DOCTOR WHO 青い箱の中の少年   作:ナマリ

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このころはよくテレビを見てまし た。ネットが盛り上がってからはあんまり見てませんね


第七話 BROADCASTING ACCIDENT〈明日の犠牲者〉PART3

 

取り調べ室が使えるのは午前五時から。それまでドクターと華は手錠を縛られたまま警察署のオフィスの前で一人の警部に聴取されていた。

「君たちは見る限り中学生だ。一体どこの学校だ?」

「えーと、天ノ川中学校です」

華がつい正直に答えてしまい、警部は目の前の書類にそのことを書く。

「ひょっとして忘れているかもしれないけど、今は2009年。君はまだ中学に在籍してないどころか幼稚園生のはずだ」

「あっ、そういえば……」

「何だって?」

「こっちの話だ。天ノ川中学校ってのは嘘で、僕たちは中学に通ってない」

「嘘だと? 偽証罪になるぞ」

警部はすごんだ顔でこちらを見ている。

「彼女には妄言癖があるんだ。だから聴取するなら僕だけにしといた方が良い」

「ちょっと勝手なこと言わないでよ」

「こういう状況には慣れてないだろ? 僕が色々話した方がいい」

「確かにそうだけど…… ドクターは何度もこういう経験があるの?」

「ああ、事情聴取するのも、されるのもプロと言って過言じゃない」

「君たちは今事情聴取をされている身だ。質問に答える以外の私語は慎め」

警部の男はペンで机にトントンと叩きながらこちらを睨む。

「分かったよ。次の質問どうぞ」

「まったく……。その年齢で中学校に通っていないなんておかしい話だ。義務教育というものがある。それは知ってるね?」

「ああ。いろいろあって義務教育を僕たちは今放棄していてね。けどそれを詰めるより大事な話があるんじゃないか?」

「それもそうだな。まず君たちはどうしてあの場に居た?」

男は強いまなざしでこちらを見つめる。

「何度か言ったはずだ。彼とは知り合いで連絡が無かったから彼の家に行った。そうしたら死んでた」

「その目は嘘をついている目だ。俺はこの道30年のベテランだ。通用すると思ってるのか? 本当のことを話せ」

その言葉が放たれ、場は少しの間沈黙に包まれる。ドクターは言葉を考え、ゆっくりと口を開く。

「分かったよ。なら本当のことを話す」

ドクターは前のめりになり、警部へと顔を近づける。

「あなたも知っているはずだが、今千葉県では200人以上が謎の心臓発作で亡くなってる。心臓病のあるなしに関わらず、年齢も関係無く死んでる」

「まさかお前たちはその犯人か? あの家にあった遺体は死後30分も経っていなかった。やはり……お前が殺したのか?」

「違うそうじゃない。僕たちは彼を助けるために行ったんだ。だけど手遅れ、彼は既に死んでた」

「何故彼が心臓発作で死ぬと分かった? そこがおかしい」

心臓発作で亡くなることを見越して助けに行くなど確かに不思議だ。やはり目の前のこの少年が……、いや彼が嘘をついているようには思えない。

「番組さ。雨の日の深夜0時にテレビに映る奇妙な番組。そこに名前が載った人間が心臓発作で全員翌日に死んでる」

「……番組だと? バカバカしい。テレビに名前が載った人間が死ぬだと?」

警部はそれに信用ならなかった。そんな荒唐無稽な話はあるはずがない。子供の間で流行っている都市伝説に違いない。

「なら、僕が嘘や冗談をついているように見えるか? 本当にその番組に名前が載って、彼が死んだんだ。僕の目を見ろ」

その言葉を受け、警部は彼の瞳を見つめる。泳いでいるようにも、感情が無いようにも思えない。その瞳の先にあるのは、自分と同じ真実を追求したいという思いだ。

「……まさか、本当なのか?」

「ああその通りさ町田警部。さすが長年の刑事の観察眼だ」

「お前は一体何者なんだ?」

「……ちょっとした少年探偵さ」

ドクターは警部の目をじっくりと見つめている。華は見つめ合う二人がまるで……カップルのように見えたので咳払いをしてその場をリセットさせた。

「それで警部さん、私たちの言ってることが理解できた? ともかく、私たちは殺してないの」

「そうそう、彼女にさっき妄言癖があると言ったがあれは嘘だ。彼女は助手のワトソンくんだ」

「私がワトソン? じゃああなたは?」

「シャーロックホームズに決まってるだろ。久々に彼と会ってみたいね」

「少年探偵ならどっちかというとコナンだと思うけど」

「どっちでもいいさ。さぁ町田警部、僕たちの手錠を外してこの事件についてあなたたちが知っていることを話してくれ」

「なぜ俺の名前を知ってる? 警察手帳を見せてないはずだ」

「襟の内側に刺繡があるのを見た。奥さんの手縫い?」

「その通りだ。探偵ってのはどうやら本当らしいな。その観察眼、只者じゃない」

「褒めてくれてどうも」

「だが俺の妻はもう亡くなった。2週間前に突然心臓発作で亡くなったんだ……まさか、妻も?」

「例の事件が起き始めたのは一か月前。2週間前ならちょうど時期に当てはまるね」

「畜生、やはりこの事件には裏があるってわけか」

「ああ、必ず犯人を突き止めよう。そういえば僕のソニックドライバーも返してくれないか?」

 

