白なのでは……
「きっと彼は君に惚れたんだろうね。それも無理ないよ。あんな素晴らしい走り方をする女の子、好きになってもおかしくない」
「待って、それってドクターが私の事を好き、だっていうこと……?」
「そうだろうね。けど別にそれだけなら悪い事じゃない。一番問題なのはそう……光輝のことだ」
「光輝? 光輝の何が問題なの?」
ソータは左手で顔を覆い隠し、肩を震わせながら怒りを込めてこう言い放った。
「ドクターは危険だ。彼はあの持っていた不思議な棒で彼のことを洗脳して配下に置いたんだ。君の幼馴染を味方につけようとした」
ドクターが光輝を洗脳? あんなに優しい彼が人の心を操るようなことをするだろうか?
「そんなことしないよ! だって彼は優しいし何よりもそういうことを嫌う人だから……」
「君は知ってるだろ? 彼が人間じゃなくてエイリアンだということ。人間とは違うんだ。だからそういった手を使うことにためらいが無いんだ」
「でたらめなこと言わないでよ! ドクターは確かにエイリアンだし変な奴だけど、決してそんなことする人じゃない! 彼のことを知ってそんなに長い時間は経ってないけど、私には分かる」
「いいや彼は危険さ…… 彼のもう一つの名前を知ってるかい?」
「もう一つの、名前……?」
ソータは大きく息を吸って言葉を続けた。
「迫りくる嵐。いつだって恐怖と破壊が彼には付きまとう。それは紛れもなく彼が引き起こしているからさ。そうやって君の心を操っていたんだよ。君のことが好きになってしまったからね。そうして僕と君との仲を引き裂こうとしてる」
「そんな……、ドクターがそんなことするはずない……」
「僕はもっと君といたい。君の走る姿をもっと見ていたい。だからあんなヤツと関わるのはもうやめるんだ。ただでさえ危険なんだ」
「でも、でも……」
「今すぐじゃなくていい。ゆっくり考えればいいよ。でも一つだけ忠告しておく。彼は運動会の日に何かをしでかすつもりだ。きっと恐ろしいことだ」
「恐ろしい事……」
「僕が必ず君を守るよ」
そう言うと、ソータは華が何か言葉を発する前に目の前から歩いて消え去ってしまった。華はただそれを呆然と見ているしかなかった。
しかし最後に言ってくれた「必ず君を守るよ」という言葉。それが嘘のようには思えなかった。
「ドクターが、悪者……光輝の事を洗脳……」
確かにドクターはエイリアン。それは事実だ。見た目こそ人間のようではあるが、その心まで完全に人間と同じとは限らない。彼は2000年以上も生きていてる。無機質で、それこそ侵略者としての側面を持ち合わせている可能性だってある。彼を信じるためには、まだそれほどの時間を共に過ごしていない。
ソータの言う通り、ドクターが危険な可能性もある。先ほどのように突然誰かを陥れようとする行動を行っていたのも事実だ。だが考えれば考えるほど、ドクターがどんな存在なのか分からなくなってくる。感覚が麻痺しているせいで彼のことを妄信していたのかもしれない。
しかし、それと同じぐらい不思議なこともあった。
「どうしてソータくんは、ドクターのことをあんなに知ってるんだろう……」
次回のチラ見せ
「2000年も生きてるのにまだ女心が学べない」