歴史……というには邪馬台国の情報は少ないですが。
およそ1800年前の弥生時代、猿が火や道具を使うことに目覚めてから150万年。後に日本と呼ばれる大地に彼らがやってきて新たな文明を築き始めた時代。
小さな村の、木と土で作られた家の中で、子を持つ女と豪華な身なりの男が言い争っていた。
「どうして、どうして私の娘なんですか!? まだ七にもなっていないのに……」
「それが卑弥呼様の
「卑弥呼様に一体何の権利が……!」
原始的な建物の中で言い争う二人をどうやらこの口論の中心であるらしい小さな女の子が眺めている。
「卑弥呼様を否定するつもりか? 彼女はこの戦乱の世を収め、邪馬台国を作られたお方。もし命が聞けぬと言うのならお前の一族はこれから先、永遠に呪われ続けることになるぞ」
男がそう言うと、女性は大きく泣き崩れその場から動かなくなった。たとえ娘のためであっても一族に呪いが降りかかるのならばもう成すすべはない。少女はこの状況を理解していないらしい。
「さぁ来るんだ。神の穴へ」
家の中から連れ出され、少女はいくつかの果物と装飾品で飾られた箱へと入る。やがて数人の男がそれを持ち上げ運び始める。そして綺麗に着飾った女性たちと兵士たちの十人程度で、村の外へと向かっていく。
長い長い道を進む。森を超え谷を越え、やがて動物すら見当たらない平原へとたどり着いた。
そこにあるものの前で男たちは少女の入った箱を置き、箱から少女を連れていく。
「どこに行くの?」
「神の穴だ。卑弥呼様にもお会いできるだろう」
「卑弥呼様に!? すごい!」
無垢な少女は卑弥呼と呼ばれる偉大なお方に近づけることに喜びを感じていた。
この邪馬台国を統べる日本で最も古い偉人、卑弥呼。この時代では国をまとめた女王として君臨している。そして彼女には特別な力が備わっているとされ人々は恐れながらも敬っていた。
そして男たちと少女は埴輪や花などで綺麗に飾られた不思議な大穴の前へとたどり着く。穴の前には木製の建物があり、その中に誰かが居るようだ。
「すごく大きい穴……」
「これが神の穴だ。卑弥呼様はこの穴を通じて鬼道の力を手にしておられる。この底には神が住み、そして死者の魂もまたこの穴の中に眠っている」
深く、底の見えないほどの大穴。少女はこの穴に底知れぬ恐怖を感じていた。
「ヤダ、これ怖い!」
「恐れる必要はない。今から君は神の元へと行くのだから」
そう男が言うと、着飾っていた女性たちは大穴の周りにゆっくりと座り込み、何やらお経のようなものを唱え始める。
儀式が始まり、建物の中から女性の声が聞こえてきた。
「聞こえました。神の求める少女、それは間違いなくその子です」
「やはりそうでしたか! ではこの子を……」
「ええ。穴の神は今怒っています。早くその子をこの穴の中へ……」
建物の女性の命令をだれ一人疑うことなく、男たちは怯える少女を抱える。
「何するの!? やめて! お願い!」
「より我らの国が強くなるためなのだ。許せ」
少女の思いはむなしく、多くの人に見守られる中、少女はその大穴の中へと落ちていった。
建物の中の女性は笑うでもなく悲しむでもなく、ただ冷徹に言葉を続ける。
「これで神は怒りを収めるでしょう。再び怒る前に新たな生贄を探しましょう」
「……しかし卑弥呼様。既に生贄にできるような女は数少ない。このままでは……」
「大地の怒りを買い、我々は滅びてしまうでしょう。そしてまた戦乱の世に戻ってしまう」
卑弥呼。建物の中に籠っている彼女が外に居る者達へ命令を下す。
「……見つけました。新たな生贄を。三日後にこの穴の中へ。そうすればこの邪馬台国はより繁栄するはずです……」
誰も見られない部屋の中、卑弥呼は胡椒瓶のような奇妙な土偶を手に、この国の行く末を憂いながら彼女は祈る。
「そうなのでしょう? 神よ……」
