雨の日の深夜0時。
何も映らないはずのテレビに、“何か”が映る。
少年はつい夜中に起きてしまった。たまにある、目が覚めて寝られなくなる日だ。
そんな時はまず冷蔵庫に向かい、お茶を取る。少年は知らないが、お茶にはカフェインが含まれている。カフェインは眠気覚ましによく使われる成分。少年は知らず知らずのうちに眠らないための成分を取ってしまっているのだ。
お茶を飲みほした後は布団へ戻る。明日は7時に起きないといけない。
……だけど眠れない。ついつい布団に入り続けるのが嫌になって起き上がる。眠れないし暇だ。何をしよう?
ゲームはダメだって言われてるし……そうだ、テレビを見よう。
父と母を起こさないように、テレビの音量をできる限り下げた状態で見る。夜中起きたときにやるこれがとてもたまらない。
今日はそこそこ強い雨だ。屋根に水が打ちつけられる音がよく聞こえる。
少年はリモコンを使い、テレビの電源を入れる。
プチッという音と共にテレビが映る。今やっているのはバラエティ番組だ。画面の右上にはアナログという文字が映る。
芸人や司会者の子気味良いトークに、まだ小学生の自分でも笑ってしまう。
そんなのを見ていたらもう深夜0時だ。放送は終了し、画面が砂嵐を映す。
「これで終わりかぁー……寝ないと」
不気味だが、どこか心地よい砂嵐の画面。それを後ろに少年は画面の前を後にする。
《……臨時放送をお送りいたします》
突然、終わったはずのテレビ画面から声が聞こえてきた。それに目を向けると、そこにはゴミ処理場が映し出されていた。
一体何の番組なんだろう、新聞の番組欄に乗ってたかな? つい興味を持ってその番組を見続ける。
《……田原将さん 伊藤楓さん 山本三九郎さん 鏡健太さん……》
無機質で感情のこもっていないナレーションが、画面に映し出される人の名前を読み上げていく。
何のスタッフロールなんだろう? 何か映画でもやるのかな? そう思って画面を見続ける。
《……木津礼二さん 後藤久美子さん 不破燈さん 井上俊三さん……》
井上、俊三……? その名前にはどこか聞いた覚えがあった。思い出した、おじいちゃんの名前だ。
番組は変わらず人の名前を表示し続け、無機質なナレーションが流れていくだけ。
「なんだよこれ」
テレビを消そうと電源ボタンに指をかける。すると、これまでとは違う真っ白い画面が映し出され、この言葉が画面に現れた。
《明日の犠牲者は以上です おやすみなさい》
町から少し離れた小さな森の中。少年少女が奇妙な物体の前で話している。
「今日こそ、あの青い箱の正体を突き止めるぞ!」
「でもいいのかなぁ、あれ『POLICE』って書いてあるし、警察のなんじゃない?」
「日本の警察があんなの持ってるのを見たことあるか? 見たことないだろ? これこそ俺たち少年探偵団が突き止めるべき事件なんじゃないか!?」
少年はあまり乗り気ではない少女に向けて声を張り上げる。あまり大声を出してしまうと誰かに気づかれてしまうと思い、シーと言ってゆっくり座り込む。
「きっとあの中で犯罪が行われているに違いない! すぐに飛び込んで調査しよう!」
「全く、蓮はいつも無鉄砲だよね。探偵なんだから地道に調査しないと」
「探偵だからこそ現場に急行するのさ! おい頼からも何か言ってやれよ!」
「警察……、警察なら、きっとあの番組の事を調べてくれるよ」
気弱な少年は彼にそう返事をした。
「あの番組はもう終わったことだろ? 今はあの青い箱の方が重要なんだ! みんなで一斉に飛び込むぞ! いち、に、さん……」
「こんなところで何してるんだ?」
「わあああーっ!」
少年たちは突然後ろから話しかけられた声に驚き、前に倒れてしまった。