 

ドクター達は手錠を外され、少し広いホワイトボードのある部屋へと案内された。警察が捜査などを行う時によく使われる部屋だ。

「ドラマなんかでよく見る部屋、本当にあるんだ」

「ターディスよりは狭いな。あるのもホワイトボードとたくさんのテーブルとイスだけ」

町田警部はいくつかの書類を持って部屋へと現れる。これまでに心臓発作で亡くなった者たちの情報だ。

「他の警察署から貰った、この一か月に心臓発作で亡くなった人たちの情報が載った書類だ。俺自身、裏があると思って色々調べたが死因以外に共通点らしいものは何も見当たらない」

「十分だ、ありがとう。そこそこ地位が高いらしいな」

「この道30年だぞ? 色々な事件を解決してきた」

「さすがだ」

ドクターは様々な書類に目を通していく。亡くなった時間帯はどれも雨の日の翌日であるという以外に共通点は見られない。死亡推定時刻が午前0時半のものもあれば、午後3時半のものもある。

「まさかここまでバラけてるなんて。華も一応見てくれ」

「事件の捜査なんてしたことないよ?」

「名探偵コナンを見たことは?」

「そりゃあるけど何回も」

「真似すればいい」

ドクターはいくつかの書類を華に渡す。真似とはいえどうすればいいのか……とりあえずドクターと同じように1枚ずつ見ていく。

「人の死体をこんなに見るとなんかこう……不思議な気持ちになる」

「惨い死に方じゃないだけまだマシだ」

何枚も何枚も、何百枚もあるそれらの書類を見て何かを探し出せないかと見ていくが、何も分からない。

「クソッ、かなり難しいな。分かることといえば心臓発作、死んだのは雨の日の翌日ってことだけ……犯人は一体どうやって殺してる? そしてこの人たちが選ばれた理由はなんだ?」

何度見てもそこにある手掛かりが分からない。町田警部はため息をつきながらテーブルに手をかけてよりかかる。

「名探偵でも難しいか。なんたってこの道30年の俺ですら分からなかったんだ。おかげで今の時点だと単なる偶然ってだけだ。他のヤツらも皆そういう結論を出してる」

「僕はただの名探偵じゃないぞ、宇宙一の名探偵だ。何か見落としてる、何か何か……」

そこでドクターはあることを思い出す。あの家で亡くなっていた羽鳥蓮の遺体にあったもの……

「そうだ! 雷だ!」

「雷? まさか、この一か月雨は降ることは何度もあったが、雷が起きたことは一度もない」

「いいや違うよ、小さな雷さ。僕が彼の遺体を調べた時、彼の体に小さな跡があったんだ」

「跡って?」

「雷に打たれた跡さ。電紋とも言う。雷に打たれた人間は体に空を走る稲妻のような跡が残るんだ。彼の体にそれがあった」

「ああ知ってる。前例は少ないが何度かそういう遺体を文書で見たよ。だがこれまでに確認された遺体にそんなものは無かった」

「気づかないはずさ。彼の体にあった電紋はとても小さかった。とても小さくほんの数ミリだけ。ソニックドライバーのおかげで気づいたが普通の医師や捜査官は単なる小さな傷跡とスルーするはずだ。けどそれが他の遺体にもあるか分からない」

「心臓発作で亡くなった人間の遺体ならこの署の霊安室に一人ある。既に一週間経ったものだが」

「十分さ。この跡はそう簡単に消えない。案内してくれ」

ドクターは書類を机の上に置いて町田警部と共に部屋の中から出ていく。

「ちょっと待って、私も一緒に行く!」

「すぐ戻ってくるからここに居てくれ。まだ僕が見てない情報がどこかにあるかもしれないし」

そう言ってドクターは部屋から出て行ってしまった。見てない情報と言っても既に二人で何度も同じ書類を見たはずだ。華は書類を手にしてもう一度見渡す。

「亡くなった場所もバラバラだしどうすれば……ん? 亡くなった……場所?」

 

 

