ドクターフーらしいエピソードを書いてみたいんですが、毎シーズン内容がコロコロ変わるので難しいですね。幅広い。
《続いて深呼吸~! 吸って吐いて~1,2,3,4……》
運動会といえばラジオ体操だ。怪我をしないように軽い準備体操の後に様々な競技を始めていく。
「残り時間は30分か……」
ドクターは腕時計を見ながら呟いた。本来運動会の最中に腕時計はつけてはいけないのだが、知覚フィルターを施しているため誰からも気づかれることはない。それに有事なのだから仕方がない。
そのままラジオ体操も終了し、それぞれのクラスが整列しながら自分たちの席へと帰っていく。
その途中でドクターのクラスと光輝のクラスはすれ違った。そのタイミングでドクターは光輝に一枚の紙を手渡す。
「『鏡が現れるのは9時30分。その時間までに物置部屋前に来てくれ』か……了解」
光輝はグッドサインを掲げてドクターに合図を出す。それを見てドクターも敬礼のポーズで返事をする。
華はもちろんその様子を見ていた。もしや企んでいることをついに実行に移すのだろうか……
《プログラムナンバー1! 一年生の障害物競走です!》
教職員の様々な準備が終わりついに最初のプログラム。現在の時刻は9時20分ちょうどだった。
「ねぇドクター」
ドクターの後ろの席は華だった。彼女が彼の肩を叩く。
「やぁ華。そういえば最近あまり話してなかったね」
「何を……考えてるの?」
「何をって?」
「ソータから聞いた。運動会の日に何かしようとしてるって」
「その通りさ。僕は何かをするつもりだ」
「お願い。そんなことはやめて」
「君のためなんだ」
「私のためだけなんでしょ? そのために他のみんなを巻き込むつもり?」
ドクターは暗い表情を華に向けた。
「ああ。その通りだ」
華とドクターは互いに見つめ合っている。しかし華が感じているのは愛などではなく恐怖と疑いだった。
「まだリレーの時間じゃないけど君の出番が近い。次は女子生徒の応援ダンスだ。行ってこい」
そう言うとドクターは席を立ちあがりそのまま校舎の中へと立ち去ってしまった。
「一体何を考えてるの……」
「行くよ華。もうすぐ私たちの出番」
怪しいドクターを追おうとするが、アキに呼び止められ一旦は保留にしておく。次のプログラムが終わった後に彼のことを追う。
物置部屋前。既に光輝が来ていた。
「遅いぞドクター。もうすぐ30分になる」
「席が後ろだったのもあって少しだけ華と話しててね」
「それで? 華に注意できたか?」
「いいや。今の彼女に何か言ってもむしろ逆効果さ。話を早めに切り上げたんだけど少し勘違いさせたかもしれない」
ドクターは鍵を取り出して物置部屋の扉を開ける。ターディスはこの場所に置いておくと大知性体に乗っ取られるかもしれないとのことで学校の裏庭に移動させたらしい。外で「天国と地獄」が流れる中、二人は物置部屋の中へと入るが……
「おかしいぞ。鏡が……どこにも無い」
「まだ来てないだけじゃ?」
「いや時計はコンマ1秒もズレてはいない。もう30分になったはずだ……」
物置部屋の中に出現したはずのタイムロードの鏡がどこにも無い。ドクターはソニックで部屋中を調べている中、外の廊下から何か大きな物音が聞こえた。すぐさま確認のため物置部屋から出て廊下の先を見る。
「なぁ今思いついた悪いニュースがあるんだが聞くか?」
「良いニュースは無しで悪いニュースだけ?」
「そんなところだ。僕の読みが間違えていて、鏡が戻ってくるのが実はもう少し早かったってこと」
二人が音のする方向を見ると、そこには間違いなくあの時自分たちを追って来た跳び箱が立っていた。
「なぁドクター、作戦に変更はある?」
「少しばかりな。ともかく今はあれに殺されないように逃げる!」
外で生徒たちが障害物をかいくぐって進む中、二人は校舎の中で跳び箱に追いまわされている。
「なぁドクター! こんなところ他の人たちに見られたら危ないんじゃないか!?」
「校舎にいるのは用務員ぐらいだし、他の人はみんな外の競技に夢中だ!」
この状況には誰も気づいていない。一人小さな子供が跳び箱が走っている所を見ていたことを除いて。