「ひ、ひぃ! ごめんなさい! 僕たちただあの青い箱のことを知りたくて……『POLICE』って書いてある青い箱」
「あれのことか。あれは僕のだよ」
そう言うと話しかけてきた男はそのまま青い箱の中へと入って行ってしまう。
「えーっ! 今の人が持ち主!?」
「こりゃすげぇ! もっと調査しよ……」
強気の少年が青い箱の前へと行くと、その中からさっきの男が現れる。
「君たちは何なんだ? そんなにこれがおかしく見えるか? まぁ今の日本には時代錯誤な見た目かもしれないけど」
「僕たちは少年探偵団です! この町のありとあらゆる謎を解き明かし、町の平和のために日夜戦っているんです!」
「へぇ、そりゃすごいな。小学生か?」
「小学3年生です!」
少年は指を3にして彼に見せつける。
「まだまだ幼いな。探偵ごっこをして恥ずかしくない最後の年代だ」
「は、恥ずかしい!? 俺たちは誇りを持ってこの探偵ごっこ……じゃなくて探偵団をやってるんだ!」
ついそんなことを言われて少年は強気でまくしたてる。男も少しそれを理解したようだ。
「別にバカにしてるわけじゃない。実に立派だと思うよ」
「それで、あなたは一体誰なんですか? この町の人じゃないですよね。それにこの箱も」
少女が箱と男に対し指をさす。
「僕はドクター。でこれはターディス。『POLICE』って書いてあるだろ? 警察の備品だよ」
「警察? 警察にしては随分小さいというか……幼く見える」
確かにこの男は大人という感じはしない。自分達よりすこし年上ぐらいだ。
「ああそうだった。今の僕は中学2年生なんだ。警察は警察だよ? こども店長ならぬこども警察ってやつ」
「ドクター、何してるのー?」
青い箱の奥から今度は女性の声が聞こえてきた。彼女も彼と同じぐらいの年代に見える。
「ああ、少年探偵団がターディスの謎に迫ってたところだよ。君たち、悪いけど僕たちは今忙しいんだ。この町で何かが起きてるみたいだから、頑張って調査してる」
「この町で何かが……?」
それを聞き、少年たちと共に居る気弱な少年が呟く。
「……君、何か知ってるね?」
ドクターと名乗った少年は彼の元に近づいていく。
「ほんの些細なことでも良い。君たちの周りで何かおかしなこととか起きてないか? 僕はそれを解決するために来たんだ」
気弱な少年はか細い声でドクターに語り掛ける。
「おじいちゃんが、死んじゃったんだ……。あの番組に映った翌日に」
ふと夜中に起きて見た番組。そこに祖父の名前が載っていて、その翌日に突然心臓発作で亡くなった。
「その番組についてもっと詳しく教えてほしい」
「なぁドクターさん、その番組はただの都市伝説だよ。っていうか、そいつが寝ぼけてただけだきっと」
「友達なんだろ? 信じてやれよ。僕は初対面だが彼の言っていることを信じてる」
ドクターはじっと彼の眼を見つめる。
「雨の日の深夜0時、テレビに『明日の犠牲者』の名前が載るんだ。それに名前が映った人間は……死ぬ」
「三日張り込んでようやくそれっぽい情報が入手できたね」
華はジュースを飲みながらドクターに話しかける。
「ああ。ターディスが自分からこの時代に止まったんだ。何かあるに違いない。けどほとんど手がかりは無し。ようやく今日探偵団から情報を仕入れられたな」
「2009年なんてすごい昔でもないし、来てもあんまり興奮しないな」
「大震災が起こる前の日本だぞ? 今とは色々な常識が違う。貴重な時代だ」
ターディスが突然止まったのは2009年の千葉県。何やら異常を感じ取って止まったようだが、来てから三日の間これといった情報は得られなかった。
ドクターは何枚もの新聞を操作盤の上に落とす。
