果たしてその番組の裏には何が居るのか……
ドクターと華は死のテレビを見るため、頼の家へと上がりこんでいた。ターディスの中に備え付けられているモニターは色んな電波や信号を受信しているので、しっかりそれを見られるとは限らないから、らしい。
翔と栄美の二人も気になってついてきていた。
「やっぱり美味しいね。人の家で飲むオレンジジュースは」
今の時間は21時。こんな時間に上がり込むことに華は少々気が引けたが、ドクターは構わず入って行ったのだ。
「ごめんなさいねこんなものしかなくて。頼ったら急にこんな時間に友達を連れてくるものだから。まさか中学生のお友達までいるなんて」
「違うよママ。この人たちはこども警察だよ!」
「そう。またそういう遊びしてるのね」
頼の母はお盆を手にそのままキッチンへと戻っていく。
「お父さんとか他の兄弟は居ないのか?」
ドクターがストローを咥えながら頼に問いかける。
「お父さんはずっと前に離婚しちゃったんだ。兄弟も居ない。僕とママの二人暮らしなんだ」
「色々複雑な事情があるのね」
華は頼に心配そうな目を向ける。
「でも寂しくはないよ。いつも翔と栄美と一緒に遊んでるから」
「おうよ! 俺たち少年探偵団にはこいつの頭脳が必要だからな!」
「なるほど。翔が切り込み隊長で頼が参謀、栄美が紅一点ってわけか」
「私は情報収集係よ」
栄美がオレンジジュースを飲みながら反論する。
「ダメだよドクター。ちゃんと女の子も役に立ってるんだから」
「別に否定してるわけじゃないさ。僕だって女の子だった時期がある。気持ちはよく分かるよ」
ドクターは既にオレンジジュースを飲み干し、ズズズズと空吸いの音を鳴らしている。
「ところでこども警察さん、何か捜査しに来たの?」
頼の母が新しいオレンジジュースを手にやって来た。息子の友達とのちょっとした交流だ。
「次の日に死ぬ人の名前が映るテレビ番組を調査しに来たんだ」
「テレビ番組……」
それを聞いて彼女は少し動きが止まった。
「まさか、頼はおじいちゃんが死んでからそんなことを言ってるけど、ただの子供の冗談よ」
ジュースを置くと、そのまま立ち去ろうとする。
「この家に最初入った時大人の男性用の靴が置いてあった。頼の祖父、つまり君の父はこの家に住んでた。そしてあなたが冷たくなった彼を発見した」
ドクターがその言葉で彼女のことを引き止める。それを聞いて、彼女はゆっくりとその時のことを話し始める。
「朝起きて……いつものように父を起こしにいったの。でも反応が無くて……寝ているかと思ったら、冷たく、なってて……」
彼女は目に涙を浮かべながらその場に座るように倒れ込んだ。
「どうして頼の言う事を信じない? 彼の名前は番組に載ってた。だから死んだんだ」
「信じられるはずがないでしょ? 子供の言う事よ……父の死とは何の関係も無いわ」
「いいやそれが関係あるのさ。あなたは子供の言うことを心のどこかでは信じていた。父の死の真相がきっとそこにはあるとどこかで思ってる」
「父は……どうして死んだの? いままで心臓の病気なんて起こしたことないし、人間ドックだって全部健康だった。だけど急に…」…」
「不思議だと思わないか?」
ドクターは彼女の肩を手を乗せ、ゆっくりと語り掛ける。
「僕が必ず真相を突き止めて見せる」
深夜0時まで、あと三時間。
「雨、ちゃんと降ってるよ」
華がカーテンをよけて窓から外を見る。今日の天気は雨。しかもかなりのザァザァ降りだ。
「深夜0時まであと五分。なんだか緊張してきたな」
「もし流れなかったら、やっぱり僕の夢ってことになる。そうなったらごめんなさい」
頼は申し訳なさそうにドクターに向かい頭を下げる。
「きっと流れるさ。君のおじいちゃんを殺した犯人を突き止めよう」
「俺、なんだか眠くなってきたよ……」
翔がおおきなあくびをしながら地面に倒れ込む。0時なら普通小学生は寝ている時間帯だ。
「私は大丈夫。いつもゲームしながらこの時間まで起きてるから」
「不健康だな。しっかり日付変わる前に寝ないとダメだぞ? 肌にも悪い」