どこまであるかわからないほど深く暗い穴。叫ぶ少女の声はもう聞こえなくなった。
「さぁ弥生時代だ! 日本という国の初期も初期! まだ石器を使ってはいるが様々な技術や文化も現れた! 歴史を学ぶ上でとても重要な時代だ!」
ドクターがいつものように操作盤をいじくりまわしている。キーボードをいじったり変なでっぱりを押しこんだりハンマーで殴ったり……見る限り適当にやっているように思えるが、これでちゃんと動くのだから不思議だ。
「でもテストに出るかな弥生時代。中一のころにやったから今学びに行くとしても遅い気がするんだけど」
今学校で習っている授業はもっと先の時代。弥生時代や卑弥呼は恐らく次のテストでは出ないだろう。
「学んでおくのは大事だぞ? しかも時代の現場に直接行けるんだ、他の子にはできない芸当だろ? 高校受験するつもりならしっかりここで学んでおくべきだ」
「まぁね。高校はちゃんと行かなきゃって思うし」
「それなら僕のターディスが大活躍だな。さぁドクターとの歴史勉強の旅だ!」
「そういう感じで行くとなんか授業みたいで萎えるんだけど……」
「歴史を学ぶには本物の方が良い。さぁ行くぞ!」
ドクターがレバーを下ろすとターディスがブォンブォンといつものエンジン音と共に揺れる。ターディスが時間と場所を移動中ということだ。
やがて揺れは収まり、ターディスは無事に着地したようだ。ドクターが操作盤を少しだけ触った後、子供のように走って外へと出ていく。
「ねぇドクター、また戦国時代に行った時みたいに戦場のど真ん中ってことはないよね?」
「それはないよ。ここは森の中だからね」
外には木々の群れ。道という道はなく、ただその隙間を進むしかない……ただの森だ。
「もうちょっとわかりやすいところには着陸すればいいのに?」
「あえてここを選んだんだ。ターディスはどの時代にも馴染むけど、この時代はまだ技術も進んでないから簡単にはスルーしてくれない。隠しておかないとね」
そう言いながらドクターは森を掻き分け先に進んでいく。華もそれに次いで進んでいく。
「ここ本当に弥生時代? 今とあんまり変わらない気がするんだけど」
「森の中だからさ。森とは自然。人の手が入っていなければ、森はすべてこんな姿になる。ほら見えて来たぞ」
森という迷路を抜け平原が見えてきた。そのまま歩き続けてついに森を脱出。歴史探訪の旅のはずなのに最初はずっと木ばかりでテンションが下がっていたが、ようやく弥生時代らしい建物が見えた。
「あれがこの時代の村だ。現代はコンクリートで作られた建物が基本だけど、この時代は竪穴の建物が多くて……」
「へーあれが……わっ!」
遠くに見える村を目指して歩き始めた瞬間、華は巨大な穴に落ちそうになってしまう。
「華ッ!」
ドクターがすぐさま彼女の手を握る。なんとか落ちることはなかった。
「大丈夫か? 足元には気を付けるんだ」
「な、なんでこんなところに大きな穴が……」
それは罠に使うための穴にしてはあまりに大きく、広かった。そして底が見えないぐらい暗い。
「何かの祭事に使うために掘った穴なのかも」
「そういう文化が弥生時代にあるの?」
「どうだろうな。穴なんて世界中のあちこちにある」
ドクターは気にせず、ここから見える建物を指さす。
「さぁ、気を取り直して村に向かうぞ。ちゃんと弥生人と思われるように振舞おう」
「服装からしてそれは難しいんじゃない?」
二人はどこからどう見ても現代の服装だった。ターディスからそのまま降りて来たので着替えることを忘れていた。
「
「魏って何だっけ、聞いたことあるけど」
「今でいう所の中国にある国の一つさ。卑弥呼、つまり邪馬台国はそこと交流を持って彼女はこの国の王の資格を得た」
「へー、それじゃあ邪馬台国より偉いってこと?」
「まぁそんな所だ」