「この数週間、原因不明の心臓発作で亡くなっている人間がこの県で続出してる。犠牲者は200人」
「それが私たちがここに来て得られた最初の情報だよね」
「ああ。でもこれだけだった。心臓の病で亡くなることなんて珍しいことじゃない。あくまで色んなニュースの中から気になるのを選んだだけだ。他には新型インフルエンザの流行、こども店長! 少なくともエイリアン絡みっぽいのは無かったな」
「けどそのニュースが実はエイリアンの仕業かもしれない、ってことだよね?」
「ああ。この県で続出する謎の死者。あの子が言ってた深夜のテレビ番組が怪しいね」
ドクターはターディスから資料を手に走って出ていく。外に居るのは先ほどの少年探偵団だ。
「その番組を見たんだろ? えー、君の名前は……なんだっけ」
「まだ聞いてないでしょ」
華が少年の顔を見つめ続けるドクターに言った。
「
気弱な少年がそう言った後に他の二人も名乗る。
「俺は三木翔」
「私は池田栄美」
「なるほど。ライアンにミッキーにエイミーか、良い名前だ」
彼らの名前に昔の友人の名前を思い出し、少し笑顔をこぼす。
「それより大事なことがあるでしょ? 番組のこと」
「ああそうだった。その番組は雨の日の深夜0時に流れると言ってた。君はその番組を本当に見た、そうだろ?」
「うん。夜中に目が覚めて、テレビを見てたらそれが映った。雨の日だった」
「それっていつごろ?」
「1週間ぐらい前」
「おじいちゃんが死んだのはその翌日。死因は突然の心臓発作だね。その時以降にその番組は見てない?」
「それから雨降って無いから」
この1週間、雨が降ることはあれど深夜0時のタイミングで降ることはなかった。見る条件はかなりシビアらしい。
「本当にドクターさんはその番組があると思ってるの?」
翔はドクターに問いかける。
「ああもちろんだ。名前が映ったら死ぬテレビ番組なんて奇妙だよ」
「デスノートならぬデステレビね」
華がドクターにちょっとした冗談を言う。
「心臓が止まって死ぬところなんてそっくり。テレビの死神の仕業かも。次に深夜に雨が降る日はいつだ?」
ドクターは指を舐め、それを立てて風を感じ取る。
「……何やってんの?」
「今日の天気を調べてる。おっとこれはビンゴだ。今日の深夜0時に雨が降るぞ。デステレビが見れる」
「今ので分かったの? 今日の天気が?」
「コツさえ掴めば誰でもできるよ。今度教えようか?」
「いいや、変人だと思われるからやめとく」
深夜0時の雨の日。それは2週間ぶりの今日に訪れる。
警察署の霊安室。一人の警部が遺体を前に手を合わせていた。
「これで何人目だ?」
「この町では15人目。1週間ほど前のものですが、一応捜査のためにとこの方のものは残しております」
検視官の男が警部に語る。警部はその遺体を見て不思議に思っていた。
「心臓発作で亡くなることはそう珍しいことじゃない。だが同じ日にこの町で15人なんて奇妙だ」
「この県全体では200人以上がこの1か月、心臓発作で亡くなっています。まさか殺人事件だと?」
「そう睨んでいるが、外傷は一切見られない。何かトラブルがあるわけでも、共通点があるわけでもない。だから行き詰ってる」
椅子の上に座り、その顔を覆い隠して悩む。
「奥さんの件、残念です。しかし私は殺人事件ではなく、何らかのウイルスなどが原因だと思っていて……」
警部の男も同じだった。妻が突然の心臓発作により亡くなった。行き場のないやるせなさを、この事件にぶつけている。
「ウイルス……その線も考えられる。だが俺にはそれは違うと思えてならないんだ。この事件、きっと何か裏がある」
次回のチラ見せ
「“アナログ”だって。懐かしい」