ドクターが華をたしなめる。華は少し不機嫌そうな顔でテレビのリモコンを手にし、テレビをつける。
まだテレビは例の番組を映さない。今はニュース番組を流している。
「“アナログ”だって。懐かしい」
テレビの右上に表示されているその文字はアナログ放送を示すもの。2019年現在、テレビ放送は地上デジタル放送に移り変わり、アナログ放送は見れなくなってしまっている。
「さぁ運命の時間だ。流れるか、流れないか……」
深夜0時。流れていたニュース番組は終了し、画面が砂嵐に切り替わる。
華はそれを見て少し恐怖を感じた。砂嵐なんてもう十年近くも見ていない。
皆がテレビの砂嵐に注目する中、突然部屋の照明が揺れるように消えた。
「停電?」
しかしテレビは変わらず砂嵐を映している。
栄美が部屋の電気をつけるスイッチの元へ行った途端、突然テレビの画面が切り替わった。
そこに映し出されたのはゴミ処理場と思われる場所の静止画だった。
「これだよ! 僕が見た番組!」
頼は大声でテレビに指を向ける。
「本当に来たな。華、メモの準備は?」
「バッチリ!」
ドクターに親指を立てて向ける。既に放送内容を調べる準備は済んでいる。
「それじゃあ次は録画だ」
テレビに取り付けられたビデオデッキとDVDプレイヤーを起動させ、テレビ画面の録画を始める。
「どうして二つ使って録画すんの?」
翔は疑問をドクターにぶつける。確かに録画するだけならどちらか片方で良いはずだ。
「もしこれが地球の、今の人類が流しているものだとしたらテープとDVD両方に変わらず録画される。だけどそうじゃなかった場合、テープには録画されず……DVDにだけ録画されるはずだ。録画される情報が変わるからね」
ゴミ処理場を映した番組は次の段階へと移る。
《臨時放送をお送りいたします》
抑揚のない無機質なナレーションの声と共に放送が始まる。
そして画面の下から次々と人の名前が流れてくる。どれも日本人の名前だ。
《斉藤始さん 松岡恵三さん 高田潤さん 三橋悠さん……》
ナレーションは流れてくる名前をひたすら読み上げている。そこに感情らしきものは感じられない。
「華、ちゃんとメモしてるか?」
「もちろん。思ったよりペースが早くて字が汚いかもしれないけど」
華は急いで番組に映し出されている名前を書いていく。
「なんか怖いよ、これ一体何なの?」
栄美はこの番組に恐怖を感じていた。ホラー映画以外でこんなものは見たことが無い。テレビでこのような無機質な、奇妙なものが流れるなんて。
「ひたすら人の名前を表示して朗読してる。一体この人達の共通点は何だ?」
画面に表示される名前に特別法則のようなものは感じられない。推測できることといえば、これらの人物は皆千葉県に住んでいるであろうということだ。
《佐藤彰さん 筒井敦子さん 津久井廉太郎さん 羽鳥蓮さん……》
そこに表示されたある“名前”に、翔は見覚えがあった。しかしはっきりしないのでその場では特に何も言わなかった。
やがてそれが五分程度続いた後に、小さなノイズ音が流れ、最後にこの一言で番組は締められた。
《明日の犠牲者は以上です おやすみなさい》
プツッと番組は切れ、砂嵐に切り替わった。部屋の明かりも元に戻っていた。
「これだけ? 今の番組は本当にこれだけ?」
ドクターはデッキから録画したビデオとDVDを取り出す。
「ちゃんと全部メモできたよドクター。でも録画してあるし必要無いんじゃない? これ」
「もし何かのミスで録画できてなかったらそれが唯一の手掛かりになる。アナログな手段も必要だ」
ドクターはソニックドライバーをビデオテープとDVD、そしてテレビに向ける。
「今の番組、ちゃんとみんな見たよな? 誰か画面に何も映って無かったって人はいないか?」
ドクターは探偵団に聞く。全員首を横に振って答える。どうやらちゃんと番組を見れたらしい。
「なら奇妙だな。今のは何一つ録画されてない」
ドクターがテープを引きずり出し、それを光に当てて透かして見る。
「録画ミスったんじゃねぇの?」