警察署の中にある霊安室、検視官の男は突然現れた中学生に驚いていた。

「町田警部、子供をここに入れるなんて……」

「コイツはただの子供じゃない。名探偵なんだとさ」

「は? 名探偵?」

「心臓発作で亡くなった人たちを調べに来たんだ。ここにある遺体を見せてほしい」

検視官の男はしぶしぶ安置してある遺体を出す。ドクターは軽くお辞儀をしてから、その遺体にソニックドライバーを当てる。

「やっぱりあった。電紋の跡だ」

遺体の右胸と左胸の裏側にそれはあった。言った通りとても小さく肉眼ではただの小さな傷跡にしか見えない。

「まさか……これは気づきませんでした」

「次からはこういう跡も見逃さないように。これで分かったな、犯人は小さな雷で殺した。これは単なる心臓発作なんかじゃない、殺人だ」

 

 

ドクターと町田警部は華のいる部屋へと戻る。そこで行われていたあることに対しドクターと町田は驚いていた。

「華、これは一体何だ?」

ホワイトボードには千葉県が描かれ、そこにいくつかの点を書いていて、何枚もの書類が磁石でとめられている。

「亡くなった人達の死んだ場所を調べてたの。よく刑事ドラマかなんかでやるでしょ? 思いつかなかった?」

「意外と君は賢いな。見くびってたよ」

「バカにしてる?」

「まさか。それでここから何か分かったか?」

「ここ、ここでだけ誰も死んでないの」

華がマジックペンで大きく二重丸を描く。それは何かを中心にした周辺に死人が出ていて、そしてそこから二重丸を描いたスペースの外側でも死人が出ていることを示していた。

「ここまでは分かったんだけどそこから先がよく分からなくて……」

「ファンタスティック! この二重丸のスペースは雷が木に落ちた時の安全なスペースに似てる。木に落雷するとその真下周辺は感電する危険があるが、そこから先は安全なんだ。そしてその外側はまた危険だ」

ドクターは二重丸をマジックペンで埋めて分かりやすく説明をした。

「すごい子だな。俺ですら気付かなかった。君も探偵の素質があるよ」

「えへへ、まぁこんなの私ぐらいじゃないと分からないかもね」

華は照れながら二人に自慢げに言った。

「となるとこの中心に事件の原因があるってわけか。町田警部、ここに何があるか心当たりは?」

「そこには……電波塔がある。千葉県ほとんどに電波を流せるぐらい大きいものが」

「そうか、電波塔か! 番組というものは放送電波で流される。だから電波塔を介して千葉県にあの番組が流れてるんだ」

「いや、待てよその電波塔は……」

何かを思い出したかのように町田警部はホワイトボードの前へ歩き出す。

「確か一か月ほど前、ここに雷が落ちたんだよ。雲一つない晴れの日に落ちたものだからみんな宇宙人からの攻撃だと騒いでた。まぁすぐによくある異常気象だと騒ぎは収まったけどな。電波塔にも異常は無かったし……」

「宇宙からの攻撃……当たらずとも遠からず。晴れの日の雷なんておかしい。イオンの異常放電なんかではなく宇宙から落ちたのさ、“雷”が」

町田警部はそれを聞いてハテナマークを頭に浮かばせる。

「宇宙からの雷だと? まさかそんな話……」

「これは地球の技術による大量殺人なんかじゃない。宇宙からもたらされた何かによるものさ」

「やっぱり、エイリアンの仕業ってことね」

「君もだんだん慣れてきたみたいだな」

ドクターはマジックペンを手に華をツンツンして少しいじった。

「そりゃあグレイヴとかダーレクを見たらね」

「随分と捜査は前進したがまだ分からないことも多い、これをどう解決するつもりなんだ名探偵?」

「まだ犯人の詳細が分からないし、あの番組には謎が多い。なぜ人の名前が映し出され、“番組”という体裁を取っているのか、何故深夜0時の雨の日なのか……」

「まだまだこの書類を見て捜査するの? 悪いけど私はもうこれ以上思いつかない」

「直接あの番組と対峙しよう。今日の深夜の天気は?」

「今は雨が多い時期だ。今日も降るって予報を見た」

「なら今日またあの番組を見るぞ。犯人の後を追う」

 

 