「ママ、跳び箱が走ってるよ」
「何言ってるの? そんなわけないでしょ、ほらお兄ちゃんの活躍ちゃんと見なさい」
二人は追われながら話を続けている。ドクター曰く既に作戦は始まっているらしい。二人は途中二股に別れた道で立ち止まる。
「僕はこれからターディスに向かって装置を起動する! 裂け目を開くために君は体育倉庫に向かってくれ!」
「どうして体育倉庫に!? 裂け目は鏡の中にあるんだろ!?」
「あの世界は現実とリンクしてる! 裂け目をこっち側でも開くんだ!」
「そうなの!? ところで鏡を裂け目の中に捨てるっていうのに鏡持ってくるのを忘れてないか!?」
「鏡の中からアイツが出てきたから作戦変更なんだ! あとは頼んだよ、君だけが頼りだ!」
そう言うとドクターは光輝の肩を叩いて裏庭の方へと走って行った。光輝は言われた通り体育倉庫の方へ向かっていく。
『天国と地獄』が流れる中、二人はそれぞれ学校の中を駆け回る。ドクターは誰とも遭遇せずに裏庭へと到着した。
「さぁさぁ後は裂け目にあいつを放り投げるだけ……おいおいどうなってるんだ!?」
裏庭にあるはずのターディスがそこから消えていた。そこにあった跡はあるものの姿が見えない。
「まさか知らない間に時間移動したか!? いや違うなそんなことが起きた痕跡はない……誰かに移動された!? まさか……」
心当たりならあった。ドクターは用務員室へと駆け込み、中でタバコを吸ってくつろいでいる用務員に話しかける。
「すみません! 裏にあった……大きな青い電話ボックスみたいな箱見ませんでした?」
「あれは君のか? 困るよあんなところにあんな大きいものを置かれちゃ」
「どうやって運んだんだ!?」
ターディスは見た目と同じぐらいの重さだ。人一人で運んだとは考えにくい。まさかこの用務員さんは……
「さっき手の空いてる先生方に手伝ってもらった。勉強に必要のない物を学校に持ってきちゃダメだろう? 運動会が終わったら校長先生にこの事言いつけるからな」
ただ先生に手伝ってもらっただけらしい。ソータや大知性体は特に関係なかった。
「そんなことはどうだっていい! それでどこに移動させたんだ?」
「ここにあるよ」
用務員が奥の扉の鍵を開ける。そこにあったものは間違いなくドクターのターディスだった。
「悪いんですけど緊急事態なのでそれ渡してくれませんか?」
「運動会が終わったらな」
そう言うと用務員は扉の鍵を閉めてしまった。
「運動会が終わってからじゃ遅いんです!」
「あんなものを持ち込むのが悪い。運動会が終わってからだ」
そう言うと扉をピシャッと閉め、ドクターのことを用務員室の外に出した。
「あーっ! どうして計画通りに上手くいかないんだ! こうなったら……」
ドクターは階段を上り2階へと駆けていく。
「さぁ来い大地の精霊!」
「大知性体だ!」
光輝は大知性体の操る跳び箱を体育倉庫へと誘導していた。運動会は全て外でやっているので体育館の中はもぬけの殻。ドクターの手によるものなのか鍵は全て開かれていた。そのまま体育倉庫へと入るが……
「裂け目も……何も開いてないぞ!?」
体育倉庫の中はいつもと変わらないまま。裂け目も無ければ何の異常も無い。
「どうやら作戦は失敗のようだな」
大知性体は勝ち誇ったような口調で跳び箱の一部をこちらに飛ばして攻撃してくる。
「話が違うぞドクター! ああまったく!」
何とかそれらの攻撃を避ける。しかしこれではバスケの怪物に襲われた時と何も変わらない。しかし今回とあの時では違うことがある。それは跳び箱の機動性という部分だ。
「しめたっ!」
飛ばす攻撃攻撃をかいくぐり、怪物がこちらを追って後ろを振り向くその隙に体育倉庫の外へと脱出。そのまま扉を閉めて近くにあった箒で出られないように閉める。中からはドンドンと扉を強く叩く音が聞こえてくる。
「あぁマズい。これじゃ作戦失敗だよなぁ……」
「えーとアセトン、アエン、シュウ酸……よし出来た! タイムロード特製特別睡眠薬スプレー型!」
理科室の薬品を物色し、ドクターは簡単な睡眠薬を作っていた。わざわざ運動会の日に理科室に入り込む人間など居ないので誰にもバレることなく完成した。