「いいやちゃんと録画できてるよ。ただし番組ではなく砂嵐をね。DVDも同じだ。録画はちゃんと機能していたはずなのにこれらには何の映像も残されてない。つまりあの番組は存在せず、ずっと砂嵐が流れていた」
ドクターのその言葉に一同は疑問を抱く。ちゃんとみんなであの番組を見たはずだ。
「何言ってんだよ。ちゃんと俺たちは見ただろ? 頼の夢なんかじゃなかった」
「ああその通りさ。僕たちはちゃんとあの番組を見た。けどその証拠は華が残したメモ以外に何も残っていない。テレビを今ソニックで調べたけどそこには何の履歴も残っていなかった。どうしてだと思う?」
ドクターは翔に問いかける。何故なんの情報も残っていないのか? 考えてみるが、小学3年生の頭では何も導き出せない。
「そんなの分かんねぇよ」
「番組は通り過ぎていったのさ。ここにあの画面だけを残して僕たちに見せて、そしてどこかへと消えていった」
ドクターはソニックドライバーを天にかかげ、消えた番組の後を辿ろうとする。
「速いな。すごく速い。光よりも素早くここから過ぎ去っていった。録画できないワケだ」
ドクターは華からメモを取り上げて先ほど番組に映った名前を見ていく。
「いきなり取らないでよ。ちゃんと文字ミスってないか確認してるのに」
「もし僕たちの推測が正しいなら、あそこに映った名前の人物は全員心臓発作で死ぬはずだ。既に時刻は翌日になってる」
時計は0時10分を指している。『明日の犠牲者』……その明日が今日だとしたら、既に“何か”が殺戮を始めているはず。
「それじゃあ、もう誰かが死に始めているってこと?」
翔が不安そうな声をドクターに向ける。
「恐らくね。そんなに声を震わせてどうした?」
「さっき番組に知ってる名前があったんだ。羽鳥蓮……幼い頃から僕をかわいがってくれてた隣の兄ちゃんの名前なんだ。今はマンションに引っ越したけど」
「早速例の犠牲者候補発見だ! まだ死んでないかもしれない、すぐに彼の元に行って助けるぞ! 敵の正体も分かるかもしれない!」
ドクターはメモを華に返して頼の家から走って出ていく。もし本当だとしたら彼の身が危ない。
「翔、その人の家分かるか?」
「先月ママと遊びに行ったからわかるよ。確か5丁目のマンション!」
ドクターは翔と共にその場へと駆けつける。ドクターはいつもすぐに動き出すし走り出すので全く困る。華はメモをポケットにしまい、栄美と頼の二人を連れてドクターを追いかける。
少し古ぼけたマンション。エントランスのセキュリティにソニックドライバーを当てて解除させる。
「部屋は何号室?」
「六階の612号室」
「みんなすぐに乗るんだ。エレベーターで直行する」
華たちも含めて五人が乗り込んだ後、ドクターはエレベーターのボタンにソニックを当ててそこの階まで向かう。
「普通にボタン押せば?」
「途中で誰かが外からボタンを押したら止まっちゃうだろ? それらを無視して六階まで行けるようにした。緊急事態だからな」
6階まで上がるまで、少しだけ静寂の時間が訪れる。
「だけど最近ソニックドライバーに頼り過ぎってところはあるな。いざ無くした時が怖い」
「それって警察の道具なの?」
「ああ。最近の警察官はみんな持ってるよ。警察官になってみたくなった?」
「いや、俺は銃の方が使いたい」
「最近の子供は物騒だな」
チンという音と共にエレベーターは六階へと到達する。ドクターたちはすぐに出て612号室へ向かう。
まずはインターホンを鳴らし、中にいるかどうかを確認する。
「こんにちは、警察です。羽鳥蓮さん居ますか?」
警察だと名乗って見るが返事は無い。今度はドアをノックしてみるもののやはり何もない。
「羽鳥蓮って今は何歳?」
「最近大学生になったんだ。今は18のはず」
「大学生ならまだ起きてる時間帯だ。大学生は夜型だから」
「外に出かけてるって可能性は?」
「中に入れば分かる」
ドクターはドアの鍵に向かってソニックの光を当てて開錠し、中へと入りこむ。
羽鳥蓮の部屋は暗く電気が点いていない。既に寝たか、外出しているかだ。