午後23時30分。警察署の取調室にあるテレビの前にドクター達は集まっていた。頼達、少年探偵団も共に来ていた。

「こんな深夜に子供を呼ぶなんて」

「事情聴取のついでさ。それに彼らだって当事者だ」

この事件に子供を巻き込むことに町田はあまりいい顔をしていない。

「気になるんだ。どうして蓮さんが死ぬことになったのかって」

「私も……怖かったけど、探偵なんだから調べないとって」

翔と栄美はドクターを見つめる。

今夜も雨。あの番組が映る条件は満たしている。

「またあの番組が映る? 今回は危険じゃないよね?」

頼は心配そうな目つきでドクターと警部のことを見ている。

「危険だが、見るだけじゃ問題は無い。名前が載ってたら別だけど」

「心配しないで。何か起きたら俺が守るさ。そのための警察なんだからな

町田警部は不安がる頼の背中をさすり安心させようとする。

「けど死体を見た。みんな怖くないの?」

「怖いよ。けどそれ以上に腹が立つんだ。おじいちゃんを殺した犯人のこと」

「随分と肝っ玉が据わってるんだね……」

そう言って真剣な顔を浮かべる頼に、華は安心した。

ドクターはまだニュース番組を映しているテレビを睨みつけている。ソニックで軽くテレビを調べるが、まだ何も起きていない。

「ところでこの町にマグパイ電機はある?」

「何だ? そんな電器屋は無いが」

「分かった。それじゃあテレビに住んでる女は関係なさそうだな」

ドクターはかつて自分が対峙したテレビの怪物を思い出しながらテレビを眺めている。

やがて時間は経ち23時55分。もうまもなく映る時間だ。

「華、今回もちゃんとメモの準備はしてる?」

「もちろんですよ名探偵さん。助手が有能で良かったね」

「ああ。記入漏れが無いように頼むよ、有能な助手」

24時……テレビは砂嵐へと切り替わり、放送が終了したことを知らせている。そしてそれは同時にあの番組が始めることを知らせる合図だ。

一同が固唾を吞む中、画面はあの“ゴミ処理場”を映し出す。

《臨時放送をお送りいたします》

「これが例の番組か」

「ああ。みんなちゃんと見えてるな?」

皆静かに「うん」と返事をする。ドクターはそれを聞いてゆっくりと相槌を打ち、ソニックをテレビに向けて放つ。

《三田恵一さん 高橋玲さん 久保正真さん 武田純一さん……》

「ちゃんと反応があるぞ。今このテレビの中にいる。華! しっかりメモしてくれ」

あの時と同じく、無機質なナレーションが流れていく名前を読み上げていく。

「これが、明日死ぬ人達の名前か……」

町田は奇妙な番組にどこか胸の奥がざわつく。今まで見たことが無いほどに心の無い番組だ。

「かなり強力な電波だ。このテレビの中と外を行ったり来たりしてる。ソニックでも追いきれないぐらいの速さで……」

「ドクター、これなんだろう……」

華がドクターのことを呼ぶ。流れてくる名前の中に何やら奇妙なものがある。文字なのか、それとも何かの記号なのか……

「何かの暗号?」

それを見た瞬間、ドクターは顔色を変えた。

「……嘘だろ、まさか」

その奇妙な文字を見て怯えるような声を上げた。

《菊池倫さん、&%#(%!……さん》

無機質なナレーションは、噛むことなくバグったようなその名前を読み上げる。

「まさか放送がバグったとか?」

「いや、そんなんじゃない! こんなことあり得るっていうのか……?」

「今のは一体何なの?」

ドクターは息を飲み、震えながら言葉を紡ぐ。

 

「僕の……名前さ」

「ドクターの、名前? ドクターって本名じゃないの!?」

ドクターの口から語られたまさかの事実。最初こそあまり信じてはいなかったが、あれから何か月も彼と過ごしてきた中で気づけば『ドクター』が彼の本名だと思っていた。

「僕は本名を捨ててドクターという名前で生きていくことを、選んだんだ。どうして選んだかは覚えてないけど、それからドクターと名乗ってる」

「じゃあ今のがドクターの本名……ってこと? 変な文字だったけど」

「ガリフレイの文字さ。ターディスに僕の名前を通訳しないようにさせてる。だから今の番組はガリフレイの文字で僕の本名を出した……」

「だけど待って。今の番組にドクターの名前が出たってことは……」

ドクターは肩で息をしながらテレビから逃げるように壁にもたれかかる。彼は今恐怖している。ダーレクを前にしてもここまで怯えることはなかった。

「僕の名前を解き明かすなんて……! これは僕の想像以上だ……! ダーレクですら僕の名前を知ることは簡単じゃないのに!」

「おいドクター、これはマズいんじゃないか!? お前の名前が出たんだ! お前が死ぬってことだろ!?」

テレビを見ていたこの場のみんながそれに驚いた。今、この場に『明日の犠牲者』が居るのだ。

「ああそうだ。僕が殺されるターゲットになった! だけどもっとマズいのは……」

 

《明日の犠牲者は以上です おやすみなさい》

 

「今このテレビにヤツがいるってことだ!」

 




次回のチラ見せ

溢れる涙が動かなくなった彼の頬を濡らす。
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