「即席で作ったから多少記憶に障害は残るだろうがたった数日だ。大丈夫だろう!」
完成した睡眠スプレーを手にドクターは1階の用務員室へと向かう。しかし階段を降りた先には見覚えのある顔があった。
「あら仁くん! こんなところでどうしたの?」
「あ、ああどうも華のご家族のみなさん! どうしてこんなところに?」
「純一がトイレに行きたいって言うから、私もついでにと思って」
ただでさえこんな忙しい時に華の母と弟に出くわすとは。今日はかなり運が無い日だ。
「仁ちゃんこんなところで何してるの?」
「僕もトイレさ! 今出てきたところ」
「2階から降りて来たところじゃないの?」
「1階のトイレに人が入ってたから2階のを使ったんだ。ほら君も2階のトイレを使うといい」
ドクターが二人を簡単にあしらい、そのまま別れて先に進もうとするが二人が阻む。世間話をしている時間は無いのに。
「そういえば最近、華と喧嘩したんだって? なんだか心配だわ」
華の母は二人の関係について心配しているようだ。正直今心配されても困るのだが……
「あぁ、それは僕がちょっと無神経なために喧嘩になってしまいまして……」
「お姉ちゃん言ってたよ。アイツは何考えてるか分からないし突然変なこと言うからムカつくって」
「あんまり裏で言ってたことを本人に伝えない方がいいぞ。お兄さんからのアドバイスだ。ほらトイレ行ってらっしゃい」
純一の背中を押して2階へと追いやろうとする。
「そういえば仁くんは何の種目に出るの?」
「僕? 僕は短距離走に一度だけ」
「次の種目は短距離走よ?」
「何だって!?」
時間を見ればもう10時を回っている。既に障害物競走は終わり今は女子生徒たちによるダンスが終わり次の種目、短距離走の準備中だった。
「あー、でも僕は忙しくて短距離走に出られそうにないから……」
「どういうこと? いくら面倒だからってサボっちゃダメよ」
「ま、まぁそうかもしれないけど……」
早く睡眠スプレーで用務員を眠らせてターディスを取り戻して裂け目を開かなければ。大知性体は既にここにいる。ソータはいつでも華を狙える状況になってるかもしれない。
「おい!おいドクター!なぁ大変なんだよ!」
行くか行かないかの問答をしている中を走って来た光輝が突っ切って来た。ずいぶんと焦っているようだ。
「裂け目が開いて……ハァハァ……なかったから倉庫の中に閉じ込めたんだけど……」
「ターディスが用務員に没収されてたんだ。そのせいで裂け目を開けなかった」
「じゃあどうするんだ!?」
「大知性体を倉庫の中に閉じ込めているなら出てくるまでに終わらせるぞ! ほらこれ、睡眠スプレーとターディスの鍵とソニックドライバー! 用務員室に入って用務員を眠らせて、ターディスの中に入れ! そうしたら裂け目を開くためのボタンがあるからそれを押せ! それで全て解決!」
「あ、ああ分かった……ところでボタンってどんなボタン?」
「見れば分かるさ! 僕はこれから短距離走に向かう!」
「はぁ!?」
このまま去ろうとしても華の家族に責められてしまう。ただでさえ華と喧嘩しているというのにこれ以上仲を悪くはしたくない。それに今は光輝がいる。既に彼が短距離走に出場しないことは把握済みだ。今は光輝に頼むしかない。
「大丈夫、一瞬で終わらせるさ!」
ドクターはポケットから鉢巻を取り出し頭に巻き付ける。
「ねぇねぇ、さっき言ってた“閉じ込めた”って何のこと?」
純一が気になってドクターに問う。
「ただのネズミだよ。ダイチセータイって名前のネズミだ。中学校で習う」
《それではプログラムナンバー3 全クラス対抗の短距離走です!》
華とアキは先ほどの女子生徒のダンスが終わったので、席に戻っていた。
「あっ、仁ちゃんと出るんだ」
アキは短距離走の準備会場に仁の姿を見た。久々に目にした。
「短距離走には自信があるって言ってたし、これだけは譲れなかったのかな」
華はスタートの位置に居るドクターを見て訝しんでいた。
「えーと、この短距離走が終わった後に1年のリレー、その次が2年のリレーだから……ようやく華の出番だね」