華は部屋の入口にあった点灯スイッチを押すが、なぜか部屋の電気が点くことはない。
「外はちゃんと電気が点いてるのに」
「この部屋だけ点かないということは……」
何か居る可能性を考え、ドクターは懐中電灯で照らしながらソニックドライバーを光らせ、部屋の奥へと進んでいく。
ザザ……ザザザザ……
ノイズの走るような音が奥の方から聞こえてくる。リビングらしき部屋へとたどり着くと、そこのテレビは砂嵐を映していた。
そしてその目の前には……
「蓮さん!」
羽鳥蓮、彼がテレビの前で倒れていた。翔は彼の元へと駆け寄り、必死に呼びかける。
「蓮さん! 蓮さん!」
ドクターはゆっくりと倒れる彼の首に触れ、その脈を確かめる。
「……遅かった。もう死んでる」
「そんな……」
「し、死んでる……? 本当にその人、死んでるの……?」
栄美が怯えた声を出しながらその場に座り込む。
「ああ死んでる。脈が無いし、心臓だって止まってる。あの放送からまだ30分も経過してない。まだ完全に冷たくはなってないが……」
「ひ、ひぃ……あ、あの番組の噂は……本当なんだ……っ!」
栄美はまさかの死人によほど恐怖を感じたのか、そのままそこに気絶するように倒れ込んでしまう。
「栄美!? 栄美大丈夫か!?」
「死人を見た恐怖で気絶しただけだよ」
「さすがに小学3年生が見たら、こうなるよね……」
華は気絶した栄美を抱きかかえる。頼はそんな彼女の元へと寄って心配そうに見守っている。
「犯人は一体どこに消えた? 彼が何か手がかりを持っているかも」
ドクターはソニックドライバーを亡くなった蓮の体に当て、その体に何かの痕跡が残されていないかを調べる。
「雷……まるで雷に打たれて……」
ドクターがドライバーに映し出された情報を眺めながら何かを呟く。彼の死因は心臓発作だが、その原因となったのは……
「警察だ!」
突然、部屋の中に何人もの警察官が入って来る。ドクターはソニックをポケットにしまい、翔たちを立ち上がらせる。
「君たちか? 隣の部屋が深夜に騒がしいと通報があったのだが」
「さすがに五人でいきなりこの場に来たのはマズかったかもな」
ドクターが華に向かってはにかむ。
「これってドクターさんが呼んだ応援?」
ドクター達の事を警察だと思い込んでいる翔はこの状況に疑問を抱いた。警察というなら彼らはドクターの仲間のはずだ。だがやってきた警察はこちらのことを危険視しているように見える。
「僕は呼んでない。この地域の警察さ。僕たちは別のところから来たからね」
警察は彼らの方を向きながら周りの状況を観察している。すぐに後ろに倒れている人の存在に気付いた。
「おい、後ろに倒れているのは誰だ?」
「君が確認したら?」
ドクターがそう言うと、リーダーと思われる警察官が蓮のもとへと近づき、脈を確認している。
「……死んでる。君たちがやったのか!?」
警察官は銃を取り出しドクター達に向ける。翔と頼はさすがにこれに驚いたのか、すぐに手を上げる。
「僕たちはやってない。ただ彼に連絡しても返事が無かったからここに来たんだ。そうしたら、彼が死んでた」
ドクターと華も手を挙げて警察のほうを向く。敵意が無いことを証明するためだ。
「ひとまず、署に同行してもらおうか」
「もちろん。僕は遺体の第一発見者だからね。だけどこの小学生の三人は帰らせてあげてくれ。もうすぐ深夜一時だ」
ドクターと華は警察に手錠をかけられ、そのまま警察署へと連れてかれていく。翔と栄美と頼の三人は深夜ということもあり、一旦は家に帰され、次の日に事情聴取をされることとなった。
パトカーに乗せられ、夜の闇の中を突き進んでいく。
「僕は殺してない。なんで手錠をかけるんだ?」
「まだそうと決まったわけじゃない。君たちが危険だという可能性もある」
「確かに。否定はできないな」
「ちょっとドクター、あんま適当なこと言わないで」
「つい頭に浮かんだ言葉を言っちゃうんだ。もちろん華は危険じゃない。危険だとしたらそれは僕だ」
次回のチラ見せ
「僕はただの名探偵じゃないぞ、宇宙一の名探偵だ」