二人は村へと近づいていく。この村にはいくつかの家と、一つの大きな宮殿と思われる建物が見られる。
村の入り口である門に近づくと、矛を持った守衛が近づいてきた。
「どこの村の者だ? その装い、初めて見るが」
「あぁ、僕たちは魏から来たんだ。ここに卑弥呼様がいると聞いて」
ドクターはサイキックペーパーを守衛の男に見せる。この時代にこういった身分を証明するものは無いんじゃないかと華は思ったが、どうやら効果はあったらしい。
「卑弥呼に会えるの?」
「せっかく卑弥呼のいる時代に来たんだ。会えるなら会いたいだろ?」
「これはこれは、魏からの遣いの者でしたか。此度はどのような要件で?」
「彼女の持つ力、鬼道と言ったかな? 皇帝からの命でそれを利用したい案件があって」
「分かりました。しかし卑弥呼様は人とお会いにはなれませんので宮殿の者を介して交渉する形になるかと」
「それで十分さ」
守衛が門を叩くと、奥に居る者がロープを引っ張って門を開く。二人はそのまま村の中へと入っていく。
村の中には外から見たようにいくつかの建物、そして畑があちらこちらに見られた。
「なんだ、結局卑弥呼には会えないんじゃん」
「まだ可能性はある。彼女はずっと宮殿の奥で鬼道に従事してて忙しい。だから他者、自身の弟を介してでしか人と交流しないとされてる。実際、魏には使者を送っただけで彼女自身は動いていない」
「鬼道って何?」
「霊能力のことだよ。精霊とか幽霊とか、神様と交信できる力」
「そんなもの実在するの?」
「気づいてないだけで人間にはみんな備わってる力さ。発現できるのは限られた人間だけ。君の時代と比べて昔はもっと居た。だが機械が生まれてからみんな使えなくなった。夢が無くなったからね」
「悲しい話。でも卑弥呼は本当に使えたの?」
「そこまでは知らないな。けど彼女の使っていたと言われる力はとても強力だ。昔の人間でもそこまでは発現できない。もしかしたら民衆を惑わすための嘘かもしれないし、その正体がエイリアンだから使えるのかも」
「まさか日本の偉人の正体がエイリアンってこと?」
「偉人には結構エイリアンがいるよ。例えば伊藤博文は地球人じゃない。実際に会って知った」
「本当!?」
二人はそんな会話を続けながら、この村で一番大きな建物、宮殿へと向かっていく。
「姉上、神の機嫌はどうでしょうか?」
「心配ありません。あの子のことをとても気に入ってくれたみたいです」
「それは良かった……」
宮殿の最奥、硬く大きな赤い扉の先の部屋。一つ高く作られた台座の上のすだれの向こう側に卑弥呼が座り、何か儀式のようなものをしながら弟と会話している。
「しかし神はまた怒ります。例の生贄はもう見つかりましたか?」
「はい。既にいつでも捧げる準備はできております」
「それは結構。私はここで神との対話を続けています」
そう言うと、卑弥呼は黙り、儀式を続ける。
「……しかし良いのでしょうか。私がこのまま“彼”の代わりとしているのは」
卑弥呼の弟が彼女に対し語り掛ける。卑弥呼はゆっくりと言葉を返す。
「これは彼にはとても荷が重い事です。ただでさえ彼は妻と子を亡くした身。これ以上私に従事していては身が持たないでしょう」
「しかし私は本当のあなたの弟ではありません! それが今後どのように影響してくるか……」
「私は、あなたを選んだのですよ? ですから心配はいりません。それに国の者は誰一人としてこの事に気づいていません」
「しかし……!」
「あなたしか居ないのです。他に誰がやると言うのですか?」
「それは……」
卑弥呼の弟、いやそれに今はなっている男は何も言い返せなくなってしまった。そしてそのまま赤い扉を開いて部屋の外へ出ていく。
「ごめんなさいスサノオ。私はあなたの家族を守れなかった……」
次回のチラ見せ
「この力は特別なもの。私はこれを国を支配するため、そして人々を救うために使っています」