「それならこの競技の後少し席外していい? 1年のリレーで時間あるだろうし、リレーまでには戻ってくるから」
「トイレにでも行くの? それなら短距離走の間でもいいんじゃない?」
「仁に話があるの。短距離走の後ならアイツにも時間あるでしょ?」
そんな二人が会話している最中、ドクターは短距離走の準備をしていた。
「今日の湿度は昨日の雨の影響で55%ってところか? 地面はなんとか渇いてる。追い風はそこまで出てない。となるとこの勝負で勝つのに必要なのは瞬発力か。2000年分衰えてるからあんまり自信はないが……」
《それではみなさん位置について……》
「地球人には負けない」
《スタート!》
スターターピストルが鳴るのと同時に、ドクターを含めたコースについていた4人は一気に走り出す。この短距離走に選ばれたメンバーは誰も彼も1番に近い実力の持ち主ばかりだ。
「いけーっ仁!」
「そこそこ! もっと早くー!」
2-Bから応援の言葉が飛び交う中、ドクターは走っている最中でもじっくりと考えを巡らせる。
大知性体が鏡の中から現れたのなら、ソータは既に彼女のことを狙える状況になっているはずだ。しかし席から見える華はいたって問題ないし、ソータの姿も見当たらない。もしかするとヤツは別の事を考えていて……
「あと数メートル!」
「誰が一等にふさわしいか教えてやろう! ジェロニモ!」
ドクターは一気に蹴り上げるスピードを上げ、他の対戦相手を大きく引き離していく。
「すっげぇー! いけー仁!」
「……本当に何考えてるんだろう」
ドクターに怪訝な目を向ける。何かを企んでいるはずなのに短距離走? ますます考えていることがわからない。彼はそのままゴールテープを切って見事一着を取ることに成功した。同じクラスの体育委員が終わった後の彼に話しかける。
「すげーっ! 他のメンバーはどいつもこいつも去年一位のバケモノだったんだぞ!?」
「まぁいつも走ってるからね。効率が良くて速い走り方を宇宙で一番知ってるんだ」
ドクターは息切れすることもなく平然と語る。
「それじゃあ来年は長距離走で」
「いいや、来年も短距離走でお願いするよ。それにもっと最悪のバケモノがここにはいるからね」
そう言うとドクターはすぐさまトラックの外に出て、席には戻らず校舎の方へと向かう。
「えーっと、用務員さんは眠らせることが出来た……でも鍵が無い! ターディスのある部屋の鍵が開かないっ!」
光輝はターディスを取り戻すためスプレーでまず用務員を眠らせた。そこまでは良かったのだがターディスが置いてあるのはさらに先の部屋。そしてその鍵はどこにも見つからない。
「いやちょっと待て、よく考えろ。ドクターはどうしえ俺にソニックドライバーを渡すんだ? ……そうか、これで!」
使い方なら鏡の世界に引きずり込まれた時に何度も見ている。見よう見まねでソニックの光を当てると扉がガチャリと音を立てて開いた。その先にはいつものあの青い箱だ。今は急を要する。裂け目を開くためのボタンを探さなければ。この中は意外と広くて色々わかりにくい……
『押せ!裂け目が開く!』
そうでもなかった。ターディスの操作盤に簡単に取り付けてある赤い大きなボタンは、むしろこの部屋の中でも目立っている方だろう。事は一刻を争う。すぐさまこのボタンを押す。
その瞬間、ギュオオオという何かをチャージするような音の後にターディスが大きく揺れる。裂け目が開いて成功したということだろうか?
揺れが収まると、ちょうどドクターがその瞬間にターディスへとやってきた。
「なぁドクター、これで成功か?」
一応確認のため彼に聞く。しかしその顔からは成功の二文字が見えない。
「もしかして何か間違ったボタン押しちゃった?」
「いいや合ってる。だけどこの揺れとこの音はおかしい……」
異常に気付いたドクターは操作盤のモニターを見ながらキーボードを操作する。そこに表示されたのは「WARNING」という文字。
「これはとんでもないことになった」
「まさか俺のせい?」
「いや違う。他のことが原因で失敗したのさ。裂け目を開くことを」
次回のチラ見せ
「たまに……ムカつくけど」